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(――でも、それじゃ、駄目なんだよ)
……でもな、セシルに守って貰って。
それじゃ、情けないって今更だがよ。…駄目なんだよ。
――化け物を抱えても、俺の心は化け物のモノじゃないから。
(『自分が化け物で無いと言い張るのか?結局お前は、『そういうもの』でしかないというのに、)
[心の中で、誰かが嗤った。でも、それでも。だからこそ。
自分の心は、人間のものだと確信出来る。奥に潜む声こそが化け物で。
同じかも知れないけれど。別なのだ。
そう思えば――、いつの間にか身体の獣化は収まって再び人間として彼を取り戻していた。完全に暴走は未遂で終わっていて。。]
……もう居場所が無いなんて言わない。
俺はこんなでも、『人間』で居たいと思う。
お前が『人間』の俺を信じてくれるって言うなら――。
――俺も、お前を信じるよ。グレン。
[何処か吹っ切れた様に、悪戯っぽく、にやり、と嗤って。
それは昔とも、先程迄の歪なものともまた異なっていた]
……俺は女神なんて最初から信じちゃいない。
それにこんな身体だ。神の敵でもなんでもなってやるさ。
[それから一つ頷いて、]
…ああ。もう勝手にどっか消えたりしねえよ。
――ほら、格好良かったのに最後に震えちゃ決まらねえだろ?
[そう茶化しながらも、グレンの手を取る事に決めて。
セシルの方へと再び向き直る。]
……悪い、セシル。
――俺は組織の方に付く事にする。だから、その誘いには乗れない。
…セシルは、連合の方から…、動く気はねえんだよな?
―闇の底―
[腕の中に収まった彼女は、小柄で、思っていた以上に華奢に感じられた。強く抱けば壊れてしまいそうな気がして、腕に込める力は、そっと緩やかに]
面倒くさいだなんて、
思ったことは、ありません。
……仮にそうでも、貴女なら、許します。
[冗談交じりにそう告げて、顔をあげた彼女を間近で見つめ返した]
涙を流す貴女も、綺麗でしたが。
やっぱり、ツリガネには、笑顔が似合います。
[最後にそっと頬に触れて、彼女を腕の中から解放した]
[>>24顔を伏せたままのあなたへと歩み寄り獣の毛並が覆っていく手へと触れる。
恐る恐ると顔を上げたあなたに小さく笑いかけた。
そこで、後ろからアレクの親友の叫びが聞こえた。
目の前でグレンの方へと視線を向けたアレクシスがいる。
その言葉の内容と、彼の表情の変化を見て、誰も視線を此方に向けていないから苦笑を零した。]
(負けたなぁ)
[ガシャンと落ちた銃と震えた声でこの場に沈黙が落ちる。もう必要のなくなったグレンへの警戒をしていた死者の兵が崩れ落ちる。
目の前の彼は悩んでいるけれど、「人間」としての彼を信じると言い切ったグレンにはきっと自分は勝てないと思った。]
(男の人ってずるいなぁ)
[なんても思ってみたけれど、一番の差は性別ではない。自分はアレクに決意を問うたけれども、人としての決意が自分よりもグレンの方が上だったんだろう。
自分の奥にあるのは結局のところ、目の前の彼と似た「どうせ私なんて」って言葉だ。さしたる価値や確固たる「人」を自身に見いだせない私と違い、後ろに立つグレンはあの頃から5年で確固たる人として自分の道を歩いて来た自負も存在もあるのだろう。だから彼は「人間」として信じると言えるんだ。
私には言えなかった。ただ何でも良いから彼が1人なのは嫌だと思った。]
[だから、再び顔を目の前のアレクが上げた時に手を引いて、立ちあがった時に一歩二歩脇へと避けた。グレンと自分とを交互に見つめる目に笑みを返した。
放たれた答えと人に戻って行く体は予想通りの物であると共に、予想通りであって欲しいと思ったもの。少しの残念な気持ちと、安堵と嬉しさとを混ぜたような複雑な気持ちを運ぶ物だった。]
[悪戯っぽく笑う顔も話す言葉もさっきまでとも、帝国にいた頃とも違うものだ。
何も言葉を挟まずにそのやりとりを見つめて、此方へと向き直ったアレクを見上げる。]
振られちゃったね。
うん、でも、アレク君にはそっちの方が良かったんだと思う。
――誘ってくれてるの?
……振られてカッコ悪いついでに心配性をもう一個。
アレク君、グレン君に答えるならおんぶに抱っこじゃいられない。グレン君が「人間」と信じてくれるから、グレン君と組織で戦うっていうんじゃ、居場所があるからと変わんないよ。人としてかバケモノとしてかってだけ。
戦う理由がないなら戦争からなんて降りるのも手だよ。死んだことに位してあげられると思う。
……お兄ちゃんは連合の兵に殺された。だから、私は連合に勝って貰わないと困るの。組織には行けないな。
―回想・孤児院―
[質素なシャツに半ズボン。孤児院に来て間もないアルフは、普通の少年として暮らしていた。
孤児院の暮らしにも少しは慣れてきたけれど、母を亡くしたかなしみにうなされる毎日は、アルフにとって少し、退屈で、さびしくて、だから礼拝堂のシスターにさえ口なんかきかなかった。
……たいくつだなあ。
[大好きだった絵本も、部屋に閉じこもって読みつづけていれば、母がそれを読み聞かせてくれているような気がして余計にかなしい。
だからアルフはめったに部屋には戻らないで、孤児院の中や、外の森をさまよっていた。
とうぜん、孤児院のみんなとなじめっこなんかない。
おなかがすいたりお風呂に入りたくなったときは、少しだけ時間をずらしていくことにしていた。]
(おなかすいた)
[何かお菓子の残りでもないかと、食堂へ足をむける。望んだものは見当たらない。おなかが悲しげに空腹を訴えてきたので、せめて、とアルフは厨房を覗く。
と、ふわん、と、かいだことも無い不思議なにおいがして、アルフは生唾を飲んだ。
なんだろう、と見つめる先には異常に赤い野菜炒めと、そして華奢で、優しげな瞳の少女が立っている。]
(なんだろう? 不思議……)
「どうしたの?お腹すいた?」
[アルフに気づいて、そう優しく声をかけてくれる。>>3:+26
黒髪が綺麗な女の子のことばに、好奇心とおなかの虫がアルフをこっくりと大きくうなづかせていた。]
「仕方ないですね。
夕飯もあるから、あまり食べちゃだめですよ?」
[孤児院で誰かと話すなんて、めったにない。それもご飯を分けてくれるなんて。
[アルフはどきどきしながら、その赤い野菜炒めを口に入れた]
(……う)
[舌先に広がる、未知の感覚。ひりひりと舌が、のどが、そして頭までも焼け付く心地]
ああ、うあああ!
「え、ええと。水?水ですか?」
[慌てふためく少女。
舌先の熱さに涙がぼろぼろとこぼれて、アルフは水、水、と舌足らずにわめきながら、あふれる涙をぬぐう。
少女が何か液体を差し出せば、それが水とは確認もせずに飲み干してしまうだろう**]
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