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― ゲルトの家 ―
[血にまみれた凄惨な現場は、すでに色が乾き始めていた。
その代わりに、不快な臭いが立ち込める。]
ゲルト・・・。
[酷いとアルビンに聞いていたが、想像以上だった。
確かに困った悪たれではあったが、こんな死に方しなければならないほどの悪人ではなかった。
道中で行きあって一緒についてきていた村の男が、ウッと変な声を上げて外へ駆け出した]
[村長も、出来る物なら逃げ出したかった。
しかし、村長だと言う責任が、その場に釘付けにしていた]
[時間が遅いからなんて軽く思わずに、全員を集会所に集めていればよかった。
獣柵をもっと早く修理すべきだった。
皆に人狼の話をして、注意喚起しておけばよかった]
[ゲルトを哀れに思うと同時に、別のことも思っていた]
[ああ]
[ゲルトで良かった。息子のペーターがこんな姿になっていたら耐えられない。
しかし、なんでよりによって、私が村長の時にこんなことが起こるんだ。
あるいは、隣村でもいいじゃないか。なんでこの村なんだ。
ここは平和で静かな、いい村なのに。それしか取り柄がないのに]
[小さな村と言えど、家々を一つ一つ回り、且つ老人や幼子まで一人残らず召集となればそれなりに時間と手間を要していたようで、昼の鐘を遠くに聞いてはっとする。
太陽は雨雲に覆われていた。
きっとこれから聖水が大量に求められるだろうな。
……あぁ、それとも求める人間が少なくなってしまうだろうか?
もし心の声を悟れる者でも居れば不謹慎だと後ろ指でも刺されたかもしれないけれど、声に出すことは無い。
急いで残りの家へと回る。
村外れにあるカタリナの家は、自然最後に回る事となったが
昨夜の村長の話>>1:167と今朝の緊急召集と。
それから、俄に囁かれていた噂を結びつけて早合点した村人が先に押し掛けていたかも>>17>>18]
[手を伸ばしてゲルトのうつろな目を閉じさせてやる。
逃げ出した男が帰って来ないので、ベッドのシーツを抜き取って、ゲルトの体にかけた。
首を出して見ると、裏庭で吐いている男を見つけた。
遺体をつつんだから、教会に運ぶように伝える。
弔いの鐘を鳴らしてから、シスターを集会所に呼ぶようにとも]
― 集会所 ―
[それから・・・、
誰かに会ったろうか。
考えるべきことが多くて、曖昧で]
[とにかく、今、村中の人々を前に、村長は立っている。
血の気のない白い顔で]
皆に謝らなければならないことがある。
私は、皆に隠し事をしていた。
[ざわざわと声が沸く]
近隣の××村が、全滅した。残ったのはたった一人。
青年負傷兵だけだ。
[ざわざわが更に大きくなるのを、片手を上げて鎮めて]
村人を食い殺したのは、「人狼」という化物だ。
そいつは村人を食って入れ替わり、隣人を夜な夜な食い殺すという。
[続きを言うのはさすがに声が震えた]
その化物は、今、この村の中の、誰かに成りすましている。
ゲルトが・・・今朝、殺された。
[ざっと、音さえ感じる視線が、ゲルトの年老いた両親に集まった。
ふたりはまだぽかんとしている。
心中を察することは出来たが、関わってはいられなかった。まだ話すことがある]
信じられなければ、教会に行ってみればいい。
遺体を運ばせた。
ゲルトの家は・・・誰か、片付けを手伝ってやってほしい。
[ゲルトの話はそれで打ち切って]
我々は、この中にいる人狼を見つけて、仇をとり、自分たちを守らなければならない。
幸い、昨夜集会所にいた人間は、容疑者から省くことが出来る。
集まっていなかったのは・・・、
[あんたはどうなんだ、と声がした。
あんたは途中、ずいぶん長く抜け出したじゃないかと]
[村長はムッとして声の主を探したが、分からなかった]
・・・よかろう。
では、私も容疑者だ。
これでいいかね?
[村長を疑うとは、身の程知らずめ。
だが、一理はある]
人狼を殺すには、陽のある内に処刑するしかない。
・・・この中の誰を殺すかを、投票で決めたいと思う。
足を潰したのと首を折ったのは、そうしてやろうとしていた、って話ですよね。
爪痕くらいなら、つけられるだろうって思ってました。
[『処刑』>>46
村長の言葉を聞けば、レジーナの顔が真っ青になる
息子が親友殺しの容疑者になるだけでも立腹だというのに、それが命を脅かすものになるなんて、と
崩れ落ちそうになる母を支えれば漸く、混乱して呆然としていた自分にも冷静な思考が戻ってくる
私が宿屋に残ればよかった。ごめんなさい、ごめんなさいと謝る母を宥め背を摩り]
大丈夫さ母ちゃん
大丈夫だから
[根拠の無いそれを、まるで真実であるかのように何度も何度も重ねて
友人のペーターは、父が容疑者になった事を泣きそうな顔で聞いていたろう
彼にも声をかけ、おじじがそんなことするわけないじゃないか、と告げれば彼は幾分か落ち着いただろうか]
・・・ゲルトさんが、殺された?
[まず浮かんだのは、たちの悪いイタズラの可能性だった。
怯え切った様子で走り去った村人を、カタリナは怪訝な目で見送った。
何のことか分からない。
そんなまさか、という疑いの目で見た。
しかし一方で、あの怯え方が演技ではない・・・とも直感している自分自身がいる。
そのことが、ゲルトさんが死んだ可能性を考えさせて――唇が震える。
カタリナは噂に疎い。
村外れの羊厩舎。訪ねてくる者自体が少ない。
カタリナから村にパンを買ったり本を借りにいったり、おすそ分けに行ったりすることはあっても狭い交流だ。
元々物静かな方なので、噂など殆ど耳に入らない。
カタリナは人狼どころか、何も知らなかった。]
[でも、と不思議に思う事が1つ
アルビンは外から帰ってきたのだ。どこで寝泊りしていたのか――宿屋ではなかったことからたぶん自宅にいたのだろう
あのぼろぼろの小屋に。だからペーターが告げ忘れたと考えれば彼が集会所へと行かなかったのは納得がいく
フリーデルも神父に教会を任されていた、つまり自分と同じ立場だったから集まるに集まれなかったのだろう。羊の世話をしているカタリナも同様だ
でも、他は?
そこまで考えてぶるり首を振る
考えたくない。今までともに笑いあい暮らしてきた彼ら
その中に、人狼がいるなんて
それでも母を、村の皆を守るためには仕方の無い事なのかもしれない
たとえこの手が血に塗れても――――人狼を、殺さなければならないのなら]
[この、耐え難い事実を受け入れ、話し合い、誰かを処刑するしかないのだろう
だってゲルトが、死んでしまったんだから
獣の爪で切り裂かれてしまったのだから
人狼に、殺されてしまったのだから]
[カタリナは、考える。
考えながらも手を動かした。
羊厩舎には雨が降った時や、台風など何らかの事情で羊達を外に出せない時のための備えがあった。
天気はいつ悪くなるか分からない。
だからといって、羊に何も食べさせないわけにはいかない。そうした時の備えは常に確保してあるのだ。
――暫く、ここを離れるかもしれない。
そう、考えた。
もし、話が本当なら。
村に噂の真相を確かめにいく必要があるだろう。
嘘であって、ほしかった。]
[ガーディとハーディは、当然だと言うようにカタリナを慰めてくれる。
守っているつもりで、守られてもいる。
それに支えられていると、改めて思う。
しばらく、そうしていた。
カタリナは、泣いてしまった。
もし、本当にゲルトさんが死んでいたなら。
その可能性についても、悲しかった。
そして、この子たちのありがたさについても。]
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