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恋人
何もない家でした。何もない家の床の上に、男の子が一人座っていました。
男の子はずっと一人でした。この家には誰も来ません。
友達も、御用聞きも、セールスマンも配達人も誰もです。
家の扉には張り紙がしてありました。
「帰る人は来ないで下さい」
つまり、この家に来た人はそれから一生この家から出てはいけないという事です。
たまに、扉の前まで来る人がいても、この張り紙を見ると迷ってうろうろした挙句に帰ってしまうのでした。
強情な少年でした。
唇を噛んで座っていました。
幾度の季節が通り過ぎ、どれだけの時間が流れても決して張り紙を剥がそうとはしませんでした。
誰も来ないと分かっていても、張り紙を剥がそうとはしませんでした。
男の子はずっと一人でした。
それは、夕暮れ時か、それとも夜だったのか。
男の子にはわかりませんでしたが、誰かが家の扉をコンコンと叩きました。
男の子は最初、動きませんでした。風の音だろうと思ったのです。
二回目のノックが響いても、男の子は動きませんでした。
気のせいだろうと思ったのです。
三回目のノックが響いても、男の子は動きませんでした。
自分の勘違いだろうと思ったのです。
四回目のノックが響くと、男の子は自分のおでこに手を当てました。熱は無いようです。
五回目のノックが響くと、少年は飛び跳ねるように立ち上がり、扉に近づき、声をあげました。
「誰?」
「私です。あなたの恋人です」
「嘘だ。ぼくには恋人なんていないよ」
「嘘ではありません。ここを開けて下さい」
「張り紙が見えないの?」
「見えますよ。帰る人は来ないで下さい、ですよね。とてもきれいな字ですね」
「そうじゃないよ。どこかにいっちゃう人は来ないでって言ってるの」
「私はどこにも行きません」
「ずっとだよ?」
「もちろんです」
「死んじゃうのもダメなんだよ?」
「私は死にません」
死なない人間などいる筈がありません。
この人はぼくをからかっているんだ。
男の子が唇をかみしめようとすると、かすかな痛みを感じました。指先で触れてみると、ぬるりとした血が付着しました。
ずっと長い事、唇を噛んでいた事すら忘れてしまうぐらい、長い時間そうしていたので血が出ていた事にも気付かなかったのです。
思えば本当に長い時間でした。男の子がそれまでの日々を意識した途端、男の子の背中に冷たい空気が纏わりつきました。
それは、ずっと忘れていた寂しいという気持ちによく似ていました。
そして少年は、思わず扉を開けていました。
その女性はムゥと名乗り、男の子の傍らに座りました。
男の子は誰かが隣に座るなんて感覚も記憶もなかったものですから、緊張してしまい身じろぎする度に骨がぎしぎしと音を立てるようでした。
女性は男の子の唇の血を拭ってくれました。
櫛で男の子の髪を梳いてくれました。外で起きたたくさんの出来事について話を聞かせてくれました。
それはとても面白く、男の子も何か話してあげたいと思うのですが、ずっと家の中で座って居た為、何も話すことが出来ずただ女性の話に耳を傾けていました。
男の子は幸せでした。
それは眩く輝くダイヤモンド色の幸せでした。
月日が経つと、それはキラキラとした金色の幸せに変わりました。
更に月日が経つと、それはささやかな銀色の幸せに変わりました。
やがて、それは黒ずんだ鉄色の幸せに変わりました。
男の子は昔を忘れました。一人の部屋の静けさを忘れました。
ムゥが自分を置いてどこかへいなくなってしまうんじゃないかと言う不安も忘れて、ずっと鉄色の幸せでした。
ある日、目が覚めるとムゥの様子が変でした。
「どうしたの?」
男の子が訪ねても何も答えません。ただ悲しそうな目で男の子を見つめるばかりです。
そのうち、男の子が見ている前でムゥは鉄の鋏に姿を変えてしまいました。
男の子はまた一人になりました。以前と違う事と言えば、男の子の部屋に鉄の鋏があると言う事だけでした。
一人の日々が流れました。男の子はじっと座り続け、唇はまた血で染まりました。
ある夜、またノックの音がして、ムゥと名乗る女性が現れました。
男の子は躊躇いながらも扉を開けて女性を招き入れました。
女性はまた男の子の血を拭い、髪を梳き、決して帰らないと約束してくれました。
その後も、また同じです。ダイヤモンド色の幸せから金色、銀色を経て鉄色に変わりました。
そして今度の女性も、しばらく男の子と暮らすと、鉄の椅子に姿を変えてしまいました。
男の子は鉄の椅子に座って、また唇を血に染めました。
それから、何人ものムゥを名乗る女性が現れては男の子の血を拭い決して帰らないと約束し、カーテンやらベッドやら包丁やらに姿を変えていきました。
不思議な事に、女性が何かに姿を変えるまでの時間が少しずつ短くなっていることでした。
例えば、663人目の女性は、2分もたたない内に耳かきに姿を変えてしまったのです。
その家には物が溢れ返っていました。足の踏み場のない程、たくさんの物で溢れかえった部屋の真ん中に置いてある鉄の椅子に座って、男の子は唇を血に染めました。
男の子は一人でした。この家には人が訪ねてきます。
男の子は躊躇いもときめきも無く扉を開けると、女性が鉄色の何かに変わるのを見ていました。
それからもっと長い月日が経ち、ノックの音が聞こえても、もう男の子は扉を開けませんでした。
それでも男の子は唇を血に染めて、椅子の上に座っていました。
男の子は一人でした。
おしまい。
見習い ミリアは、潜入者 キリル を投票先に選びました。
見習い ミリアは、ランダム を投票先に選びました。
甘党 シュカは、考古学教官 アミル を能力(排除)の対象に選びました。
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