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―屋敷の前―
[あの人形から逃れるために、必死に走ったシャーロットであったが、その足は家へと導くどころか、再び屋敷へと向かっていたのだった。正確には、''迷った''わけだが、シャーロットは、あの人形が再び自分を屋敷を連れ戻したような錯覚に陥ってた。
暫し、屋敷をみつめる――。
差し出された手に気づくまでに、暫しの時が流れたであろう。]
だ、大丈夫です……
[そう一言言うと、ギルバートと名乗る男の手を借り、ゆっくりと身体を起こした。]
ふぅん?顔色悪いけど大丈夫かい?
君ここの関係者?そんな格好でこの森って危ないんじゃないのかね?
所でここって中は入れるんかね?俺ここのアーヴァインさんって人に用があるんだけどさ。
[見れば見るほど大きな屋敷。ここには山のような人形が眠っているらしい。
いやはや、巷で幽霊屋敷と言われるのも頷けるご様子で]
[重々しい扉を開けるとそこには見知らぬ青年とシャーロット]
シャーロット様はお出かけでございましたか?何やらお疲れのご様子ですな。
して、そちらのお客様は…。
[少々怪しげに見上げてしまう]
用…ですか。
もう、用は済んだんですけどね。
[恐らく、この言葉を理解するのは困難であろう。]
私はシャーロットといいます。
家に帰る途中、道に迷ってしまって……
気づいたら、ここに戻ってきてしまいました。
[小さく震えながら、言葉を紡ぎ出す。]
関係者だなんて…
私は何の関係もないわ。
あの人形と、何の関係のないわ…っ!
[次第に、声が高まる。
シャーロットは、再び冷静さを失いつつあった。]
[歩を進める度に音を発してしまう自分の歩きに、それを一々気にしてしまう自分に、ため息をつく。]
もう…音を立てる事に怯えなくていいのよ。
けれど……
[もう、普通の歩き方を忘れてしまった自分に気付いた。]
[扉が開き、そこから顔を覗かせるのはえらく質素な服装をした老人。中から出てきたということは間違いなくこの屋敷の関係者だろう。軽く頭を下げて挨拶を交わし]
どーも。初めまして。ギルバートっていいますよ。
ここのアーヴァインさんの噂をかねがね聞いていてね。
是非お伺いしたいことがあってここまで来たんですよ。
[アポなしですけどね、と軽く首をかしげて]
この森広くてね。くるのに一日がかりになっちまいまして。もしご主人さんのお心が広いようだったらお話がてら迷子になる前に一夜、夜露をしのがせてもらえないかな、とか思ってまして。
アーヴァインさんに用があるのなら、自由に中に入ればいいわ。
[そう言った時、屋敷の扉が開く。
あの、重々しい…異次元の世界への入り口が封を切る。
そして、モーガンの姿が現れ、声を掛けてくる。]
モーガンさん……
私を…家に帰して……
教えて、モーガンさん。
あの森を抜ける方法……
[震えるシャーロットには不思議そうに]
用は済んだのに逆戻り?
…まぁ長居したくない雰囲気ではあるよな、この森。
関係ないのはわかったからちっと落ち着け?
迷子になって怖かったんかい?
[流石に乱れてくる声には宥めるように]
[ふと、森の奥の方から人の声らしきものが聞こえたような気がして、顔を上げる。]
…こんな所に来る人が居るのでしょうか。
[「酔狂な…」と、呟きかけて、自分もその一員なのだという事を思い出した。]
ほっほ、ギルバート様ですか。
ようこそお出で下された。
わざわざ遠方からのご来訪、主人も喜びましょうに。
しかし今はご面会されるのはちぃと難しいですな。
シャーロット様はどうされましたか。お帰りならそうお申しつけ下さればよいものを。
生憎まだ町にでる時期でございませぬからご案内はできかねますのじゃ。もう数日、お待ち頂ければ責任持ってお送りしますぞ?
[声のする方に歩いていくと、突然森が開け、その広大な敷地に大きな屋敷が見えた。見上げる程に大きな建造物に少し驚きながら、これほどのものが今までまったく見えなかった森の深さに、今更ながら少し身震いをする。]
……。
[視線を下に戻すと、数人の人物が屋敷の前に居るのが見えた。]
(迷子が怖いんじゃない…
私は…私は……)
ご、ごめんなさい。
[シャーロットは、ギルバートに向かってぽつりと呟く。
この時のシャーロットの瞳は、まるで人形のように光を失っていたのだった。]
数日待てば…?
モーガンさん、私、今すぐ帰りたいの。
案内できないのなら、地図でもいいわ。
村までの地図、書いてもらえませんか…?
[シャーロットとモーガンのやりとりに目を瞬かせている。
戻れないならどうやってここまで来たんだか。
帰れないのに帰ろうとするのは単なる自殺行為じゃ?とぐるぐる考えていると少し遠い所から人の気配を感じる。首をそちらに向けると…]
…ん?
じーさん、またお客ってやつが来たかもだぜ?
[涙目にもなろうシャーロットには申し訳なさそうに]
町に出るための車がまだ修理中でしての。まだ戻らぬのですじゃ。
御者が道を知っておりますが車修理の為で不在でしてな。
地図などはございませなんだ。
[見ると、老人と、青年と、少女のような女性。その面々に幾分ほっとしながら、しかし、どことなくこんな胡散臭そうな場所に何故だろうという疑問を残しながら、それらの感情を一切表に出さないようにして、三人に微笑みかけた。]
…こんにちは。
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