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ここは談話室だ。しかもそれなりの格を持った家の談話室“だった”に違いない。
第三に、部屋が暖かい。いやむしろ暑いと言ってもいいほどに空気が温められている。先ほど、トビラを開いた途端に中の空気が飛び出してきたのも、それが原因だ。
見てみれば、部屋の壁に取り付けられた煖炉の中でゴウゴウと燃える炎がその原因なのだと分かる。
はっきりと言おう。この部屋は異常だ。
アンダンテは以下の点を踏まえてこの場をそう評した。廃屋のトビラを開くとそこは豪奢の残り香が漂う談話室でした。など、余りにオカルト染みている。
自分の力もその類いのモノだと分かっていても、これはそもそもの格が違う。圧力が違う。見たものを引き込もうとする負の強さを感じる。
この部屋は本来この場にあるべきではないと、理屈ではなく心で理解してしまった。
帰らなくては、振り向いて、トビラを開き、家に帰って足早クリスに戻らなくては……そう思った、それがいけなかった。
ぞわり、と。“足早クリス”の背筋を舐めるようにして、形容し難い悪寒が足元から這い上がった。鳥肌が立つ。自然と足が震える。喉の奥から得体の知れない恐怖が込み上げてくる。]
う、あぁ、あ
[ 汗が出るほど暑いのに、ガチガチと音を鳴らして、まるで歯の根が合わない。
身体中の筋肉が強張って、足が上手く動かせない、移動が出来ない。
ならばせめて、自分の居るべき世界を見て落ち着こうと、クリスはぎこちない動きで後ろを確認しようと振り向き。
当然のようにそこにある、古ぼけたタペストリーを目にした。目にしてしまった。]
(ト、ビラが消え、え? 無くて、出られない。私の居場所が、消え)
[ これは本当に自分の身体なのか、自由が利かない、思った通りに動いてくれない。心の芯まで震え切って、クリスはそれでも足を踏み出した。
部屋の反対側、そこにもう一つのトビラを見つけたからだ。
きっとアレが本当のトビラであるに違いない。咳き込んでいた間に方向を見間違えたんだ。と、そう心に言い聞かせて、ドアノブを掴む。
開かない。
まるで空間ごと固定されているかのように、押しても引いても叩いてもビクともしない。お気に入りのブーツで蹴りつけても、爪先が痛むだけであった。
どうあっても、出られない。閉じ込められた。入ってきたトビラは失せ、もう一つのトビラは開かない。リュックサックに保存食が幾らか入っているが、そんなものは今のクリスにとって何の気休めにもならなかった。]
いや……だ、いやだ嫌だイヤだ
[ 痙攣する喉を振り絞って紡がれたのは、否定の言葉。現状を否定し、この身に降りかかった理不尽を否定し、待ち受けているであろう悲劇を否定する。何故自分がこのような目に遭わねばならないのかと、クリスの心が吠えているのだ。何時ものように、助けを求める時計の声を聞いて、駆けつけて、直してあげて、それだけが望みだったと言うのに。]
『……けて』
[ こんなの可笑しいじゃないか。クリスの心はそう訴える。私がいったい何をしたのか、この様な仕打ちを受ける謂れがどこにあったと言うのか。
私は何のために、何のために。
その場に蹲った、クリスの口から嗚咽が漏れ出す。もう限界だ。心の決壊は直ぐそこだ。後は考えることを放棄して、頭を空っぽにしてしまえばーー。]
『たす……けて』
[
ーー声が聞こえた。
彼女を呼ぶ声が、救いを求める声が、壊れた時間の声が。
微かだが、確かに聞こえる。
泣きじゃくりたい彼女の心に、その声は届いていた。
それに今、ようやく気がついただけの話。]
『助けて!』
[ 懇願にも等しい、そして自身の心を反映したかのような声に、彼女はハッと顔を上げた。
小さな古時計だった。壁に掛けられて幾星霜。時間を刻み、そして刻めなくなった古時計がそこにはあった。
不思議と、そんな姿を見ていると、身体に力が篭る。折れかけていた心に芯が宿る。
何故だが、とても暖かい気持ちになれる。
そうだ、そうなのだ。]
見つける見つけた見つかった。可哀想な古時計。《螺子巻アンダンテ》は狼狽えない。あなたをきっと、助けてみせるの
[ よく通る声が、寂しい談話室に響く。穴だらけの絨毯を、栗色のブーツが踏み締める。
《螺子巻アンダンテ》は正体不明神出鬼没の時計職人。
そう、“たかが不気味な部屋に閉じ込められた”程度で、謎の天才時計職人は動じない。そこに助けを求む時計の声がある限り。
耳を澄ませば聞こえてくる。この部屋の外からも、助けを呼ぶ声がする。]
大丈夫。あなた達は全員きっちり、この螺子巻アンダンテが救うから
村の設定が変更されました。
13人目、着ぐるみ? ヴィダル・サ・スーン がやってきました。
着ぐるみ? ヴィダル・サ・スーンは、おまかせ を希望しました。
[迷子の子供を探していた。娘のように可愛がっていたあの子供はほんの少し前に逸れ、ヴィダルはいつもなら、踏み入れない森の奥へと踏み入れた。]
一体どこへ、行ったんだ
[ヴィダルは迷子の子供を探して森の奥へ奥へと進んでいく。少しずつ変わりゆく景色に不安を覚えることはなかったが、あの子供がいなくなるのは何よりもヴィダルにとってはこわいことだった。
やがて森は突然途絶え、目の前に大きな洋館が目に付いた。少しだけ大きな身体の自分でも容易に扉を潜ることは出来そうである。
もしかしたら、ここに入り込んだのだろうか。
ヴィダルはゆっくりと真っ暗な扉の奥へと足を踏み入れた。ギイイ、と不気味な音と共に扉が閉まる音を背後に聴きながら。]
さ、こっちで本当の自己紹介ー
ロージードロシーは私のつけた魔法少女ネームよ!
本当の名前は美奈子…でも、これすっごくダッサイから嫌なのよねぇ。
もともとは美奈子老師って呼ばれてたわ。みなごろしのみなころうし、なんちゃって?
あー、そうそう。年齢も10歳じゃないわよ?
えーと、どれくらいだったっけ…?ま、とにかくたくさんね!
魔術と仙道で気ままに遊んでるわ。とりあえず、これくらいで!
[夢を見ていた。そんな記憶がある。可愛らしい少女が、甘そうな菓子をしあわせそうに頬張る夢を。]
…っは、ここは…そうか。私は、逃げて…
[一瞬見慣れぬ光景に戸惑うものの、すぐさま自身の状況を思い出す。窓に寄り、外の気配を伺う。]
追手はいないようだな…ん?窓が…直っている?
おかしい。人が近くにいれば、どれだけ眠りが深くとも覚醒するはず。なにか、仕掛けが…?
[窓ガラスを軽く調べてみても、魔術に疎い男に分かるはずもなく。幻かと眉に唾をつけてみても、ガラスに変わりはなく。早々に理解することを諦めた。]
ふむ…まぁいい。とにかく、そろそろここから出ていかなければ…かなり時間をくってしまったが、諦めるわけにはいかないしな…
[外の気配を伺うと、僅かに人の気配がする。気付かれないよう、慎重にドアノブに手を掛け、回す…ガチャガチャと、引っかかるような音が響いた。]
…?開かない?鍵穴は…ない。外鍵のみとは…仕方ない、窓から…と、はは、そもそも窓ガラスだけじゃない。鍵ごと消えてるじゃないか…!
[閉じ込められた。侵入者用の罠か何かか。努めて冷静に窓ガラスをナイフで切りつけたが、入ってきた時とは違い傷一つ付かなかった。そのままの勢いで、ドア、壁、床…どれも、傷一つ付かないことを確認する。]
参った…これはとんだ場所に逃げ込んだものだ。ここまで徹底しているんだ。すでに私がここにいることは知られているのだろう。近いうちに人が来る…そいつに対してアクションを取った方が賢明だな。
[大方、何かのトラップだろう。なら、こちらから取れるアクションはほぼ無いに等しい。そう考えて、無駄な体力消費をしないためにも備え付けられた質素なベッドに潜り込んだ。下手をしたら長期間拘束される。明日からの行動は明日考えよう、そんな事を思いつつ、男は再度眠りに落ちていった。]
あ、でもでも、一番得意なのは体術ね?
ぶっちゃけ、定休召喚ぐらいしかできないし。
プロレス観戦とか好きよー
…いったぁ……
[幸い、転がっていたクッションが衝撃を和らげたようで、怪我はしていないようだった。手をついて起き上がり、頭を振って周囲を見回す。そこは、埃っぽい図書室だった]
なに、ここ…?本たくさんあるし…
書斎とか、図書室とか、そんな感じ…
[後ろを振り返ると、そこにさっきまでいた部屋はなく、代わりに暖炉があった。そしてその上には古ぼけた長丸の鏡がかかっていた。急いで近寄って鏡に触れてみる。ペタペタペタ…いくら触れど鏡はただの鏡だった]
たぶん、ここから、出てきたんだよね…?
信じられない…どうしたらいいの…
[よたよたと数歩後ずさって座り込む。どちらかというと、信じられない出来事を前にして腰が抜けたと言った方が正しいか]
まず手始めにドアから調べてみる。
ガチャ……ガチャガチャ………
先ほど試したときと変わらず、開く気配はない。また鍵穴も見当たらないため、こちら側からドアのロックを外すことは出来ないようだ。この部屋には窓がなく、出入り口もこのドア一つしかないため、ここが開かなければ脱出は不可能である。散々ドアを調べまわした上でそう結論付け、スーはドアから離れた。
次に部屋の様子を調べる。
部屋にあるのは先ほどまでクリスと話をしていた暖炉、ここにたどり着いてから先ほどまで寝ていたソファ(二人掛け)×2(向かい合うようにして部屋の中央に置かれている)、ソファの間に配置された大きめの机、机の上には応急処置に使った救急箱が乗っている。
マントルピースの上には瓶に入った精巧な舟の模型、マトリョーシカ風の人形、青い目のフランス人形(正直、マトリョーシカとフランス人形を並べるセンスはどうなのかと思う)。
入り口のドアから見て右側の壁には大きな鹿の頭部の剥製が飾られ、無機質な目がスーに向けられる。左側の壁にはなにもなく、クリーム色をした壁紙が隠されることなく見えていた。
「使えそうなものはなんもねぇ、ってことかな……」
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