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[同じくその屋敷を眺め、柳眉を僅かに吊り上げました。]
臭いますね。
…これは宜しくないやり口だ。
[人よりも勘は鋭いのか、なにやら感じるところもあるようで。]
見目を引くほどの美丈夫でもありますまい。
[軽い声音で応じたが特に笑うでもなく、ふたたび頭を垂れた。
事実、気の緩んでいたのかも知れぬ。それとも、勘のするどいおとこなのだろうか。]
この大路でなにかが起こったという訳では無いようです。あやかしが、女性をあしき牙に捕らえて居るというような、噂を聞き及んでおりまする。
聞けば、さるお方のお屋敷のことだとか。
現場のあらためにゆかれるのでしたら。不調法ではありますが、野次馬ごころで、お供させて頂いても宜しいでしょうか。
[数刻の後、彼は女性の単を纏い寝台へと横になる。御簾の外側に人の影を感じ、目を開けて凝視した]
「今、帰ったか。遅かったではないか」
[掛かる声には返事をせず。衣擦れの音をさせて返事の代わりとする。
それを聞いた人影は、含み笑いと共に寝台の傍へと参り]
「ほんに、綺麗な肌の色だの。白粉の色など私は好かぬ。のう?」
[肌をなぞる指にわずかに眉根を寄せ、目を閉じる]
[冗談ともそうでないともとれる返答。謙遜でも構わないが確かに見目引いてしまったのはなにゆえか]
その髪色だけでも十分目を引く。まぁよいわ。
[今重要なのは青年の言う「噂」。すぐにその顔顰めて]
ふむ…。さようなことが。笛の音は真実語ったか…。
礼をいう。すまぬな。
[馬首返しかけた所に問われることは]
…何?…まぁよい。礼の代わりだ。参るがよい。
但しこれは私の仕事、邪魔立ては許さぬ。
[部下の馬に乗るのならそれを促し。馬を走らせ辿りつくのは例の屋敷]
…これは…何事か…?
臭うか。
さすが、鼻がいいね。
[ちらと銀糸に視線を向ける。
屋敷を巡っていた白い鳥の式がおとこの肩にとまった。]
祟り、だな。
すっかり死のにおいが満ちちまった。
銀の、其方もこんなところに居ては祟りが染み付くぞ?
[世間話のごとく軽い口調は変わらない。]
祟り、ですか。
恨みか…それとも他の……
[白糸のような長い髪を指先で弄び、ふむと考え込むような仕草をします。
馬に乗った御方が此方へ向かってくるのを見ると、軽く頭を下げて道の端へと退きました。]
さぁ、それはおれの預かり知らないところだねぇ。
[銀色に答えると時を同じく馬の蹄の音。
開け放たれた門を野次馬のごとく覗くものはあれど
訪ねてくるものはもはや稀である。]
おや。客人かね?
物好きも居るものだ。
[などと呟きながら、門のほうへと行く。
赤みがかった髪のおとこと陽に透ける蒼のおとこがたたずんでいるのを眼にすると眼を細めた。]
何事とは、見ての通りですな。
[と、少し首を傾けると飾り紐の翡翠が揺れた。]
[野次馬をのけて馬のまま屋敷に近づくと背筋がぞくりとするような。がらんどうとした屋敷。四季で名高い庭も今は趣も感じられず。
道を開けた稀にも見ない銀の男。そして翡翠のひもを垂らした男]
…その方二人。こんな所で何をしている。
そなたらはこの屋敷の奉公人か何かか?ここで一体何があった。
[有無を言わさぬ強い態で問いただす
不躾な願い、聞き届けて頂きありがたく存じます。
[促されるまま、男に従って往く。
屋敷へ着くとすぐさま馬を降りた。
おとこは、人々ではなく白い鳥を目で追った。]
このような、凶ごとのあった屋敷で寛いで居るものが居るとは。
見ての通りといえばおかしな様子にしか見えませぬな。
奉公人――とは、ちょっと違いますな。
おれは、やとわれの陰陽師。
そっちの銀のは、狐の散歩といったところですな。
[おとこの強い口調にも、調子を崩さずそう返す。]
ご存じないと。
[ふむ、とおとこを見て
それからちらと赤みがかった髪の人影にも視線を向ける]
人死に、それも、ただごとではない死に方。
こう謂うべきですか、『祟り』だと。
まあ、それ故おれなどが呼ばれているわけですが。
陰陽師…
[よりにもよって自分が毛嫌いしているもの。確か陰陽寮にも一人、特に性に合わない者がいた]
そしてそこの銀の者がキツネだと?ならばそなた試しにその狐とやらを調伏してみせるがよい。ならば信じよう。
そなたのようなゴロツキ風情から「祟り」といわれても腑に落ちぬ。
それよりあまりふざけたことを抜かすとそのまま引っ立てる。
口には気をつけよ。
して、そなたはここ呼ばれて何をするつもりなのか?
キツネという男と行動しているのか?
[やがて一人になり、焚かれていた香も匂いが消える頃、体を起こして隙間から見える月を見た]
……明日もう一度、行ってみよう。
下調べは入念にした方がいい。
今日はもう、疲れた。
[また、十二単の下へと体を滑らせて目を、閉じる。
気味の悪い空だと思ったが、それでも月は綺麗だと思った]
[この日に見た人の多くが、もうどこかへと逃げた事も知らず――やがて夜は明けて]
[陰陽師と名乗る男がなんと答えても恐らく殆ど聞く耳は持たぬだろう]
…今は私の権限でここは調べられぬ。後ほど検非違使から改めに参る。その際に引っ立てられぬよう注意するのだな。
[自分の後ろに控えるように佇む赤毛の青年に向い]
私は一旦内裏へ戻る。そなたも行くところあれば行くがよい。
近くならば供の者に送らせよう。
[再び馬首を返し、屋敷にはわずかの見張りを置き内裏へと報告に。
近衛府と検非違使も騒然となったに違いない─*]
[蒼いおとこの口調は不機嫌になった様子。
しかしこちらは薄笑みを崩さず。]
お断りします。術は見世物ではない。
[首をゆるゆると横に振って見せる。]
ふざけたことと思うのは御自由に。
なんなら入って御覧になりますかな?
ごろつき風情にに案内されるのが御厭ならば
屋敷の者を呼びますか。
このような状況ですが、
高貴な方の御出でとあっては黙ってはおりますまいよ。
あぁ、口はいつものことなのですよ。
ご忠告痛み入りますな。
[笑んでいる。]
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