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書生 ハーヴェイ の役職希望が 共鳴者 に自動決定されました。
きみは自らの正体を知った。さあ、村人なら敵である人狼を退治しよう。人狼なら……狡猾に振る舞って人間たちを確実に仕留めていくのだ。
どうやらこの中には、村人が6名、人狼が2名、占い師が1名、霊能者が1名、C国狂人が1名、共鳴者が2名いるようだ。
あー、諸君、聞いてくれ。もう噂になっているようだが、まずいことになった。
この間の旅人が殺された件、やはり人狼の仕業のようだ。
当日、現場に出入りできたのは今ここにいる者で全部だ。
とにかく十分に注意してくれ。
自警団長 アーヴァインが「時間を進める」を選択しました。
[検非違使の検分役に事務的なことを少し伝えるとそのまま返す。
そして影居から紹介されたのは先に出会った赤毛の青年]
そなた…先程のものか。寮には戻ったようだな。いや詫びるには及ばぬ。鳶尾と申すか。影居殿の縁者とは驚いたが主には尽くせよ。
[そして自己紹介する白藤にもまた貴族らしく目だけで頷く]
[御簾の向こうの様子に首をかしげて]
そう、ですか。
ですが、何も返さないというのも礼に反しますゆえ、やはり何か考えておきますね。
[にこり。伝わらないであろう笑みを浮かべる]
[眼だけで頷く橘を見てひとつ、眼を閉じて開く。
空より、ぽつりとしずくがおちた。]
――おや。
[見上げ、眼を細める]
雨ですな。
酷くならねばよろしいが。
あ、ええと…はい、それでは…楽しみにしています。
[照れとはにかみの狭間、少しだけ朱のさした頬を隠すことも思いつかないまま少年は微笑み]
…では、そろそろ、失礼しますね。
あまり長居をしてお体に障ってはいけませんから。
[衣擦れの音少しだけさせて立ち上がれば、退室の辞ひとつのこして彼女の部屋を下がった]
はて、な。
祟りか…それとも、ただ単に事が起こっただけなのか。
[見ていた男の周りが動き始める。
しかし、見るだけでは矢張り分からぬ様ではあったが。
呟かれた言葉には一つ。薬師らしからぬ言葉が混ざっていた]
…しかし。
この周りの屋敷は此処の陰の気を吸うて居るかも知れん。
忙しくなれば良いのだが。
[ひらりひらひら、白い蝶。
いずくからともなく舞い飛び、頭を垂れた肩口に寄り、
ふぅわりと、寸時止まりて羽を休める。]
[ふと頭を上げると同時に、羽はためかせて飛び立ち、空へとまた舞い上がる。]
まぁ。暫くは蟲毒も使わんで良さそうだ…
流れにはなかなか廻っては来ぬが。
求む手が大きくなれば、私にも来るであろう…
[ただ、と。小さく震える]
…なんなんだ?
この気は。
──羅生門・内部──
ああ。
まいたはずの相手に、見つかってしまったかな。
やはり、あの屋敷に行かねば・・
[影のように、だれかがおとこの目の前に在る。
おとこは首だけをわずかに動かした──]
おや。
迎えの者、ではないね?
もしや、物取りかい。屍骸の髪でも取りにきたのかな。
―大殿邸・庭先―
[白い蝶を眼で追う。
枝に止まっているのは白藤が置いた鳥の式である。
羽を広げて、ひとつだけ羽ばたく。
よどんだ空、重苦しく垂れ込めた雲。
おかされない白。]
……雨足の強くならぬうちに、
屋根のあるところへ向かったほうがよろしいでしょうな。
[去る者たちへ向けて。
野次馬の中に立つものに向けて。]
祟りもおそろしいが、
祟られる前に熱病に浮かされては
お話にならない。
[うたうように謂って、また空を見た。
正しくは見ているのは空ではなかったが。]
[邸の壁も空も越え、ひらりと自らの前に現れる白蝶。
そっと、黒き袖の先にのぞく指先差し出し、蝶はふわりとそれに乗る]
…嗚呼。
[小さく、唇が笑みの形に揺れ。
逃げも怯えもしない白き蝶に唇寄せて]
[雨が零れる。降るか降らぬか雲立ち込めた空。
その場を辞そうとする影居に労いの言葉をかけて]
うむ、ではここで解散を。ゆるり休まれよ。
白藤とやら、そなたも務めに励め。
[視界に入る白い蝶、白い鳥。何かその色がとても浮いて見える。
下官を従え、屋敷の門から出ようとすると薬箱背負うかむろ頭の少年らしきが。ふとこちらをみていたかの視線はこの者か?]
[二の雫の落ちぬ間に
つい、と腰のうしろへ手を回し
刀を抜くように、はじめから携行してきたかの如く
さり気なく唐傘を取り出し、あるじの頭上へ広げた]
[踵を返し、門へと向かう。
ちらりと鳶尾を横目で見、]
お前は思うように動いて構わん。
ただ、報告は怠るな。
[言い捨て、後も見ずに歩み去る。]
――羅城門――
[識が歩く度に 世の理は煌き空気へ紫紺と朱銀を遺す
幾何学直線の黄金の軌跡 指先を伸ばして 遊ぶ指先へ絡ませる 血色の悪い肌にひやりと染み入る肌の感触 おとこの指先を頬にあて 上から茫とながめた]
[縫われたように唇は微動だにしない]
[おとこの頭髪、薄茶の濁りの影は微か――闇と紅を孕んでいた]
[ふと。空を見上げれば。
澱んだ雲。小さき雫を落としていた]
…やはり。良い気では無さそうだ。
[小さく息をつく。
箱の上に括っていた布を手に取り、箱に被せようと]
…?
[手を動かす。
しかし、目は先ほどまで見ていた男の方へと戻っていた。
先ほどの言の葉が聞こえたのか…口を開こうとするも。
視線の先、下官を従え門を出ようとする役人に塞がれて。
開きかけた口は閉じ、道を譲るように脇へと寄った]
[蝶は答えるように二三度羽を開き閉じしていたが、]
「──これより、御許に参ります」
[寂びた男の声を伝えた後、はらりと二つ折りの紙片に変じて宮の手元に落ちた。]
[若宮が退室した後にもう一つ蓬餅を口に咥え]
……あれが、若君様、か。
[手に持った餅を眺める。女房に先ほどの態度についてのお小言を左から右に聞き流し、また餅を一口咬む]
おや…これは失礼をした。
[どうやらこちらの行列に押し出されてしまったのか。
薬箱背負う少年のようなその者へ声をかける]
雨降って商売道具が濡れてはまずかろう。
[人に命じ、傘を一つ]
使うとよい。そしてあまり不躾に人を見つめるのではないな。
中に何かいたのやも知れぬが。
[新米姫君の部屋を辞したあと、簀子を軋ませ少年は自らの領域へと戻る。
ちょうど、すぐ手前ほど。
綿殿まで来たところでふっと視線を空へと持ち上げれば]
…春も近いというのに。
[暗い空。
鈍色の雲は光の加減によって黒にも白にも見え、少しだけ空を見つめて]
…花散らす春雷には、まだ幾分早いというものを…。
[微かにつぶやいて、そのまま自分の部屋へと戻る]
・・・怒っていると思うか。
[先ほど中将と話していた時には、あれでもまだ愛想よく振舞っていた方なのだろう。
式の問いに答える声は素っ気無い。]
…あ……。
[蝶がはらりと、紙に戻る瞬間。
少年の瞳は切なげに揺れる。
確かに声は聞こえたのに、今となっては名残とばかりに残る白に、そっとそれを両の手で包んで大切そうに]
…お待ちしております。
[聞こえないとわかっていても零れる声。
懐に名残をしまって、その足は少しだけ急ぎ足で自らの部屋へと戻る]
もちろん、存分に。
[橘にまた頭を下げ。
不機嫌顔で去っていく影居と式神のおとこを見、
ちいさく息と笑みを零した。
その先、道を開ける薬売りらしき姿も視界に入れる。
橘が傘を差し出す様子を見るともなしに見て]
……物好きの多いことだ。
ああ、それともその筋かねぇ?
[そらから戻った、
尾の先を薄櫻に染めた式神を肩に乗せ、その羽を撫ぜる。
注意を促した白藤自身は、さして雨を気にするでもない。]
・・・おや、
[おとこは、盲目と云うほどではないのだが、昼間の光が堪えるほどに目が暗い。
幼い頃に見た景色は鮮明であったのだから、徐々に目は暗くなったのであろうが。暗いはずのおのれの目に、目の前に立つ相手──無我の姿が、ぼうと淡い光を帯びたように映ることが、不可解であったらしい。]
[幾何学模様の光の波紋が おとこの前に浮かんでは 消えた]
[気がつくと 無我の手がおとこの手に触れていた。つるりとした陶器のような感触──。手触りの所為か、おとこ自身が知らず死の側に在った所為か、触れたそれが、ひどく冷たいもののように感じられた。]
つめたい。
い、いえ、その様な事は…
[役人に声を掛けられれば慌てた様に。
しかし、傘を持つ者を見やれば、少し迷い]
…ありがたく、頂戴いたします。
[深々と頭を下げる。
その上、続く言葉に顔を上げることが出来ず]
す、すみません…と、鳥が。
白い、鳥が…居た、ものですから。
[空を見たときに見えた鳥。
真っ先に思いついたことを口にする。
顔を伏せ、男の言葉を待った]
くだらん。
この邸の妖異、祓う祓わぬという類のものではない。
出来うるなら、あのおとこに任せて家で書でも読んでいたい位だ。
[不機嫌そうに吐き捨てた。]
そのような意地のわるい事を仰らないでください。
[肩越しに言いながら、屋敷を振り向く*]
あやかしの類だけではありませぬ。
ひとも、よからぬ気へと惹かれて参ります故。
誰ぞ供をお付け下さい。
[少年と見えたそのかむろ。しかし様子からして己と年も変わらぬ様]
そうか。それはさぞ興味深い白い鳥であったろうな。
あれだけ長い時間見ても見飽きぬとは。それとも鳥やらあの屋敷から何かを感じたか?
[これでも武人、気配を感ずるのは当然で。慌てる様に少し相好崩し]
緊張せずともよいわ。所でその方、薬氏か?
いづくの薬を取り扱う?
[御簾の向こうから雨の音がきこえ、表情を曇らせる]
厄介な雨だなぁ。
これじゃあ……。
(様子を見に行けないじゃないか)
[雨が降れば足の跡が付く。ごまかすことは可能だが、余り好きではなかった]
夜までに、止むといい。
[残った椿餅を女房に渡すと、自分はまた短冊に向かい、和歌を一つ詠む]
うん、おれにしてはなかなかの出来だな。
[自賛し、短冊は小卓の上に投げたまま御簾の外へと顔を出す]
[羅城門の埃を揺らし 吐息のように放たれた おとこの言葉]
[己(おの)が識を、陰陽師でもなきに見ている事を知らず …否。知ったとし、無我が何をしようというのか]
[暫しの間――おとこの背後へ抜けるように目を向け]
[無我はひっそりと身を引くと、羅城門の床へ座りゆっくりと礼を行った]
そのような意地のわるい事を仰らないでください。
[肩越しに言いながら、屋敷を*振り向く*]
あやかしの類だけではありませぬ。
ひとも、よからぬ気へと惹かれて参ります故。
くだらぬことであれど、誰ぞ供をお付け下さい。
それに、あのような素性も知れぬものが
大手を振ってあるくというのも、捨て置いて宜しいものでしょうか。
[部屋まで戻ってくれば、少しだけ疲れた様子で黒の衣を脱ぎ落として淡い若草色の衣に替える。
甘い濃い色目を好まぬ少年には黒は少し気分を難儀にさせるものだったようで、大きなため息が思わず零れた]
…少し、疲れた。
しばらく、独りにしてくれるかな?
[傍仕えのものたちに慣れた様子で告げれば、気に入りの侍従香を控えめに燻らせる。
そう間をおかずして、少年の部屋からは七弦琴の音色がぽつりぽつりと響き始めた。
それは、まるで不穏な空気を慰めようとするかのように、清浄な響きを*併せ持って*]
[ひそやかに流れ行く笛の音は、ぽつりと落ちた雨の雫にて止みました。]
おや、これは。
…涙雨でございましょうか。
[草の陰以外に雨露を凌ぐところを持たぬ身でございますから、
濡れぬように袂へと笛を収めて、ひとときの宿りの場所を探しにと歩を早めます。]
は、はい…
屋敷の中でも、この空の中でも。白き姿を保っておりました。
[顔を伏せたまま答えた。
ソレが良かったのか。屋敷やら、と問われた事に表情を見せることはなく]
い、いえ…私には、その様な事は…
ただ、この屋敷からは…如何様に、言えばいいのか。
重い、様な…
[強張った表情を戻してからゆっくりと顔を上げる。
しかし、今度は視線を合わせようとはせず]
…は。仰るとおり、薬師をしております…
渡来より伝わった物や、山より取ってきた草を、使ぅております…
[仕事の事になれば、ゆっくりと答え始めた]
[時折七弦琴によって奏でられる旋律は決まって人払いをしてから独りで奏でる特別な曲。
邸のものにしてみれば、いつもの曲で済まされるものも少年にとっては特別な意味を持って奏でられるもの]
……ああ、厭な風だ。
[羅生門、しびとの住処。罪びとの住処。
それに似たにおいが、都をつつむように、
波紋のように広がっていく。
屋敷の空気は澱んでいる。]
根が深いねぇ。
[幾度目か呟いて、ざりと土を踏み踵を返した。
屋根の下、段に腰を下ろして庭を見る。
花のかおり、それも滲む気配に沈むように見える。
影居は相変わらずの様子であった。
かれなら看破しているだろう、この屋敷のことを。]
さぁて、どうするかな。
[翡翠が揺れる。]
[扇子で顔を隠したまま、空を見上げ]
……楽の音がする。
若君様、か。
[今までも幾度か聞いた音だったが、あの白い少年が弾いているのだと想像し、自分の指を見た。
所々傷の付いた、細い指。手を見られることがあれば、一目で「病に臥した少女の手」でないことがわかるだろう]
いつまで、こんな事を続けるつもりだろうな、あの狸爺。
[漏らした言葉は傍にいた女房にも聞こえないような小さな声で]
これは。
役人に目を付けられるというのは。
[心の中で思うは、直ぐ傍に居る者のこと]
吉兆ならばよいが…弱った。
少なくとも。蟲毒を扱うことだけは知られてはならぬ…
渡来の草ぐらいならば、金子があればいつでも買いたたける…
[…視線を逸らしたときに、目に入った男。
笑って居った]
…く。
[かむろが答えることはあの陰陽師達と同じこと。少し首傾げる]
ふん。そなたも陰陽師と同じ類と申すか?
京の穏やかならぬ空気を感ずるは同じだ。こんな所からも同じことを聞くとなれば流石にのんびりともしておれぬか。
して、そなた唐の薬も扱うか?
公家の中でも唐の薬やらは専らの評判であっての。前々から興味はあったのだが。よければ一つ、所望したいがいかがか?
[名を聞けば公家の間にも評判の薬師ともすぐ知れよう]
「素性も知れぬもの」か。
[クッと唇を歪める。]
あれで済めばまだ良いが、な。
いずれもっと現れる。
さればさ、押し止めるよりはむしろ…な。
人に後れを取るおれではない。
また、おれの手に負えぬものならば、誰が共におろうと同じさ──
[嘯いて、濡れるのも構わず*足早に大路へと出る。*]
[おとこは、無我をしばらく寝転んだ姿勢のままで見ていた。まるで、唐突に現れたその識の纏う光と、所作の滑らかさに魅入られたかのようだった。]
何 ──を、
[礼を行う無我の動作に気付いてようやく身を起こした。]
わたしは誰ぞに、礼を尽くされるような男ではない。
わたしは──
[名を名乗ろうとして、改めて気付かされる。
おとこには記憶がなかった。
素性の知れた確かな身分の「兄」から、おのれの名に宛てられた文が届き、京の都に戻ることになったにも関わらず]
────……
[おとこは己の名を名乗ることが出来なかったのだった。
当惑して、色褪せた髪ごと頭を振り、おのれと無我の他に、羅生門に誰か──無我が礼を行う対象がいるのではないかと、気配を探ろうとした。]
[御簾の中に戻り、聞こえてくる琴の音に耳を傾けながら、文字読みのためにと置かれた書物を手にし]
こんなもん、若君様ならもっと簡単に読むんだろうな。
[頬にかかる髪を払って以前読んだ続きから読み始める]
[向かう先は、蝶の文を飛ばした相手──
薄い唇に浮かぶは、かそけき笑み。
常日頃不機嫌な顔を崩したことの無いこの男にしては、珍しいほどの穏やかな顔つきである。]
陰陽…?
[成る程…先ほど話して居った男が気になっていたのは陰陽師だからか。
一人納得するが、弱ったような声で返した]
いえ、その…その、陰陽師、という方々の様な者ではございませんが…
ただ。嫌な予感、と、言いましょうか…
[…言葉に迷う。弱ったように言葉を濁して居ったが]
は…はい。
唐の薬。根や葉も扱ぅております。
ご所望なれば…この空の下では。
[もう一度頭を下げると、少しだけ空を見やり視線を戻す]
[雨を避けるようにたどり着いたのは、立派な方のお屋敷のようでした。
塀の庇の下へと身を寄せて、灰色に染まった空を見上げます。
庭から聞こえるのは、どうやら琴の音。
先ほどの川のせせらぎよりも、もっと清浄で澄んだ音色に誘われて、
いつしか寄り添うのは鳥の啼く音のような笛の声でした。]
[――ひらり 翻す衣の裾は水面にえがかれる極彩色の多重円。揺れる衣は黒と墨の間を揺れ続ける色。
――視線こそ茫としておとこに向けられているかすら分からぬが、おとこだけに顔を向けている。当惑、苦悶似る心の揺れ動きに、表情は変化せず。全ての動きが見える程にのろく指が動く――
薄蘇芳の影を指に纏いつかせ懐より取り出した文(ふみ)
然(さ)る陰陽師からの文であり、最期の文だった。彼(か)が遺した識神についての事が書かれている。
都守りしが為、同じく人を守らんが為――辰星(しんせい)と術師の識が織りいだした式神。身体の些少な特徴と形代たる力について、魚のようにまろみ持つ流麗な筆跡で書かれていた。おとこが名をと求めれば]
[ * 辰星 無我 * ――…‥そう、指先で綴るであろう ]
季久さま──
季久さま。
[やがて庭より現われたる男の衣冠はしっとりと濡れていようか──
艶含んで低く囁く声も、姿も、邸の者は一向に気付く気配も無く。]
影居が罷り越しました。
[端麗な笑顔を見せて、*微笑んだ。*]
[現れた気配に気付いても、音は終演を迎えるまでは止まない。
途中で曲がとまれば、周りの者が心配して見にくるからだ。
漸く最後の一音奏でれば琥珀の瞳持ち上げて]
[暫く書物へと目を走らせていた、が]
笛の音だ。外、から?
[手に持っていた書物を小卓に置き、外を覗く。誰かいるような気配を感じるわけでもなく、ただ、笛の音がどこから聞こえてくるのかは見当が付いたのか]
見て来たいが、余り姿を見られるのもな。
どこかの楽好きの貴族が、通りすがっただけかも知れない、か。
誰も彼もが厭な予感という。一人二人なら軽く流せたがな。
いやすまぬ。この件はもう聞かぬよ。
唐の薬はまた。是非とも所望したいものよな。興味もある。
そなた名をなんという?私は橘中将。
確かにこの雨はお互い不都合。日を改めるかよければ今我が屋敷に参るか?
は、はぁ、すいません…
[安堵の息が出かかるが]
は、はい。ありがとうございます…
私の名は…汐、と。言います。
私は、今から橘様の屋敷の方へ…参ることになっても、構いません。
[その名を聞けば、息を呑まざるを得なかったと言おうか。
貴族の家をまわっていれば、何度か聞いた事のある家の名である…
自身の名を告げると、小さく頷いて]
ここか。
[たどり着いたのは立派な屋敷だった。人気はあるようだが、どうも気配が淀んでいるような気がする]
虫の知らせという奴か。任務とは言えどうするか。
[門から少し距離を取り、中の様子を伺っている]
[律も作法もならぬ笛の音でしたが、不思議と琴の音色には沿うているようでした。
軒より落ちる雨音すらも、その楽の音の合いの手のごとく聞こえます。
けれどもそれは、唐突に途切れるのでありました。]
…嘆いて、いらっしゃる。
[かすかな言葉が、笛より離れた口元より零れます。
視線はどこかをじっと見据えているようで、
けれども何を見ているのかは、他のものにはおそらく判らないことでしょう。]
・・・・・・
[先の討伐の時からだろうか。体の異変を感じている。
血が沸きあがるような衝動。破壊という欲望]
まさか、な。
[人食いが伝染するものなのか。それとも本来の姿を思い出したのか。だがそれはまだ自分にとって信じ難い事であった]
違う、某は断じてそのようなものではない。
[女房の方をちらり、と見て、それから庭へとおりる。後ろ髪は紐で結い、傘を被り笛の音がするほうへと]
(声は……めんどくさいからかけないほうがいいか。あんまり出したくないし)
[門へと急ぎ、外を見る。女性の姿のまま外へ出るのは初めてだった]
[立ち上がろうとして、蛆のたかったやわ肉を潰してしまうのは、おとこが弱っている所為だろう。
記憶を失うて以来、おとこは、田舎では、水晶の数珠を片手に屍骸の世話ばかりをしていた。墓穴を掘り、ムクロを地に埋めるところまでを汗水垂らして手伝う墨法衣のおとこに、田舎の者たちは手を合わせ感謝の言葉を絶やさなかった。]
汐と申すか。ほう、その方が。
名は聞き知っている。名の知れた薬師らしいな。
では参れ。入内している姉のご機嫌伺いにぜひ進呈したかったのだ。
色々と話を伺おう。なに、緊張するには及ばぬよ
[指示を出せば供の者が慇懃に汐を扱う。屋敷にても至れり尽くせり。後ほど中将自ら薬について問うがそれをここにくだくだしく記述する必要もなし*]
人の肉は食えない
食ってはならない ・・・決して
二度と。
[何処かから 声が響いた] [低く 地を這うような 声 が──]
[大殿邸に、不穏な影は絶えぬし
野次馬も、訪れるものも後を絶たぬようだ。
中をうかがう気配も増える。
片目を瞑って]
――……、
[何やら言葉を唱える。
枝に結んだ白が淡くひかり、吹いた風が白となったのは
ほんの瞬きの間。
――ああ、厄介だ。
それは唇だけの動きで、声には乗せない。]
…おや。
[雨音に混じる衣擦れの音に、首をかしげて振り向きました。
白糸のごとき長い髪が、肩から音もなくさらさらと流れ落ちます。]
これはご無礼を。
雨に追われてひと時の凌ぎを探していたところ、
聞こえ来る見事な琴の音に誘われてしまいました。
…ご迷惑だったでしょうか?
[見たところ、まだ若い姫君のようだと思いました。
けれども…雨の中でもその鼻は、先ほど川原で見かけた童と良く似た匂いを嗅ぎ付けていたのです。
不思議そうに首を傾げますが、じろじろ見るのも失礼だろうと目を背けます。]
は。ありがたきお言葉…
傘を下さった御礼の分も含め、承らせて頂きます…
[橘様にもう一度頭を下げ、其の後をついていく。
お供の方々の丁寧な接し方に、少し戸惑いはしたものの。
屋敷へとついた後の事を考えれば、まだまだ序の口なのであった…
最も。しっかり商談にはこぎ着けて居ったのだが*]
[塀の傍に立つ男を扇子の隙間から見やり、その手に持った笛を目に留めた。吹くのをやめて何か言葉を発したようにも思ったが、声はここまでは届かずに]
(人、だよな)
[振り向かれ、かけられた声に少しだけ困惑気味に首を振る。
問われれば答えたくなってしまうのは性分で、喉を押さえ]
迷惑などではありません。
わたくしも、ここに厄介になっている身ですから、何の文句が言えましょうか。
……その笛は、貴方様のものですか?
[どこかで見たような笛だと思ったが、それがどこだったのかは思い出せず]
[風は再び澱む。
薬売りは橘と共に去っていった。
ひとり去って、またひとり。
つと立ち上がり、門の外から中を眺める影を見る。
雨はぽつぽつと地面に染みを作った。
――客人の多い日だ。
――もっとも、おれも此処のものではないが。
眼を細める。門のそばまで歩いていって]
このような雨の日に如何されたか。
御用なら、伺いますがね。
[と、武士の出で立ちをした男に問う。]
[いかにも陰陽師、という人物から声をかけられる]
うん?いや・・・・・・
遣いでこの屋敷にやって来たのだが、ここで良かったのかと迷っていた所だ。
して、陰陽の御仁とお見受けしたが、この屋敷の者か?
あぁ。
仰るとおり。
“今は”この屋敷に仕えておりますな。
[首を傾ける薄笑み。翡翠が揺れる。]
遣いの方ですか。
此処は大殿様の屋敷ですが、其方の認識と相違ないですかな?
ならば正しかったようだ。かたじけない。
今は、ということは雇われか。
雇われた意図は・・・某の務めと内容は同じという事かな。
[僅かに目つきが鋭くなる]
…いえ。
此れも私も、道に迷うておるのです。
[恭しく捧げ持つのは、見事な漆塗りの竜笛でした。]
この笛が申すには、紅葉の山へと連れられていった折、
あるじとはぐれ、都へと帰れなくなってしまったと。
対なるもう一つの笛とも、離れ離れになってしまったそうで。
哀れに思いて山より降りてきましたが、都も広うございます。
あるじには未だ行き会えず、こうして迷うておるのです。
それは何より。
[鋭さを帯びた眼にも表情は其の侭で。]
おや。其方も雇われでありましたか。
さぁて、どうでしょうな。
おれが為すのは刀では斬れぬものを祓うことでして。
が、斬れると思うたひとがいたのかもしれませんな。
[謂うと、刀を見て軽く腕を組んだ。]
……務めとはなにを?
道に、迷い?
[まるで笛に魂でもあるかのような物言いに首を傾げる]
京は広く、人も数がおりますゆえ、見つけることは困難でしょうね。
ですが、その笛はわたくしにも見覚えがあるのです。それがどこであったのかまでは憶えていないのですが、それほど昔ではない……。
対となる方を見たもかもしれません。
[この姿で人に会うことなど稀で、だからこそ憶えはなくとも見当がつき]
もしかしたら。
橘の中将様のものかもしれません。
[以前に一度御簾越しであったが声をかけてもらったことがある。慣れない女性の姿に辟易して、こちらから言葉は掛けなかったが、笛を嗜んでいた事も義父の口から聞いた覚えもあり]
ただ、どこに行けばお会いできるのかまでは。
[急速に、空が暗くなって来たようだった。
透明な水滴がぽつりと一つぶ、頭を振ったおとこの額に触れた。探しても、羅生門には生者の気配は無かった。在るのは、おとこと目の前の識。そして──ぬるくあかい匂いと、なつかしき肉のぬかるみを晒す屍骸が在るのみ。
おのれの他におらぬことに気づき、慌てて腐肉のついた指先を法衣で拭う。]
[おとこは、目の前の光の波紋のおごそかさに薄い唇を震わせ、無我の取り出した文を覗き込んだ。
文字を読み取るためには、おとこは息が掛かりそうなほど、無我の傍に寄らなくてはならなかった。とは云え、相手の息がかかるとは到底思えはしなかったのだが、それ故におとこはおのれを息を詰めた。]
…ああ。
悪いね。わたしは、目があまりよくないのだよ。
日の光が強い日などは、眼球の奥がくらくらとゆれるほど。
こうやって近づかなくては、文字が読めない。
な ん──
[おとこの目に、淡く輝いて映るしろい指先が取り出した、筆者の知力をうかがわせる流麗な文字で書かれた文──そこにあったのは、]
たちばな、の。
[その名を心に留めるように、口にしました。]
どのような方なのでしょうね。
この笛のあるじならば…
[白い指がするりと、艶やかな漆塗りの笛を撫でていきます。
その御方が、先だって例の屋敷で行き会った生真面目な役人であるなどとは、狐は思いも寄らなかったのです。]
雨が止んだら、探しに参りましょうか。
[ゆれている、
ゆれている。
澱んだ気配が揺れている。
何処まで結界がもつやもしれぬ。
あかもぬかるみも沢山だ。
此処には死臭が満ちている。
花も咲いて
緑も揺れるのに
あやかしもひとも絶えない。]
――ほんとうに、物好きの多いことだ。
[わらう。
此処から先はなにもない、と謂うように。]
そうかも知れん。むしろ、それが陰陽でどうにかなるのかそれとも某のような武士の力が必要なのか分からぬ。
某の務めか。大した物ではないし、笑うな。
人を喰らうものがいる、らしい。
わたくしも、一度目にしただけですから。
ですが、悪い方ではないと、存じております。
ああ、そろそろわたくしは戻りませんと。案内できればよいのですが、出歩くことは許されていないのです。
[舘の方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、其方を向く。女房の一人が、自分を探しているようだった]
然様、分かりませんな。
斬れば終わるか、祓えば終わるか。
怪異はひとにも憑くと申します。
それと知らず闊歩するか、それと知って振舞うかはさておいて。
[続いた言葉には眼を細め]
――人喰いですか。
……ああ、笑いはしませぬよ。
大したものではないと仰るとはご謙遜を。
それはやはり、この屋敷において起こった
ここ数日の奇妙な人死にに端を発するのですかな?
[其処まで謂ってふと気づいたように]
……ああ、このままでは濡れてしまいますかな。
屋根のあるところに行きますか?
[屋敷のほうへ顔を向けた。]
えぇ、手がかりだけでも得られて助かりました。
わざわざそこまで手数をかけさせる訳にもまいりますまい。
[若き姫君に礼を言い、恭しく頭を下げました。
呼ばれる声を耳にし、その名を胸へと留めます。]
ではまた、いずれ。
[一陣の雨風に、舞うは薄紅の櫻の花びら。
はらはらとそれが地面に落ちる頃には、白糸の若者の姿は既に其処にはありませんでした。]
奇妙な人死に・・・否、詳しい話はこちらでと聴いていたもので。成る程、そのような事が起きていたのか。
ならば”人喰い”と称されて某がこちらに出向くのも頷ける。
屋根がある所か。出来れば長旅で疲れている故少し休みたいのだが、案内して貰えるだろうか。
都を守らん 陰陽師の── 識神 とな。
術師はもう居らぬの…か。
[ぼうとした無我のまなこ。
近づけば、目の暗いおとこにもその色を覗くことが出来る。名を尋ねれば、指先が 辰星 無我 と綴った。
おとこは無我の陶器で出来たかの如きゆびさきと、文をしばらく見つめていた。近目とは云え見つめすぎて「痛」と一度、こめかみを押さえた。]
・・奇縁、なるかな。
わたしは、「兄」に呼ばれて都へ戻らされたばかり。
僅かばかりの法力があるならば、怪事に役立つようにと。
わたしは、花山院の者らしい。
[おとこの記憶には無いのだが、かれ自身が兄に宛てた文におのれの成した修行の成果を書き送ったことがあるらしい。
とは云え、おとこを今になって呼び寄せた「兄」の意図は分からぬ。
真名を知られれば、魂を奪われるやも知れぬと云うのに。何故かおとこは無防備にも、目の前の識に「兄」からの文を見せようと懐を探った。]
ああ、雨だ・・・濡れてはいけない。
こちらの梁の下へ おいで──
春の雨は 冬の雨よりも沁みて つめたい。
[羅生門の下には、皮肉なことにおとこが巻いたはずの車が、にわかに降り出した雨の所為で戻って来ていた。
花山院 師輔の使いの男は、半ば自棄になったように、おとこを*呼んでいた*。]
なるほど、では説明が必要ですな。
おれの知っていることならばお答えしましょう。
長旅とのこと、お疲れ様で。
[すいと手を屋敷へむけて差し伸べる]
ご案内しましょう。
……あぁ、そうだ。おれは白藤と申します。
必要があれば、そうお呼びください。
[と、屋敷へ向けて歩き出す。
話をすれば、部屋が用意されるとの旨を伝えた。
休むまでの間に怪異について聞かれれば、余さず答えた。
雨が散り敷く花びらを叩いている*]
かたじけない。某は富樫影秀と申す。
これでも守護大名の家計だが、某はまだまだ奉公の身だ。
暫く世話になると思うがよろしく頼む。
[今までの経緯を聞きながら、*白藤の後に付いていった*]
[去る男に頭を下げて、自身も戻ろうと振り向く。
雨を避けるかのように走り、そして自身の間へとようやく辿き、待っていたとばかりの*女房の小言を聞き流した*]
嗚呼…影居、さま。
[嬉しそうに、やっと楽を奏で終えた少年は微笑み立ち上がって庭先近くまで]
…お会いしとうございました。
さ、こちらへ。
それ以上濡れては、花だけではなく貴方様まで冷えてしまう…。
[両の手を差し出して招く様は抱き締めるを求める子供に似て]
[微細な粒子が流れを表す―― おとこが文(ふみ)へ目を落とす間(ま)も、無我は茫と顔の向き変えぬままであったから横顔を見つめることになる]
[あかく ぬるく 底なる人々の想いが重なり重なり羅城門は、またゆぅるりと隅から鬼をうみいだし――]
「術師はもう居らぬの…か。」
[後を託す事になったおとこへ頷く]
「わたしは、花山院の者らしい。」
[文を探り、傍へと呼ばうおとこのもとへ 擁かれるように]
[俄かに雨が死臭をくちくちと冒し 誰その声が響いてきた]
[暗がりの中、無我はおとこのこめかみに指を伸ばし――ひたり。手のひらを頬、顎へと*触れさせた*]
[庇へと上がったおとこは、差し招く若宮の傍に跪き、面を伏せる。]
私もお会いいたしとうございました。
若宮さま……いえ。
[すっと顔を上げ、若宮を正面より見詰める。]
季久さま。
[本来は口にすることさえかなわぬ筈のひとの名を呼ぶ声には、幾分かの情がこもっていた。]
[正面に近づく姿をじっと見つめながら]
…貴方様はいつも…樹の影から姿をお見せになるのですね。
[最初に出会った内裏で迷子になった日を思い出したのか、少しだけ口許に笑みが生まれた。
血の繋がりを持つもの以外が呼ぶことはない自分の名を呼ぶ声に滲む感情に、微かに瞳が揺れる。
そろりと、指先は彼の指先に触れられたらとばかりに躊躇いがちにのばされ]
[「いつも樹の影から現れる」という若宮の言葉にクスリと笑う。]
それ故の名ですから……
[目の前の若宮の瞳に宿るいろに、気付いて居るのか居ないのか。
涼しげな顔で、伸ばされた指先をそぅっと手に取り、*恭しく戴いた。*]
[少し瞬き、そして小さく笑む]
影に居る…ですか。
本当ですね…。
[自分の指先を掬う冷たさに少し睫毛が頬の上に影を落とした。
自分の熱が彼を驚かせはしないかと、ばかり、少しだけ*不安でもあった*]
―大殿邸―
[粗方の状況説明の後、休憩もそこそこに
先に挨拶をしてくるという富樫を
白藤は門まで見送った。
庭では薄紅梅と桃花色の花びらが緑の苔に映えている。
雨を吸い、澱んだ空気の中でさえ鮮やかだ。
富樫の薄紅の着物にも似ていたかもしれない。
傘をさした富樫の背が見えなくなるころ
屋敷の方へちらと視線を向けた。]
大殿さまの様子は――相変わらずか。
[腕を軽く組んで、開け放たれたままの門に凭れた。
常の笑みが薄れて、ふと物憂げなかおになる。]
足りないだろうねぇ。
……おれでは。
[通りへ向けた筈の眼は、何処か遠くを向いている。
屋敷の死のにおいは、
羅生門から広がる陰のにおいと似ている。
祓う祓わないではないと影居が謂ったのを
白藤は知る由もなかったが、
聞いていたならば同意しただろう。]
……否、何人でかかろうと同じか。
本当に、根が深いことだ。
[呟く。人の気配。表情は、薄笑みに戻っていた。]
―橘様の屋敷・門―
ありがとうございました。
また要り用なれば、汐の名をお呼び下さい…
[頭を下げれば頂いた傘を開き。
屋敷を出て通りへと出る。
屋敷に背を向け。其の全貌も見えなくなりつつあるとき。
小さく息を零した]
ふぅ、あんなに良くして頂けるとは。
是非とも馴染みになりたいもの…
[薄く笑みを浮かべて居ったが。
其の足を向ける先や、次第に感ずる気。
次第に表情も引き締まっていく]
…陰陽師。ならば、祟り…か?
あの屋敷の周り…上手くすればあの屋敷にも取り入る事が出来ようが。
問題は其の祟りは同業による物か。か…
―件の屋敷・門前の通り―
多少…其方の知識があるとは言え。
同業が出した手なれば、此方が下手に手を出す物ではない、が。
[ゆるり。傘を少し持ち上げ、見ゆる先は先刻訪れた屋敷]
…はて。そういえば。
彼の男の言葉はいかな事か。
[門に凭れる人影。其の目は細くなり。
一見すれば見定めようとしているようにも見えるかも知れぬ。
歩み寄るべきか否か…はたまた、其の男自身か]
[雨はなおも降っている。
故か人通りは多くない。
歩いてきたのは目立つ箱を背負った禿の薬売り。
傘から雫、此方を見ていた。
顔を其方へ向けると、翡翠が小さく揺れる。
笑むように眼を細めた。]
行商目的ならば橘中将で十分だと思うがねぇ。
[届くかどうかはさておいて、
揶揄するか、素直な感想か、そう呟いた。]
[…耳は良いのか。
細めていた目とは裏腹、声を掛けた]
流れな物で、ね。
[其の笑みに返すように。
すぅ、と口元もつり上がる]
典薬寮のに、何時お得意を取られるか分かりませんので、ね。
[往来で派手な騒ぎは起きぬと思ぅたのか。
それとも話せる者と思ぅたのか。
一歩ずつ近づいていく]
兄さんは…役人、かい?
そうかい。
[歩み寄って来るのを止めるわけでもなく、
腕を組んだままその様子を見つつ]
典薬寮か。
確かに上客を取られるのは一大事だ。
[薄笑みのままで謂う。]
いいや。おれは流れの陰陽師だ。
故あって今は此処で雇われの身だがね。
[と、屋敷を顎で示して見せた。]
牧童 トビーが「時間を進める」を選択しました。
今は根を張れておりますが、ね。
何時発たなければならぬか。
[ふふ、口から息が漏れる。
顎で示された屋敷。ゆるりと見上げて]
成る程…兄さんも流れ、か。
私と比べちゃあ、いけないのかも知れませんが。
[口元。目。どちらも薄い笑みを携えたまま。
屋敷を向いたまま尋ねた]
所で。この屋敷の…気、と申しますか。
これは、他の屋敷…他の者にも移りますかねぇ…?
[ゆっくり。傘で男からの視線を遮りつつ]
一時でも根を張れるならよいことだ。
まぁいつかは流れる根、早いか遅いかだけだがね。
[見上げる薬売りを流し見て]
さぁて、流れは流れさ。
比べてどうのという話は雅でない。
[軽い調子で謂った。
傘で視線を遮る所作は眼に入っているだろうが別段何も謂わず]
――其方も気になるか。
ああ、そういう意味でもある種同業だねぇ。
伝染るだろうな。
否、既に伝染っているかもしれないねぇ。
今は大人しいが、いつまでもつやら。
[門の上、配置された白い鳥の式が小さく羽を広げた。]
[雨の音が耳をつく]
この分じゃ今晩はお預けだな……。
一つ聞くけど、他の貴族の女もこんな風に暇なの?
[後ろでカツラを湯で洗っている女房に声をかける。付の女房は二人で、二人共に年老いていた。女性に興味を持たせぬ為なのか、その逆であるのかはわからなかったが]
「そのようなことはありませぬ。皆、それぞれに笛を嗜んだり、交わす文のため懸想したり、見目麗しく保つため日々の努力をいたしております故」
……おれには、関係ないな。笛くらいなら吹けるようになっても良いが。
[なおこの姿のまま留まるのには理由があった。京からでようと思えば出られたが、おそらく門を過ぎたところで捕まるであろう事と、もう一つ]
[探している屋敷があった。朧気に記憶に残るだけのその庭を、そこに住む主を見たいと言うだけのもの]
なれば、なるたけ水気を吸っておきたい、って…ね。
[例え話。くつり、と笑いを漏らしつ]
そうでしょうか。
兄さんほど、何が出来るってわけじゃあ、ありませんからねぇ…
[ある種同業。其の言葉に視線を遮っていた傘を外し。
其の目は何処か楽しげに]
陰陽五行説…それは薬師の中にもありまして。
…ゃ、兄さんは知ってるかも知れませんが。
[門の上。紙の鳥が居った。
澱んだ雲の中でも、其の身は白で保ち]
そうですか…伝染りますか。
それは。難儀なものですねぇ…
[目を細め其の羽を見つめた]
…そうか。伝染りますか…
なれば、程良く遠き位置にある橘様のお屋敷は良いお得意様となりそうだ…
[瞳に映る白。
其の白は何処か眩しい]
…陰陽の兄さんが居るのにかかわらず、伝染るんじゃあね。
同業では無さそうだ。
[捕らえられたことは不覚だったが、毎日の食事と宿があることは魅力的で、結局居座ることに余り抵抗心もないまま]
後で若君様、の部屋でも覗いてみようか。
[ぴくりと女房の肩が動いたが、何も言うわけでなく。止められるわけではないのか、と思い]
この姿の方が、いい、んだよな。
眉は抜きたくないんだけど、どうしたらいい?
[差し出された小さな小刀を見て溜息を一つ。剃るのも厭だ、と零した]
水が無ければ萎れちまうしな。
[傘を上げる、その顔の方へ向いて]
薬の方が余程信用できるというやつも多いさ。
[例えばあの中将とかな、と
眼を細めて小さく呟き]
へぇ、薬師にもそういう話があるんだねぇ。
[と、首を傾けた。飾り紐が雨の雫を弾いた。
白い鳥、同じく白の蝶は恐らくは影居のもの。
アレは何処へ行ったろう。]
まったくだ。根が深くてな。
羅生門からの陰の気も穏やかじゃなくてよろしくない。
[薄紅が滲んだ紙がひらりと落ちてくる。
手にとって袖に入れた。代わりがまた必要だ。]
[薬師は商売人らしくその手の話に遠慮はない]
ふむ。なるほど。その方も中々に知識豊富とみた。
どうも典薬寮の連中は融通利かぬものが多くてな。
入用な時にそなたがこちらに生薬都合してくれればありがたい。
取り急ぎ人参と牛黄をもらおうか。また何かあればぜひに頼む。
[薬師を送り出すよう周りに言いつけて。それらの薬はすぐに御所へと運ばれる。さて自身はといえば鷹匠に己の鷹を連れさせて]
どうやらこの先面倒が起きそうだ。お主にもようよう励んでもらわねばならんが気を抜くでないぞ?あの羅生門あたりも改めねばなるまいな。お前にも来てもらおう。
[鷹は止まり木の上にぐるる、と甘えるように鳴いている。この鷹、さる唐の贈り物にあったもの。下賜され、己の手で手懐けた]
[小さく頷いて意を示し。
おやおや、と視線を男の方へと向けた]
確かに良くして頂きましたが。
私は…陰陽も信用。しておりますが、ね。
其の話は橘様の御前ではしないでおきましょう…
[ふふ、と口から息が漏れる]
ええ。
最も、私の知っている五行と、兄さんが知っている五行では話が違うのでしょうが。ねぇ。
[首を傾げる男に。
面白そうに話をしていたが。続く言葉には片眉を上げて見せ]
…羅生門。
彼処はただでさえ気が澱んでいる。
其れが本当ならば…暫くは其方の方にも近づかない方が良さそうだ。
…やれ。一体何が起ころうとしているのでしょうかねぇ。
[”誰が共にあっても同じ”とまで言われては、あるじのあとを追うのも憚られ、傘くらいは持てとは思うものの、あるじの人混みへ消えるのを為すすべなく眺めていた。
元より偏屈なあるじだとは思っていたものの、雨のなかおとこは途方にくれるばかりであった。]
[さていつまでも往来に立ち尽くすのもおかしなこと。
ほんとうは傘の柄など持たずとも構いもしないのだが、それをしないで居るのもおかしなことなので、やはりひとのように振る舞いながら歩いた。
あるじはあそこへ何やら残していったようだけど
さしづめ件の屋敷へ戻るべきか。]
眼に見えない者も多いし、
仕方がないといえば仕方がないがね。
そうしておいてくれると良い。
[人差し指を立てて、唇の前に立てる仕草。]
似通ってはいるが同じではないだろうねぇ。
[片眉を上げる薬売りに、笑みでなく眼を細めて]
もう都の何処でも同じやもしれないがね。
波紋みたいに広がっていくような感覚さ。
後は……ひともあやかしも引き寄せられてるように見えるな。
これも呪のちからかねぇ。
この事態、あの陰陽師なら黙っちゃ居ないと思ったんだがな……。
[かの高名な陰陽師が既に亡く、
その識が羅生門に居るとは知らず呟く。]
さて、なんだろうな。
都を巻き込んでの百鬼夜行か、
はたまた春に相応しくない真赤な花の宴か。
[白い折鶴を取り出して、
ふ、と小さく息を吹きかけた。
羽ばたいて、鳥になる。]
何、兄さんには色々教えて貰ったからねぇ。
それぐらい。
[同じく人差し指を唇の前に立て。
其の手を下ろすと顎へと持っていき]
病は払えるが、魔は祓えないので、ねぇ。
波紋…広がるんじゃ、逃げようが無い、か…
まぁ、直ぐ傍にいるよりはまだまし、でしょうよ。
…?
人も、あやかしも…?
[其の後の言葉にも疑問に思ったようではあったが…
口に出して、分からぬ、と言った表情をして見せた]
[鉄嘴もつ黒い鷹。自身に呪力はないがこの鷹はまた別物。
式神は勿論鬼でもとらえるだろう。
自身の知識が陰陽五行に通じぬ訳ではない。しかしそれが好かぬだけ。好かなくとも家臣や父の手前、方違えや物忌はせねばならないのが余計に苛つく]
…陰陽師か。あの安部影居があぁも言うのなら確かにゆゆしきことではある。しかし最近の羅生門の変といいあの屋敷といい、何が起こっているのか。陰陽寮の天文官たちも何かしら注進があって良いものを。
[ひとくさり愚痴こぼし。雨があがればまた外へと赴く心算で*]
百鬼夜行、か。
それは…おぞましい。薬を売る売らぬの問題じゃあない。
最も。
赤き花の宴も私には趣が合いませんが。
[小さく肩を竦めて見せ]
どちらにせよ。吉兆には見えない、って事ですかねぇ…
[野次馬が雨であらかた流された分、件の屋敷は全景をよく見て取れるようだった。]
四つ辻―――
[おとこはまずは屋敷ではなく、屋敷のまわりを歩いてみることに*した。*]
[同じような仕草にを見せる薬売りに眼を細め、
腕をまた先ほどと同じように軽く組んだ状態に戻し]
おれには病は祓えんこともある。
ま、住み分けだねぇ。
……波紋の中心よりは外の方がまだいいか。
[分からぬ、という表情には薄笑みで]
――物好きが多い、ということさ。
[茶化したように謂った。
例えば白狐、例えば影居の式、
未だ知らぬが記憶をなくした僧と
それと共にある無我もまた
引き寄せられるように都へ。]
ふふ、兄さんが病も祓えるなら、私は生きてけませんよ。
…ええ。恐らく、は。ですけど、ね。
[口元を吊り上げて見せ。瞼は閉じる]
物好き、ですか。
それは兄さんや…私も入る、のでしょうか。ねぇ…
生業である以上、否、と言えないのが辛いところでありますが。
[肩を揺らせば、開いた眼は男を映し]
まぁ。兄さんが病に伏せたら薬を持って参りますよ。
薬売りが平和に薬を売れるような世がいいがねぇ。
[わらった。]
おれも赤い花の宴は御免こうむるねぇ。
死人花が咲くにはまだ季節が早すぎる。
吉兆ではないな。
よろしくないことだ。
[感嘆の声には笑みを向ける。
白い鳥は命ぜられた場所へと飛び立った。]
そんな世が出来るなら是非ともして欲しいものですがねぇ。
[ふふ、とつられるように。
もう一度肩を竦めて見せた]
最も。薬が売れるのがそういう時、なので。
本当、喜んで良いやら悲しんで良いやら。
ま。吉兆じゃないなら…気だけは確かに持たなければなりませんねぇ。
[笑みが見え。飛びだった鳥を見つめ。
其の姿が見えなくなれば]
…紙の鳥、か。
便利そう、と思うよりも先に、童が喜びそう、と思ってしまうのは。
失礼なのでしょうかねぇ。
[困ったように笑って]
そりゃぁそうだな。
[しとしと降る雨、
長い前髪を右の手でついと避けた]
恐らくは、ああ。恐らくは、だ。
全く厄介だ。
[首を横に振る]
物好きには、そうだな。入るだろうねぇ。
生業であるならば、それは染み付いているゆえ仕方がない。
[肩を揺らす様子には瞬きひとつ。]
それは有り難いことだ。
まけてもらえればもっと有り難いがね。
――ああ、薬を買うようになるかもしれないなら名を知らねば不便か。
おれは白藤というが、薬売り、そちらは?
兄さんでも、恐らく、って付けるんだったら…
本当に厄介なのでしょうねぇ。
[傘を少しだけ傾け。傘の斜を雫が滑った。
端から飛びつ水。地に落ちれば雨と共に弾けた]
そう…兄さんとは気が合いそうだ。
まけるかどうかは…私の気分次第でしょうか。
[禿の髪を一房。指で摘めば小さく笑んだ]
白藤…ね。
私の名は、汐、と。言います。
白藤…
なかなか、面白い?
…ふふ、病に伏せる様な。柔な方では無さそうだけれど。
[薄く張り付けた笑みの下。
小さく思う]
…祟りの前に。
熱病に冒され、か。
薬師が熱を患ったら、世話ぁ無い。
[其の意味を測り切れぬ薬師。
若気の至りか。思うは軽く、あしらうは言葉]
[押し戴いた手をそのままに立ち上がれば、冷たいその手がさらりと若宮のそれを撫でる様に滑り離れ、]
ここは寒うござりますれば、中へ――
[冷えた指先のみが僅かに留まりて、中へと導く。]
ふ、随分高く買われてるもんだ。
陰陽寮のものでもないんだがねぇ。
[冗談めかしてひとつ笑うと、後ろ髪の翡翠が揺れる。
落ちる雫はまだやむ気配なく。]
それは嬉しいことだ。
堅い言葉使わずにすむ相手ってのは貴重でね。
薬を売るときも気分がいい事を祈るさ。
[汐、と名を復唱し]
海の――満ち引きのことかね?
まぁ、なんにせよ。よろしくというところか。
私には分からぬ物ですからね…雇われるほどの技量があるなら信に値するでしょう。
[摘んだ一房。指の腹で潰せば微かな音が鳴り]
貴族や役人の方には…堅い言葉でなければ縁を切られてしまいます故…その苦労も分かち合い、ですか。
なんともはや。
…ええ、海の傍の出、でして、ね。
[苦笑を零すと、ゆる、と辺りを見回し]
さ、て。
そろそろ、お得意の所へまわってきましょうか、ねぇ。
[背負う箱を担ぎ直し。小さく笑んだ]
私には気の流れが深くは分かりませんので。
白藤の兄さんの話は助かりましたよ…
それでは、また。
成る程ね。
[頷いて、ありがとう、かね?と眼を細め]
そうだな。礼儀作法には厳しいもんだ。
下手な口をきけば叩き斬られかねないというもの。
[肩を小さくすくめた]
海か。随分遠いな。
流れ流れて都まで……か。
ああ。行って来な、根付いて、水を遣るために。
[小さく手を挙げて、ひらり、振る]
役立てたんならよいことだ。
それじゃぁな。
[順繰りに辻を巡り、屋敷のぐるりを巡り、いまは屋敷へ入るべく門を目指す。
薬売りの姿をしたものが、屋敷から出て雨のなか何処かへ向かって行った。]
……やまいあらば、薬の入り用もあろう。
さしずめ、商いどきといったところか。
雨とて、無碍に花を散らすばかりでは無いな。
[いずれもっと現れる。
さればさ、押し止めるよりはむしろ…]
[流れ者の術士に目を留め、]
……御身、まだこのようなところに居られましたか。
お勤めご苦労に御座います。
して、わたくしなどには何ぞの変わった風にも見えませぬが、
ことの進捗は如何に御座いましょう。
[穏やかな涙雨は未だに止まず、
橋の下にて雨露を凌いでいた白狐はつまらなそうにため息をつきました。
ふと思いついたのか、河辺に育った大きな蕗の葉を、一つくわえて折りました。]
[門から屋敷へ戻ろうとしたが、
椿の花の横で立ち止まり]
影居の使いかね?
[肩越しにゆったり振り向いて]
おれは呪に対する呪を施しているからな、
そう容易には動けない。
で、進捗の程か……芳しくないがね。
場つなぎにしかならんだろうな。
[ごまかすことも無く謂って、眼を細めた。]
祓う祓わんではない、ということだ。
[御簾の内、几帳の中。
降り頻る雨のざわめきが、衣擦れの音掻き消して……
薄闇に覆われた室内をも満たしてゆく。
それより後は、密か事(みそかごと)――*闇の中。*]
ほう。
[対して目をすこしばかり見開き、術士をみた。]
……あるじも同じ事を申しておりました。
わたくしも辻辻を巡って参りましたが、見たところ埋められた呪もの、掘り起こして如何するという類のものでもありますまい。
して御身、これからどう出られるお積りで。
影居もか、さすがは。
[世辞でもなんでもなくそう謂って。]
そちらの見立ても同じだな。
厄介この上ない。
[少しばかり眉を寄せ、椿の花を流し見る。]
さて、どうしようかねえ。
妙案が直ぐに浮かべばいいんだがな。
――まずは、冷えた体をあたためるかな。
[茶でも淹れるか、と軽く謂って屋敷へ戻る。
拒まれなければ式にも進めた*]
[さすが、という言葉に満足げに頷いた]
茶、ですか。
――気の長いことに御座いますね。
折角のお誘いですが、失礼します。
そも、わたくしのようなものに茶なぞ勧めて如何なさるおつもりか。
飲んで飲めぬこともありはしませぬが。
[術士の男が目を離すと、椿はぽとりと首を落とした。
落椿から目をあげ、術士とははんたいに通りへ出た。]
――影居の屋敷――
[おとこが自邸に戻ったのはそれからかなり後、もう日暮れも近い頃のことであった。
何故かあまり濡れておらぬ衣冠を脱ぐと、動き易い衣服に改める。
もうこれで今日の仕事は済んだ、とばかりに寝そべり、広げたままの巻物など手にとって眺めている。
陰陽寮への報告などはまとめて明日片付ける心積もりのようだ。]
[しとしとと泣き続ける空の合間に、白い蝶を降り仰ぐ。
大路へ出た。
あるじはひとが嫌いのようだから、こうして話を訊ねあるくとしよう。
群れ集う者共をおよがせて置くようなことを云っていたから、あのあたりへ行こうとするものがあれば言葉を交わして持ち帰るのもきっと役には立つだろう。
都の噂を尋ねあるくのも良いかも知れぬ。
幸い、ひとと話す事は好きだ。]
……夕餉までには戻らなくてはな。
[濡れそぼって枝垂れた大きな櫻の根本を、白糸の男は傘をさしたまま見つめておりました。]
…何故そのように悲しい目をなさる?
[誰の姿も無いその樹の下へ向かって、狐は微かに問うのです。
どうやら答えは、かえって来ないようでした。
目を伏せて、袂より彼の笛を取り出します。
せめてもの慰めにと、笛は静かに嘆くのでした。]
[さても、あるじの供としてでなければ往きづらい場所も多く
ゆきさきに惑っていると
雨滴の落ちるすらも妨げぬほど静かに、
かなしげな笛の音を聞いた。]
[こころを慰むる音を乱すことの無いよう、すこし離れ
笛を吹くものの様子を静かに見る。]
―少し前・大殿の屋敷―
焦ったなら、
ぬかるみにかえって足を取られることもあるからな。
[屋敷の廊下より、赤い式神の方を斜に見る。]
茶を飲むのに式神もひともないんじゃないか?
飲むか、と思ったから聞いたんだがね。
[と、やはり軽い調子で謂い、去る足音を背なで聞く。
足音も遠のいたころ、
大殿が臥す方を見る。その顔に薄笑いはなく]
――……また、及ばないのかねぇ。
[それは少しばかり哀しげに*落ちた言葉*]
[雨と共に地面に染み入るように、ひそやかな調べも流れてゆきました。
やがて雨足も弱くなり、狐はその細い目で、何かを見送るがごとく振り仰ぐのです。
暫し佇んだ後、その目は赤毛の姿をみつけるのでした。]
失礼。
斯様な空もようの日に、おもてで笛の音とは不思議なこともあるものだとつい足を止めてしまった。
[けぶるような微かな雨足にとけるような髪をしたもの――
先程、血なまぐさい屋敷へ居た、どうもひとには無いような男から、桜の樹のもと、そして空へ目を移した]
いえ、お構いなく。
こんな日だからこそ、聞かせて差し上げたくもなるのです。
[先だってあの屋敷にて見かけた何処かの従者の方のようで。
軽く頭を下げながら、ふと奇妙に思いました。
いえいえ、感じたのではなく、感じ無かったのです。
先ほどは他の方も共に居たので気づかなかったのですが。
小さく鼻を鳴らします。
この男からは汗も脂も…生きるものの匂いがしないのです。]
ほう。
――――嗚呼、どうなされた。
身体をひやしたろうか。
春とはいえ、雨が降ればまだ冷える。
[男のようすに目を戻した]
しかし――めずらしいいろをした髪だ。
――――うつつにあらぬかの如く。
宿るところを持たぬ迷いびとにてございます故。
[白狐は袂へと笛を納めると、軽く肩を竦めて見せました。]
いかほどまでが、夢か現(うつつ)か…。
わたくしも、
いえ、もしかするとあなた様も、
誰ぞの午睡の夢やもしれません…よ。
風靡なことを申す。
私なぞさしずめ、書物の狭間より立ちのぼる夢だ。
夢であらば、いつぞ覚めようか――
[宿無しというには、男の身なりは整っているようだ。]
――ときに。先ごろは大殿の屋敷にて、何を?
なんとなく、気になったものでですよ。
…あの屋敷に立ちこめるのは死の臭いだけでは無い気がいたしました。
人を探しに、都へ来たのですけどね。
ええ、ひとを。
[頷くと、白糸の長い髪はさらりと揺れました。]
迷子の笛の、あるじを探しに参りました。
[恭しく、その笛を捧げ持ちます。]
橘の中将殿のものではないかと聞きましたけれど。
ほう。
[二度目の感嘆]
中将殿のお屋敷は、この先……小さなお屋敷では無いから、ゆけば、きっとすぐにも判るだろう。
取り次いで頂けるかは、知らぬ。
笛がふしぎなのか、吹き手がふしぎなのかと思っていたが。
さても音色の美しきことよの。
[雲間から、暮れかけた陽が覗く。それ故か、少し眩しげに]
……しかし、美しいとかんずるこころも、このような美しい都を作るひとびとと私とでは、何処か異なっているのかも知れぬ。
いえいえ、わたくしめなどは。
[西日さす様を見て、手にした傘を畳みました。
銀の白糸のような髪の上を、金色の陽の光が滑り降りてゆきます。]
笛が良いのでございましょう。
あるじの元へ戻られたなら、きっと晴れ晴れしい音色になるかと。
[指先から伝わるは冷たさなのに、その指先も声も、すべてが呪いのように少年を酔わせた]
……は、い…。
[雨の中、声は微かに震えて促されるままに御簾の向こうへ。
衣擦れの音も、小さな囁きも――――雨の歌に融けて消え]
嗚呼。
きっと、そうであろうな。
[傘の雫を払う。
銀色の髪にとまる雫も、陽を弾いて煌めくようでまた目を細めた。]
わたしは、鳶尾という。
そろそろ、私も我があるじのもとへ戻らなくてはならぬ
引き留めてすまなかった。
いちはつどの、ですか。
[やや吊り気味の細い目を、一層細めて笑むのです。]
わたくしめは、葛木 恒仁と申します。
呼び方などは、お好きなように。
[では。と別れて、言われた屋敷へ歩を進めるのでした。]
[――――ぼんやりと。
少年の体を心地よい気だるさが支配して、琥珀の瞳に少し霞がかかる。
幾つか瞬きしながら、乱れた衣を直し、ゆるりと、すこしだけ熱の残る吐息ひとつ]
─回想・六条邸─
[──幾分か時が過ぎ。
衣擦れの音も途絶えて、暫し経った後……薄闇に覆われた部屋の中。
几帳の奥からおとこの低い囁きが雨音に紛れて流れる。]
私が先ほどお送り致しました、蝶の文をお持ちでいらっしゃいますか?
[聞いた通りにたどり着いたは、それは大きなお屋敷でございました。
どなたかに取り次いでもらおうと門へと向かうのですが…]
…これは、まさか。
[散歩に通って行ったのか、それとも飼われているものか、
大の苦手の犬めの気配が残っておりました。
遠巻きに眺めるも、近寄れず。]
それではそれを、御身から離さずお持ち下さいませ。
もし危急の折あらば、その蝶をお解き放ちになるか、文に触って私に呼びかけて下さいませ。
さすればこの影居、いずこなりとも駆け付けまする。
[恒仁と名乗ったものの、人目を引く白い姿がすっかり通りに消えてから、おとこの姿もいつの間にか掻き消えていた。]
――影居の屋敷――
――ただいま戻りました。
[ひとの気配も、ひとらしい匂いも亡い屋敷。
おとこと同じく、やたらと静かに歩く女房へ傘を預けた]
─自邸─
[ふと書から目を上げ、空を見晴るかすかのように遠い目をし──
ひとつ、深い溜息を吐いた。]
(全くおれらしくもない。)
[薄ら陽がさして来たようで。既に西日差す時刻。家の庶務もあるわけで。その雲からさす陽と雨上がりの風情に一つ笛も吹きたくなり。
取り出だす横笛、息を入れるとまた普段らしからぬ音を奏で]
ん?また妙な。先のような音でもなし…。
なんぞ笛が浮かれているか?
[小首傾げ。足もとにじゃれついてくるのは家で飼う唐猫。
庭に止まる黒鷹がぴくり頭を持ち上げる]
[暫し迷ったその後に、件の笛へ語ります。]
ふえよ、ふえ。
そなたのあるじが居られるならば、その音で呼んではくれまいか?
[櫻日和のたそがれどきに、流れる音色は届くでしょうか。]
[折りしも聞こえてきた鳶尾の声。
破られた夢想に苦虫を噛み潰し、]
帰ったか。
按配はどうだ。
[手にしていた巻子を脇に置いて、身を起こした。]
そなたも何ぞ感ずることあるか。
[鷹の頭をなでながら問う。鷹はしきりに外を指す。笛も何か訴えるよう音を出すから、表を見て参れと人をやる。下人は門にいる銀の男に用向き尋ねる。何やら笛をと言うるらしい。下人、それを主人に伝えると]
何…?銀の髪?ふむ…。ではこちらに通すがよい。
…解き放つ…ですか?
呪いの心得もありませんのに…できるのでしょうか…。
[少しだけ、声音は不安を滲ませる。
和歌の心得があっても、琴ができても人をのろうことはもちろん呪いを覚えようと思ったことは一度もない]
[あるじの声に短く答え、書物の隙間から覗くわずかの場所へ立ち現れる]
はい。
件の屋敷にて、白藤どのとすこし言葉を交わして参りました。
奇しくも、あるじと同じ事を申しておりました――
あの者、手を焼くと見えて、すぐになにかを行うことは無いようにも。
−六条邸−
[侍従を燻らせた中、ほつりと目が覚める。
いつのまにか転寝をしていたのか肩にいつの間にか衣がかけてある。
それをかすかに手繰るとゆるりひとつ。
息をついて頬についた痕を指先でなぞってみれば唇を彩るのは苦笑]
…困ったな、今の刻限が、わからない。
[しかし言葉の割に、それほど困った様子はない]
─回想─
[おとこはうっすらとやわらかい笑みを浮かべ、若宮の細く白い手を取る。
その掌に、目に見えぬ文字のようなものを書き付けるかのように指をさらさらと動かしていく。]
……これで。
季久さまのお声が私に伝わるようになります。
[屋敷の下人に連れられて、中へと通されました。
見たことも無い調度の数々に、思わず感嘆の息もこぼれます。]
…あなた様は、あのときの?
[現れた彼のあるじには、確かに見覚えがありました。]
[見せるのは相も変らぬ不機嫌そうな顔。]
ふん──
すぐに四辻のものを掘り返そうとせなんだは賢いとも言えるな。
精々ばら撒かれぬように、ぎりぎりまで持たせるであろうよ……あのおとこならば。
−回想−
[自分の手を取って、ひらに何やら指先で綴る動きがくすぐったいのか少しだけ表情が崩れて]
…本当に?影居様は…本当に、陰陽師なのですね。
すごいなぁ…。
[唇から自然と零れる、飾ることない本音が小さく感動の溜息と一緒になって零れる]
…琴や歌よりも、式を操ったり呪いを使えるほうが、きっと…もっとずっと、父上をお助けできるのに…。
[彼の指の軌跡を追いながらも、喜んだ表情が少しだけ沈んで]
[通された銀の青年。下人どもも何やら酷く訝しんで彼を見る。
外の鷹など威嚇の視線を離さずに。
しかし一度は見えている間柄、その青年が平伏してこちらを見るを]
ほう、その方はあの屋敷の…。何用でここまで参った?
下人の言では笛とか申して居ったがそなた何か所持しているのか?
[銀の髪は西日を照り返し赤毛にも見えよう。膝の唐猫なぜながら尊大に問う]
そのお手で、手紙に触れればお声が伝わり、手紙を天に向けて放り投げれば飛式となります。
ただくれぐれも、本当に伝えたいことがある場合に限ってお使い下さい。
一度使ってしまえば力が無くなります。
勿論、次にお会いした折に換えはお渡し致しますが……。
[常態からして機嫌の良いように見えることは無いために
平素と変わらぬようにも思えるが、あるじの貌つきが一体何を意味しているのかいまはどうも汲み取れずに、
心もち俯いて続けた]
おもいのほか、賢いおとこのようで御座います。
それと、笛を奏じるあやかしに出会いました。
件の屋敷へも居たものですが――中将どののものと思しき笛を、拾ったとか。
中将どのの屋敷へ向かったものと思いますが、なにやらよこしまな企みを持たぬとも限りますまい。
えぇ、笛を。
[取り出した漆塗りの竜笛を、恭しく捧げ持ち、差し出しました。]
笛の落とし主を探して、都まで降りてまいりました。
人に聞けば、橘の若様のものであろうと。
笛だと?
[思い当たることがあるのか、ふっと片眉を上げる。]
……確かに。また続々と現れてくれるものだ。
しかもあのおとこのところへとはな。
[一層腹立たしげな顔になった。]
…あ……そ、そうです、よね。
[うん、と小さく自分を納得させるように一つ頷いて呪いを頂いた手を小さく握って、もう片方の手で包み込んで胸に押し当てる。
ちらりと視線を上げて彼を見たが、その視線はすぐに僅かそらされる]
……本当に伝えたいことがある時…ですね。
………うん…大丈夫、です。
[ゆるりと視線を外へと向けると、あいまいではあるけれど時刻を察することは出来て。
今なお、雨は降っていたけれどそれ故に空気が澄み、香の香りを清かなものにしている気がした]
…随分、眠っていたのかな…。
[頬のあとにそろり触れて、上掛けの衣を丁寧にたたみ、再び手遊び程度に弦を爪弾いて]
おお、それは…
それをどこで手に入れた?誰より私のものと聞き及んだ?
[差し出された笛はいつぞやの行幸で紛失した片割れの笛。
あの後随分と人を探しにやったがついぞ見つからず、しかし家宝でもある為に諦める訳にもいかず]
とまれまずは礼を言おう。探していたのでな。
先程外で笛の音がしたがその方がそれを吹いていたのか?
[くっと嗤い、]
気にならぬ──と言ったら嘘にはなるな。
が、お前の思うような意味ではない。
まあ暫くはこの役目で顔をあわせることも多かろう。
そのうちに此方から尋ねるなり、彼方から訪ねて来ることもあろうさ。
――花山院の邸宅一室――
雨か。難儀よの。筆も走らぬし、折角の紙も濡れてたまらない。
…かような刻は、何者も跋扈するに値する時よな。
[立ち上がり、空を見上げる。西に傾いているだろうか。]
しかして、私のなしたい事をなす好機、でもある。
それは他の者、怪異物の怪にとっても言えることである、のだが。
[水干、動きやすい身なりに着替える。草履を履き、自宅を出た。]
─回想─
[おとこの笑みはやさしく、そして僅かの苦さを湛えて、]
……季久さま。
所詮呪でできることなど、限られております……
私が季久さまのお傍に居ります。
ですから、今はご見識を広くお持ちになられるように、学問に励まれませ──
[そう言って、別れたは数刻前。]
[あるじが喉の奥で笑ったようなので、かるく顔を上げたが
短く、了解した意を返す]
ほかに、主立ったことはありませんが――流れの薬売りらしきものの姿なども目の端を過ぎりました。
諄(くど)いようではありますが、
他のものを喚ぶなり、しばし身の回りには気を配り頂けぬでしょうか。
えぇ、笛の音はわたくしが。
[頷き、狐は語ります。
山の住まいの近くにて、この笛を拾ったこと。
雨凌ぎの庇を借りた屋敷にて、聞こえた事に音を合わせたこと。
その屋敷の若い姫君に、あるじの手がかりを聞いたことなどを。]
姫君は確か…あまねさまと呼ばれておいででした。
[笛の音は六条邸で耳にした。
妖の奏するものと──気付いてはいたが。
それゆえの若宮の守り、だがこれで充分と言えようか。]
案ずるな。用意はしてある。
用心を怠っている心算も無い。
[面倒くさそうに答えたが、ふと真顔になり、]
が──先にも言ったが、おれの守りを破るような相手には、手の打ち様が無い。
勿論負ける心算も無いが、おれはそれほど自惚れては居らぬからな…。
…ですが…。
[僅かに言葉は口の中で飲み込まれる。
少し落ち込むような気配もあったか、けれど柔らかく宥める言葉に無言のままただ、頷いて。
そのまま彼が去れば、ぼんやりとそのまま眠ってしまい、数刻が過ぎる。
侍女が気がついて衣かけるも、少年はもちろん、御簾の中にすら普段と変わらず乱れ一つなく───]
そうか、そういう経緯であったか。
偶に金目当てのたかり者もいるがそなたそのようには見えぬな。
しかし六条邸にも行っていたか。あの姫君、楽の嗜みもおありだったとは初耳よ。大方あの宮様に触発されたか?
その龍笛はなかなかに名の知れた品であってな。官人ならとりあえず知ってはおろう。
さて、届けてもらった礼でもしようか。
折角笛を覚えたのに今それを手放してはさみしかろう。
[人をやり、持ち出させるのは同じ龍笛]
その笛程ではないがこれも名うての匠作った宮中品よ。
おれが相手にせねばならぬのは、ひとりの鬼、ひとつの呪ではない。
この、京のみやこの宿業、そのものだから、な……
[声音こそ強気ではあったが、歪めた唇に漂うのはどこか空しさ含んだいろだった。]
……。
かげゐさま。
わたしは、この都がすきです。
[顔を伏せたまま云うなり、つ、と立った]
……夕餉の支度へ掛かります。
それと、明日にも書を調達して来ましょう。
近々、めずらしいものが届くやも知れぬと聞きました。
――なにかあれば、お喚び下さい。
…此れを、わたくしに?
[差し出された笛を、きょとりと見上げました。]
いえいえ、過ぎた品にございます。
わたくしめなどには、篠の若竹にて拵えた粗末な笛でも十分で。
──ああ。
[立ち上がった式に寂びた声で答え。
また手元の書に目を落とす。
読む内に次第に没頭すると見て、*声も立てずに読み耽る。*]
いい笛は大事に使うものに使われたいであろう。
私にはこれがある故こちらには構ってやれぬ。
[もう一度勧め、再度断られれば無理じいもせずに引き取らせるつもりで]
そういえばまだ名を聞いておらなんだ。名をなんという?
そなたのその銀の色はどのような故あってのものか?
[遠くからこちらを眺める鷹がバサリと羽をはばたかせる。
警戒しているようなその様子にわずか目を細めつつ]
[朝からの失態に関しては有耶無耶に流れたようだが、今度はあるじの気が晴れぬと見ては息を吐く間も無い。
あるじの元を辞し、衣を代え、袖をたすきで括りながら、一度、禍々しき屋敷のほうを*降り仰ぐ。*]
――都の大路のひとつ――
[風が顔をねぶるようにそよいでいく。]
平安の世も百年(ももとせ)、二百年と続いてきたのは、勿論今上の君の善政あってこそだが…外なる力が雌伏の時を続けているからではないだろうか。彼らに興味がないゆえとも考えられる。
そのような者には、どのように立ち向かうのか、或いは交わっていけばよいものやら。
―大殿邸・内部―
[はらり、
椿が落ちた音を聞いたような気がして眼を開けた。
雲が切れたか、山吹色のひかりを見たようにも思う。]
……。
[屋敷は優美な癖にひどく物寂しい。
宛がわれた部屋の柱に凭れて庭を見た。
うなじの傍で翡翠が揺れる。
視線の先、結んだ白いまじない。]
では、此方はお預かりすると言う事にいたしましょう。
[再度勧められ、笛を手に取りました。
先ほどまでの笛とはまた違いますが、此方も此方で良品であるのでしょう。]
わたくしめは、葛木 恒仁と申します。
この毛色は両親より受け継ぎしもの。
故に普段は一族のものと共に、山に隠れ住んで居るのです。
[鋭い視線で鷹が見ていては、幻で誤魔化す事もむずかしく。
正直に答えはしましたが、肝心のところは口にしませんでした。]
あの笛に導かれなければ、
都に降りてくることも、あなた様のような方にお会いする事も無かったのかもしれませんね。
…そうか。葛木と申すか。あの翡翠の男がそなたをキツネと申していたからな。さしずめその銀は狐の尾かとも思ったが
[自身は鷹が騒ぐのをどう取ったか。猫は膝で眠っている。敏感な猫が眠るということは邪ではあるまい、今は]
そうよな。笛の縁とはいえそなたのような面白いものに会えたのは有意義なこと。して、山に住む者よ、今宵いづこに至るつもりか?
[よければここに逗留するか?と意をこめて]
[白藤は不意に身を乗り出し幾つかの印を結んだ。
最後にとん、と床を叩くと
花のようなかおりのしろい風がすっと吹いて、わずかの間澱みが薄れ――だがしかし、それはまたすぐに揺らいで満ちてしまった。]
……及ばずか。
[はらりと白に薄櫻を滲ませたまじないが落ちた。]
参ったねぇ。
[微かに混じったのは苦笑ににたいろ。
白を結び直すために庭へと向かった。]
―とある通り―
ありがとうございました。
では、また要り用の時には、汐の名をお呼び下さい。
[頭を下げてから門から出てくる。
まだ降り止まぬ雨に傘を差し]
ふむ…病は気から、とも言うが。
こうも陽の気が少ないのでは…
白藤の兄さんが言っていた通り、都に広がりつつあるのかも知れぬ。
[左手は傘持ち、右手は顎へ。
考えるは薬のことか、それともこの気の事か。
片や易く、片や答えが出るとは到底思えぬ。
足取りはしっかりしている物の、其の表情は何処か遠くを見ていた]
[申し訳程度に残った眉を見て、後悔する。その少し上に黛で描かれた丸い眉と、交互に見比べて今度は肩を落とす。
若宮様の前にお出になるのだから、と普段のものよりも色鮮やかな表着を用意され]
(……着る物がこれでも、中身は男なんだけどな)
[内心で文句を垂れたが、女房は気にせずに紅を取り出し唇へと塗りつけ、扇を手渡される]
「粗相を為さりませぬ様に」
[背後から一声かけられて、頭だけ頷くと、御簾を出る]
[若宮の居は女房に教えられていたが、あまり出歩くことがなく、庭へと自然に眼は流れ]
ここも、ずいぶんと豪華なんだけれどな。
[違う――。
暫し足を止めて庭を見やる。日は沈みかけていて、池に映る夕暮れと日に照らされた枝振り、雨雲の残る空はやや藤色に光り。より美しい様が目に映った]
[…暫く歩いて居れば雨粒も降ってこなくなり。
ゆるく空を見上げ、天差す光を見ゆる]
ようやっと。雨も上がったか。
[ぽつり。呟いて。
しかし、困ったように]
弱った。
…箱と一緒に背負ぅて良いものか。
傘とは。
[傘を閉じ。視線を落とす。
周りを見ても、箱と一緒に背負っておる者は居ない。
ふむ、小さく息をつき。
結果、手で持ち歩く事になった。
落ち着かぬのか、時折傘に視線を落としつつ]
略してキツネと呼ぶものもおりましょう。
[誤魔化すような笑みは、僅か引きつっていたやもしれません。]
都には知り合いも居らず、身を寄せるところもございません。
雨露を凌ぐ屋根さえあれば、わたくしめは何処に在っても構いはしませんけれども。
用も済みましたし山へ戻ろうとは思いますが…
[ふと思い返すは、あの屋敷。
そして…この目で見たいくつかの…]
なんとなく、気がかりがございます。
唯の予感ではありますが。
…布で充分だったからねぇ。
傘なんぞ買わなくても。
[小さく思う]
…だが。便利なのには変わりない、か。
両手を塞がなくても良い。
濡れるのも少ない。
[雨の中、ぼんやり爪弾いた弦が、湿気のせいか少し狂いを見せたような気がして七弦琴を爪弾いては試し、爪弾いては試し。
琴は、音のあまり大きくない楽器。
雨音に混じれば調弦のための音など消えてもそれほどおかしくはない。
琴と真剣な表情で向き合いながら弦を試せば、少年は周りも見えず、時も忘れ]
……下羽…宮……何か、違うかな…ええと。
[無論、こちらに近づく影にも気づかない]
やはりお祓いの類は、常日頃ぬかるものではないな…
[雨が落ち着いて来た事にはとんと気づいていなかった。
都の事、今後の事をひとりごちながら歩みを進める。
悲観的に物事を捉えていたからか、傘をさしていたかか、こうべを垂れて下ばかりを向いていた。
前から薬師とおぼしき若者がこちらへ向かって来ているのも知らずに。]
[刻を忘れたかのように佇んでいたが、どこに向かっていたのかを思い出し、若宮のいる間へと足を向け]
弦の音がする。
弾いてるわけではなさそうだ。
[音のする方へと歩き、やがて若宮の姿が目に入る。御簾越しに見たときよりも鮮やかに映る姿はやはり儚く映り]
では今宵はここに宿るが良い。
[ひきつる顔は見逃さぬ。しかしまだ口に出して問うことはせぬが]
あまり庶民の話というのも聞かぬでな、面白かろう。
私の笛で培ったというその方の笛の音も聞いてみたい。
お主が気がかりとしているものも詳しく聞きたいしな。
如何か?
[扇で顔を隠し、目だけ覗かせて、調弦の為に琴へ向かうの姿を見つめる]
(生まれが違うだけで、姿までこんなに違うとはね。若君様は男、だったよな。親王なのだから)
[全体的に薄い色素が、綺麗だと、心に留める]
[若宮のいる場所から少し離れて、調弦の為にたてる音を聞いていた]
[どれほどの情熱を琴に対して注いでいるかなど、その様子を見れば誰にでも一目瞭然といったところ。
琥珀の瞳は伏せられ、余計な感覚は閉じて聴覚に主に頼り]
…商…うん、ここは、平気……?
[弦をはじく音に混じっていたの軋む音に気づけば漸くそこで手が止まる。
頬にかかっていた淡い色の髪を、先ほどまで弦をはじいていた指で払いながらその方向を見る]
…弥君、様?
[その姿を視界に捉え、驚いたような表情がありありと浮かぶ]
…さて、如何したものか。
もうそろそろ、飯も…ん?
[傘に落としていた視線。
上げてみれば、未だ傘を差しつ歩いてくる人影。
もう一度天を見やるも、雨雲は見えるものの落ちてくる物は無し。
視線を落とせば距離が縮まっている傘を差す者]
もし。
[避ける気配がないと感じたのか、道の脇へと避け]
天より降る水も無し、道に落ちる銭も無し。
前を向かねば棒に当たりましょう。
[一体どんな者なのか。
一寸興味が湧いたのか、小さく口元をつり上げ声を掛ける]
[気づかれ、驚いた表情をみて目を伏せる]
邪魔を、してしまったようです。
わたくしのことはお気に為さらず、無い者として扱われて構いませぬ。ただ、ここに居ることをお許しになってくだされば。
[腰を落とし柱に寄りかかる]
初めて、若君様にお目にかかり、気に掛かったことがありましたので、こちらまで参ったのです。
もう、過ぎたことですから、その事はどうでもよいのですけれど。
雲の路。遠い青色。一切れの雲は雲なれど、天を覆う雲なれば…
[誰をも寄せ付けぬ勢いがあった。
ふと、声をかけられ意識が目の前に戻る。]
ん?あ、ああ。かたじけない。
そなたは棒…失礼、ではないから避けてくれたのだな。
…いえ、邪魔など。
どうも…ひとりで居ると時を忘れてしまうのです。
よろしければ、こちらへいらっしゃいませんか?
[逆に申し訳ないとばかり、少年は扇に隠れた少女を見て少しだけ手招いてみる]
…気にかかったこと、ですか?
何か、失礼なことでも致しましたでしょうか……。
えぇ、ありがたく。
[雨は上がったとはいえ、未だ草枕には寒いようで。
折角の好意に甘える事にいたしました。]
気がかりとは、先だってのあのお屋敷。
祟りにて人が…と耳に入れましたが。
うまくは言えませんが胸騒ぎがするのです。
胸を突くような嘆きが。悲しみを湛えた視線が。
何故か、このままでは済まぬ…そう思えてならないのです。
わたくしごときに、何か出来る訳ではありませんけれども。
[丁寧な言葉遣いに、一つ目を瞬かせ。
微笑まれれば小さく微笑み返す]
ええ…私も貴方様も痛い目を見ます故。
棒ではないことも確かですが、ね。
[そして、緩く首を傾げて見せる。
禿の髪が揺れ、肩へと掛かった]
何か…悩み事でも?
見れば、銭を拾うような身分の方では…
先ほどの無礼、お詫びいたします。
[そう言うと、ゆっくりと頭を下げる]
ふむ。そうよの。ふふ。
こちらこそ、失礼した。
確かに銭には困ってはおらぬが、目の前のものも見えずに、行く末の事など見ることはできようか。
[頭が柔らかくなった事を感じ、それは告げないものの礼を言う。
また湿った髪が揺れて肩へ掛かるのを好ましいものと思った。]
今宵は何者…か。それが何者かはあずかりしらないが、跋扈しそうだな。そのような事を考えておったのだ。
いいえ、傍に寄れば、わたくしの病が移ってしまうかもしれませぬ。
ここで、十分でございます。
[辞して、その先の問いにはわずかに扇から顔を出し]
御簾の向こうからでは、若君様の面が、よく見えませんでしたので……。
ですから、「過ぎたこと」なのです。
[笑みを浮かべて、若宮を見た]
いいえ、私めには勿体ないお言葉…
行く末、ですか。
[もう一度頭を下げれば。
続く言葉には、ふむ、と小さく]
成る程、彼のお屋敷の、の事でございましょうか…
それとも、羅生門…
どちらにせよ、確かに好ましくはありません…
ですが、残念ながら。私に祓えるのは病だけでございましょう。
[緩く目を伏せ。首を小さく横に振る]
祟りか。私はどうにもそういった呪いの類は好きになれぬが事実は仕方あるまい。都中の陰陽師を召喚せねばなるまいな
[くくっと喉を鳴らすが]
あの羅生門の気配といい、その得体のしれない気配といい、確かに唯事でないのに星は何も示さないのか、それが不思議でならぬ。
とまれ……
[人に茶を出すように言いつけて]
辛気臭い話はここまでに。
一つ、そなたの笛でも聞かせよ。一曲所望する。
[ぱちり、と扇で指示し]
ほう。そなたは病を祓う力があるのか。それは心強い。
万が一私に何かあれば、私邸に案内するゆえ、是非お願いしたい。
どちらにせよ、互いにゆめゆめ気をつけねばならぬな。
[若者はかしこまっているのに、自分は其程そのような姿勢は見せない。それは環境の賜物と言うべきだろう。]
…そう、ですか。
[少しだけ、声は沈み、けれど御簾を隔てない少女の来訪に表情は再び緩む]
面、ですか?そんな…あまり、見てもよいものではありますまい。
…おじいさまにも、母上にも…父上にも、あまり似ていないのです。
髪も、このような色ですし…貴方のような、黒い髪がいいと、ずっと思っていたのです。
[表情に混じるは、はにかみと、少しの悲しみ]
はい…私、薬師をさせて頂いております…
是非。
…否、病にかからないのが良いのでございましょうが。
万一、私が力になれる事があるなれば…
汐、と。名を呼んでくださいますよう…
[目を細め…男に笑む。
頭を下げた後、聞こえた言葉に、くす、と小さく]
薬師が病を患っては、世話無き事ですから、ね。
ええ、お互い…お気を付けくださいませ。
…えぇ、何も起こらねば良いのですが。
[既に外は陽が落ちている事でしょう。]
では、僭越ながら。
譜などの読み方も知りませんから、何と言う曲ではありませんけれども。
[先ほど受け取った笛を構え、そっと口を寄せました。
目を閉じると、庭吹く風に木立の揺れる音が聞こえてまいります。
それに合わせるようにして、緩やかな調べを奏ではじめるのでした。]
汐殿だな。かたじけない。私は花山院師輔と申す。屋敷は三条大橋の方角で…おおよそ検討はつくと思う。
よろしくお願いいたす。
[たおやかに*笑みを見せる*]
綺麗だと、わたくしは思いますけれど。若君様はご自分のお姿はお嫌いですか?
[思ったことは嘘ではなく、上目遣いで若宮を見上げるように]
[下げ渡した笛から奏でられる音に目を細めながらも聞きいって。
それは確かに己の知る曲と少し異なるものであったが]
ふむ…よい音だ。春の風情をよう出している。
笛の良し悪しよりも奏者の腕であろうな。
次の管弦遊びにも出したいものよ。
[やがて猫をなでる手がとまる。宿直の疲れもあったろう。
坐したまま、うつらうつらと眠りに落ちるまでそうはかからないか*]
花山院…師輔様、ですね…承りました。
万一、の場合には…無いことを願っておりまするが。
それでは…私はこれで。
[名を聞けば、小さく笑んで頭を下げる。
顔を上げると、ゆっくりと道を歩き始める。
やがて、角を曲がれば顎に手をやった]
…どうなる事かと思ぅたが。
なんとも優しいお方で良かった。
[ふぅ、小さくつく息。細くなる目。
続いて零すのは銭絡む願い]
私としては。縁のあった方が、嬉しいのですが。ね。
面と向かっては言えるはずもない。
─自邸─
[その夜の食事は、唐渡りの精緻な星辰図を眺めながらの、いつも通りの行儀の悪いものだった。
椀に盛った飯に羹もほぐした干魚も醤を付けた瓜も全部混ぜ、それを面白くも無い顔で掻き込む。
あっという間に平らげて、空の器を下げさせると]
鳶尾。
[呼び声に応え、ふたたび書物の隙間へ。
片付けの途中であったか、上げたままの袖を下ろしながら膝をつく。]
出掛けになられますか。
双子 リックが「時間を進める」を選択しました。
医師 ヴィンセントが「時間を進める」を選択しました。
[若宮の返事にはどう返してよいかわからずに]
そう、ですか。でもわたくしは、若君様の姿は、好ましく思っております。
余り、慰めにはならぬかもしれませんが。
[もともと貴族の出ではない自分に、その社会でどんなものが大事とされているかなどわからなかったし、そんなことはどうでもよかった。それは学がないからだとも言われそうだったが。
確かに、色素の薄さは奇異に写るのかもしれない。それでも、それを悪しき色だとは思えなかった]
[暫しの調べのひとときは、彼の人を夢のふちへといざなってしまったようで。]
『夢ならばせめて、心地よきものを。』
[起こさぬように耳元で、そっと言葉をかけました。
ばさりと羽を立てる鷹に振り向くと、立てた指を口元に当て、しぃと鎮まるよう言い聞かせます。]
月は、出ているでしょうかね?
[格子から見上げた雨上がりの空には、まもなく満ちる月。]
吟遊詩人 コーネリアスが「時間を進める」を選択しました。
見習い看護婦 ニーナが「時間を進める」を選択しました。
[少しの、瞠目。
表情が美味く定まらないのは、どんな顔をしていいかわからないから。
唇が少しだけ、揺れて]
ありがとうございます。
…すみません、お気を使わせてしまいましたね。
[困ったように、少年は微笑む。
けれど、そのあと紡ごうとした言葉が、上手く紡げないのか。
唇がかすかに戦慄いたあと、手で半分顔を隠す]
書生 ハーヴェイが「時間を進める」を選択しました。
学生 ラッセルが「時間を進める」を選択しました。
気を使ったわけではないのです。
なんと、言えばよいのか。
[言葉遣いには気を使っていたが、内容までは気が回らない。けれど、そのようなことを口に出来るはずもなく]
……琴の音を、お聞かせ願えますか?
楽になど余り心動くことはなかったのですが、若君様の音は、心地ようございました。
―大殿邸―
[白い紙を再び結び終えたときには
蒼い朧月がそらに滲んでいた。]
――……
[見上げて眼を細める。
風が翡翠を揺らして、ちりと鳴った。]
春なのにな。
[夜はあやかしたちの時間だ。
燐光のような淡い白い光が大殿の周りを巡るけれど
昼に謂ったように、それはただの場繋ぎだった。]
[彼の屋敷のものに、夜風に当たりたいと言付けて、
月の光に誘われるように庭を歩いて門へと出ました。
中へ入るときに立てかけた傘は既に無く、
代わりに雨に濡れて萎れた、蕗の葉ひとつ。]
…弥君、様。
[かすかな戸惑い、逡巡。
それほど間を置かずして]
…少しだけ、お時間をいただけますか。
まだ、調弦が、終わらないのです。
[困ったように、照れたように、小さく微笑んだ]
[暫く歩いて居ったが、ゆるり、空を見上げ]
さて、飯を食う…にしても。
月さえも出てしまっては遅いにも程がある、か。
…市場に人も居ないだろうし、な。
次はお得意をまわる刻を考えようか。
[息をつく。
視線を下ろすと、手に持っていた傘を見やり。
暫く見つめていたが、箱と共に背負った]
さて…はて。羅生門…か。
一度、其の気を身に感じておくべきか?
あわよくば。陰の気に…惑うた貴族の君に近づける好機かも知れぬ。
[師輔との出会いに味を占めたのか。
危険と知りつつも、其の好奇心と欲は捨てきれず歩み始める…]
流れ者 ギルバートが「時間を進める」を選択しました。
[>>79雨を防ぐことの出来ぬ荒れ果てた羅生門の内側では、また膿んだ鬼がうまれる。
ぬるく澱んだ陰の気が籠る中、不可思議なことに、無我のゆびさきが触れたおとこのこめかみから痛みが消えた。
頬にあごに滑るゆびさきは心地よく、おとこは驚いて眉根を寄せる。
そして、清涼な感覚と共に痛みが消えたのは術なのであろうと思い至った。]
ああ、頭がすうっとする──。
記憶を失って以来、傾き、痛んでいてね。
治らなくとも構いはしない、と思っていたが、すこし楽になった・・。
有り難う。
[礼を云って、無我のゆびにそっと触れて、おのれの顎から離させた。はにかんだような微笑を浮かべ、数珠をそっと持ち上げ、礼の姿勢を取る。
背筋をのばすと、おとこが兄とは異なり、ひょろりとしているのが目立った。]
む……?
[膝の猫がにゃあとなく。気がつけば肘掛けにつっぷし眠っていたらしい。笛を吹いていた銀色はそこにいない。聞けば夜風に当たるという。つと立ち上がり、鷲に向かって声をかける]
のう、先程の銀の男、お前は何を感じた?何やら匂ったようだな?
あの髪の色からしても…人外が化けでもしたか。
しかしあれだけ笛をよくするのなら狐であっても構わぬがな。
悪さをするまで襲うでないぞ?
[餌付けしてやり語りかける]
ああ。
陰の気がうずまいているのに、威勢の良い声だねえ。
…都は、こんなに騒がしい場所ではなかった気がするのだけど。
[おとこは門の下、巻いたはずの迎えのおとこがまだ彼を捜しているその声の響きに、薄い唇の端をちいさく動かした。
何を思ったのか。おとこは再び車に乗り込み、おのれを呼んだはずの兄の屋敷へ向かう事なる。
──出掛けた兄とはすれ違い。]
──羅生門…→花山院の屋敷──
[ぐじりとした春の雨は、何時の間にか止んでいた。]
[式神をちらりと見遣り、ようやっと着替えのために立ち上がる。]
なあ鳶尾。
天変地異は政の乱れが原因…とは古来より言われているが。
天の運行が地に影響を与えるとして、その逆はあると思うか?
時間など。この庭を見ていれば、すぐにでも過ぎましょう。
[扇は口元だけ隠し、その視線は琴から庭へと。既に月が姿を現していて、夕暮れ時よりも神秘的な姿へと移ろいでおり。
水面に映る月をじぃと、見つめる]
この庭を、幼子のように走れたなら、いかほど気が晴れるのでしょう。
若君様のお暗い気持ちも、晴れるとよいのに。
[呪の要であるこの場所から、
災いの波紋のひとつを封じたこの場所から、
おとこは動くつもりはなかった。
少なくとも、この場がもつ限り。
きしみ、ゆれて、ゆがんでいる。
星空は凶兆を示し
尚も空気は澱んでいく。]
……さぁて、いつまでもつだろうなぁ。
[木に凭れて、
花の香りと散り敷かれた椿と薄紅梅の庭に佇む。
月を見上げて、薄笑みはなく、遠くを見る。]
――道々――
汐と言う者か。奥ゆかしい方であったな。
また遅かれ早かれ、出会うこともあろう。
[足取りや腰つき、そして濡れた髪が自然と目を細めさせる。
ややもあって、再び足を寺院の方へ向けた。
兄弟姉妹には元来恵まれていたが、無事に成人した兄弟はごく限られている。
かの場所には知り合いがいるのだ。]
村長 アーノルドが「時間を進める」を選択しました。
[空を見れば、もう雨は上がり。それでも庭先を見れば今宵の偵察は出来ぬだろうと考えて、わずかに憂えた表情が漏れる。
明日はお礼の菓子でも買いに外へ出てみよう、と思ったが、礼になるようなものが、普段の姿で買えるかと問われれば、無理のような気もして]
(この姿で出るのはさすがに。どちらかに頼んで買ってきてもらうか。自分で選ぶのが一番いいんだけどな)
[心で呟いて庭からちらりと若宮の方を見やる]
[幾分集中さえしてしてしまえば作業が早いのか、それともそれほど狂いが少なかったのか。
他の弦の調律を終えたところで耳に届く言葉に少しだけ首をひねってから苦笑する]
…庭を走る、ですか?
…散歩をしていて迷子になることはありますが…走り回るなんて、とても。
したことも、ありませんのに。
[ぴん、と終了の合図とばかりに琴の弦を軽くはじいて]
…陰の気もすごいが…
相も変わらず。地獄の様だ。
[近づくにつれて荒れていく。
そして気と共に漂う死臭。
どちらも眉をひそめる原因となろう]
…おや?
[車が行く先より来るのが見え。
脇に逸れると共に、眉間の皺に指を当てた]
これは…一足。遅かったのかも知れぬ。
……天が地をうつすのに
地が天をうつして居てもなんの不思議がありましょうか。
無論、些事では天は動きますまいが。
[ようよう出立する気になったらしいあるじへ手早く着付けながら応えた。慣れたもので、一息に着付けを終え、離れる]
さて、我々のようなものの動きもすこうしずつ、くるいはじめているのやも知れませぬ。
太刀はお持ちになりますか?
[おとこの礼にも茫とした目であったが、無我は演舞を合わすごとく深く一礼を行う。無我は迎えのおとこの背後を指差し―― 身を反転させておとこの傍に立った]
――羅城門→迎えの車の上へ――
[おとこの乗せた車の上に、ふぅわりと乗り花京院の屋敷へ向かうままに任す。両側を埋める屋敷は、絵物語のようにゆらりゆらりと流れてゆき――雨上がりの道、前方で誰かが身を退けた]
[弦をはじく音が、邸内に響く]
走られたことがないなんて。
[やはり、育ちが違うものだ、と納得する]
体を動かすことがお嫌なら、仕方ないことかもしれませぬ。けれど、そうでないのならば、勿体のうございます。
両の足は、何の為についているのですか。
ただの一度くらい、汗をかくほど走られてもよろしいのに。
…叱られてしまいます。
[少し困ったように笑う]
…そうですね、貴方のおっしゃるとおりだ。
……そんなことがあれば、いつか…。
[仮定の話は、途中でさえぎられる。
その代わり、とばかりに琴の音は次第に響き始める。
言葉を閉ざしたかわりに、音は紡げぬ感情を代弁するものになって生み出される]
太刀か…無いよりはな。
[と、指貫の足を捌いて歩き出し]
まあいい。詰まらん話だ。
人は見たいものをそこに見る。見たくないものは見ない。
[不機嫌そうに呟いて濡れ縁に足を掛け、庭に出ようと。]
[さても今宵は良い月夜で、未だ残る草露に月光はキラキラと輝いておりました。
月の光と夜風に誘われて歩む足元には、雨風に散らされた櫻の花びらが、白く白く散りばめられていたのです。]
…されど、長閑だけではないようで。
[かさりと耳に届いたのは、宵闇に潜む蟲の足音。]
…戻るか。
この先行けども、物乞い、物取り…薬使わぬ骸しかあるまい。
[思った以上に早く根を上げていた。
やれ、近づいてくる車を見て居ったが]
な…に?
[寄っていた皺が消えるほどに。
緩く目が見開くほどに。驚いていた。
車の上にいるのは…確かに、人影。
否、人影と称して良いのかは分からぬ。
其れは闇夜にぽっかり、と輪を浮かばせているようにも見えた]
…なんだ。あれは…
ふむ…入れ違いになりてしもうたか…詮無き事よの。
[ある寺院を訪れたが、芳しい結果は得られず。
私邸に再び戻る*ことにした*]
[ 嗚 呼 ] [ 嗚 呼 ] [ 満 ち て ゆ く ] [ 満 ち て ゆ く ]
Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa...
[ 嗚 呼 ] [ に く い ] [ に く い ] [ に く い ぞ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ]
[仏様ァ][美味い美味い美味い美味い美味い][大丈夫やで一緒死ぬんや][げらげらげら][子も孫も死んだわ][ああああああああああ][皮と骨ばかりやぁ][肉ゥゥゥ]
[ 嗚 呼 ] [ 堕 ち よ 墜 ち よ 退 ち よ ]
[苦しい][助けて][苦しい][ひもじい][苦しい][生きたい][苦しい][殺して][苦しい][許さん][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい][苦しい] [苦しいよォ] [死ね][苦しい][死ね][奪い][死ね][殺し][死ね][鬼となり][死ね][子を喰い][死ね][貪り][死ね][呪う][死ね][呪い][死ね][呪い尽くす][死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね]
星辰はわたくしの預かるところではありませぬが。
[控えていた式が、すいと太刀を運び出る。
受け取って、あるじのあとを追った。
並ぶでもなく、背を見て立ち止まり]
……なにを御覧になられたのか
[生首ぽきりといこうやなァ][奪われ殺されみな死ね][あいつらだけ良い生活しおって――…][救って下されやァ救って下されェェ]
…何?
[軽く夕餉をすまし、気だるそうに書物を読み進めていると表の者よりまた客人が来たという。名前を聞くと思わず顰める両の眉。別に取次など必要ないだろうに何を勿体ぶっているのやら]
かまわん、通せ。
このようなところに。
…よろしくありませんね。
[細いその目はきつくなり、無数の脚もつ蟲を見据えます。
立てた指をすいと引くと、青い狐火がふたつ、みつ。]
誰彼区別なく鬼に喰われ怨霊に内腑を悶えさせ蛆虫の苗床になれ――平穏を赦さぬ平(たいら)を赦さぬ誰彼区別なく腐り死ね][災いを災いを災いを都を覆え禍を黒雲引き攣れ害を――害を]
─左大臣邸─
[近衛中将殿への取次ぎを頼み待ち居る間に、ぽつり一言。]
鳶尾。
先ほどの話だが……
おれとお前の繋がりは、呼び出した者と呼び出されたものであるとして、
それだけとはおれは思うてはいない。
[やがて中将の許しが出たと見て、中へと]
[案内の者に導かれ、現れたおとこの顔は相も変わらず上機嫌とは程遠く、されど口の端に僅かな笑みを浮かべて、慇懃に礼をする。]
このような刻限に訪ね居るご無礼をばお許し下さりませ──
[あまり無礼とは思っていない声音だ。]
お尋ね者 クインジーが「時間を進める」を選択しました。
[あるじの言葉に、何かと問い直す間は無かった。
また星辰に何を見出したのかも問うことは出来ず、
中将の前に出ては礼に倣い、しずかに控える。]
[――月は菜の花のような色]
[月明かりは、車上の人影の顔に菜種油色の影を纏わせている。ゆらり、揺れる車に合わせ衣の袖が靡き空に波紋模様をたなびかす]
[偶然であろうか][道の脇に除いた汐へ茫としたまま顔を向ける]
[車は止まらないので、やがて間近で相手を見る事になった]
修道女 ステラが「時間を進める」を選択しました。
[響く琴の音に目を細める]
わたくしは、この姿では走ることが出来ませぬ。
走れば、女房が飛んでまいるでしょう。
[楽に聴き入り、この音に合わせられる様になるには、どれほど笛を吹かねばならないのだろう、と、弦をはじく指先を見つめた。細く白い指は傷などあるはずもなく]
[訪れたのは既に見知ったその陰陽師とあの赤毛の青年。
嫌みのように丁寧に挨拶する影居を一睨みして]
…そんな心にもないことをいわなくとも良い。
そんな刻限にで歩こうとするお前の神経を恨むことにする。
して、赴きの件とは何か?昼のことか?
[おざなりに席を勧めながらもとりあえず問う。
席の向こう、鳶尾の気配を感じたのか鷲が激しく鳴いた。
あの鳴き声は何かを見つけた時のもの]
…ん?影居殿、お主何かに憑かれもしたか?
[ひゅうと指立てた手を振って、狐火を蟲へと叩きつけます。
ぎちりと軋むような声を上げ、1尺ほどの蟲は此方へと飛び掛ってくるのです。
二つ三つ、叩き散る狐火。
焦げた臭いが立ち昇ったやもしれません。]
―大殿邸・庭先―
[屋敷を見遣り、ひかりを帯びた鳥を放つ。
多少は澱みを緩和できるだろうか。
ざわざわと空気が騒いでいるようであった。]
夜だというに、賑やかなことだ。
[人がいく。あれは魑魅魍魎の類ではない。
開け放したままの門から、通りを見た。
蒼く濡れている。]
[やがて。
車は直ぐ傍を通りすぎようと]
[無我と呼ばれる織。
其の名を知らぬ。其の姿もまた然り]
[月光の下、見えた姿。
陰の気さえ。死臭さえ気にならぬ]
[其の時間は刹那だったのだろう。
しかし、長く感じられるとは此いかに。
確かに、其の何かと。面を向かい合っていた。
闇と相反して白い肌に。
小さく息を呑んだ]
−大殿の屋敷内−
人喰い、か。
[到着の挨拶を済ませ、事の詳細を聞いた。本格的に人喰いというものを調べることになった。
ざっと敷地内を歩いて回ったが、確かに何やら気配がある。血の気配が]
白藤殿もいる事だ、物の怪の類なのやもしれん。ならばこの太刀も役に立つかどうか。
[彼の今までの経験において、物の怪の討伐は希薄である。故に彼にとって物の怪とは未だに胡散臭いものという域を出ない]
…っ。
[手を咬まれて怯んだ隙に、蟲は宵闇の澱みへと逃げ出さんとするようでした。
蟲を追って狐は、人の姿のまま音も無く駆けるのです。
そのうちにたどり着いたのは、人々が羅生門と呼ぶ、うち捨てられた場所でした。]
…まあそのようなことだ。
[打って変わった無愛想な声。
やはり丁寧な口調は一種の諧謔精神によるものらしい。]
おれが憑かれる筈がないだろう。
その鷹が異類の気配を感じてのことなら恐らく…
[と後ろに控える式を見る。]
[あるじの視線に涼しく笑った。]
……然ういえば、
夕ごろ、路であやかしの類と行き逢いました。
きっとそれを嗅ぎ付けたのでしょう。
賢しい鷲です。
[鷲を振り仰ぎ]
……わたくしが居ては落ち着かぬでしょうから、
下がらせて戴きましょう。
[――車の音が かたことり ]
[汐の名を知らぬは同じ事。薬師のいでたちしたおとことの永久(とわ)の一瞬は終わり告げ、時間が再び動き出す]
この屋敷でそんな礼儀臭い口聞かれると寒気がする。
お前が来よう日が私には物忌の日だな。
その鷹はお前も知っている通りだ。人在らざるものに反応する。
…その者、お前の呼び出したものか?
[式神について知らぬではない。ただあまりにも人間臭く、このような所にまで堂々と現れるとは]
私がその手のものを嫌うと知っての嫌がらせか。
来るのは構わんがせいぜいその鷹に襲われないようにな。
[道中。何かの気配を感じたのか、おとこは一度車を止めさせた。
御者兼迎えの男は本当に渋々と云ったようすで、車を止めた。また、おとこが逃げ出すのではないかと疑っている様子だ。]
わたしが出家したには、それなりの理由があったはずだからね。
それすらも、あまり覚えていないのだが。確かに、わたしは都へもどりたくなかったのだ。
・・…──だが
[兄の文にしたためられた怪異のつれづれと、この無我を作り出した術師がすでに居らぬことの符合。
恐怖とも云えぬ、言葉で云い表しがたい、底知れぬものに都が覆われんとしていることをおとこも感じていたのだ。
「だが」と云ったところで、御者に対して口をつぐみ、おとこは、簾の外へ顔を突き出した。
車蓋の上の無我を一度見上げ、菜の花に似た淡い光彩に一度、ほうと息をつく。それから、御者がすぐに止まらなかった所為で、少し離れてしまった汐に顔を向けたのだった。
おとこは、汐の姿が明瞭に見えているわけではないだろうが。
──暗い目を細めた。]
[戦場とは違う、その臭気に近い気配を感じながら]
しかし遅くなってしまった。一度出直すのもいいやもしれぬ。
[そう呟きながら庭先から門へと移動していく]
[牛車の前をすばやくすり抜ける銀の姿を、御者や供の者は気にも咎めなかったでしょう。
左手は一瞬だけ鋭い爪の獣のものとなり、逃げる蟲を押さえ込んで握り潰しました。
ぎちりと蟲は一声呻き、そのまま動かなくなったようで。]
――っ…あ…
[既に車は通りすぎている。
荒い呼吸。
一瞬の出来事。しかし、永久に感じた一瞬。
ゆっくりと顔を上げればあの顔は未だ此方を向いていた]
あれ…いや、あの方は、一体…?
[確かに人の形であった者。
彼の者に何を覚えたか。其れは薬師にもよくは分からない]
…いかん…ね。
[ゆるり、と首を横に振り。
平常を装おうとするも。止まった車に一つ瞬きをした。
そして、中から出てきた男にも…]
[箱を抱えた薬師の足元から、わき上がっていたのは犬の首。
ふさふさとした毛並みが、肩口に至るあたりで無惨に千切れた。]
[どろり] [ほとんど黒に近い粘り気のあるあかが、路を染める。]
−大殿の屋敷・庭−
あれは。
[先に白藤殿を見かける。少しばかり気になる事もあったが、僅かに考えた後寄りて話しかける事にした]
このような宵に何をされているのかな。
中将どのも、影居さまの冗談をあまり間に受けられませんよう。
[音もなく一歩下がり、立ってはまた礼をした]
それでは鷹へつつかれる前に失礼致します。
影居さま、何かあれば”喚びつけ”下さい。
場へ水指したこと、お許し下さいませ――
[おもてを上げ、心持ち足早にその場を離れる]
…全く。夜はこのようなものが多くて、宜しくない。
[衣の袂で汚れた手を拭い、血滲む傷口をぺろりと舐めました。
そこではたと気がつくのです。誰かに見られたやもしれないと。
山とは違い、都では人目を気にする必要がありました。]
[赤毛の青年が場を辞そうとするを見て]
冗談か。冗談を冗談としてせぬのがそなたの主人。まぁ今はどうでもよいことだ。お前も供の役目大義だったな。休むなりなんなり。ゆるりとせよ。
次は物の怪の匂いはまとわぬことだ。鷹もそなたを餌と見誤ってしまう。
[去る姿を見送って。影居と二人となれば要件から話始めるだろう*]
・・あの者の足元が、くらい。
[無我を見上げ、また顔を汐に向け直す。
おとこはゆるやかに頭を振ると、手元の数珠から水晶をひとつ抜き取り、汐のすぐ後ろを狙って投げた。まるで、汐の後ろに何かがいるかのように。]
[ひゅう]
[水晶は汐の元へ届く前に、透明から朱赤に変じた。]
私の、見間違いや…気のせい、では無い。らしい…
[確かに、車の中にいた者は車の上にいた者を見た。
そして、此方を見ている]
一体…どちらの家の出なのだろう。
[此方を伺って居る様で。動かぬ様に思えたのか。
箱を背負い直すと、ゆっくりと。一歩ずつ車の方へと近づく。
…その視線に気が行き過ぎて、他の気配に気付くことはなく]
富樫様こそ夜更けに何を?
[と、薄笑みで尋ねる。]
おれは、呪の番と――それに、月が綺麗でして。
[月を見上げる。]
愛でるのも悪くないと思いましてな。
[とぽぉんん]
[ゆったりと水がはじける音が響き、 臨月のおんなのはらのごとく おおきな赤い球が 汐のすぐうしろで弾け 闇に溶け消えた。]
呪いの番、とは?
いや申し訳ない。某、陰陽や物の怪というものに疎いものでな。
しかし、月は綺麗に出ているものだ。この屋敷全体からかもし出されている気配とは別の世にある物のようだ。
[その水晶が狙ったのは、路地に立つ薬師か、門より這い出る魍魎か。
それとも微かに血の臭いをさせた己の事だったのかもしれません。
軽く飛びすさって、彼らの様子を眺めました。]
[怨ぉおおおおん] [ おん ] [怨]
[怨][怨][怨]
[あかい玉と共に汐の後ろで弾けた それは犬の鳴き声だった。]
…っ。
[背後より聞こえし水音。
先ほどまで車が走っていた道。
何も聞こえるはずはなく。
目を見開き後ろを振り向くも。
在るのは羅生門と道。漂う陰の気に月明かり]
…
[ゆっくりと前を向く薬師には気付いていなかった…
手から離れし水晶。赤へと変わる水晶。
そして。足下に居た闇に]
貴方は。一体…?
[呟く様に。其の声はとてもか細い物]
[汐の背後に何かが身を潜めていたのだろうか]
[月下、水晶に浮かび上がった色は闇と相俟り鉄錆をしており、赤い球は井戸の中へ物落ちたように夜のしじまに反響した。
奈落へ落ち込むように――闇に消え去る]
まぁ、それが一般ですな。
むしろ此方のほうが特殊だ。
どうぞお気になさいますな。
この屋敷にかかった四辻の呪いを封じているのです。
封じているだけで、祓えるわけではないのですが。
[眼を細める。翡翠が月光に揺れた。]
ほんとうに。
実に血なまぐさいそれとは、別のようだ。
だがこうも謂います、月はこころをくるわせる、と。
[冗談めかした語り口調だった。]
神々しい姿と、どちらが本当なのでしょうな。
成る程、詳しくは分からぬが、この屋敷には呪いがかけられているのか。
払うではなく封じる、とはいわば緩和のようなものか。
月が心を狂わせるのは、きっとかの月が女性的だからではないかな。ならば月下の男は皆狂わされてしまうだろうな。
そういうことになりますな。
少々、否、かなりやっかいですが。
[緩和、と謂われたなら頷き、
月の話には顎に手をやりちいさく笑んで]
女性か。届かぬ月に思いを馳せる、
高嶺の花に手を伸ばす心地でしょうかな。
それはおそろしい、おれも富樫さまも狂ってしまう。
[汐の足元には、夜闇の中では常人には識別出来ぬほどの、限りなく黒に近いあかがあったはずだ。
そして、かすかに獣──のにおいが、水音が弾けた辺りから漂い──風にまぎれて消え失せる。]
[おとこに、汐の声が届いたのかどうか。]
・・・都は、やはり騒がしいのだなあ…
今、そこに犬が《見えた》。
[汐のうしろを指差す。
うしろの野犬は見えていたが、汐の姿が確認しがたいのか、暗い目は細めたまま僅かに眉をしかめながら。]
わたしは、名も無い法師なのだが─…・・ね。
[左大臣の屋敷より出て、月を見上げる。]
おおこわい。
[軽く云った。
ほんとうに賢しい鷹だと思う。
あしきものが入り込めば、きっと追い払うだろう。
中将どのが、笛のことで目を眩ませなければだが。
ここで控えているのもそれらしいが、目下出向きたい場所はふたつ。風も不吉に血のにおい孕むような気がして、鼻を鳴らした。]
……嗚呼
恒仁は、においを嗅いでいたのか。
――そうですな。そうなりますな。
誰が何のためなどはわかりませんが。
見えぬ怪異より、
情念のほうが余程おそろしいという。
のろう思いが、ひとを殺すこともありますからな。
[わずかに眼を伏せる。]
呪うという事が人の死を呼ぶのは納得する。ただ呪い自体が人の命を奪うと言うのはいささか信じ難いものだ。
・・・否、白藤殿の力を信じていないわけではない。気を害したのであれば申し訳ない。
ふっ、狂うか。
欲望に身をゆだねるのも時には必要やもしれぬがな。
[今一度、唾を飲む。
背負った箱と肌の間が湿っている。
すぅ、と風が撫でれば更に身体の熱を奪っていく]
犬、が?
[足下に残る赤も。居たという犬も。
見えなかった薬師にはその方を見やっても何も分かるはずもなく。
ただ、その場に立っているのが何処か気味悪く感じたのか、眉をひそめ車の方へと歩み寄る。
今度の足取りは先ほど寄りかは軽い]
…私めには、よく分からないのですが…
恐らく。助けて頂いた、のでしょう。
ありがとう、ございます。
[車にある程度近づけば頭を下げ。
顔を上げれば、簾より顔を出していた男を見る]
私の名前は、汐…と、言います。
薬師、を。しているのですが…名がない、とは…?
[羅生門の様子をみたい。
たとえば星の動くほどの事が起ころうとしているのならば、導かれるものもあるかも知れない。しかし、徒歩でゆくには少し遠すぎる。
件の邸へも出向きたいが、あすこへは白藤が居座っている筈だから暫くは置いても良いのではないか。
左大臣邸の塀へ寄って立ち、しんしんと輝く星を*見た。*]
よいですよ、慣れております。
[ひらり、手を振ってわらう。
その後、ふと視線を外し、落ちた椿を流し見て]
信じがたくとも、事実あったことですからな。
業が深い――深いものだ。
[少しばかり低い響き。
続いた言葉には表情を常のものに戻して]
おや、生真面目な方であるかと思いきや仰りますな。
そう思うことがおありですかな?
・・・その言葉を聞き、白藤殿の陰陽は信じても良いと思うた。何かあればまた相談させて頂きたい。
生真面目などと言われたのは初めてだ。
某とて人並みの欲はある。都で仕える間は何かと窮屈ではあるがな。
さて、某は一度出直そうと考えているので、また色々話をしてもらいたい。
ええ、おれでよければ。
[笑みを浮かべて。]
おや、初めてですかな?
おれから見れば、とても生真面目な武士さまだと
そう思いましたよ。
都が窮屈か、それはそうでしょうな。
伝統やらしきたりやらが蔓延っておりますから。
ふ、そういう言葉はどこか身近に感じますな―――。
[出直すと聞けば頷いて]
然様ですか。
わかりました、話であれば幾らでも。
[汐が歩み寄ってくることに気付いたおとこは、何処か困ったように艶の無い髪を掻いた。
咄嗟に見たままを口にしたが、首だけしかない犬の話を唐突に往来で見ず知らずの相手にするというのも如何なものか。もごもごと口ごもる。]
ああ。封じる事が出来たたわけではないよ。
犬は何処かへ行った・・・
おそらく、あなたではない、他の誰かが何処かで殺されるのではないかな。
だから、助けたというほどのことはしていない。
…汐どの。
[記憶が無い事もまた、どう説明したら良いものか。
無我と話す(と云って良いのか)ことは、困難には感じなかったのだが。また、兄の送った迎えの者は目的がはっきりしていた所為で気にならなかったのだが。おとこは久しぶりにまともな都人と話す事が、慣れないらしい。
ひそかに簾を指先で突つき、無理矢理車を止めさせた事で、おとこを不審そうににらんでいる御者と、目が合う羽目になる。]
いや、名が本当に無いわけではなく…
ああ。花山院の── 法師と名乗ればよいのか。
[何かあったら、その屋敷を訪ねてくれとおとこは云った。
都を覆わんとする怪異に、この薬師も、おのれも、深く関わる事になるとは、その時、おとこが気付くはずも*無かったのだった*。]
[頭を掻く法師の言葉に、先ほどまでは行かないが眉をひそめ]
何処かへ…左様ですか…
ああ、しかし。私の命が助かったのには変わり在りませんから。
[少し考えて居った物の、眉の皺を戻し法師に言う。
何処か、話しにくそうにしている様子に疑問に思っていた様であったが。
其の疑問も家の名を聞けば何処かへと行ってしまった]
花山…院…?
[何という奇妙な縁か。
雨上がりの時に出会った貴族の家の名であった。
呆然と、車が道を行くのを見ていることしか出来ず…]
花山院…
師輔様に、あの法師様に…車の上に居った誰か。
[なんと、花山院に縁のある日なのか…
これもまた白藤の言っていた呪いと言う物なのだろうか?]
[烏帽子も冠も被らない。
落ちかかる前髪をかきあげた。
いまはだれもいない。
俯いた顔は憂い含み。
瞑目する。
遠くで車が土を削る音が聞こえる。
踵を返し、屋敷へ戻った。
宛がわれた部屋で、*眠りにつくつもりである*]
[暫くは琴の音を聴いていたが、女房が夕餉の時刻だとやって来てその場を離れた]
それでは、また。
[同じ邸内にいるのに、変な挨拶だとも思うたが、余り気の利いた事も言えずに、その場を辞して]
―橘邸―
[一陣の風となって戻ったのち、客人にと用意された部屋で寝床に身を丸めた。]
…かくも不思議な。
いや、恐ろしいというものだろうか?
[宵闇に隠れるようにしてかいま見た、あの車に居たものと路傍の薬売りを思い起こす。
虫に咬まれた傷口は塞がらず、ちろりと舌を出して滲む血を舐めとるのでした。
寝乱れれば三本の見事な狐尾を誰かに見られてしまうかもしれない。
そんなことを失念したまま、いつしか夢の中をたゆたうのでした。]
[結局のところその日は外には出ずに、御簾を上げて空を見ながら晩を過ごした。
やってきた義父が珍しいことよ、と口にしながらも上機嫌であったので、餅の礼のことを口にすると、少しばかりの銭を投げて]
「お主とちごうて食い物では満足せぬかも知れぬぞ」
[笑みを浮かべながら言われたが、では何を贈ればいいのかと悩み]
「弥よ、我等が礼に則って礼などせずとも良い。おぬしにはおぬしの生き方があろうよ。人様から物を盗むおぬしが、物を貰い、礼を気にするとは、どういう風の吹き回しかの?」
それはそうだが、おれが盗むのは生きる為だ。
厚意で餅を貰ったから、礼をする、それはどの社会でも変わらない。
市井とここでは、余りに生活が違いすぎて、忘れそうになるんだけど、な。
[寝所へと入れば、義父が付いてきたので、今日は一人で横になりたいのだ、と追い返して眠りへつく]
食べ物では満足しない、かぁ。
……ああ。弦ならばどうだろう。
[まどろみながら思い、やがて*夢へと引き込まれていった*]
[食事の頃を告げる声に、少女は下がっていき、自分もまた食事をとる。
箸を取る手は左手。
右を琴の手と決めたときから慣れるまで随分かかったがいまでは難しく思うことも特にはない]
……。
[じっと右の手を見下ろせば琴を爪弾くために、少しだけ爪は長い]
…影秀は、どちらに?
[食事を済ませた膳を下げてゆく侍従に尋ねれば、まだ戻らぬという。
戻れば頼みごとをしたいから顔を見せるように伝言を頼んで]
…明日は内裏へ参ると、お祖父様にはそのように伝えてくれるかな。
[もうひとつ伝言を頼んで、今日は早めに*眠ることにした*]
[暗闇の中、褥の中。
少しだけまだ残る、彼の人の香り]
………会いたい、のに。
[今日、会ったばかりなのに、それでも足りないとばかり、小さく呟いて。
呪を残す右の手、小さく*握りしめて―――*]
[無我は汐が近づいてくる間も 鉄錆のような赤い色した球が吸い込まれた辺りを見ていた]
[獣の臭(にお)い――びゅうと羅生門からの血腥い風に霧散した 闇の中京に寄せられた怨の念はそこかしこで凝結し異形を齎しているの か]
[―――ぽた]
[一滴の降り遅れた雨が道に落ちる]
[雨雲黒雲消えさりとて 京にしみつくかぐろい空気を移動させる訳なく]
「私の名前は、汐…と、言います。」
[声に面を薬師へ向けるも 数刻後 車が止まる前と同じ構図で汐を見送る事になった――]
[幼い頃、まだややこと言うてもよい頃のこと。母と二人招かれた屋敷は見事な庭を構えていて、それは幼心に目に焼き付いた]
[母は一人であった。親はいたらしいが、飢饉の際に病に臥、亡くなったのだと聞いている。化粧するわけでもなく、ただ毎日畑と向かい、そんな日に父と出会ったのだという。
雨と風の強い日で、大樹の傍にあった家はそれを凌ぐには十分で、一晩宿を貸したそうだ。
母は子を産み、その子は父となったその男がつけたのだという。
5つになる頃、そこへ招かれた。ただ二晩、そこへと泊まり、6つになる頃には父は来なくなった。
10になる頃、母も倒れ、自分は盗みを働くようになり]
[それ程昔ではない頃、京へと来た]
おれはただ、父に会いたいだけなのだ。
それでも、庭は形を変える。記憶に残る庭はもうないのかもしれぬ。
すでに亡くなっているのかもしれぬ。
ただ、血が求めているだけなのかも、しれぬと。
[ふるり]
[寒さに震えて目を覚ませば、まだ日が昇る前で]
ああ、寒い。
でも、今の内に出てみようか。日が昇れば人の目もある。
[朝餉は恋しかったが、急ぎ着物を着替え、白粉を落とし、眉墨で鏡を見ながら眉を描き]
失敗した。
だから、厭だったのだ。
[何度か書き直して、ようやく納得できるものなると、寝所を抜け出した]
──花山院の屋敷──
[おとこを中に、車蓋の上に識神をのせた車は、朱雀大路を抜け、三条、花山院の屋敷にたどり着く。
迎え人は、ようやくおのが仕事を終えられたと、安堵したと云う。かわりに、久方ぶりの弟君のもどりに、花山院の屋敷は騒然となった。
それも無理の無いこと。
──まずそもそも、弟を呼び寄せた師輔は兎も角、屋敷の者たちが、おとこを歓迎するはずも無い。
おとこは出家後、都を落ち田舎へ下った者。
──この家の者にとっては、《無き者》同様──
しかも、花山院の家の者から見れば、襤褸と云っても差し支えの無い法衣にあかくろの沁みを付けて現れたとあっては。迎え人が、おとこが一度都についてから、はばかりに行くと云って逃げ出し、羅生門で見つかったと云えば、祓いをせねば屋敷に入れる事は出来ぬと大騒ぎ。
おとこを乗せてきた車の上には、何か──無我が乗っていた、と云えば、更に女房から悲鳴があがる。
間の悪い事に、花山院 師輔は入れ違いに出掛けてしまったと云う。]
[そして、騒ぎの結末として]
「あなたさまは、お祓いが済むまで屋敷に入れるわけにはまいりません。」
「陰陽師を呼んで参ります故、祓いが済むまでそこでお待ちくださいますよう。」
[たとえ、師輔が戻った時に叱りを受ける事になろうとも、それが屋敷の者たちの総意であると云う。その様ないきさつで、おとこは衣を剥がれ、御祓の水を掛けられ、裏庭で待たされることになった。
屋敷の者たちが何処の陰陽師を呼びに行ったのやらは定かではない。]
[くだんの大殿のさくら古木の屋敷とまた異なり、花山院の屋敷もなかなかに趣のある庭であった。
久方ぶりに屋敷にもどったおとこは、送られた文のたっぷりと墨を含んだ肉厚の筆跡と、その庭の持ち主は、なるほど同じ人物なのだろうと、感性の一致に得心したのだった。]
わたしは、風雅な兄を持っているらしい。
とは云え、大人になってからの兄の顔を思い出そうとすると、霞が掛かったかのように思い出せないのだよなあ。
[呟くおとこは、薄い身体に白い着物一枚の姿。
さわぎの渦中の人物にしては、どこか飄々としてつかみ所の無い態度で庭を眺めているのだった。]
[無我を見た。]
血が真に近しい者はどうやら数少ないようなのだけど、記憶のあった頃のわたしは、果たして、この庭の持ち主をどう思うていたのだろうねえ。
恨んでいた。
畏れていた。
慕うていた。
──すべて霞の彼方に。
わたしは目も暗く、うすらぼんやりとしているが・・・実は兄に相見えることが恐ろしい。
と、このような話は、識の無我には面白くないだろうか。
何処かへ行くかい?
[おとこは、しずむ事があるのか、夜闇に溶けた庭にまた*視線を戻す*。]
[ひとまずは羅生門へ向かって歩いてみるだけ歩いてみようと、大路へ出た。
夜の空気は酷くからみつくような心地がした。
通りは静かであったが、あやしき行列の賑やかして通ったあとのような静けさだった。]
[嗚呼 それは空を切り裂く女の悲鳴 女の恐慌]
[騒然 騒然 静寂はなく 烏合の衆は屠殺される前の鶏のように喚き立てる]
[喚(おらぶ)喚(おらぶ)喚(おらぶ)]
[ややあり静寂がおとこの周辺に戻ったのは裏庭について後の事]
[深いどろりとした羅生門辺のような空気もこの界隈には未だ押し寄せる事はなく 庭には見事に枝を張った松の大樹が邸を守るように生えていた 青々とした針のような葉の先端を撫で無我はおとこに寄り添う]
「恨んでいた。」
「畏れていた。」
「慕うていた。」
[茫とした態の識神はおとこの声を聞き おとこからは見えず触れぬ喪われた記憶に――松の葉の先端をまた手でいらうた]
「と、このような話は、識の無我には面白くないだろうか。」
[首を左右にゆっくりと振る]
「何処かへ行くかい?」
[おとこの声音は、優しく――無我はきたるべき花京院師輔とおとこの邂逅を邪魔せぬためのように、ふわりと邸の塀へ]
[真黒な空を過った白いものを振り仰ぎ
――夜に鳥の飛ぶものか
すわ誰ぞの放った呪の類かと、刀へ手を掛け
降り立ったものへ対峙した。
夜目の利かぬではないが、そのものの色白き故か、茫としてかおつきは知れぬ]
[攻撃を意図する意思もなく それよりか意思と呼べるものすらなく その識神は世の理を撫でながら足の関節をやや曲げていたのから立ち上がり 流麗な動作で刀に手をかけたものへ体を向けた]
[攻撃を意図する意思もなく それよりか意思と呼べるものすら感じられず その識神は世の理を撫でながら足の関節をやや曲げていたのから立ち上がり 流れる動作で刀に手をかけたものへ向いた]
――口を利くことが出来ないのか
[押し黙っている所為で一層あやしくも見え、
あやしき色は美しいように思ったが、
ひとが見ればやはりあやしいと云うのではないだろうか]
誰の遣いとも申せぬならば、
そのこころに邪なるところありと見做すが――
[白きものが逃れゆこうとするかに見えて
一歩、二歩と踏み出し太刀を薙いだ]
―大殿邸―
[夜の都、騒がしいのはあやかしだけではないらしい。
閉じていた眼を薄く開き
うたかたのように浮かび上がった。]
……にぎやかだねぇ。
[解いていた髪を、
翡翠飾りの紐で縛る手つきも手慣れたもので]
祓う、祓わないは
ここだけの騒ぎじゃあないとはいえな。
[纏った衣はやはり白。]
[そう言って振り向いたときには、あたりに影もなく
言わんとしていたことも分からず、
ただ、白いものがときどきあたりを過るような気がしておとこは何度か、無意味に虚空を*振り仰いだ。*]
[影居らが参った翌日のこと。結局遅くなっても帰るという彼らの意見を尊重し、引き止めることはなく。目覚めた後、手水を使いながら、屋敷の周りを巡回させていたものの報告を聞く]
何?羅生門のあたりで?そして件の大殿の屋敷は如何だった?
[下官がいうには数名の人間が、渦中の場に在してたという。しかし下官らにもことの詳細はわかるまい]
…あいわかった。では今宵は羅生門へと参るか。
日が高いうちでは見えるものも見えまい。きっと見知っている者もそこにいようしな。大殿の件で何か関係があるかも知れない。
とりあえずあの月白(とき)をつれてゆけばよいだろう。
[鷹の名は月白(とき)という。夜にはまたそちらに参れるよう、支度をいいつけて*]
―大殿邸―
[騒いでいたのは使いのもの。
花山院で、陰陽師を探しているとのことだった。]
……流れのおれでもいいと?
随分と急ぎとみえる、が。
[月に濡れてしろく浮かぶ櫻を流し見て]
近かったからかねぇ。
[はなびらはらはら、
落ちる白の間をすりぬける鳥の式。
白藤はしばし屋敷のものと話していたようだが、どうやら少しの間ということで、向かうこととしたようだ。]
影居辺りがいたら笑うがねぇ。
[等と笑いつつ、準備を整えた。*]
[雨の上がった後の大路というものは、やはりややぬかるんでいて。履いた草履はすぐに役立たずとなり]
下駄履いて来ればよかったか。でも、履き慣れないのは走り辛いからなぁ。
[まだ明けぬ空を眺め、闇の中を一人歩く。向かうのは九条殿で]
[やがてたどり着くと、ぐるりと一回りして西の門の前で足を止める]
でっかい屋敷だからなぁ。
見張りとかいそうだよなぁ。ま、中を見るだけでも。
[辺りを見回し、何の気配もないことを確かめてから跳躍し]
[からり、とわずかに音を立てて塀の上に足をつける]
[その目に映る庭は、やはり記憶とは違うもので。ここも違う、と舌打ちをひとつ]
ここで捕まったら、まずい、よな。
[それでも足は邸内へと降りて、足音を立てぬようにそろりと庭のほうへ行き]
(やっぱり、違うな。考えたら、こんなに立派な家のはずがないし)
[またその足で塀を越えて、小路へと降り立つ]
──花山院の屋敷──
松の色は、常磐だね。
この庭が、わたしの記憶に無い、今の兄のものではなく、父上のものだった頃と同じ色をしている。
[無我が行く前に、識神のしろいゆびに刺さった松葉を眺めて、おとこは薄く微笑んだ。]
[ふわりと音も無く、識神が去っていったのち──おとこはぽつりと呟くのだった。]
幼い頃に、内裏向こうの松林で女官が鬼に攫われ食われた話を聞いた時、この庭の松が不気味なものに思えて、泣いたことはおぼえている。
・・・その時、兄上は何をおっしゃられたのだったかな。
[おとこの声は、静かであまり響かない。]
「《穢れ》までは申すまい──けれども」
「はやく、殿(師輔)にお戻りなってほしいものです」
「あのお方も出家なさる前は…」
[屋敷の者たちは遠巻きに、おとこを眺めている。ひそめた声はおとこの居る場所にも届くか届かぬか。]
[陰陽師を呼びに行った者が、くだんの屋敷──白藤の居る場所へ向かったのは、陰陽寮へ向かうよりも、屋敷が花山院から近く、かつ、法師、陰陽師、他、呪を払う類いの者が大勢、入れ替わり立ち替わりその場所に居る事を知っていた所為だろうか。
北の方が出て行って以来、その屋敷の事は都中でひそかに噂になっていたやもしれない。
また、花山院邸のものたちは、はやく祓いを済ませてしまいたかったのだろう。それもまた何かの*予兆であったのかもしれない*。]
−九条殿→?−
[昨日の晩に忍び込んだ邸はどうなっただろう、と足を向ける。足取りは緩やかに、特に急ぐわけでもなく]
陰陽師がいるとか何とか言ってたっけか。
そんなのが出張ってくるんじゃ、物の怪だの鬼だのの仕業なのかねぇ。
[見上げる空にはまだ月があり]
−六条邸−
[付近の様子を見回った後に六条邸に戻る]
若宮様はおられるか?富樫影秀が戻ったとお伝え願いたい。
[若宮様のご休憩を邪魔する事無く、そして自身も夜通しの活動に僅かな休息を与えるため邸内で体を休める事にした]
……このような刻限に、
童?
[静かな路に、何処からかわかい声がしたようであたりを見回した。またもあやかしの類であったとすれば、今日は本当によく、わけの分からないものに逢う日である]
[九条の路をまっすぐに歩き、朱雀大路へと出る。左を向けば羅生門が聳えて、どこか禍々しい雰囲気を放っており]
夜に近づく場所じゃないよなぁ。
地獄への入り口だとか言う噂も聞いたっけ。
[ぼそりと呟き、方向を変えて北へと]
[おとこから見れば羅生門の方角から、大路を北へのぼってくる小さな影が闇の中にあらわれる]
何処ぞのわらし……
いや。お前はたしか
[歩を進めると、暗がりの中に人影を見つける。誰であろうと目を凝らし、赤毛の男を認めて]
(役人かと思ったが、違うな……。それどころか、気配が違うような)
[気にはしないように大路の端を歩き、その者に気づかない振りをする]
[声が耳に入り、その者を見やる。声が聞こえれば気づかないわけには行かぬと腹をくくり。羽織った水干は簡素なものを選んできたので、庶民の子と思われれば幸いだった]
こんな夜更けにどうされたのですか?
いや、夜更けというよりももう朝のうちなのかもしれませぬが。
……それは私の台詞だ。
わたしは勤めの途中にあるが、夜も明けぬこのような刻限に何をしている?
夜盗や、あやかしの類も出るやも知れんぞ。
親はどうした。
親……。そんなものはおりませぬ。
(勤め? 何の勤めだ? やはり、役人か?)
定宿もあるわけではないので野宿をしていたのですが、獣の声がうるさく、そこを出てきたところです。
[にこり]
ああ、あれは。あやかしの声だったのかもしれませぬ。
[振り返り、羅生門を見上げ]
そうか。
悪いことを訊ねた。
[すこし目を伏せた]
……あやかしの声と思えばあやかし、獣と思えば獣であろうよ。
昨今、あまり治安が良いとは言えぬ。
野宿をするのなら、場所を選べ……羅生門と、さる大殿の屋敷のそばへはゆかぬほうが良い。
[目を伏せたまま、顎へ手を添えた]
……ところでお前、何処ぞで私と会ったことは無いか?
親がおらぬ事にはもう慣れてしまいました。
[視線を戻し、目の前の男を見上げ]
大殿のお邸、でございますか。余り京に詳しくなく、それがどちらにあるのか。
ですが、そうですね、そのような邸には近づかぬよういたします。
ただ、羅生門は、通ってきた道ゆえ、また通るかもしれませぬが……昼間に通ることといたしましょう。
(会った? どこでだ? それともこの男の見間違いか)
さて。自分には貴方様を見たことなど……。ない様に思われます。
[視線を巡らせて、思い出すように。けれど、記憶にはなく]
嗚呼、ひるのうちに通るが良い。
そうだな、あれは……たしか……
[おとこもやはり記憶が遠いようで、伏せたままの目をしばしさ迷わせた]
嗚呼。
逢ったわけではないな。
遠目にだったのだがな、わたしが見たちいさな夜盗だ。
何分、夜のこと。顔はおぼろげにだがな
雰囲気はたしかにお前のものだったよ。
[夜盗と聞きわずかに眉間が寄り]
夜盗、ですか。
人違いでございましょう。それか、宿を探していたときなのかもしれませぬ。
この京で、自分のような童が暮らしていくのは難しく、どこぞより掠め取らねば生きてはいけぬもの。
自分がそうだ、とは申しませぬけれど。
(見られていた、か? 月を背にして動いていたつもりだったのに)
そうか。
[目をあげ]
夜目は利くほうなのだがね。
というより、雰囲気でひとをたがえたことは無いが、最近はどうも調子がおかしいようだから、思い違いということもあるかも知れん。
月に、染め抜いたような影だったのだよ。
[人ではないのかも知れぬ、と目の前の男を見る]
さあて。貴方様の調子が悪かったのか、真に自分であったのかわかりませぬが。
勤めの途中であるのでしょう、私も朝までの宿を探す身、失礼させていただきます。
[恭しく頭を下げて、その場を去ろうと歩き始めた]
嗚呼。
このようなところへ引き止めて悪かった。
よい宿に巡り合うてくれ。
[すこし笑って、童とは反対に羅生門へ向かっておともなく歩き出した。
振り返りもせず、]
別に捕らえようというつもりは無いのだ。
童をひとり捕らえたところで、影居さまは喜ばれないだろう。
それに、わたし自身、懸命に生きようとしているものを捕らえるつもりも毛頭ない……。
[暫く歩き、七条の通りを今度は左へと曲がる。
去り際に聞こえた言葉が気にかかったが、ひとまず息をつくために腰を下ろした]
(影居さま、か。聞いた名前だ。どこでだったか……)
[空を見上げ、*長く、息を吐く*]
―大殿邸→花山院邸―
[衣服を整えて、門から出る。ひやり、風が吹いた。]
……うん、まぁ、すぐか。
[黒く夜に浮かび上がる屋敷を振り仰ぎ、眼を細めた。
はたり、と白い式が応えるようにはばたいた。
月が落とす影を踏みながら行く。
白の衣は蒼を帯びて見えた。]
――…‥→大殿邸――
[白藤という陰陽師と入れ替わりに、以前この邸に現れた時のように、無我は櫻の古木の傍に現れた。睫なき目蓋に薄紅の花弁が落ちた]
[地に落ちた櫻の絨毯が猩々緋のように毒々しい――]
[大殿が眠る部屋 何処からか祈祷のような音が聞こえてくる]
[無我は上空を仰ぐ ――澱んだ大気が今にも滴り落ちてきそうであった 目蓋の櫻が落ちる――地に近づくにつれ猩々緋に染め上げられる]
―通り―
ありがとうございました。
また、要り用ならば…
[いつもの別れ際の挨拶。
頭を下げると通りへと出て顎に手をやり空を見やる]
…なんとも。昨夜の事が頭より離れぬ。
[小さく息をつけば]
私が変なのか。
それとも、都がおかしいのか。
どちらにせよ芳しくないのは確か、か。
[視線を下ろし、ゆるり、と辺りを見回した]
[空を眺める目は険しい。夜居の僧が何かしらの物の怪を感じ取ったという。出仕に衣を調えながらもその報告は捨て置くものではなく]
いいだろう。御所に先触れを出せ。
市井にて物の怪を見たとあったために遅参するとな。
[数名の供と鷹匠に鷹を連れさせて、外を出る。通りにはまだ人はまばらか。鷹は何かあれば襲ってくれんと目を光らせ手甲に止まる]
―花山院邸傍の通り―
――ん。
[片目を閉じて]
……何だ?
[ゆらり、見えたのは極彩色の輪と
闇に蕩ける漆黒、そして白磁。]
識神か。
[呟く。
白藤は式の眼を通して、光景を見ていた。
白い鳥が羽ばたくのに識神――無我は気づいただろう。
害意は無いように思うが、と独りごち
心持ち足を早めた。]
[無我は痛覚というものを持っていない]
[茫とした面を大殿の部屋へ向ける―― ついで、無我は四季折々を表現した庭の一角に在る池へ向かい懐から紙を取り出して離した。池に皆の注意が向いている間に、大殿の部屋へと向かったところ――]
[きしり]
[捻れる 軋みを 識 黄金の幾何学がせわしなく走る――強引にゆく ふわり一歩ゆっくりと二歩――]
[無我は痛覚というものを持っていない]
[茫とした面を大殿の部屋へ向ける―― ついで、無我は四季折々を表現した庭の一角に在る池へ向かい懐から紙を取り出して離した。池に皆の注意が向いている間に、大殿の部屋へと向かったところ――]
[きしり]
[捻れる 軋みを 識 理へと煌く幾何学直線の軌跡がせわしなく走る――強引にゆく ふわり一歩ゆっくりと二歩――]
[無我は痛覚というものを持っていない]
[茫とした面を大殿の部屋へ向ける―― ついで、無我は四季折々を表現した庭の一角に在る池へ向かい懐から紙を取り出して離した。紙は陰陽師が遺したものであった。池に皆の注意が向いている間に、大殿の部屋へと向かったところ――]
[きしり]
[捻れる 軋みを 識 理へと煌く幾何学直線の軌跡がせわしなく走る――強引にゆく ふわり一歩ゆっくりと二歩――]
しかし。
花山院の…法師様に会わなければ、何かしらなっていたのは私の方、か…
[そう言うと、歩き出すのは花山院の屋敷への道]
礼を言う…ついでに、何かしら策を教えて頂こうか。
波紋の様に広がる…ので在れば。
何時、この往来でさえ危うくなるか分からん。
[…箱を背負い直せば、自嘲気味に口元を吊り上げていた]
最も…行き届いた根を切るのが一番の守りなのかも知れぬが。
―六条邸―
[目をさまし、影秀からの伝言を受けとれば着替え、食事を済ませ、彼を部屋まで呼び]
影秀、疲れているところを悪いのだけど頼みたいことがあるんだ。
今日は内裏に上がったあと街に出ようと思うんだ。
供を、頼まれてくれる?
[ことり、首をかしげて返事を待ち]
私も、ひるに出向くが良いのかも知れぬ。
――それに、悪しき気を纏っては今度は鷹をけしかけられてしまうかも知れないな。
[童(と呼ぶには賢しいものだった)の気配が消えてから、
あるじの帰りを迎えるために、中将の屋敷へと取って返した。そのときになってようやく、明かりも持たずに夜道へ来たことに*気がついた。*]
[御簾の奥にあるのは形容するなら 白]
[眠る顔は苦しげであり連日の怯えが顔に刻まれている。身体は蒼白。呪のようなものは外側からは見えてはいない]
[無我は、鶯茶色の御簾の間から音も立てず滑り込み、肌蹴られた胸元へ身体ごと横たわるようにし、肌へ手をひたりとあてた]
……千客万来、ってねぇ。
[――四辻に手を出してくれるなよ、
と口の中でだけ呟き閉じていた片目を開ける。
下手に手を出せば波紋がひどく広がるに相違ないのだ。
肩を竦めて扉前。]
用命を受けてまいりました。
大殿邸より――陰陽師の白藤、と申します。
[告げれば、早々に案内されるだろう。]
−六条邸−
若宮様、お言葉ですがご報告させて頂いたとおり巷ではよからぬ・・・
[言葉を続けるつもりが、若宮様の無邪気な笑顔にそれ以上言葉を続ける事も出来ず]
・・・分かり申した。御供させて頂きます。
但し某よりあまりお離れにならぬようお願い申し上げます。
[事が起きた時にこの太刀が通じるかどうか。否、常に敵あらば斬らねばならぬのがこの富樫の使命]
[くちくちくち 穢れが陰気が怨が 嗚呼呪いが 無我の墨色の衣の下、白い肌の肩下から腹部にかけて茶色い痣が浮かび上がり、また白い肌に飲み込まれてゆく。それらは胎(なか)で凝結し紅碧(べにみどり)の徴を肌に刻み込んでゆく]
[渋ったようなあとの許可に微笑んで]
うん、ありがとう。
それと、今日は車は要らないからね。
じゃあ、支度を頼むよ。
[では後でね、と小さく伝える表情もまた無邪気。
きっと彼が初めて護りの任についたときと、何一つ変わらない]
…はて…な。
[三条…花山院の屋敷。門を見やれば、先客が居て。
見覚えのある姿。目を細め見ていた]
白藤の兄さん…?
あの法師様が居るなら、陰陽師を呼ぶ必要はある物か。
[しばし、顎に手を当て門を見ていたが。箱を背負い直すと門へと向かい]
もし。花山院師輔様はいらっしゃいますでしょうか。
汐という名の薬師が話を伺いたい、と…
[番の者に問いかける。しかし、返ってきた答えは留守。という返事]
なれば…いや、また時を改めて参ります。
[法師は居るか。そう、尋ねようとした。
しかし。名を聞けなかった故に、名を問われれば答えられるはずもなく。
薬師はこめかみに手を当て通りを歩き始めた]
―花山院邸―
……。
[花山院の面々は一様に不穏な気色を漂わせていた。
はて、と心中で首を傾げるがおくびにも出さず。
裏庭、松の葉が瑞々しく風に震え。
立っていたのは細身に白装束のおとこ。]
失礼いたします。
[と、形式通りに頭を下げて]
(僧だろうか?)
[それにしては、妙な扱いだと思いながら
急かすような周りの視線に、手早く祓いの準備を整え]
御意。では仕度が済み次第門前にてお待ちしております。
[頭を垂れてから下がる]
・・・いつまでもかのような澄んだ瞳でおれらる。
[ふと最初に仕官した時の事を思い出す。その時もすぐに外にお出かけになられ、また今日と同じように傍にお仕えした。
自分とは違い気軽に外の空気を吸う事も出来ず、見るもの全てに興味を示された若宮様は正に天の使いかと思うほど眩く、その時から何も変わっていない。否、わずかばかり背は伸びられた]
[身支度をし、門の前で若宮様を待つ]
[若草の絹を纏い支度を済ませる。
頭上から暗い色の衣を被り、門で待つ武士の前に現れる。
頭上から衣を被るのはもはや癖のようなもの。
目立たぬように、ただそれだけ]
…待たせたね。いこうか。
[告げる声は大人しく。
背の高い武士を見上げて促し]
御意。
[仕度を終えた若宮様に促され、外に出る。常に斜め後ろに位置を取り]
さて、どちらにいかれるご予定でございますか、若宮様。
[赴くのは大殿のお屋敷。あれからどういったことがあったのか。
門より出る気配は変わらず、鷹も目を細めている様子。
そういえばあの大殿はどうしたものか。まだあの屋敷、人は残っているのだろうか]
橘中将が来たと伝えてくれ
[先触れの使者を走らせると意外にも人はまだ残っている様子。
大殿とは知らぬ中でなし、警戒している様子はあったがそのまま奥へと通された。いつものように礼に則り挨拶するが]
[やがて空が白み始める頃には、市まで足を向けて]
弦ってどこに売ってるんだろう。
そもそもこんななりで売ってくれるのか。
[並ぶ魚や織物、塩や米などを見て歩きながら、やがて雑貨を並べる所へと辿り着く。
そこに辿り着くまでには手に饅頭を一つ持って口に咥え]
ご無沙汰をしております
先日の騒ぎもあり大殿様のご無事をお伺いしに参ったのですが…
[通されたのは寝室。烏帽子だけを付けたその姿はまさに死人というべき顔色で]
大殿様…なんという…。
大方京の噂に中てられたのでございましょう。
信心深きは徳にございますが噂を信じ物の怪を呼び込むとはいけませぬ。何、すぐによくおなりです。どうか加持等を怠りないよう。
[取り繕うだけの見舞いの言葉をかける。少しやりとりをした後に障りがあるといけないとすぐに寝室を後にするが。
あれは手遅れだろう。しかしあくまで表向きは励ますように。庭の月白はどこかを見つめている。この屋敷に何か人あらざるものがいるのなら…きっとその気配を感じているに違いない]
―花山院邸―
[祓いを順に済ませていく。
おとこが誰であるかは白藤の与り知らぬ所。
外に訪れていた汐のことも、今は気づかず。
時折片目を閉じ、見える大殿の様子を伺っていた。
あの識がなそうとしていたのは]
(……形代?)
[つめたい清浄な水がはねる。
中将の姿が見えたところで、両目を閉じて
祓いの最後の声を紡いだ。]
うん。
内裏へ行く前に所々行こうと思うのだけど……ああ、そうだ。
[歩きながら、ふと思いだしたように件の大殿の邸を見に行くことを提案し]
羅城門を通って…行けるだろう?
留守。とは思わなかったな…
いや、私も色々歩き回っているのだし、言える言葉ではないのだが。
[禿の髪を一房摘み。指の中で弄りつ考える]
羅生門で一度助けられた以上、近づくというのは命知らずも良いとこ…か。
要り用の声がかかれば言うことがないのだが…
[ぶつぶつと呟きながら。其の指は髪を弄りつつ。
足を動かし始める]
仕方在るまい。
今の時間ならば市もやっておろう…
[ばさり。月白が飛んだ先にあったのは白い鳥。
はてさて、白い鳥が早いか鷹が早いか。
大きな羽音を立てて戻る鷹、しかし獲物は持っていない]
如何した?月白。なんぞ獲物でも見つけたか?
[屋敷を後にしようとした矢先のこと]
そういえばあちらの従者が言っていたな。
なにやら白い者が大殿に憑いていたという。
そやつは捕まったらしいが…面白い、一度物の怪というものを見てみたかった。
[くっと喉を鳴らして少し笑う。鷹はなおも屋敷をねめつけるが流石に憑かれているとはいえ大殿の屋敷で鷹狩をするわけにもいかない]
羅生門を通り大殿へ、ですか。
[少し眉間に皺が寄るが]
確かに少々回り道にはなりますが、問題ございませぬ。
[厭なにおいがするような気もするが、自身の好奇心も含め反対はしなかった]
冒険家 ナサニエルが「時間を進める」を選択しました。
羅生、門・・・・・・
[昨晩感じた血の匂い。同じ何かを持つ者による気配。行けば感じるのか。あるいは]
否。若宮様の前で狂うことはならぬ。
[終了をあらわす、一礼。
髪を結ぶ飾り紐の先、翡翠がちり、と鳴る。]
――……。
[周りの空気は幾分和らいだか、
しかしやはり歓迎する雰囲気ではない様子。]
(まったく、奇妙なことだ)
[面を上げ、瞳に陰のある男を見た。一歩下がる。
礼を謂われたならいいえ、と首を振り。
おとこが言葉を続けるとそのまま耳を傾けた。]
……羅生門、ですか?
[あのようなところで何をしていたのか、と思うが
心の中にとどめて]
…嫌だったら、やめるけれど…
[寄った眉に少しだけ自然と下げて。
歩きながらもきょろきょろと辺りを見回すのは周りの物珍しさゆえ。
車の中から見るのと、歩いてみるのではやはり違う]
…やはり、町は面白いね。
[辺りを見る瞳はきらきらと輝いて]
・・・否。そのような事はありませぬ。
羅生門もまた立派な建築物でございます故、是非その姿を拝見しに参りましょう。
[その表情には弱い。それも仕えてから何一つ変わらぬ事]
[ 嗚 呼 ]
[ 吾 を 忘 れ た か ]
[ そ れ も 詮 無 き こ と よ の ぉ ]
[怨は一瞬人の顔をとり霧散する]
[ 嗚 呼 ] [ 月 下 に 狂 え ]
[ そ の 手 で そ や つ を お か す の だ ]
[ 欲 望 を 放 ち い く さ の 美 酒 を 五 臓 六 腑 に 染 み 込 ま せ よ ]
冒険家 ナサニエルは、流れ者 ギルバート を能力(占う)の対象に選びました。
[語られる話はどうにもやはり、
根の深い何かの繋がりを感じざるを得ないことであった。
白い識神の話がちらと出たときは、
2度、瞬きをした。
それはもしや。]
……大殿さまの屋敷にて、
そのような姿を見たやもしれませんが。
[周りの花山院ゆかりと思われるものたちが
特に会話に言葉を差し挟まないのは奇妙であったが
どこか疎むような視線を思えば仕方のないことであったのだろうか、記憶についてなどは今の白藤には分からない。]
大殿さまの屋敷に、共に来られますかな?
おれはかまいませんが……。
[――咎めだては、やはりされないようだ。]
くっ・・・・・・
[某は富樫影秀、若宮様の従順な僕]
[忘れた?己を?]
[ならば一体、この富樫影秀なる武士は一体何者だと言うのだ]
[狂うなど、出来るはすがない]
[げらげらげら]
[げらげらげら]
[げらげらげら]
[犬の遠吠えが聞こえた]
[首を切られ]
[地に転がる犬の吼え声が]
─回想─
[左大臣邸、去り際に吐き捨てるようにおとこは中将に囁いた。]
此度の怪異について、天文博士らの方から事前に何の報告も無かったと言うが、ある意味ではそれは当たり前のことなのだ。
怪異の跋扈は今に始まったことではない。
もう遥か以前から凶兆は幾度と無く現われてきた。
今のみやこの有様を見よ。
民草は餓え、死人のみならずまだ生きている病人までが大路に捨てられ、夜盗の類が横行している。
だが、誰も、
……いや。
言っても詮無いことか。
……いいの?
[ちらり、と視線をあげて首をかしげる。
確認するように。
叱られた仔犬のようにも見えた]
うん…そうだね。
壮麗な建築だから、一度間近で見てみたいと思っていたんだ。
[再び歩き出しながら、にこりと微笑んで瞳細める]
ありがと、影秀。
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