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@>>11>>12 柳
………、へェ。
そりゃまた、"素敵"なお題だねェ。
君と違って"枯れてる"俺には、ちっと厳しいだろうなァ。
[彼がこの秋励む事になったらしい、その何とも俗物的な秋の名に、クツと喉を鳴らし。チラと其方に視線を向ければ、見えるのは黒い背中ただひとつ。揶揄の言葉を返しながら小さく肩を震わせる様は、きっと見られなかったに違いない。
コツン、コツン。閉じられた空間の中、指でボタンを叩く音だけが響くのを聞きながら、"優等生も大変だねェ"、そんなぼやきをひとつ投げた。
しかし、何とは無く投げた言葉にその音は唐突に止み。暫しの間静寂が支配するその空間に眉を寄せていれば、漸く聞こえて来たのは何とも朧げな空返事。
空虚なその声に、ピクリ。戻した緩い笑みの眉が、ほんの少しだけ訝るように持ち上がる。]
↓
↓
…あーあ、擦ると広がっちゃうでしょ。
その学ラン、汚すと面倒なんじゃないの。
[結局、その白い布は彼の手から外される事は無く。どうにも人情の機微には疎い自分は、抜けた肩の力になど気付かぬままに、呆れたように嘆息し。やはりへらりと笑いながら、ふ、と自分の顔へと親指で触れる。
そうして、指の腹に半乾きの紅い色が乗ったのならば。壁から背を離し、扉の前へと足を進める――きっと"優等生"の彼なら、"教師"の自分に扉を開けてくれるんだろう、そんな揶揄を滲ませた視線を、彼へと向けながら。]
仕返しに挟むなんて子供っぽい事しないでよ、"優等生"。
[自分の事は棚に上げた、そんな軽口を叩き。階のランプが移動する瞬間、彼の方へと向き直る。そうしておもむろに、薄く赤の乗った手を、整ったその顔へと伸ばした。
その手が、指の腹に乗った赤がその頬へと届いたのなら。まるで滲んだ返り血のようにそこへと乗った鮮やかな色を、愉悦の篭った瞳でほんの僅かな間だけ、眺めはしただろう。
――チン。
到着を告げる音が、この白い空間へと小さく響くのを聞きながら。]
[吐き出された“残骸”
痛みに漏れる声は喘ぎのように情けなく震える。
やや尖った八重歯で唇に思い切り歯を立てる。
舌から広がる赤の味を コクリ。喉を鳴らして。]
──………。
[腹を押さえつつ、立ち上がったか。
キラリ、と鈍く光る刃から赤い雫を垂らしながら。]
[“嫌いになった?”
問いかけに怒りに熱を発した瞳が凪いでいく。
ハッ。 鼻で嘲笑。
眉を下げて 口角をにぃっと上げて。くつりと喉奥で一笑。]
………*あいしてる*
[チェシャ猫は 本当の ことを****]
[男の答えにテオドールは満足したのだろうか。
それを確かめるつもりも無いし、反応により態度を変えるつもりもないのだけど。
欠けた耳を止血もせず、踏み出した足に応えるように走り出して。
彼の膝が落ちた時は、その頃だったか。
呆然とした様子で座り込む相手に
これはチャンスだとばかりに振り下ろした獲物は真っ直ぐ彼の首元へと──……]
──つまんねェの。
[行かずに。
不思議そうにキョトンと見下ろしては、ナイフの刃でぺたぺたと相手の頬に触れようとしていたところ。]
[嫌いではなく、"愛してる"という言葉には上がりかけていた口角が震えた。
足を地につけたのはその後だったか。
こちらに駆け寄る相手の手には、鋏が。
真っ直ぐ喉元を狙って突き出された、血のついた金属の先端は――…
男の頬に冷たい感触を与えた、のみ。]
………またそれ?
いっつも途中で止める癖、まだ治ってなかったんだ。
[駆け寄るまでの一部始終を特に危機感を抱かず、貧血で色彩が曖昧な目で眺めていた。
…相手が、動きの緩慢な獲物をいたぶる事はすれど、殺しはしないのは昔からだから。
呆れたような、拍子抜けたような溜息を一つ。]
[ペチペチと肌を鳴らす鋏を持った手を引き寄せる。
座ったまま、やんわりと伸ばした足で相手の足を軽く払って。
そうすれば、相手は床に伏してくれただろうか。]
俺とアンタの出血量が同じ位になったら再戦…ね。
[言いながら、重い腰を上げると相手の身体の上に尻を置いただろうか。]
…前に勝ったの、どっち*だったっけ。*
[──ぺたり。
走り出す瞬間に一振りしていたからか、血の落ちた鋏の刃を相手の頬に押し付ける。
ぺたぺた。ぺた。ぺたり。
凪いだ瞳は熱を孕まず、ただただボンヤリとつまらなさそうに弾力性を楽しもうと刃をあてて。]
………殺し甲斐ねェだろ?
全力で来ずに呆気なく壊れるモンなんかいらねェよ。
[“壊さなけれいい”あの桃色の部屋で彼に言われたことを思い出した。
何とも言えない背筋が痒くなる…というか。お互い求婚者なんて何を思って選んだのか。その理由も結局尋ねることが無ければ、理解することも無かったけれど。]
……脆い玩具より丈夫な玩具。
[それが欲しいから、彼を選んだ。
なんてことは絶対に言いたくない。
そのために呆れ顔でため息を吐く相手の頬と、引き寄せられてしまうまで戯れていただろう。]
[無駄に長い足が踵辺りに触れる。
転ける。そう重いつつ手を付けば先程やりあったためか、ズキズキと疼き。
顔を顰めたまま、床に伏す。]
…………重てェ。どけ。
[背に相手の体重が加わったのなら、静かな声で主張し、彼の質問には、
3(15)回の喧嘩の内3(5)勝2(5)負2(5)引き分け…だったような。 ]
[喧嘩の回数は15回だ。その内覚えているのは8回。
残り7回は記憶の端から抜け落ちてしまうくらい退屈なものであったのか。
はたまた思い出したくないものであったのかは、心に秘めておくことにして。]
俺が一回多い。…今のなんてまさに俺の勝ちじゃねェか。
[転がりつつも、鋏を持った手でぶんぶんと空気を切り裂く。
それでもそれにさえ飽きたのか、ため息をついて。]
……休むならソファでいいだろ。
…………どけって。
[身動ぎしつつ、軽く顔をそらせば体重をかける男を軽く睨もうと。]
[立ち退きを主張する言葉は軽く受け流す。
そうか、相手の方が一回多く勝って…指折り数え直した勝敗回数は、15回中8回は2勝3敗2分、7回のうち1(3)勝1(3)敗1分だったような…
覚えていない分は、たぶん思い出したくないのだろう。]
ああ…そうだった。
じゃあ今日のでアンタが2回………ぁぁ…ぅん…
[回数をまともに口に出すと差が浮き彫りになるようで。言葉尻に間抜けな感嘆が混ざった。
初めての喧嘩で、腹を裂かれた。
何回目かの喧嘩で、耳に百足を入れられた。腕の骨を折られた。ビルから落とされかけた。
……改めて思うが、俺はコイツを殺していいのではないだろうか。
挙げ句の果てには"玩具"呼ばわり。
オマケでついてくる"愛してる"の言葉。
どちらも、男が大嫌いな単語だと分かった上で言い放つのだから腹が立つ。]
[無視をすればいいのだが、完全にこの天敵を屈服して"嫌い"の一言を言わせるまで、男はおそらく――…]
……――…かつく
[シャキン、シャキン、音がうるさい。
背中に乗ったまま、相手の後頭部をはたいてやった。
思い出したくない事まで思い出しそうだ。
眉を顰めて緩慢な動きで立ち上がる。
そこから見た床に伏した相手は]
……サスペンスドラマの死体みたいだよ、今のアンタ。
[うつ伏せの肢体。耳たぶから広がる出血は、まるで頭部を銃弾で撃ち抜かれた死体のようで。
それだけ言い残すとフラフラした足取りで向かったソファに沈み込んだ。
ナイフをホルスターにしまい込んで、ゴロンと横になる。
薙ぎ倒した天敵には手を差し伸べも*しないまま。*]
[回数を口にすれば蘇る過去の記憶。
まず、出会いは何処からだっけ。
あまりに強烈過ぎる記憶は端々しか脳裏に浮かばないことを今改めて知った。
嗚呼、確か腹を割いてやった。
女じゃあるまいしそれくらいはいいだろうって。
何回目かの喧嘩で百足を耳に入れてやったのは、何処ぞの小説で読んだ話がきっかけ。
理由は単純明白。
どんな感じなのか知りたかったから。]
………どれもなかなか面白かったなァ。
[何だか 興奮してきた。]
[下腹辺りにズクリ、と。
熱が灯りつつあったのだが。
乾いた音で頭に打撃。
思考が遮断されれば、合わせて鋏の音も止まり──…]
………じっちゃんの名にかけて解き明かせよ、少年。
[軽口を叩く姿はにんまり顔で鋏を持っていた時よりも落ち着いており。
重みがなくなったのなら、立ち上がりつつ腰を上げる。
ふらふらと足取り覚束ない相手を眺めつつ、後を追いかけて]
…………。
[無言でその身体にのしかかってやった。
抵抗される前に目蓋を下ろせば、*おやすみのポーズ*]
………し、て…る。
[相手の耳元辺りに唇を寄せられたのなら
ボソボソと 自分すら聞き取れない言葉を囁いて。
その後、何と無く首元辺りに頭を固定すれば、一度擦り寄るような真似をして、
*猫は欠伸を咬み殺す*]
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