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[打ち捨てられたビルの一室。魔方陣が光り、周囲に光が溢れ、部屋の中を包んでいく。
その光が収まった時、魔方陣の中央には一人男が座り込んでいた。その服は、異国の…いや、日本人が見ても和風の衣装だと位にしか思わないだろう。烏帽子こそはつけていなかったが、それは直垂という衣服だった。ただの人間が見れば、時代めいたその姿が、ビルの中に強烈な時代錯誤の感覚を呼び起こされようか]
……わしを……呼んだのか。
[頭を押さえつつ、うっすらと髭を生やした中年頃の男は目の前の人影にそう尋ねた]
[魔方陣を使い、喚び寄せたのはサーヴァント。
世界に記憶された規格外の魂を、クラスに当てはめることによって現界させた使い魔。
本来なら特が付く大魔術級のそれを、基礎も怪しい自分にすら可能にさせたのは……ひとえに、聖杯の力だ]
アジア系の男……ね。少し意外だわ。
[そのサーヴァントを少し興味深そうに眺めながら、問う]
そうよ。
あなたの名前とクラスを聞いて良いかしら?
……なんだ、わしの名前か。
[男は、胡坐をかいたまま頬杖をつき、大きくため息を一度つく。怪訝そうに目の前の少女を見やり、がりがりと頭を掻いて、しばらくして口を開いた]
どうしてわしなんぞ呼び出したのかわからん。
わからんが……まあ、良いわ。
わしは……一応刀の使い手だ。
名は尊氏。 足利の又太郎、尊氏。
それがわしの名だ。
??? ??? は肩書きと名前を セイバー 足利尊氏 に変更しました。
/*
Q:なぜこの顔なのですか?
A: https://www.google.co.jp/searc...
大河ドラマ「太平記」の真田広之がこんな感じだった
あまりアジアの伝説には詳しくないのよね。知らない名前だわ。
けれどその名前……この国の英霊ね。
[召喚の際、特に媒介を使ったわけではなかった。ならば事前に調べた情報に依れば、サーヴァントは召喚者に似た英霊が選ばれるはずだ。
けれど目の前の男……どっかりとあぐらを掻いたひげの男が自分に似ているとは、少し思い難くはあった。
が、それはそれとして、男がもたらした情報は朗報ではあった]
刀使い―――セイバーか。
まさか最優のクラスを引けるなんてツイてるじゃない。
これからよろしくね、タカウジ。
……だろうな。呼び出すにしてもわしなんぞよりもう少し良いのは幾らでもいそうなものだ。戦に勝つなら楠木殿の方が滅法強いし、北畠卿なんぞは実に見目麗しくも勇壮であったし、新田……新田はまあいいか。
[至極面倒そうに男は呟いて、もう一度ため息をつく]
それで、わしにお主の下で戦をしろというのだろう。
[目の前の少女をじっと見つめる。見た目はまだ年若いが、魔術師ではあるのだろう。もっとも、どの程度の力を持つものか、それは自分にはわからない。だが、いずれにしても]
…………………ずいぶんと面倒臭い事になってしまった。
[悪びれる様子もなく、本当に心底面倒臭そうに男はこぼした]
面倒?
[目の前のサーヴァントから出たその言葉は意外で、だからこそ引っかかる]
あなた、この国の英霊なんでしょ?
ここって原始時代から17世紀くらいまでずっと内戦してた、蠱毒壺のような島国じゃないの?
そんなクレイジーな国の英霊が、戦争を……それも万能の願望器を奪いあう聖杯戦争を厭うなんて、冗談だとしてもシュールすぎるわよ?
まあ………確かにここは日本国なのだろう。だったらそうなるな。
[話をするのも面倒だと言いたげな表情で男はまた口を開く。]
いや、昔はどうか知らんが…確かにわしの頃は帝も二人おったしな。
わしも随分あちこち戦った。北条殿を滅ぼしたし、帝に弓を引いたわな。それに……
[少しだけ遠い目をして、またけだるそうな目が少女を見つめる。]
死ぬまで戦い通しよ。三十半ばで隠居してあとは詩でも詠んで暮らそうか、地蔵の絵でも描いて暮らそうかと思うておったらそれだ。
……だいいち、わしには望みなんぞないぞ。まあ、あると言えばない事もない、が……
毎日何もせずにのんびり死ぬまで安楽に暮らしたい、というのが望みといえばそうなるな。うん。
5人目、赤い竜 がやってきました。
赤い竜は、村人 を希望しました。
薄い闇に包まれ始めた森に、赤い竜が舞い降りた。
辺りを見渡した後、幼な子のような小さい体を、左右に揺らしつつ歩き、少し開けた場所に出ると、尻尾を器用に伸ばして魔方陣を描き始めた。
描き終わった後、器用にのどの奥を震わせて、いくつか言葉を紡ぎ始める。
言葉が進むにつれて、竜の腹が波打ち、剥ぎ取られた皮膚の一部のようなものが浮かび上がる。
その皮膚に記されているのは令呪。
マスターの証である。
令呪の、脈打つような赤い輝きと同時に魔方陣も光を増し、大きくはじけた。
……へぇ。
[その、おそらくは歴史を左右する苛烈な経歴には想うこともあったが……それよりもその英霊が口にした望みを聞いて、少女は目を細める。
白々と、冷ややかに]
あなた、それだけやっておいてそんな望みしかないの?
……なんてつまらない。おもしろくないわね。
[声には怒気がはらむ。
自分でも理不尽だと思ったが、止められなかった。
媒介無しに喚び出されるサーヴァントは、召喚者に似る。
ならば、このつまらない男の姿は自分の鏡なのだ。それに腹が立った]
……まあ、いいわ。聖杯には昼寝にちょうどいい陽気でも願いなさい。
あなたにはどうしても戦ってもらう。わたしのためにね。
そうだ。わしの望みなんぞそのぐらいしかない。
………良いだの悪いだのと、皆わしの事をとやかく言うが、わしの心中などわからん。お前も、その一人だ。それだけの事だ。
[目の前の少女が自分に対して気分を害した様子を見せていることは分かる。その心中までは察しえなかったが]
わしはただ静かに暮らしたいだけだ。お前にはないのか?そういう望みが……聖杯なんぞ呼び出そうとするのだろう、ならば…
[男はなおもぶつぶつ呟いていたが、諦めたように肩を落とした]
まあいい。話していてわしも自分がほとほと嫌になった。わしなんぞよりもう少し目に叶う相手でも選べ。
ああ……!京の六波羅を滅ぼし帝を笠置よりお救いしたあの壮麗なる尊氏はいずこへ……!!かくも情けない生き様を晒すくらいなら、今ここで潔く自害してくれようぞ……!!!
[そう言うと男はやおら腰にさした脇差を抜き放ち、腹へとめがけて突き立てようと振りかぶった]
御免………!!
6人目、鴻 みちる がやってきました。
鴻 みちるは、村人 を希望しました。
ー住宅街、古びた洋館ー
[かち。こち。かち。
ぽーん、ぽーん、ぽーん。
古い屋敷の中で柱時計だけが忙しなく動いている。
柱時計の傍らには古い形の鳥籠。
籠の扉を開くと、中から青い羽の鳥が羽ばたいて古い机の淵に止まった。
マホガニーの机の上には古びた紙のようなものが広げられる。
古びた磨りガラスの向こう側に月があって、
遅い時間に起きているにはあまりふさわしくない子供がひとり
広げた上にこれまた古い金属の塊を置いた]
ちるちる、みちる。
ちるちる、みちる。
まほうの、ぼうけんのー、はじまりー。
[小さな手を塊に伸ばし、精巧に刻まれた金属の針を小さな爪が弾いた。
いつもは何も起こらない少女と籠の中の鳥だけの眠れない夜の夢見る遊び。
それが、まさか"ふしぎなこと"のはじまりになるなんて]
はじまり、だよー。
[きらきらと月明かりの中で忙しなく針は巡り、巡って
マホガニーの上に広げ、描かれた線がまるで星図のように煌めきを伴うのを
驚いた顔の少女と青い鳥が瞬きも忘れて見つめた]
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