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[アサドの動きは明らかに鈍かった。自己強化魔法を用いて瞬発力を高め、長刀がダメージを与えられるギリギリの距離を見切って斬りつけ、一瞬にして相手の間合いから引き下がる。緩急自在の動きこそがアサドの持ち味であった。
だが今はその動きにキレがない。
まるで初めての邪竜討伐に参加した新参の戦士のように間合いもタイミングも全てがちぐはぐのまま刀を振るっている。
とうぜんその体には致命傷は避けているものの多くの傷が刻まれていく。
御前試合ですらもその身には一つの傷も負わなかったというのに。]
膂力:10
速力:60(100)
技巧;30
体力:10
魔力:50(10)
()内は風発動時。
ただし全力行動後は動きが取れない。
フフ……ハハハ……。
[だが笑っていた。アサドは確かに笑っていた。
そして、鳴りつづけて甲高い音が……止んだ。]
──نحن!!
[次の瞬間に聞こえたのは竜の咆哮。いやそれは悲鳴に近い叫び。
遂にアサドが水平に振るった長刀が邪竜の指一本を斬り飛ばした。]
なにをやっている?
[サイフラには聞こえぬ声音で、呟く]
(もしかして、剣に欠陥でもあったのか?)
[いや、それは絶対にない。あれはリーマン・ハンマーズ500人の結晶ともいえるべき、会心の作だ。
サイフラを助けこそそれ、その足を引っ張るようなものではない]
しかしいったい……えっーい。
[考えるのをやめる。いまは少しでもサイフラから邪竜の狙いを逸らすのが先決だ。
そう考えて、邪竜へと向かおうとした時]
な……?
[あっさりと、サイフラが邪竜の指を一本切り飛ばした]
むっ?
ミルファーク殿は二人の様子が分かるのか!
元気で居ると良いのだが、もしも分かるのなら
中継が入るまで教えてもらえませぬか!!
どんな小さな事でも構わない!
[一方、スズメは信じきっているからかどうかは
わからないが、先日サイラスから貰ったアイスキャンデーが
いたく気に入ったようで、自ら歩き売りを引き止めては
購入していた。
その間に、大会運営によって蜃気楼の如く別の場所の
光景が浮かぶ魔法が発動された。
少々ぼんやりとしているが、見えないよりは良いだろう。]
むっ?
ミルファーク殿は二人の様子が分かるのか!
元気で居ると良いのだが、もしも分かるのなら
教えてもらえませぬか!!どんな小さな事でも構わない!
[一方、スズメは信じきっているからかどうかは
わからないが、先日サイラスから貰ったアイスキャンデーが
いたく気に入ったようで、自ら歩き売りを引き止めては
購入していた。]
/*
メモを見て、ちょいと運営からの中継のあれやそれは置き。
きっとド派手に地下から出て来てくれるって信じてる。
[リーマンには見えていただろうか?
アサドの刃が邪竜の"穢れ"を切り裂いたのが。
竜を殺す為、元の竜ごとその身を斬り捨てるアル=サイフラの剣術。だが、たしかにアサドは竜の核ではなく邪竜の穢れだけを切り裂いた、その一撃が見えただろうか。]
ようやく……できた。
[魔力の運用がそもそも違う。竜器たる【アル=サイフラ】の刀としての力を増すのがアル=サイフラの技ならば、これは竜の王国の戦士が使う邪竜を祓うための技。
その技をを今アサドは初めて使って見せた。
それはリーマンが邪竜の目を裂いて見せた技と同じ魔力の使い方。
アサドはリーマンを師としてその技を盗んで見せたのだった。]
(とにかく陽動を……)
[リーマンは風を使い、邪竜に攻撃を開始する。
だが、攻撃を繰り出しながらも、疑問符がよぎる。
理解こそ己が力と認識しているリーマンだが、分からないのだ。
あの攻撃の質が……。
いや、本当は理解している、そうであろうと、そうなのだろうと、だが本来は「無理」なことなはずなのだ。
普通は出来ぬはずなのだ。だがこの男はやってのけているのだ]
この短時間に攻撃の質をかえただと?
[十年以上培った剣の質を、わずかこの短時間で塗り替えてみせたのだ]
きゃあ?!
ギャランさん声が大きいです……。
[わたしはしゃがんだまま、耳をぺたんとする。
地下の音は一度途切れた]
[すると……]
[ぱぱっと上空が光ったかと思うと、
何かが浮かび上がってきた。
一瞬鏡かと思ったが違った。
……それぞれ別の地下水路らしき場所にいるのは、
グレダとサイラス]
……あ……!
あれ!
難しいものだな。
[もちろんリーマンから技を盗んだといってもリーマンと同じことができるわけではない。
だがその性質は限りなく近く、邪竜の穢れを払うに十分な威力を発揮した。]
根から断ち切るほうが幾らも簡単だというのに。
[だがこの竜にはそれが通じない。それはこの邪竜が人々がアサドにみた恐怖の具現化だからだった。
同質の力を持つのならば当然勝つのは元来の力が強い方であるのが道理。
そして人の力が竜の力にに勝ることができないのも道理だった。
故に、アサドは振るう技を変えた。]
[無論、容易なことではない。
如何に器用であろうとも、如何に才気に溢れようとも、生まれてより叩き込まれた技を捨てることはできない。
だが……アサドの手にはリーマンの鍛えた刀がある。
リーマンがアサドの為に、アサドだけが使える、アサドの刀がその手にはある。
その形、その重さ、刀の全てがアサドの為だけに整えられた竜器が今アサドの手にはある。
そして───竜器とはそれと鍛えた鍛冶師とその相棒竜の性質を色濃く宿す物である]
(ふむ。来ない、か)
[水で満ち満ちた地下水路の中。水圧は上がり、パラで支えるのにも限界が近かった。
アズゥの魔力で水を弾き、確保した空気で息継ぎをしながら、最低限の魔力で水を塞き止める。
元来水中に潜ることには適した体だ。全身が水に浸かったところで問題はない]
できりゃあこの場で…ま、そりゃ贅沢ってもんか。
[ロサを失い、水を自在に呼ぶことができなくなった以上、水に満ちた場でやりあうことができれば理想的、ではあったのだが。
地下水路が水で満ち、瓦礫の音が聞こえなくなって幾許かの時間が流れている。
今頃、井戸や噴水、地表の水路、そういった場所から水が溢れ出している頃合だろう。
まさか、サイラスが溺れているなどとは欠片も思わない。
サイラスは賢い男だ。
ここまで戦えば、その事実はほとんど確信に近い]
…っ…ぁー…あとちょっとだけ、保て。
[アタシの体。アタシの魔力。
水に浸かっても、泳ぎに困らない。息継ぎに困らない。けれど、全身の裂傷から血液は流れ出る。
パラの魔力で流血を押さえ込んではいるが、水を塞き止めるのと平行しては完全とは行かない。
限界が、近い。
水はすでに満ちている。仕掛けるならば、今]
頼んだよ。アズゥ。
[最後に残したなけなしの魔力をために溜めてアズゥに込める。
溜め込み、引き絞り、一気に放出する。
アズゥの魔力が水を弾く。
狭い空間に満たされた水は、一気に弾かれたことで圧力の逃げ場を求めて急速にその衝撃を伝播させる。
風呂の配管でたびたび起こり、配管をダメにしてしまう厄介な現象で、名を、ウォーターハンマーという。
その伝播する衝撃を追うようにして、グレダもまた水中を泳ぐ]
[町並みのあちこちで、ウォーターハンマーに叩かれ、井戸や噴水など、小さな出口から打ち上げ花火のように水柱が噴きあがった。
その柱のひとつに、グレダの姿があった。
上空から見渡し、見つける。街中を駆ける赤い男の姿]
さぁ。
[魔力はもはやすっからかん。水柱のかく乱もどれだけの効果があるものやら。
けれどそれで負けると言う気はしない。
あとは、パラとアズゥ、そして自分の腕と足を信じるばかり]
行こうか!
[アズゥを上空へと放り上げる。
手に持つのは、パラの鎖、その一本だけ。
水柱の水を蹴り、頭上からサイラス目がけ、落下する。
反撃は当然あるものとして警戒しながらも、狙うは武器を握るその手。
竜器自体の破壊が困難であるならば、叩き落して戦闘力を奪う]
[ 永い永い一人の戦士の物語。
その数分の1ぐらいしか生きていないうちにとっては、さながら英雄譚のよう。
後悔もうちが理解するには遠いけれど、守りたかったり取り戻すために動く気持ちは分かる気がする。 ]
……聞かせてくれて、ありがとうございます。
[ ずっと押し黙ったままだったけど、エステルが言葉を切ったときに漏れた言葉は、この言葉だった。* ]
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