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[食堂の角で、聞くとも無しにステラ、ギルバート、ナサニエルのやりとりを聞いている]
変だ。あいつら。ギルバート…あいつからは血の臭いがぷんぷんしやがる。あいつ、ただのこそ泥じゃねえな。
多分噂は真実。恐らく屋敷の主は私たちを生かしてここから出すつもりはない。
それを知りながらあいつが嬢ちゃん達を逃がすよりは、むしろあの子達がやられている間に自分の目的を果たそうってのはよくわかる。あいつは目的のためは手段を選ばない奴だ。顔にそう書いてある。
だとしても、そういうのは私もよく知っている人種だ。まだ理解できる。
もっとわからないのが尼さんと新顔だ。あいつら、血には全然動じなかったようなのに、爺さんが人形をぶち壊したときの反応がただごとじゃなかった。
狩りの獲物?
んなわけあるか。ハンティングが趣味の奴ってのはこれ見よがしに狩った鹿の頭なんかを部屋にずらっと飾ってたりするもんだ。
[ハーヴェイに向かって]
悪い。先に戻るよ。シャーロットのこと、気をつけてやってくれないか。あたしもなるべくそうするけど。
[脳裏に浮かぶのはかつての恋人であり、現在彼女を追っている男の姿]
あいつから逃げても……たどり着いたのは同じように死人の目をした奴らの巣、か。
泣くことしかできない子供、頼りない坊や、人形狂いのお二人さん。
……ギルバート。あいつ昔のミルチャに似ているな。
[ミルチャ、馬鹿な奴。女の生き血を啜れば自分も吸血鬼になれる、なんて妄想をどこで仕入れてきたんだろう?]
[昨日の「忘れ物」、清めはしたが匂いは取れぬ]
ほっほ、こんな所においでになる割にはまともなお方が集まったものよ。
[さて、おもてなしはどうしよう。向かう先は大きな大きな保冷室。
この屋敷の人間はほんのわずか。なのに不似合いなその部屋に詰まるのは。山と積まれた肉の塊]
やっとこれを処分できると思ったのにのぅ。
[一見それは肉の塊。
よくよく見やると何の形を成してるか。
指のもげた手 切り落とされた胴体 折れた脚
どれもこれも「材料」には不都合な、「ゴミ」ばかり]
[玄関前の「忘れ物」、清めはしたが匂いは取れぬ]
ほっほ、こんな所においでになる割にはまともなお方が集まったものよ。
[さて、おもてなしはどうしよう。向かう先は大きな大きな保冷室。
この屋敷の人間はほんのわずか。なのに不似合いなその部屋に詰まるのは。山と積まれた肉の塊]
やっとこれを処分できると思ったのにのぅ。
[一見それは肉の塊。
よくよく見やると何の形を成してるか。
指のもげた手 切り落とされた胴体 折れた脚
どれもこれも「材料」には不都合な、「ゴミ」ばかり]
お客人は人の肉はお気に召すまい。
では別に何かこしらえねばの。
ご主人も最近は新鮮なものしか好まれず。
困ったものじゃて。
[扉閉め、ため息つきつつその場を後に。
老人去り、その後その場に「ゴトリ」と音。
転げ落ちたのは一つの生首。
目を見開いた、殺される間際の凄まじい表情のまま。
一時、主人が興味をもった恐怖の面。興失せた後は見向きもせずに。
転がる首、老人去るをいつまでも睨みつけ──*]
[部屋に戻って少し転寝。どれだけ時間がたっただろうか。
休んだのに体は冷えたまま。昨日何があったのか結局覚えていないが体調を崩したのは確からしい。頭痛のほかに胸に鈍い痛みも走る]
……
[依頼の内容は人形を盗むか壊すか。そしてもう一つ。
どちらも少しややこしくなりそうで、少しため息をついた]
この部屋にあるのは小さな窓だけ。開かないし飛び降りるには少し高い。もし運よく抜け出したとしても外に何かしら手を打っているに違いないだろう。どうせあの老人の様子からしてすぐに殺されるということはなさそうだ]
さて、一回りしてくるか。
[ちょうどその頃、メイド人形が部屋の掃除に訪れた]
[回る所は召使の詰所。台所等表よりも緊張感の薄れる場所の筈なのに人の気配が全くしない。一番生活感が溢れる場所でなければいけない所がなぜこうも新品同様な状態なのか。
どの引き出しもどの棚も飾り物の食器はあれども使用された形跡は見当たらない]
マイセン、バカラにミントン…いいもの使ってるもんだ。
悪趣味な屋敷のくせに。バカらしい。
流石にここには人形は置かないか。
[注意深く周りを見るとそこは人形の修理工房も兼ねているのか。
ゼンマイが巻かれていないメイドやボーイが数体並んでいる]
[置かれている調味料も使われている厨具も特に不審な点はない。
毒殺やらは心配しなくてもよさそうか]
毒殺は皮膚が変色するしなぁ。特にヒ素やらトリカブトやら。
ムンクのような人形を作りたいなら別だろうけどさ。
[まるで見たことがあるような口ぶりで呟くとその奥にもう一つ、扉を見つけたが…]
……なんだ、あそこは…。
[そこはモーガンが入って行った保冷庫への扉。何か、とてもいやな空気が流れ込んでくるような。
足が進むことを躊躇するのは初めてだった]
[ドクン、と胸が高鳴る。もちろん期待やそんなものではなくて。
行ったら何か、空恐ろしいことを知ってしまいそうな]
「行ってもいいわ?貴方がどうして逃げられないか、きっとわかるから」
[くすくす、くすくす…]
[脳裏に響く声。理解するには余りにも漠然としたその声]
[保冷庫への扉を開けて…そこで多分今まで一番といっていいほど後悔した。大きな保冷庫扉の前に転がるそれ]
……っ!
[流石に顔がひきつった。ビキリと頭に、胸に鈍く深い痛みが走る。
凍っていたのか、恐ろしい形相でこちらを睨む水にまみれた…生首]
………これ…は……
[暫しまた昨日と同じような、奇妙な時間をそこで過ごしただろうか…*]
[胸が、頭が痛い。なぜだ?何があった?あんな生首程度で]
「 それはね。貴方がもう ───るから 」
「私達のお父様が」 「思い出してしまったかしら?くすくす」
[あぁ思いだした。あの時、地下室で何があったのか]
「私の望みは小さなこと」 「だから取引をしましょう」
「私達 人の魂がほしいの」 「それまで貴方を───…してあげる」
「これは契約。代償は魂。代償は心」 [くすくす くすくす]
[転がる鈴の声音。目の前の生首の不気味さとは裏腹に]
[さざめく声は耳を澄ます]
「……もう一人…いる…ね……。くすくす」
もう…一人?お前達は一体誰なんだ?まさか…
[「人形なのか?」とは紡がれず]
[初めて発した声。これは肉声か。それとも心の声か。
心の声ならば間違いなく彼女らのいう「もう一人」にも聞こえただろう]
「貴方が壊れないうちに…早く……*]
―回想―
[幾度目かの再会を果たしたシャーロットは、その晩、''かたかた''と音が鳴り続く、暗い空間で眠りについた。
以前のシャーロットなら、この場所で眠る事など、決してなかったであろう。
何が、シャーロットをそうさせたのか――。]
私、あのまま、寝ちゃったのね。
……おはよう。
[ガラスに映る、自分自身に呟く。
それが挨拶を返す事はなかったが、浮かべる笑みが、まるで目覚めはどう…と、語りかけてるように思えた。]
待ってて、ね。
また来るわ。
[そう言うと、シャーロットは一階へと階段を上っていった。]
[一階ホールを、自室に向かって歩く。
固く閉ざされた扉には、未だに縫い付けられた人形の姿があった。]
(かわいそうに……。)
[昨日は、畏怖さえ感じたその''もの''を、憐れむように見つめるシャーロット。
片目が抉られたその人形に、小さく震えながらそっと触れる。]
(痛かったでしょう…?)
[シャーロットは、心の中でそう呟いたであろう。
その後、扉に刺さるナイフを抜くと、人形を扉から下ろし、両手で包みながら、自室へと戻った。
シャーロットのこの行為は、果たして何を意味するのか――。]
―回想終了―
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