情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
[1]
[2]
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
[8]
[9]
[10]
[メモ(自己紹介)記入/メモ履歴/自己紹介] / 発言欄へ
渇きの君 ザリチェ は 地上の穢 ロネヴェ に投票した
地上の穢 ロネヴェ は 瑠璃音ノ五シキ ジュアン に投票した
触れずの君 ウェスペル は 地上の穢 ロネヴェ に投票した
瑠璃音ノ五シキ ジュアン は 地上の穢 ロネヴェ に投票した
堕ちたる魔槍 クァルトゥス は 地上の穢 ロネヴェ に投票した
地上の穢 ロネヴェ は村人の手により処刑された……
渇きの君 ザリチェ は、触れずの君 ウェスペル を占った。
次の日の朝、瑠璃音ノ五シキ ジュアン が無残な姿で発見された。
《★占》 触れずの君 ウェスペルは 人間 のようだ。
現在の生存者は、渇きの君 ザリチェ、触れずの君 ウェスペル、堕ちたる魔槍 クァルトゥスの3名。
[クァルトゥスが掲げ持つは、身の丈よりも長い──斧槍。
槍は、 蒼穹のいろを刃に映し、
──…漆黒の炎に包まれたジュアンを、
──…そして銀の雨に濡れるロネヴェを 貫く。
砕けた地に突き刺さるまで── 深く、深く。]
・・ジュアン。
悪魔の《契約》は、
身体の部位の交換そのものに意味があるのではなく、
《契約》と共に魂の一部を奪い──堕とすためにある。
[鏤められた蒼の欠片の上、銀の雨が降る。
燃え盛る黒、
奏者の瑠璃と薔薇、
貫かれた女の翠、
現れた緋色の魔
色彩の洪水は まるで一枚の絵のように
壮絶で 美しく見えた。]
――……!
[槍は地を抉る。
しとどに降り注ぐ雨の残滓から自らを庇うように
傷負わぬ腕を自分の前に翳した。]
[長大なる魔槍を操るは、赤い──赤い戦魔。
──否、それは赤い……
青の双眸は瞬かぬまま、
クァルトゥスが斧槍持て、
ロネヴェを、そしてジュアンを貫くその一部始終を
じっと見詰めていた── ]
[大地に突き立った槍の傍に、クァルトゥスは立つ。]
[ジュアンの身体は串刺しのまま穢の炎に炙られ、黒に覆い尽くされていく。ジュアンの下には、銀の雨に射られたまま、喉元を反らせ胸元の黒薔薇──心臓を露出したままのロネヴェの身体。
風圧を受けて、女の髪が乱れた。
炎とロネヴェから流れ出すどす黒い血液は混じり合い──やがて、その澱みから黒ずんだ蛆や、得たいの知れぬ蟲蛇が這い出した。]
[唇を歪め、強引に槍を引抜く。
大地の歪み──深淵へと堕ちて行く二人の契約者達を、クァルトゥスは見送った。]
[ぼたり]
[俯いたクァルトゥスの左の眼窩から、完全に暗赤色に染まり切ったジュアンの眼球が滑りおちて行った。]
[黒い炎の舌に舐められ、燃えていくジュアンの躯から視線は留まったまま動かない。
まるでその一部始終を網膜に焼き付けようとするかのように。
その瞳には何のいろも浮かんではおらず、あくまで蒼く青く澄み。]
ああ…
土産を渡し損ねた。
・・瑠璃姫によろしく、ジュアン。
[懐から、白いターバンに包まれた鳩の卵程の塊を取り出す。
それはアーヴァインの額に埋め込まれていた巨大な青い宝石。皮膚と毛髪のこびり付いたままの青玉(サファイア)。
クァルトゥスは、二つの身体が墜ち行く孔に、それを投下した。]
・・…──
[槍が、魔力を得て──内側からひかり輝いた。虚無の冷気が槍の周囲に蒼ざめた炎となって渦巻いている。
槍を支えるクァルトゥス義手も、それに呼応するようにどくりを脈打ち、暗赤色を生々しい赫──に変化させた。]
[墜ちる][墜ちる][落ちる]
[荒れ果てた地へ、墜ちる]
[奈落の底へと―――…墜ちる]
[胸に、瑠璃色の「姫」を抱いたまま――…]
[暫くその目で見ていなかった荒野へ――…墜ちる。]
[再び目を上げた時には、そこにあるのは濃艶な微笑。
青玉の煌く双眸はクァルトゥスを真っ直ぐに射抜いて毫も揺らぐことはない。]
……おめでとう、と言うべきか。
また貴方の野望に一歩近付いた訳だな。
貴方の封印が解ける日も近いだろう。
“堕ちたる魔槍”ではなく、真の名で呼んだ方が良いだろうか?
[少しく稚気のある、愉しげな色が声に加わる。]
[乾いた大地、乾いた風
――ジュアンの琵琶の音と同じ]
[ドロリ、ドロリ]
[瑠璃色の胴から《青》――これまでジュアンが略奪してきた数々の虹彩が、その形を維持できずに流れ落ちてゆく。
まるで、青いナメクジが這った後のように、幾つかの無惨な《青》の跡が、白い琵琶の胴にこびりついていた。]
[黒い炎に灼かれた肌からは、焦げるにおいと腐食の跡。それを瞬時に治す力も無いままに、ジュアンは小さく呻いている。]
[――声がする。
覚えている、
あれは湖の畔でわずかばかり顔を合わせた青色の淫魔の声だ。
気配を殺し、壁に身を隠したまま様子を窺う。]
[クァルトゥスから視線を外さぬまま、一瞬だけぴくりと眉を動かす。
しかし、それも一瞬のこと。
艶冶の微笑は変わらず、 ]
ところで。
話は続けても?
[ウェスペルが密かに来ている事には気配で気付いていた。
敢えてまだ声は掛けず──、またザリチェの「野望が近付いた」と云う言葉に答えることもなく、]
封印の効力はどうだろうな…。
ああ、私の名は、貴方が呼んでくださるのなら、ただ──クァルトゥスと。
それよりも、貴方の言葉を聞き逃してしまった非礼を詫びなくては。そして、・・もう一度は、あるのだろうか? とも。
[目を開く。――…微かに、ではあるが。]
[一面に広がる、乾いた大地。]
ああ………………
[唇が、動く]
―――――…久しぶりの、《故郷》ですねぇ。
[闇、荒れた大地。乾いた風。
己の琵琶の音と同じ「いろ」。]
―――…下等悪魔だった頃を、思い出しますねぇ。
[小さく、笑う。]
ではもう一度言うが。
まず。
私は《候補者》ではない。
二つめは。
私は貴方の館を襲ったのが誰であるか知っている。
──が、もう無意味な情報のようだな。
貴方は既にアーヴァインと邂逅し、倒しているようだ。
[どうせ見つかってはいるのだろう。
彼らは騎士――力持つもの。
クァルトゥスに至っては、また力を回復している様子で。
両目が揃っていたあのときの、
或いはそれ以上の力を感じさせる。
痛むか目を眇め、
左腕の傷を押さえたまま、
まだ動かない。]
[コロリ]
[目の前に転がる青玉――クァルトゥスが放った其れ――を拾ったジュアンは、困ったように笑った。]
これを―――…どうしろと。
[フッ……と笑うと、それにこびりついていた皮膚と毛髪を指で摘んで外してゆく。]
―――…瑠璃姫。
こんな《青》でよろしければ、捧げましょう。
[琵琶が光ることはなく、ただ無惨な姿を晒すのみ。それを特に不思議なものとせず、淡々とジュアンは青玉を清めている。]
[琵琶を横目でチラリと見る]
[―――魔力が無くなったのだと、悟った。]
そして、三つめ。
もう貴方も気付いているかも知れないが。
これは諸侯たちの罠だ。
[そこまでを一息に言い放ち、淫魔は笑みを収めて真摯な表情をクァルトゥスに向けた。]
[クァルトゥスの義手の傍。寄り添う女が有る。
蒼ざめた膚を持つ女神──呪縛を示す暗赤色のタトゥーと、拘束された手足、ぴたりとした鎧に隠された目元が生々しい。
唇は膚よりも蒼く、何かを待つ様に薄くひらかれている。
その姿は、誰に見えるとも知れぬ。
女神を捕えたクァルトゥス自身にさえも──。]
[くすり]
[ジュアンは、笑う]
……さて、と。
せっかくの帰郷です。
あなたの元にでも、行きましょうかねぇ……
―――……《瑠璃姫》。
[ぼろぼろになった服はそのままに、ジュアンは青玉と琵琶を手にして歩みを進める。迷うこと無く、或る場所へと――…*]
貴方の様な人が、命乞いの為の方便を云っているのなら面白いが。
[肩を竦め、「醜い姿をさらしたく無いだとか、その種の動機で」と小さく付け加える。]
根拠…か。
[軽く肩を竦め、]
証拠は無いな。
だから、貴方が私の言葉をどう評価するかに掛かっている。
ただ、アーヴァインが襲撃者であったのは、貴方は確認しているのだろう?
その情報を私が事前に知っていたことは、傍証にはなり得ないだろうか?
今貴方に嘘をついて命乞いしたとしてもそれは意味が無い……
どうせ貴方は私が候補者であろうがあるまいが、それに斟酌せずに私を殺そうとするだろうから。
……しかし。
貴方が私をどう評価していたか、少し分かったような気もするな。
[くすり、とさも可笑しいことであるかのように笑った。]
おかしいと思わないか、クァルトゥス。
何故貴方が、六大諸侯に陥れられ、地の底に封じられた筈のその貴方が、辺境の伯爵とは言え、領主の後継者候補に選抜されるのだ?
勝者は、故ヴァイイ伯の城で見届け人のバティン公爵と面会し、承認されて初めて正式な後継者と認められる。
つまり貴方がこの闘いで「伯」の地位を手に入れようと思えば、城へ行くしかない。
傍証か。
それを信じるには──、クックック
私自身、日頃の行いが悪すぎる。
アーヴァインを戯れに貴方がそそのかしたと考える方が容易い。
・・ザリチェ。
貴方は、醜く在ることがお嫌いだろうと思ったが、間違っているか?
[『諸侯たちの罠』
それが真実であるとするならば
かれは何者であるか。
偽りであるとするならば、
何の目的があってか。
ウェスペルは左腕を押さえていた手を離し、
なんでもないように壁の影から姿を現し、2つの影に歩み寄る。
《後継者候補》なれば、聞き捨てならない話である。
――それに、隠れていても無駄であろうと思ったから。]
[歩み寄りながら、ふたりの言葉の途切れるとき
ウェスペルは口を開く。]
……話を、一部だが聞かせてもらった。
盗み聞きの非礼は詫びよう。
だが、あまりに聞き捨てならなかったのでな。
蒼の、“渇きの君”――だな?
[と、金色の眼を向けるだろう]
[疑いを差し挟んできたクァルトゥスの言葉に、喉を鳴らして一頻り嗤う。]
……貴方ならば、そうだろうな。
己を信じはしまい。
でも構いはしない。
私の言葉をどう取ろうとどう扱おうとそれは貴方の自由だ。
己がこれを貴方に伝えたのは──
貴方が好きだからだ。クァルトゥス。
ああ…、私は醜いものを“も”好むが。
真から美しいものを否定するわけではない。
[続いたザリチェの言葉に、クァルトゥスは紅玉の隻眼を燃やし、さも面白そうな声を上げた。]
…ああ。その様な噂があるのか。
幾ら以前の私が傲慢であったとしても、六大諸候の全員に同時に戦いを挑むほどは、盲いてはおらんよ。
彼等6人は一枚岩では無い。・・・それぞれのお心をお持ちだ。
何故、私が彼の悪魔の妹君にして妻である蒼ざめたる女神を捕える事が出来たか。想像に難しくは無いだろう?
…今の所、バティン公爵とは何の問題も無いな。
また、それが罠であったとしても何ら問題は無いのだが──。
[喉から洩れる嗤いを堪えるようにして、不意に隠れていた壁の陰から出てきたウェスペルに目を移す。
疲労の色の濃い端正な魔に慇懃に一礼し、やはり艶麗な微笑を送る。]
いかにも私はその二つ名で呼ばれています。
しかしその名ではお呼び下さいますな。
私は気に入ってはいません。
確かにその通り。
彼らは一枚岩でなく、それぞれに利害がある……
だから、貴方の魔力をもう一度奪えと言うものがおり……
同時に、貴方を以って政敵にぶつけたいと思うものがいる。
バティン公爵はそこに巻き込まれたに過ぎない。
アーヴァインも……己も。
・・ウェス。
[クァルトゥスがウェスペルを振り返るのと、ザリチェの口から予想外に言葉を聞くのとどちらがはやかっただろうか。
候補者は既に3人しか残っていなかった。]
[もう一度だけ、短く笑い、]
罠であっても構わぬと……貴方なら言うと思った。
ならば心の赴くままになされよ。
もう己が言うことは何も無い。
[そこで一度口を噤み、クァルトゥスを穏やかに見詰めた。]
……分かった。
では、ザリチェと。
[律儀に答えつつ、目礼をする。
じくりと痛む腕は再生の途中、
縫い合わせるように少しずつ。
振り返ったクァルトゥスを見た金色の眼は、
どのような感情を浮かべていただろうか。]
[淫魔はウェスペルの様子から何事かを嗅ぎ取ったようだが、それを言葉に出すことは無かった。
クァルトゥスが無言である間に、黒衣の魔の全身を上から下まで眺めただけだ。]
渇きの君 ザリチェは、堕ちたる魔槍 クァルトゥス を能力(占う)の対象に選びました。
・・ザリチェ。
私は、昔…とある女に“可哀想”だと云われた。
“愛が分からぬ”と…。
だから、奪うしか出来ぬのだとな。
[クァルトゥスは一度義手に視線を落とし、穏やかな眼差しに変化したザリチェに視線を注ぎなおした。『奪い、喰らう──だけだ。』とはクァルトゥス自身がが森でザリチェに告げた言葉でもあった。]
[奪う者、手首の痣に服の上から触れる。
緋色は燃える。
奪って、
喰らって、
刻み込む。
眉を寄せた。
ただじっとその背を見つめている。]
[ジュアンは姫君の叶わぬ恋の話をしていたが、恋であれ、愛であれ、好意を意味する言葉や行為が、クァルトゥスにとって何かしらの意味を持つ事が無かった。今も昔も。
──ザリチェの告げた言葉の意図は分からない。
惑乱を意図しているのか、誰にでも伝え得る好意なのか、それ以上の深い意味があるのか。]
[微かな声が聴こえた。]
・・ウェス。
[振り返りもう一度名を呼ぶ、その声は何故か何時ものクァルトゥスよりも穏やかだった。]
……な
[穏やかな声など記憶にも無く
悪態をつくのも忘れた。
動揺は波紋のように広がっていった。]
……さわる、 な。
[拒否の言葉と動きは弱々しく、
優しく掴まれたクァルトゥスの手を
*振りほどくにも至らない。*]
[クァルトゥスとウェスペルの、互いの名を呼ぶ声音にこめられたものは何であったのか。
その意味を二人はお互いに分かっているのだろうか?
ザリチェが何を感じたにせよ、或いは気付かなかったにせよ、それを口にすることは無い。
ひそやかに沈黙を保って佇むのみだ。]
[……ややあって。
ウェスペルの手首を掴んだクァルトゥスの水を差すように]
出来れば貴方の名もお聞かせ願いたいですね……
クァルトゥス殿が紹介されるのでもよろしいですけれど。
[さりげない態で尋ねた。
唇には淡い微笑。]
――……これは、 失礼を。
[広がったままの動揺を飲み込むように、
努めて静かな声で]
……私は、ウェスペル。
此度の後継者選定の――《候補者》の、ひとり。
貴方がウェスペル殿……
お噂はかねがね伺っております。
何時ぞやはご無礼致しました。
お気に触っておらねば良いのですが。
[ふと淡い笑みに、仄かな艶を滲ませる。]
[噂を――という言葉には、少しだけ眉を寄せた。
非礼を詫びる言葉には、首をゆるりと横に振って]
……気にすることはない。慣れている。
[警戒をしつつ、そう答える。
青に滲んだ艶は花の香り、
避けるように手首に視線だけを落とし]
[崩壊したジュアンの屋敷、青の宮。魔界の仄暗い空の下、いまだ飛散した青の破片が、地上近くの低い位置でだけ煌めいて居た。
それは、姫君の宮殿を彩る壁面や天井の複雑なモザイクに使われていた貴石たち──瑠璃、トルコ石、ブルートルマリン、オパール、水晶、紫水晶、ブルートパーズ、青瑪瑙たちの成れの果てだった。
それらの複雑な《青》の光達が、ジュアンが墜とされる瞬間、太陽も月も無いはずの魔界の空を、地上の空の如き蒼穹に染めたのだった。]
[今は、クァルトゥスの耳元で弾ける泡沫は無く、
楽師の囁き──も聴こえず、世界は静かだった。
ぽかりとした空虚があるのは、鎧で覆われた躯の裡、本来《青》の臓器があったその場所だけなのだろうか。]
─ …・・
[知覚され得ぬ何かが、クァルトゥスにウェスペルの手首を優しく取ると云う行動を選ばせたのかもしれなかった。]
[──風が流れた。彼等の足元で、胸焼けがする様な臭いの黒酸の水たまりが薄い波紋を描いた。
クァルトゥスは、ウェスペルの手首の傷痕をそっと指先でなぞりながら、低空、青と薄闇の境界線のあたりに視線を送った。]
・・ザリチェ。
ヴァイイ伯の屋敷の方角からやって来る“あれ”が何か──ご存知か?
[もう、触るなとも謂わず、ほんの少し咎めるようにか、
様子を窺うようにかクァルトゥスをちらと見上げた後、
青闇の空に眼を向ける。
砕かれた青が敷き詰められた空は異様な姿だった。
風が運んだ酸の臭いに眉を寄せ]
――……何が、起こったのだ。
[呟き、その境界線に現れたなにものかへと視線を向ける]
──なるほど。
さすが上つ方はやることが抜け目ない。
[くっと唇の片端を歪め、嗤う。]
アーヴァインも己も当てにはしておらぬ……それは重々承知していたけれども。
候補者ではないと謂ったな。
……何者なのだ、お前は――
[笑う青色い魔へと問いかける。
胸の内に在る、それはまだ推測でしかないが]
[もっとも、「“堕ちたる魔槍”の力を殺げ」という命と矛盾する、今ひとつの目的を悟られたという可能性もあるが。]
さて。
候補者ではないと……私は言いましたか。
私は単なる餌です。毒入りの…、ね。非常に不本意ですが。
[それは4頭立ての大型馬車だった。
音も無く馬車が近付く。今は亡きヴァイイ伯の紋章が車体の正面に光って見える。馬車はちょうどジュアンの宮の天井があったあたりの高さ、空中でぴたりと静止した。
馬車の扉が開いた。そこから、スルスルと影だけで出来た様な薄い階段が三者の元へ伸びて来る。]
─…残り少なくなった《候補者》の皆様…─
─…今は亡きヴァイイ伯のお屋敷で、晩餐は如何でしょう?…─
[馬車から響いた声は、うやうやしいのか皮肉なのか分からぬ。
歌の最中に何故か間違って笑いを含ませしまった様な、奇妙な調子だった。]
[クァルトゥスは、ウェスペルの手首からやっと手を離した。
さりげない動作で、馬車から少し弱った金色の悪魔を庇う様な位置に立った。]
・・・ザリチェ。
貴方が《候補者》ならば行くかね?
クックック。
[ザリチェは、諸候に反逆したクァルトゥスが《候補者》に含まれるのは奇妙では無いかと云ったが。
そもそもクァルトゥスが、己と共に在る女神のかつての忠臣、彼女の下僕──銀色の悪魔に、ヴァイイ伯の心臓を取って来ると云う《契約》を結ばせたのだ。クァルトゥス自身は、ヴァイイ伯には直接手を下していないものの…それは手管に過ぎない。あくまで。
クァルトゥスは、「罠と云うならば、すべてが罠であろうな。」と小さく呟いた。]
餌だと……?
諸侯の差し金か――不本意と言うからには
何らかの理由あってのことか。
[そこで言葉を切ると、降りてきた馬車を仰ぎ、
睨むように見据える。]
……ふざけた真似を。
[奇妙な調子の招待の言葉に、
小さな声で呟く。
離れた手、何故眼で追ってしまったのかは分からない。
庇うように立たれたのに気付いたか、気付いていないのか。
傷痕の残る手をそっと握り締め]
拒否できるものなら行きたくはない──と言うのが本音だ、クァルトゥス。
己はこういう面倒臭いことは大嫌いだ。
[眸に蒼い炎を静かに燃え立たせた淫魔は、空中の馬車を見据えて引き攣れたような歪んだ嗤いを唇に乗せた。]
―――…姫。
[荒野のある一点で、ジュアンは歩みを止めた。胴部からドロリと虹彩が流れ落ちる琵琶を地に置き、かれは右手の爪でかたい地を掘り始めた。]
[――どれだけ長い時間掘り続けたことだろうか。
かれの指先に血が滲み、傷口から血が吹き出し――…それでも、かれは掘り続ける。]
[やがて現れたのは――…]
お久しぶりです―――…
[荒野の地中深くに埋められた、古めかしい柩]
―――…瑠璃姫。
[―――…その中には、銀髪の姫君が眠って居た。]
――罠と謂ったか。
クァルトゥスを――排除するために
張り巡らされた罠だと謂ったな。
そうであるならば、
―――奴らは私の敵だ。
[己以外の手にかかるなど許さない。
決して違えないという、強い意志を持つ眼であったろう。
確かめねばなるまい、と思う。]
[あの銀色の悪魔がクァルトゥスの元に辿り着いた事自体、誰かの差し金あってのものだった可能性も高かった。]
正面から訪問しても良いが。
──拒否、してみるのも面白そうだな。
何処か行く当てがあるか?
[ザリチェに軽く首を傾けてみせる。
今もなお、事態を面白がっている様な仕草だった。]
強大なる諸侯が「そうせよ」と仰る事を、私のごとき卑小な淫魔が断れましょうや?
[口調こそ丁寧だが、声音には皮肉がたっぷりと込められている。]
[ウェスペルとクァルトゥス、それぞれに相対する時の態度と口調が全然異なっているのがいっそ滑稽なほどだが、当の本人はそれでも混乱しないどころか、全然不自然さを感じておらぬらしい。
どちらが地なのか──それとも地などなく、相手により個性さえも変えてしまうのが、淫魔の本性なのか。]
[ジュアンは柩の中からムスメを抱き上げ、彼女の頬にそっと己の頬を当てた。仄かに、あたたかい。]
[確かに、ムスメは柩で『眠って居た』――…悪魔であるのなら、完全なる『消滅』をもってその命の終焉を向かえるはずである。つまりこのムスメは、『死んで居た』わけではなく、『眠って居た』のだ。]
[柩の中から満ち溢れる、ジュアンの『魔力』の跡。勿論、柩の中で眠るこのムスメにも――…]
――…とはいえ、もう僕の魔力は消えかかってますけどねぇ……
[ムスメにかかっているのは2つの術であり、いずれもジュアンの《琵琶の音》によるものである。
ひとつは『催眠』――…その名の通り、聴く者を眠らせたり、術者の意図する精神状態に墜とす業。
そして、もうひとつは『老化の遅延』――…聴いた者の体内時間の進行速度を任意に変える業。
ジュアンはムスメに、永遠の眠りと、老化の遅延の業を施したいたのだった。]
[ザリチェの色は《蒼》のままで有るのに、変幻する淫魔の口調、動作、表情から、その本質は掴み難く思われた。]
“渇きの君”は、こう云った時でも退屈なのかね?
これに乗って行けば貴方と否応無く闘わされるのだろう。
闘うのは面倒臭い。
かと言って、諸侯のお一方に逆らって、行くあてなどあろうか?
[もう一方も当てにはならぬ、否、うっかり保護を受け入れられたらそれはそれで──とそれは口に出さずに。]
[遠い昔、ムスメは叶わぬ恋をした。彼女の身分では手の届かぬほどの、貴い相手に。手が届かぬと分かっていてもなお。
始めは、眺めているだけで十分だった。しかし、いつしかムスメは彼を欲しくなった。彼に関わるものが欲しくなった。彼が触れたもの。彼の持ち物。彼の服。――そして、彼自身を。そして彼女は、彼女に纏わりつく下等な悪魔に命じたのだ。
『あの人のものを奪ってきて』――…と。]
──退屈?
[少し頭を傾け、暫しの間考えるような素振りをした後、]
そうだな、どうやら退屈はしていないようだ……
それどころか、どのようになっても己は結局愉しむだろうと、
そのように思えてきた。
[顔を上げて笑う様はいっそ晴れ晴れとしていた。]
髪を。
――…先に髪だけ、戴きます。
[ぷつり。銀色の髪をムスメから抜き、ジュアンは己の持つ琵琶の弦にそれをあてがった。
それは、かつての《契約》故のこと。
彼女の願いを聞き入れるかわりに、ジュアンは琵琶の弦を、彼女の髪にする――琵琶にムスメの魔力を与える――ことを約束させたのだった。]
[次にかれはムスメが抱く服を奪い取り、それを自らの身に纏わせた。ムスメが恋い焦がれた男の服――かつて下等な悪魔だった頃のジュアンが盗み出した服――を着込むと、ジュアンはひとつ微笑んだ。]
―――…どうでしょう。似合っていますか?
[ムスメの身体を抱き上げ、そっと*くちづけた*]
[たとえ対象が幼く見えようとも、悪魔たるものが手心など加えようはずも無い。華奢な身体が硝子細工の寄せ集めの如き地面に引き倒され、白い肌には赤き線が幾つも刻まれる]
(このまま、
消えるのかな――)
[眼の青は、虚ろのいろ。
水面は静寂を保っていた。揺らぐことすら忘れたかのように。
感覚も失ってしまったのか、痛みは遠かった。
解けていく、消えていく。
存在するのは、そんな錯覚]
[ヴァイイ伯の屋敷の門扉のまえに、彼等《候補者》の名が刻まれた石板が突き立てられていた。そこには《候補者》では無いと云うザリチェの名も刻まれていた。
すでに脱落した候補者の名はそれと分かる様に変化していたが、まだ残る三者の名の刻み込んだ、あの青白い稲妻のような光は、後継者争いへの参加が決定付けられた者に対する、何らかの拘束力をしめしているのかもしれなかった。
今、青の宮の上空に現れた得体の知れない馬車もまた同種の──。]
[薄闇の中の綺羅よりも美しく、ウェスペルの瞳が強い黄金色に輝くのが見えた。彼らしい言葉が零れたことに、小さく微笑を浮かべる。
クァルトゥスの紅玉の髪が、頭上からの風に燃える様にたなびいた。]
[青の移り変わりは
光の下で色を変える宝石のようだった。
腑に落ちないことも数多い。
晴れやかにさえ見える笑顔を見、瞬きを1つ。]
─…是非にお越しを?…─
[彼等の後継者選びの《候補者》であると云う《契約》に同意している為か、拘束する呪力の強さ故か。頭上の馬車から再び呼びかける“声”が響いた瞬間、クァルトゥスは、目に見えぬ無数の糸が四肢に絡み、躯を吊り上げられた様な感覚を覚えた。
階段を上がろうとする己の脚を止める為だけに、薄汗がにじむ。
それは戯曲通りに踊らされる役者(ドール)になったかの様な感覚だった。だが、何故かクァルトゥスは昂揚感をおぼえた。
そこには、ザリチェと“闘う”可能性が、ザリチェ自身によって示唆された事も関与しているのかもしれなかった。]
退屈でないのなら、それは私には僥倖。
・・ザリチェ。
貴方の別の貌も興味深く。
森で貴方の渇きを満たしたくなった、その気持ちは今も変わらない…。
[低く囁く様な声でそう告げた。]
[馬車は三者をのみ込む様に迎え入れ、彼等は、ヴァイイ伯の屋敷、複数の貴族達の陰謀で染まったかの如き──漆黒の円卓に着く事と成る。
今は亡きヴァイイ伯の屋敷。
円卓が設えられたドーム状の部屋の白い天井には、姿をあらわさぬ悪魔達の影絵が複雑な模様を描く。]
──…円舞曲を…──
[高らかな少女のソプラノボイス。
薄布と宝石で着飾った亡き伯の従者達に傅(かしず)かれ、空々しき馳走と宴。エキゾチカルな楽には、はじまりを告げたあの銅鑼の*音が混じっていた*。]
[――けれど、 見たかった。
当たり前だった、あのうつくしい景色を。
消えるのなら、あの鏡の湖に還りたい。
乾いている、この地は、キラいだ]
[水面に波紋が起こる。
無抵抗に地に転がっていたが、一気に身を起こして覆い被さる影の首筋に噛み付いた。滲み出す血液と己の唾液を混ぜ合わせ、辿り、啜る。
一転した反撃に、周囲の動きも一時止まった。
食らいついたまま、耳障りな音を立てて、貪欲に飲み干していく]
……、
[急速に「乾いた」魔の肩に手をかけ、横へと投げ、打ち棄てた。
ゆぅらりと立ち上がる。
*穢れ無き白は無く、青すらも赤に染まりゆく*]
[視線を感じたか、金色は燃える緋色を映した。
しばし互いに見合っていたやも知れない。
馬車は走る。
豪奢な屋敷を飾るアラベスクの影絵と
宴の席を見て、ウェスペルは眼を細め]
……茶番だな。
[不機嫌そうに、*呟いた*]
[何時の間にか、ジュアンを墜とした直後の心の空虚は霧散していた。
ヴァイイ伯の屋敷に渦巻く不穏な気配が、クァルトゥスの首筋をチリと燃やしていた。
戦いの予兆と云うものが、何故これほど男に快楽を齎(もたら)すのか。]
[どくり]
[脈動に続いて、]
[ごぽり] [ごぽり]
[泉の水が、泥ごと貪欲な妖魔によって吸い込まれてしまう瞬間に似た音。]
[びちゃ][びちゃ][びちゃ][びちゃ]
[肉が] [再生する] [不気味な水音が響いた。]
[ロネヴェとジュアンから得た魔力を遣い、失われた臓腑と左目を再生させる。
空洞になっていた脇腹の奥から全身に熱が広がると同時、左の眼窩が激しく疼いた。クァルトゥスは、激痛と共に背筋を駆け上って来る生理的な嫌悪感に、唇を歪め、わずかに息を漏らした。]
──…ッ
…・・・
[クァルトゥスは、再生したばかりの目玉──
爛々と光る両の紅玉(ルビー)で、傍らに在るウェスペルを見詰めた。]
[ザリチェは眼前で視線を交し合うクァルトゥスとウェスペルを観察した。
ザリチェの魔力の質と量、その流れを読む感覚は、今も鋭敏に働いている。
その眼にはいろのない低温の炎が、音もなく静かに燃えている……]
[ヴァイイ伯の城に案内された三者を迎えたのは、大広間に設えられた宴の席だった。
影の織り成す白亜の大天蓋の下、豪奢な拵えの漆黒の円卓の上に様々な珍味が並べられ、薄衣を纏い宝玉で身を飾った従者たちがずらりと出迎える。
合図とともに鳴り渡った楽の音は、この場に似つかわしい円舞曲──しかし、この三者の置かれた状況には酷くそぐわないものであった。]
[ザリチェは未だ魔力が完全に回復し切らない黒衣の魔を見た。
クァルトゥスが、密かに常に庇うような位置に立っていることに彼は気付いているのだろうか。
今この時、クァルトゥスが僅かに前に歩を進め、ウェスペルが留まって不機嫌そうに呟いたその瞬間を狙い、淫魔はウェスペルに声を掛けた。]
……ウェスペル殿──
[するり。
さりげなく。
猫のように素早くしなやかに、ウェスペルの傍に身体を滑り込ませ、彼の手首──無意識にか常に気になる様子の仕草をし、クァルトゥスが執拗に撫でたその箇所──に軽く指を走らせた。
淫魔のからだから濃密な媚香が香る。
ウェスペルがそれを撥ね除けるより……或いはクァルトゥスがザリチェに気付くより早く。
布越しに触れた指が恐ろしく繊細な動きで、ウェスペルの官能を煽ろうと蠢く──その傷痕が指し示す、最も近しい過去の、そして最も強烈な快楽を喚起させるべく。]
[前に立つ魔は、
何処か自分を庇うようにしているように思えた。
先程の、穏やかな声と優しげな触れ様と相俟って
心を乱される。――誤魔化す様に唇を噛んだ。]
――……?
[名を呼ばれ、
顔をザリチェへと向けた。]
なッ!?
[甘い甘い香り。
くらり、と眩暈がするような淫魔の香り。
触れられた指先を跳ね除けようとするけれど]
……!!
[ぞわり、と。
痺れる様に体を駆け抜けたのは紛れもなく快楽で
身を竦ませ息を呑んだ。]
何を する……!
[睨みつけ、ザリチェから離れようと動いた。]
[ウェスペルの身体の硬直が指から伝わる。
間違いなくそこは、堅く鎧った黒衣の魔の外殻に走った亀裂なのだ。
淫魔は地中深く眠る水脈から亀裂を通って地表に噴出した甘露を啜った。]
[ウェスペルの黄金の瞳が強い光を帯びる。
睨まれたのだ、と淫魔は知った。
が、その光は極上の蜜の煌きだ。
一層深く味わおうと、指はその手を追った。]
[離れようと退くウェスペルに、その顔を触れんばかりに近付け、]
──クァルトゥスに
抱かれたのだな?
[愉しげな声音で囁いた。]
[ザリチェのしなやかな指の動きは
他の魔が到底真似できないような繊細さで
快楽と官能を呼び起こした。
同時に、軽い眩暈を覚える。
快楽を媒介として魔力を吸われた、と悟った。
これ以上触れられては危険だと。]
――きさま、
[隠した傷痕を庇うように逆の手で覆った。
伸ばされた手から逃れる為、後退る。]
[唇からは――…腐敗の香り。]
[ディープレッドのフロックコートに、金刺繍のベスト、灰色のズボンに白いハイソックス――左目には「知覚できない」色を纏ったジュアンは、「姫」を地に下ろしてその上に覆い被さった。
――首筋には、肉が崩れる感触。
その場所を舌でなぞり、ムスメの身体を己の舌で犯してゆく。鎖骨、デコルテ、腰――…腐り落ちるムスメの白い肌を掌でなぞり、ジュアンは微笑んだ。]
[ムスメは、動かない。
ジュアンに魔力を与え続けたこと、そしてジュアンの術を数十年に渡って受け続けた結果――…ジュアンの魔力が切れた反動で、ムスメの身体はそのカタチを維持できなくなり、体内時間が一気に加速し、《終焉》へとひた走る――…]
―――…姫。美しい、姫。
[もの言わぬ姫君の奥に、いきり立つ己の欲望の先端を捩じ込みながら、掠れた声で囁く。]
貴女は最初から、僕だけのもの―――…
―――!!
[囁き、
愉しげな声。
青玉の眼が笑っている。]
……ど うして、
[動揺を隠し切れず、声は詰まる。
至近距離の華やかな青から、
眼を離せずに居た。
鳴り響く円舞曲は遠い。
白亜に映る影も――哂っているだろうか。]
[乾いた大地に、湿った男の吐息]
[男は己の衝動のままに、何度も、何度も、ムスメの身体を突き上げる]
[ムスメの身体からは肉が削げ落ち、骨と骨が離れ、髪が塊となってボトリと落ち、身体からは無数の青い蛆虫が湧き出ている。――…男は、それすらも「美しい」と思った。]
[《青》を愛した姫君。
恋い焦がれた相手が、他のオンナと結ばれたことを悲観し、永遠の眠りを望んだ姫君。
何十年、何百年後――若く美しいムスメの姿を「あの方」に見せれば、或いは自分に振り向いてくれるかもしれないと――《死》を選び取らなかった姫君。]
[憐れムスメは従者に墓をあばかれ、身体を犯され、そして――…]
―――――…っは……ァ………ッ
[《純潔》を破る白に冒され――その身体は、崩れ落ちた。]
[腐敗し、崩れ落ちたオンナの身体が、ジュアンの足許に転がっていた。かれは地に落ちている眼球――美しい《青》をしたそれ――を拾い上げ、右の瞼の奥に填めた。]
[色彩豊かな、世界]
[赤、金、灰―――《青》だけではない世界。]
[男は、己の性器にこびりついた、腐敗したムスメの肉と、《純潔》の赤を指で掬い上げた。
かれが初めて知覚した《赤》。
ムスメの《純潔》。]
へぇ――…「こんな色」だったんですか……
[指にこびりついた其れを舐め取り――ジュアンは、*わらった*]
[ウェスペルが動きを止めた隙を逃さず、白い腕が蛇のようにその身を絡めとろうと迫る。
と、同時に紅い唇が黒衣の魔の、声を途切れた唇へと──]
堕ちたる魔槍 クァルトゥスは、渇きの君 ザリチェ を能力(襲う)の対象に選びました。
[入口の傍で、使用人が何かを取り落とした。美しき淫魔、ザリチェに見惚れていた所為だった。ドーム天井の室内に金属音が大きく反響した。
クァルトゥスは、今まさに──淫魔の紅唇がウェスペルのくちびるを奪おうとしたその瞬間、振り返った。
傍らに在ると思ったウェスペルが遅れていると云う理由で。]
[どくり]
・・ウェス
[泉の水が、泥ごと貪欲な妖魔によって吸い込まれてしまう瞬間に似た音が響いた。]
[ごぽり]
[振り返ったクァルトゥスの貌には、爛々と光る紅玉(ルビー)の瞳が二つあった。]
――……!
[吐息もかかる間近、
身を退くが 伸ばされた手、絡め取られる。
宝石の様な唇が近づき。
顔を背けようとしたとき、
暗赤色が閃いた。]
[ぱたた、ぱた。]
[滴り落ちるのは水ではなく、血だ。
白は何処にもなく、赤に塗れた姿が何も無い荒野に在る。
澱んだ色ばかりを奪った所為か、青というよりは殆ど闇に近い。
心なしか、その容姿も年を重ねたように見えた]
[白い腕が撓り、黒衣の魔の細身の身体へと回される。
蜘蛛の糸、絡め取られた揚羽蝶。
紅玉の唇がまさに触れなんとした刹那、こちらに伸ばされた暗赤色の義手に。
淫魔はくるりと体勢を入れ替え、ウェスペル自身を盾にするようにその背後へと回った。]
[眼下には、姫君の腐った死体。
ジュアンはひとつ息を吐くと、クァルトゥスが与えたふたつの《青》――アーヴァインの額の宝石と、クァルトゥスの臓腑をその上に投げ込んだ。]
―――…要らない。
[―――…グチュリ。]
[鈍い音と共に、鮮血の《赤》と腐った肉の《黒》が、刹那、蝶の羽根のような弧を描く。虚空を舞う血が、古めかしい白いハイソックスにかかるのを、ジュアンは無言で――左目を瞑って、見つめていた。]
[カタチが無くなるまで幾度も踏み付け、そして――…]
―――…さよなら。
[その場を、後にする。]
[それから、どれだけ歩いただろうか。]
[魔の影なぞ見つかりもしないほど寂しい荒野に、ひとつの影を見つけた――…]
―――…ニクスさん?
[《赤》と、闇色の《青》を見て、ジュアンはにこりと微笑んだ。]
[ククク、とさも可笑しそうに喉を鳴らす。]
何をお怒りか?
貴方にとってウェスペル殿はそれほど大事なものなのか。
[揶揄する嗤いを乗せて赤い戦魔に尋ねる。]
その間にも淫魔の手は休むことなく捕らえた魔の身体をまさぐる。
[ゆぅるりと振り向く様は、幽鬼の如くに]
……ジュアン?
[紅く濡れたくちびるから、かれの名が零れる]
どうして、此処に居るの。
ザリチェに食べられでもしたかしら。
何を、きさま、戯言……ッ、ゃ
[堪えるようにきつく眼を瞑り、唇を噛んだ。
指は酷く繊細で残酷に、感覚を目覚めさせていくようだ。
魔力と引き換えに快楽を。
眇めた視界に入った、
炎のような瞳は緋色――双眸]
クァ、ル――…ッ
[義手はザリチェの腕からウェスペルを奪う様に抱き寄せた。]
・・・否。
[己の屋敷で「淫魔に近付くな」と云った言葉を指していた。
クァルトゥスは、抱き込んだウェスペルに噛み付く様にしてくちづけた。
強引に唇を割り、舌を吸う。
快楽によって魔力を奪われた事を咎める様に。
そして、空気を求めてくちびるをひらかざるを得ないウェスペルの喉奥に、何か──激しく脈打つあたたかい塊を流し込んだ。《それ》をのみ込むまで、重ねた唇を離さない。]
――何故でしょうかねぇ?
まあ、いろいろゴタゴタしてましてねぇ……気がついたらここに居ました。
[首を傾げて、にこりと笑う。]
ニクスさん。
綺麗な《赤》を御召しのようで。
――…昨日よりも、お美しいですねぇ。あははっ。
[ニクスの唇に、そっと右手を伸ばした。]
[己の名を呼ぼうとしていたウェスペルの声が途切れた。]
…敵巣で、“渇きの君”に力を奪われてどうする。
だから(気をつけろと)云ったろうに。
ふうん。
今日も、いつもと違う服着ている。
[触れてくる指先に、眼を眇めてかれを見上げる]
ジュアンも「ニクス」を穢す?
飲み込んだか。・・ウェス。
…それは、私の三つ目の心臓だ。
使え。
[唇を離したクァルトゥスは、
──吼える様に嗤い、ウェスペルを突き放した。]
な、……!?
[力の抜けた体は為すがままで、
息を吐くまもなく唇を奪われた。
クァルトゥスを掴んで自分を支えるようにしながら]
――ッ、ぅ、ん
[息が出来なくて思考に靄がかかる。
滲んだ涙、
こくり、と。
流し込まれるまま なにものかを 嚥下した。]
――ッ!?
[己の《青》と、瑠璃姫の《青》――ジュアンの双の目は、色鮮やかなニクスの姿をじっと見つめて居る。]
[その身を覆う《赤》の霧――
彼女が纏う青き闇――
否。
《黒》を―――…]
[1]
[2]
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
[8]
[9]
[10]
[メモ(自己紹介)記入/メモ履歴/自己紹介] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新