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[クァルトゥスは、もっとも効果的と思われる高さに到達すると、身の丈を越える槍を回転させた。]
──…ッァアアアアッ!!
[咆哮]
[巨躯から繰り出す──“力”──で、
すべてを吸い込まんととぐろを巻くする空虚なる暴風の《青》、ザリチェの渇きを押し返した。]
[荒れ狂う渇きの熱風と化したザリチェには、もはや何の声も耳には入っていなかった。
或いは、この崩壊していく城の有様も、先に憎しと言い捨てたクァルトゥスの姿も、目に入っていないのかも知れない。
暴風の中心で、ザリチェは答えの返らぬ問いを全身で世界に向かって叫んでいた。]
[クァルトゥス、と囁くように名を呼んだろうか。]
―――!
[緋色の動きに合せ、地を鋭く蹴る。
身軽さを最大に生かした速さで。
赤が切り裂く。
生まれた青の空隙。
そこへと目掛け
寸分違わぬ正確さで
蒼纏う悪魔の心の臓を――銀の針が貫くだろう]
[嫉みでも、
憎しみでもなく、
怒りでもまだ足らぬ、
それらすべてを内包してなお純化された想いを。
──何故、なにゆえに、と。]
[ それは胸塞ぐ痛み、
呼吸すらままならぬ痛苦。
意味さえ分からぬまま、ザリチェは内腑を抉る痛みに沈む。
……その深奥、深い青の中心を銀の針が貫いた。]
[すでに崩壊し砂漠と化した屋敷に続き、庭や城壁にも“渇き”の力は及ぼうとしていた。
ヴァイイ伯のあの石庭。幾何学模様を描いた黒石の1つが吸い込まれる度に、そこに施された魔術に影響するのか、雷鳴に似た鋭い音が響いた。]
[崩壊楽曲]
[ひとつ、一枚、一枚。
庭のテクスチャが剥がれ──露出していくのは。果たして…]
[やがて、地上には彼等《候補者》の名が刻まれた石板が要所に突き刺さった、巨大なひとつの魔法陣が姿を現す。
モノクロームのそれ、精緻に編まれた陣の中央に、暴風の中心──ザリチェの姿が有った。]
[嵐の中心核が打ち抜かれたその瞬間、
渇きの器を支えるちからが喪われ、
内側へと崩壊
見開いた青い瞳からひとすじ
透明な滴をこぼして、
ザリチェはおのれ自身が生み出した虚無のなかへと*堕ちていった──*]
[蒼が、崩れていく。
砕いた硝子の欠片のように煌きながら
それを 間近で眼に焼き付ける。
かれは 最期、
――泣いて いた?]
[編んだ銀が解けて、
最後の蒼の煌きに混じって溶けた。
後には 砂ばかり]
……、く……
[蒼の引力の影響か。
色彩が溶けるのを見届けると、
そのまま地に膝をついた。]
─辺土─
[乾いた風が吹いている。]
[襤褸布のように、風に揺れているのは白い皮膚の残滓。
銀の雨に打たれて裂け、千切れ、引き裂かれたマネキンの内側に詰まっていたものは黒い体液を詰めた無数の蛆。裂け目から零れ、地に落ちては潰れる。]
――――厭。
[柔らかい肉を作っていたものが、白い肌を偽っていたものが、止め処なく零れる。]
――――厭。
[かき集めようとした指の隙間をこぼれ落ちる。指が落ちる。掌が崩れ、腕が滴る。]――――厭。厭。厭。[歳を経て、最早何とも判らない障気で染め上げられた黒い骨が露出する。既に肉も筋も無いというのに骨は動き
―――もとの形を取り戻そうと、零れた蛆を浅ましくもかき集める。]
いや―――――わたしは
[醜くなど無いのだ。
それは、何時からか意思を持った群体の呻き。柔らかな肉に憧れた骨の苦悶。清らかな肌に憧れた虫の慟哭。]
[頬は殺げ落ち、出来た傾斜を耳が滑り落ち、頭皮が雪崩れ落ちて髪が地に落ちた。爪が矧がれて腐汁にまみれた。肘から先では骨だけが、崩れる身体を*抱き締める。*]
[ザリチェが完全に姿を消したその刹那──
ヴァイイ伯の敷地一帯に施された魔法陣が、砂塵を舞い上げて歪んで揺れた。
雷鳴が確かに三度轟き、陣に突き刺さった石板が、黒い幾何学体で作られた花火になったかの様にして砕け散った。音は無かった。
ザリチェが力を解放したその“立ち位置”が、魔法陣の崩壊に関与したのか、はたまた別の何かが要因であるのか、それは定かではなかったが。
──静寂。
その場所には何も残らない。
ただ、膝を付いたウェスペルの背後に、地上に戻ったクァルトゥスの姿があった。]
[クァルトゥスは、当たり前の様にウェスペルの腰を抱く。
ウェスペルが《青》を注視していた事が、上空に居てザリチェの涙を見る事の無かったクァルトゥスには不可解だったようだ。]
・・ウェス。
何か見えたのか?
[ウェスペルの目蓋にくちびるを寄せ、*そう囁いた*。]
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