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渇きの君 ザリチェ は 泡沫の雨 ニクス に投票した
地上の穢 ロネヴェ は 泡沫の雨 ニクス に投票した
触れずの君 ウェスペル は 泡沫の雨 ニクス に投票した
瑠璃音ノ五シキ ジュアン は 泡沫の雨 ニクス に投票した
泡沫の雨 ニクス は 地上の穢 ロネヴェ に投票した
堕ちたる魔槍 クァルトゥス は 泡沫の雨 ニクス に投票した
泡沫の雨 ニクス は村人の手により処刑された……
渇きの君 ザリチェ は、瑠璃音ノ五シキ ジュアン を占った。
今日は犠牲者がいないようだ。人狼は襲撃に失敗したのだろうか?
《★占》 瑠璃音ノ五シキ ジュアンは 【人狼】 のようだ。
現在の生存者は、渇きの君 ザリチェ、地上の穢 ロネヴェ、触れずの君 ウェスペル、瑠璃音ノ五シキ ジュアン、堕ちたる魔槍 クァルトゥスの5名。
[喉奥から愉しげな、実に愉しげな低い嗤いが搾り出される。
純粋な水──そこへ甘美な毒を投げ込み汚してゆく愉悦。
仰のいたまま、凄艶な微笑を刻んで嗤う、淫魔は背筋が凍りつくほどうつくしかった。]
[ぽつり][ぽつり][雨音]
[―――肌を濡らす、水音]
[突然のことにジュアンの目が開き、視界が戻る。そこにあったのは――…]
[かたちを失った幼き魔の残骸と、身震いするほど残酷な笑みを浮かべる――…美しい、悪魔。]
[幼い魔がかたちを喪い、水となって弾ける瞬間、淫魔はそのからだから貪欲に魔力を飲み干した。
仰のいた顔に雨滴を受け、ニクスの残滓とも言うべき水を啜った。
その間も、愉悦に満ちた嗤い声が止むことはない。]
[襲撃の爪痕も露わな館、
逃れようと巡らせる思考さえ靄がかかってしまいそうだ]
そんなことは、謂って、な―――!!
[ロネヴェの腕を押さえて、止めようとするけれど
触れられ与えられた感覚に
仰け反ってしまい上手くいかない]
離せ、はな――……ッ
・・ウェス ペル …
ウェス。
[零れた悲鳴を楽しむように、耳元で名を呼んだ。
ウェスペルが指を噛んで耐えるその唇の近く、ロネヴェの乳房に舌を這わせ、わざと水音を立てて見せた。]
女の肉は心地良いだろう──。
男がこれを拒むのはあり得ない。
[クァルトゥスは足先で、ウェスペルのスラックスを完全に落としてしまう。それは、やや乱暴な動作だったか。
女の指が、ウェスペルのそれを弄ぶ様が視界に入る様になると、]
クックック、離せでは無く・・“良い”だろう?
濡れて、色付いている。
[背を反らすウェスペルを一度抱いて支えた。
ロネヴェがウェスペルを嬲りやすい様に、ウェスペルの身体を器用に押さえ込みながら、クァルトゥス自身も、ロネヴェの妖しい官能で匂い立つような秘所へと顔を埋めた。]
[くすり。
ジュアンはひとつ笑い、ザリチェが残滓を飲み干す姿をじっと見つめていた。]
[餓え、渇き、魔力を渇望するザリチェの姿。
渇きを満たさんとして笑む、ザリチェの表情。
──なんと醜く、なんと意地汚く。
──またなんと美しいのだろう……!]
……ザリチェさん。
僕は、あなたを誤解していたらしいです……
[それまで、稀代の芸術家でさえも造りえないと感じていた「うつくしき彫像」としてのザリチェの像が、かれの中で崩れ去っていく。
そして──脳裏に、今かれの眼前にいるザリチェの姿を焼き付け永遠に忘れないようにしようと──ジュアンは、熱の篭もった目でじっとザリチェを見つめる。]
[見詰めるジュアンの視線の熱に気付き、ザリチェは振り向く。
蠱惑を湛えた青い瞳は音もなく燃え。]
ジュアン……
貴方を味わいたい……
……「味わう」、とは。
[ジュアンの口元が、ゆるりと弧を描いた。]
当然……「その様な意味」ですね。
[──ザリチェの《青》の奥に、なおも満たされぬ畏ろしい《影》を見て、ジュアンは応える。]
ええ……
[そこには、かれが待ち望んでいた、至上の《青》があった。
──欲深き、罪深き、ザリチェの《青》。
──奪いたい。
──奪って、永遠に我がものにしてしまいたい。]
『 い い で す よ 』
[人懐っこい笑みを浮かべるジュアンの横で、雨に濡れた瑠璃色の琵琶が光った。]
[キロリ]
[キロリ]
[キロリ]
拒んだとて、抗いきれるものでも無いでしょう―――?
[クァルトゥスがスラックスを剥ぎ取った。顕わになったウェスペルのものを、見せ付けるようにぐいと持ち上げる。
少しく姿勢が変わり、クァルトゥスの唇が、舌が、濡れたもうひとつの唇を押し開く。ウェスペルを弄ぶ手は緩めねど、強い舌に嬌声をあげた。]
[爪先で、クァルトゥスのものをなぞる。
荒れた屋敷は、その惨状も相まってか酷く退廃的な宴の様相を*呈して。*]
いいええ。
「誤解」とは、こちらの話……──
ですがね、ザリチェさん。
[唇を寄せ、そっと囁く。]
今まで見てきた「あなた」の中で、今の姿が、いちばん美しい…──
ニクスの快楽は初々しく複雑な味がして美味しかった。
[ちろ、と舌を閃かせ唇を舐める。]
ジュアン。
貴方はいつも私に快楽をくれたではないか。
貴方の味は、好きだ。
ええ……
ニクスさんは美味しかったのでしょうね……
あなたのその顔。初めて見ました。
……渇望するあなたのその目。
[ザリチェが己の唇を舐めるその感触に目を細め]
もっと、もっと、深い《青》が、欲しい……!
[両手でザリチェの頬を覆い、強引に唇を重ねた。]
[囁きにそのまま意識まで犯されそうな錯覚に陥る。
緋色を睨み付ける目が何処か潤んでいた]
……っ、知らない、
そんなことは……!
[眼をぎゅっと閉じ、
頭を振って水音を消し去ろうとする]
[強引にあわせられた唇をザリチェは拒まなかった。
もっと、と強請るように更に深く深く口接けた。]
己の《青》が欲しいのか。
だがやらぬ。
己は、己だけを求めないものは嫌いだ、ジュアン。
[拒絶する言葉を吐きながら、あくまで声音はやさしく、求める熱を帯びていた。]
……その目の《青》に宿る《影》……
それは、紛れもなく、あなたのもの……
あなたの生命の在りよう……
[絡め取るような視線を凝視しながら、接吻の間々に溜息を漏らす。]
……それを請うることも、あなたは拒みますか?
[右手がザリチェの頬から静かに降り、首筋を這って鎖骨をなぞる。ジュアンの掌は、うっすらとした胸筋を弄び、柔らかに揺れる肉の丘へと…──]
……では。
歌ってくださいませんか。
僕は、あなたの「音」が好きです。
──「音」は、命の在りよう。
──あなたの生命の姿が、僕は好きです。
[滑らかなレガートに、中断されて燻っていた情欲の炎が再び掻き立てられる。
正確に性感の弦を探し当て、流れるように掻き鳴らし、押さえ、震わすジュアンの手の動きは巧みなアルペジオ。
高く低く喉震わせ嫋々と啼く。]
ジュアン、今己は貴方のもの……
貴方のために、
[落とされたスラックスはもう追えない。]
きさま……っ
良いなどと――……っ
謂う、もの、か …… ぁ、くっ
[息は途切れ途切れ
どちらに縋ることもよしとせず、
堪えるためにきつくきつく自分のブラウスを握りしめた。
甘やかなロネヴェの吐息と水音と憎い男の笑いと、なにもかもがないまぜで]
――……はっ
[痺れそうになるのを
爪を立てて踏み止まった]
[指先が、ザリチェの奥に眠る音を探り当てる。
青白き雪の大地に眠る野苺を掻きだし、己の唇に引き寄せ、その甘みにむさぼりついた。
鼻の奥をつんと刺す、甘く淫靡な果実の香。
野苺のちいさな孔の感触を楽しむかのごとく歯を当て、果実が泣かぬ程度の痛みを与えた。]
[淫魔の躯じゅうから、
かれを絡め取らんとする銀色の「弦」が見える。
――…否、かれがそうだと「感じた」。
ならば、その「弦」を弾けば良いこと。
弾けば、己の望む「音」が鳴る。それだけのこと――…]
[鼻先と舌でかき分ける蘭の花。
嬌声と共に毒をも孕んだ馨りが広がりはじめる。尖らせた舌と共に指先を埋める紅いその場所は、ザリチェとはまた別の意味で簡単に男を喰いちぎりそうに見えた。
長い足指で昂りを煽られ、クァルトゥスは低い呻き声を上げて身を起こした。女の足首を捕えて、つま先から太腿を舐め上げた。]
・・ウェス。
こらえるほど、燻ると云うのに。
今のお前の目の色を鏡でお前に見せてやりたい。
──黄金の蜜だ。
[クァルトゥス自身はロネヴェを背中からすっぽりと抱き寄せながら。
女悪魔の手技に耐えようとして、息を途切れさせたウェスペルを、広いソファの上に押し倒した。]
[双丘を貪られる快美と痛みに、からだの奥処を揺さぶられ、悲鳴とも嬌声ともつかぬ小さな喘ぎが上がる。
からだのなかで拡がりゆく旋律は次々とこぼれ落ち、ジュアンを求めて外へと開く。]
ジュアン、ジュアン、
[切なげに囁き、下肢を戦慄かせた。]
[黒い落葉が横たわる地──…ニクスの水跡が残るその場所に、ザリチェの背をそっと倒した。切なげな息づかいが睫毛にかかり、ジュアンは思わず目を細める。]
[──視界に、黒い霞がかかる。
また見えなくなる、この瞬間がやってくるのだ。
──ああ、《青》はまだこんなに美しいというのに。
それなのに、また、見えなくなるのだ。]
……ええ、ザリチェさん。
[子どものように甘える声と、熟した媚態。
ザリチェの「音」が絡まる蔦となってジュアンの躯を縛り付け、拡げられたその場所へとジュアンの黒い爪を導いてゆく。]
[──ぴちゃり。
──ニクスとは違う水の音を、ジュアンは鼓膜で受け止める。]
[熟れた果実があつくて、息苦しい。
ロネヴェの腕を掴むてにも力が入らず、添えるだけの形。
他に気をやる余裕がなかった。]
――……っ、だまれ…!
[それでもやはり、
金の眼は紅い悪魔を睨む。
僅かな抵抗むなしく、押されるままに倒れる。
髪がソファに広がった。]
……っく、
[手をのばし、だがそれは紅い髪を弱々しく掴むにとどまる。]
[睨み上げるウェスペル。
「だまれ」と云う声に濡れて燃える紅玉の目を細める。髪にウェスペルの指先が触れた事が良いのか、嗤いながら小さくクァルトゥスは呻いた。]
──知らないならば、
いくらでも教えてやろう
・・・快楽を。
そして、お前が如何に──そそるか。
[ロネヴェが艶やかな妖花の笑みでウェスペルの足を押さえ付けた。
そして、たちあがり濡れたウェスペルの芯を、双つの果実で挟み込み、執拗に弄んだ。ロネヴェの長い髪が揺れる。クァルトゥスは形の良い女の臀に唇を這わせながら、ウェスペルが危機に陥る様を眺めた。]
・・ロネヴェ。
油断が成らないが、貴女とは気が合う。
良い女だ──。
《候補者》の中でも、終盤まで残るのだろうな。
[蜜を滴らせるロネヴェのその場所を、クァルトゥスは後ろから貫いた。ウェスペルは三者の一番下となり、目の前のまぐわいから目を逸らす事が出来ないだろう。]
[クァルトゥスは、ロネヴェを突き上げながら、女の蜜で濡れた指でウェスペルを嬲る。
ウェスペルが精を吐くまで、クァルトゥスの指先が止まる事は無く、その雫を“喰う”と云った言葉通りに飲み干す。
またウェスペルが堕ちても、すぐに別の指が絡み濡らし、ロネヴェがウェスペルに馬乗り犯した。クァルトゥスが昂ぶりをウェスペルに押しつけ、三者は巴に──。
また、クァルトゥスがウェスペルを犯し──退廃の宴は、ウェスペルが意識を手放すまで*続いた*。]
[ジュアンの黒い爪が、熱い泉に触れる。
硬質の異物がやわらかく繊細な場所を掻き乱す感触に、下肢の震えが一層酷くなる。
引き裂かれるかも知れない──という危機感が更に快感を高め、ザリチェは奏者の爪弾くままに高らかに絶え間なく旋律を紡いだ。
湿った黒い落ち葉の上で、淫魔は内側から白く仄かに灯を燈すからだをのたうたせた。
奏者に更なる奮起を促すために、淫魔の白い手が閃いて、ジュアンの背や腰の上で踊った。
指は、奏者が導く旋律に合わせて小さな音を添えた。
最後にジュアン自身の欲望のかたちと、背後の尻肉の切れ込みをなぞり、指はそこで留まって、最終楽章の訪れを待った。]
[ザリチェの《青》は今、どのように揺れているのだろう――…ジュアンの脳裏に浮かぶのは、ただひとつの疑問。]
[淫魔が鳴らす清らかな高音は、純化された欲望の証。黒い爪を持つ右の指で何度もザリチェの水琴の奥を掻き回す。
――熱い。
――黒爪だけでなく、この身の全てが焼き尽くされてしまうのではないかと感じてしまうくらい、熱い。]
[ジュアンの腰に、滑らかな動きで、雲を固めて砂糖菓子にしたような感触が走る。
ジュアンは、首をのけ反らせ、小さくひとつ、吐息の珠を吐き出した。]
[ザリチェの《青》の色が知りたい――…
快楽で盲いたこの目では見えぬものは、音で、手で、肌で――己が肉体を作り上げる、全ての細胞で感じねばならない。
――…ならば、己の最も鋭敏な場所で…――]
[水琴の窟に、ジュアンは己の欲望の端を差し入れる。
――…ピチャリ。
かれの耳で、《青》の音が静かに響く。
しかし、ただひとつの音で足りるのか――…否。音は旋律にならねば意味が無い。だから何度も、激しく《指》で掻き鳴らし、《青》の音で一本の道筋を作り上げる。]
[己の魔力がザリチェに吸い取られていると、分かっていても。
――その事実こそが快楽なのだから、それに従うことしか、ジュアンにはできぬのだ。]
[――ザリチェの中で、ふたつの水音が響いたのは、暫し後のこと――*]
―崩壊した館にて―
[時折零れた“ころしてやる”、という声も
あまく掠れて殺意も何もあったものではなかった。
退廃の宴に飲まれるまま意識を手放して、
どれほどの時間が経過したのか。]
[―――目覚めて最初に見た、噛み締めていた指の傷跡に
宴がまざまざと蘇る。]
……っ
[額を手で覆って、俯き陥る自己嫌悪。
眉を寄せる。頬が熱いのは気のせいだと言い聞かせた。
立ち上がろうとして、
まだ上手く力が入らないことに愕然としたようだ。
これではかつての二の舞どころの話ではない。]
――おい―
[何か尋ねようとした声が掠れていて、
口を噤んでしまう。
ウェスペルは、それでもなんとか身を清めようと
*動こうとするだろう*]
[ジュアンを水音の響く水琴窟の深奥に迎え入れた時、ザリチェは深い歓喜の歌声を上げた。
奥処より生まれた振動は、脈動する共鳴胴で増大されて、掻き鳴らす奏者自身の《指》をも包み込んで甘美な旋律で満たした。
寄せては返す音の波は、クレッシェンドにクレッシェンドを重ね、際限なく高まりゆく。]
[淫魔は、奏者から引き出した快楽のなかに彼の求める《青》を見出した。
様々な異なる色合いの《青》の音色が幾重にも重なり合い、極光のようにザリチェの上に拡がる。
すべての青を内包してなお、純化された青が。
青が鳴り響く。
やがて。
音の築き上げた高塔が砕け散り、
わななきのうちに奏者がその手を止めた時、
残響のなかでザリチェはもっともうつくしい《青》を知った── ]
[──にわか雨の止んだ黒い森。
地に落としたローブを拾い、ザリチェは銀の樹の根元に居るジュアンの元に戻ってきた。
湿気を帯びたそれは淫魔の手に触れて、黒い霧に変わり一旦分解された後に、膚に吸い付くような身体の線も露なスーツとなって彼の身を装った。]
ジュアン。
[寄り添い、軽い口接けを唇に落とすと、その瞳を見つめながら囁く。]
やはり貴方はクァルトゥスと繋がっていたのだな。
影が見えた。
これからどうするのだ、貴方は。
[離れていた闇馬が、主の無言の求めに応じてか、諾足で近付いてきた。
鼻面をザリチェに摺り寄せ、短い鳴き声を洩らす。
淫魔はその顔を撫でてやりながら、青い瞳を逸らさずじっとジュアンの様子を*窺った。*]
[銀色の樹の根元。恍惚の淵から意識が徐々に戻り――…ジュアンの視界は、極上の《青》ただ一色の世界から、黒、白、青(と訳の分からない色の渦)の世界へと「突き落とされる」。
「目の前」に居るザリチェの目に視線を合わせて、ジュアンは緩やかに微笑んだ。]
[『今宵はいつもよりも多く魔力を喰われたかもしれない』――そんなことを思うジュアンの耳に、ザリチェの問いが投げ掛けられた。]
あははっ。どうしましょうかねぇ……とりあえず、服がぼろぼろに汚れましたし、屋敷にでも帰ろうかとは思ってますが。
[所々を「訳の分からない色」で汚した服の端をヒラヒラと振った。]
クァルトゥスさんについては……あははっ。どうなんでしょうねぇ。でもきっと、かれは僕の元に遊びに来てくれると思いますよ。きっと。
――…あの方はどうやら「僕で遊ぶ」のが気に入ったみたいですから。今までは「遊び」の「遊び」を、ただ気まぐれに繰り返していただけです。
でもこれからは――「本気」の「遊び」をしようかな、って。あははっ。楽しみですねぇ……
[目尻に笑い皺を寄せるジュアンの腕の中で、瑠璃姫はキロリキロリと*瞬いた*]
[ザリチェは偽りなく、ジュアンを好いていた。
ただいっとき渇きを癒すために喰らう多くのものと違い、簡単に喪いたくないと感じていた。
それは恋に近いほどであったが、と同時にクァルトゥスに、或いは心惹かれる他の魔に抱かれれば、同じようにその者のために快楽を与えるであろうこともまた事実だった。
そして、ジュアンがおのれに魔力を与えた所為で衰え消え失せてしまったとして、それを惜しみはしても、嘆き悔やむことはないということも。
何となれば、それが淫魔の性であり、決して満たされることのない渇きを持ったこの魔の有り様であったから。]
では、貴方に付いて行けばまたクァルトゥスに会えるだろうか。
あのひとに伝えたいことがあるのだ。
[淫魔は全く感情の窺えぬ面持ちでジュアンに告げた。]
[*……蒼い瞳が静かに瞬いた。*]
[妖花は男を受け入れてあでやかに花開き、白い首を仰け反らす度にたわわな魔果が揺れた。背後から突かれる毎漏れる吐息は、ときに風にそよぐ柳のように幽く、ときに激しく長い髪を靡かす。]
[逞しく、力を漲らせた男に突かれながら、快楽を与えられるばかりを好しとせず、昂りを捉えては花弁の奥を引き絞る。
甘く呪詛を吐き続ける男を犯しながら、飽き足らぬとばかりに自らの花芯へ指を伸ばし、更なる快楽に蜜を滴らせる。
何時の間に剥かれたものか、裸の果実に汗で髪を纏う。唯裸で居るよりも淫らな姿。三つ巴からまた位置を動き、クァルトゥスがウェスペルを犯すようになれば、ロネヴェは指で。ロネヴェがウェスペルを奪うとクァルトゥスはその口を犯す。
あらゆる行為の間、絶えず吐き出される蜜の如き呪詛が、ひとかけらでも自分へ向けられて居れば良いのにと、願うおもいは際限なく加虐心を煽った。]
[恍惚か、絶望か、憎悪か、たどり着いた先は知らねど、そういった境地の何れかの淵へウェスペルが意識を手放して後も、ロネヴェはクァルトゥスを求めた。太い首に腕をまわし、正面から抱き合うように体を合わせる。]
…………私は最後まで残る。
ねえ、私と手を組まない?
わたしもあなたのような男(ひと)は
けっして嫌いじゃないの、クァルトゥス。
[これ程の強きものならば、憎しと思うあの淫魔も、床の中で倒すことが出来るのでは無いだろうか。脳裏に張り付いた幻想に、嫣然と微笑んだ。]
[それから、ウェスペルが目を覚ますまでに然程時間は掛からなかった。
肌に纏った汗も未だ暖かいような艶姿で、ウェスペルの声に振り向く。
上気してか、羞恥によってか、赤く染まった頬を、舐めるように眺めて笑みを深めた。]
お目覚め?
ねえ、まえとどっちが好かったかしら……
[擦り寄るように、ウェスペルの手を取る。
毒と害意を持った口付けをその甲に落とそうと、
そっと*掲げた。*]
[どれ程の時間が経過したのか。
廃墟と化した客間の乱れたソファの足元、割れたボトルが散らばり、葡萄酒の濃紅色が絨毯を染めていた。
クァルトゥスは目を閉じたまま、ロネヴェの豊かな胸元に顔を埋め、彼女の膚の感触を味わっていた。ロネヴェの膚は湿り気を帯びて柔らかく、吸い付くというよりは、触れているだけで絡めとられる様な触感であった。
そこかしこに誰のものとも知れぬ体液の残滓がこびりついており、クァルトゥス自身も熱の残る躯の表面に薄い膜が張った様な感覚をおぼえていた。]
[おちたウェスペルが閉じた睫毛を震わせ、横たわるすぐ傍で、交された閨房の会話は──]
・・ロネヴェ…貴女と手を組むか。
悪く無い。
[クァルトゥスは、嫣然と頬笑むロネヴェを至近距離で見詰めた。ロネヴェの脳裏に誰の姿が浮かんでいるのか、憎しみが過る事で、女の腰使いが一層淫らなものに見えた。
クァルトゥスの隻眼には思案する様な暗い光が宿り、口元が小さく歪んだ。]
誰か、最初に陥れたい者でもあるか?
…貴女に陥れたい者があるならば、こちらも都合がいい…
[男は、それ自体が生き物の様に有機的な曲線を描いてうねる女の髪を掻きあげ、耳元で囁いた。もしも近くで泡沫が弾けたとしても、音が届かない様に、くちびるをロネヴェの耳の螺旋にぴたりと密着させて。]
── … かわりに、
貴女には ジュアンを…
(ザリチェを殺すかわりに、ジュアンを陥れる事に協力を)
[ニクスがザリチェによって溶かされた事をクァルトゥスは既に知っていた。《候補者》が減って来た今…]
[《候補者》の人数が《密約》で交した「5指に入る数」に達するのも時間の問題だった。
様々な意味で、ジュアンには逢わなくてはならないだろう。「あれの狂気は私には受け止め切れぬやもしれん」と口の中でのみ嘯く様に呟く。
とは云え、その真意は分からない。逆にジュアンにロネヴェを殺させようと云う意図なのかも知れなかった。]
[ウェスペルが声を掛けようとしたらしき掠れた音で、目を開いた。]
…声も出ないのか。
結局、さほど手加減は出来なかったな。
痣だらけだ──。
[まだ、頬に色の残るウェスペルの貌を隻眼で眺める。
ロネヴェが嫌がらせの様に彼の手を取るのに合わせ、ウェスペルの顔、首筋、胸、手首と視線を這わせた。
古い傷痕の残るウェスペルの手首には、握り込んだクァルトゥスの指の形が*そのまま残っていた*。]
・・ウェス。
お前のお陰で、治る傷は癒えた──。
今のお前は、“渇きの君”に逢わぬ方がいい。
ニクスのように、喰われてしまう──。
――ッ
[常よりは弱弱しく、取られた手を退き、顔を背けた。
ロネヴェだけでなく、
クァルトゥスの視線も感じて
腕で体を庇うようにする。
宴の名残が残った眼で、それでも睨んだ。
手首が鈍く痛む。]
……。
[腕に絡まっていたブラウスを無理に羽織って急場凌ぎとした。
千切れた釦の代わりに片手で服の前を握る。
眩暈が残る気がするのは、魔力を奪われたからか。
緋色の魔の、疵が癒えている。]
……ニクス が?
[突然出た、あの変わった幼い魔の名前を
囁くような小さな声で紡いだ。
喰われた。
もう一度逢う事も悪くないと思えた無邪気な魔。
それは、叶わぬこと、らしい。
怪訝そうに、眉を寄せ
小さな囁きをクァルトゥスに投げかけた。]
――何故、そんな事を 知って、いる?
“渇きの君”とは……候補者、か?
[記憶をたどる。確か、とてもうつくしい淫魔が
そのような名で呼ばれていたような。
湖で出逢った、あの蒼い悪魔がそうであるとは
到底結びつかなかったが。]
[ようやっと、少しだけ咽が落ち着いてきた。
その咽で、内に浮かんだ疑問を声に乗せた。]
わたしは、お前を
……殺そうと しているのだぞ。
……なぜ、そのように 助言めいたことを。
[無論、死ぬつもりも
堕ちるつもりも毛頭なかったが。
緋色の眼は、何かを語るだろうか。
ろくでもない答えが返ってくるだろうか、と
警戒はしていた。]
……構いませんよ、ザリチェさん。
[瞬く《青》に笑い掛け、ジュアンは両手に風を纏った。]
では、僕は僕の屋敷に帰ります。
来られたいなら来てください。歓迎します。
[タン、と地を蹴り上げ、虚空へと舞った。]
―――…瑠璃姫。
[ニィッ、と唇の端が三日月のごとく孤を描く。
目は、相変わらず細く、笑い皺を目尻に寄せたまま。]
[――僕と貴女が住まう城を。
――貴女と共に在る場所を。
其れを手に入れる為なら、僕は――…
――…楽しい《玩具》を幾つ壊そうと、其れを厭いません…――]
[キロリ][キロリ]
[瑠璃は瞬く]
――…ねぇ、クァルトゥスさん。
[ぽわり][ぽわり][吐息の泡を]
もし僕が、貴方の《青》を返さないって言ったらどーします?
だって、とても綺麗で、とても楽しいことをしてくれるから。だから、返すの勿体なくて。
ああ、ザリチェさん。
そういえば、僕とクァルトゥスさんとが繋がってるって、どうして分かったんですかー?
[ふわり][闇空を舞いながら]
……いえ。手段が聞きたい訳じゃなくて。
何故『誰が《密約》を組んでいるか』を知りたかったのかな……とか。
或いは、僕を通じてクァルトゥスさんにお逢いして、ザリチェさんはクァルトゥスさんに何をするのかなぁ……って。
あははっ。楽しいことならいいですけれど、僕の屋敷を壊すのはやめてくださいね?屋敷自体からはそのうち去る予定ですけれど、僕の『コレクション』が壊されたら、たまりませんから。
[キロリ][キロリ]
[琵琶の瑠璃色が、ザリチェの瞳を覗き込んだ]
―闇の森→ジュアンの屋敷へ―
なぜ?
……それはきっと、あなたが可愛いから。ウェスペル。
いいえ、ウェス?
[”触れずの君”の頬を、禁忌とされていた、男の姿にしては白い肌を指先で撫ぜる。掻き合わされたブラウスから覗く、やはり白い喉元。強い征服感が心中を満たす。]
本当に可愛い声で―――
[ころころと、鈴を転がすように笑う。]
[風を巻いて宙を往くジュアンの少し後を、その背にザリチェを乗せた闇黒の魔獣が追う。
ジュアンの問いに少し考え込むように頭を傾け、]
……特に己が《密約》の相手を知りたがったのではないんだが。
クァルトゥスと会ってどうなるかも相手次第だ。
己が何かしたい訳でもない。
──いや。また味わってみたくはあるかな……
[ぽつりと呟き、後は口を噤んだ。]
ううん、
――――ニクスって、誰かしら。
[そして、何故クァルトゥスがそのような事を知って居るのか――
彼自身が手に掛けたのか。
興味深げに瞳を向けていたが、やがて立ち上がる。
入り交じった体液で身体にまとわりつく髪を掻き上げた]
ねえ、バスタブくらいはちゃんとした形で残っていると嬉しいんだけど。
こんな格好じゃ、出掛けられないわ――
[ザリチェを殺す代わりに、ジュアンを陥れる。
候補者である以上は、いずれ消すのだ。断る理由などは無い。彼女は、何故ジュアンを選ぶのかと問うた上で結局はそれを承諾した。]
[餓(かつ)える淫魔と、対峙したくは無かった。万一対峙する事があれば滅ぼすまでと思っては居たが、己の手によらず、しかし己の計略によって淫魔を滅ぼせるのならばそれに越したことも無い―――。
クァルトゥスに浴室の場所を訊ね、向かう。]
ッ、黙れ!
[びくりと身を退いて手を払いのけようとする。
それはそれは麗しい声で笑う女をきつく睨んだ。]
親しげに呼ばれる筋合いは
…っ、 無い……
[咽喉を少しだけ苦しげに押えた、
更に続いた言葉に]
うるさい!
[また、噛み付くような声が上がった。]
ふぅん……
じゃあさしずめ「偶然《密約》結んでるって判っちゃった」ってトコですか。まー、いいですけど。あ、でも別に、僕が《密約》の存在を認めたっていうわけじゃぁないですよ?……なんて。
クァルトゥスさんとザリチェさんが何をなされるか……可能なら、僕も拝見したいですねぇ。遊びなら、混ぜて戴いても楽しそうです。対照的なおふたりとはいえ、絵になりそうですもんね。
[にこり。いつもの笑み。]
[ジュアンが屋敷──白い大理石と蔦の群れが寄り添う、小さな建物──の前にヒラリと着地すると、それを待っていたかのようにかれの従者のオンナが、かれに一礼した。]
……ただいま戻りました。
ふたり分の紅茶を用意してください。
それから、申し訳ありませんが、僕の着替えも用意していただけませんか?
[左瞼のあたりが落ち窪んでいる青い目のオンナが、にこりと笑った。]
[その《青》と見えざる腕の黒蛇は、ジュアンがザリチェの《蒼》を奏でる間も伴奏を続けた。蛇はジュアンの裡を犯し尽くすだけではなく、蜜を零すジュアンの昂りに惹かれたのか、時に這い出し、蟻のとわたりに黒い舌を絡めた──。
……ザリチェが知覚した“影”は、蛇の気配であったのだろうか。]
[ドレスの残骸を焼き捨て、湯を浴びた。
残念ながらバスタブは残されて居なかったが、施設として利用する事は未だ可能だった。情交のあとを、暖かな湯が流してゆく。身体の部位のひとつひとつに、ウェスペルの痴態と、クァルトゥスの獰猛さを思い起こしてはまた欲情をおぼえたが、いまは耽るときでは無い。
身体を拭う。
黒い炎が足下から、ロネヴェの身体を這うように立ちのぼる。首もとまでを覆うと、炎は転じて紅いドレスに。クァルトゥスの髪、瞳を思わせる紅。直線的な、ベアトップのデザイン。首には、同じく紅い幅広のチョーカー。]
[ウェスペルの見せた、針のような鋭い目。犯されても尚、煌めきを失わぬ、凶暴さを秘めた金色。噛みつくような声を思い起こし、またひとり笑む。
抗おうとすれば抗おうとする程、魅力を放つ。声に出して、可愛いと呟いた。]
[流れるようなジュアンの言葉を、特に肯きも否定もせず、無言で耳を傾けていた。
時折瑠璃色の琵琶にじっと視線を置くことはあれど、概ねは風に髪を梳らせたり、ジュアンのよく動く唇を眺めたり。
常の淫魔を知るものならば退屈の一歩手前に居るように見えただろう──表面だけは。
ジュアンの館に入ると、遠慮もなく家の中を見回す。
女の姿の従者が現れ、ジュアンの命で色々と支度を整えるのを尻目に、好奇心を隠そうともせず壁や天井の装飾を見ている。]
・・ウェス。
お前が私を殺すなら、お前を殺すのは当然私だろう?
ならば、お前は私のもの。
《蒼》色の《候補者》…ザリチェに魔力を喰わせるな。
[ウェスペルの髪を撫でた。
なに、淫魔の寝技への嫉妬だ──と低く囁く。]
お前に絶頂を味わわせながら殺してやる事は、私には出来ないからな。
だが、渇きの君には出来る。
[《青》を返したく無いと云うジュアンの声が、泡沫に乗ってクァルトゥスの耳元に届いた。]
・・・ジュアン。
取り返しに来いと云う誘いなら、乞われなくとも。
お前には、
──何処に行けばあえる?
[ザリチェを応接間に導くと、ジュアンは屋敷の奥にある自室で破れた服を着替えた。
装飾も無くシンプルな細身の黒いスーツに、同じく平凡な印象の白いシャツ。そして、いつものようにインディゴブルーのマフラーを首元に纏う。]
あははっ……いくら綺麗だからって、《青》だけを並べすぎると、かえって悪趣味だと笑われそうですね。
[再び応接間に現れたジュアンは、肩を竦めて、笑う。
ソファに座り、従者のオンナが差し出す紅茶をザリチェに勧め、自らもそのひとつに唇をつける。──…白い陶器に、青磁いろの花模様のティーカップに。]
僕、黒と白と青しか、綺麗なものに見えないんです。
何ででしょうねぇ。不思議でたまらなくて。
そういえば、ニクスさんもとても綺麗な《青》をしていましたね。あともう少しで、初めて《闇》を知った《青》を堪能できると思っていたのに……その前に自ら消えて無くなってしまうとは、残念ですねぇ。
――……
[燃えるような気配を纏う魔を見つめる。
金色の眼が、底光りを湛えた。]
……私は、お前の所有物ではない、が――
いいだろう、違えることは許さんぞ。
[蒼の魔――湖畔の魔の姿と、
その<候補者>の姿のイメージが重なる。
そう、あれも淫魔だった。
ザリチェ、と唇だけで確認するように魔の名をなぞる。
頷こうとしたが、囁きに動きを止め眉を寄せた。]
……ッ、要らぬことを謂うな。
[低い響きに余韻が甦るような気がして
撫でる手を払った。]
[色数の限られた室内を興味をそそられた様子で見ていたが、茶を勧められて席に着く。
ティーカップに軽く口だけを付けたところで、]
黒と白と青しか……
他の色はどう見えるのだ。
見えないのか?
[「青に執着するのはその所為か?」とは尋ねなかったが、表情が訊きたがっている。]
ニクス……
そんなに気になるなら自分でどうにかしろと己は言った。
手を出さないジュアンが悪い。
[平然と嘯いて、茶をひと啜りした。]
[ザリチェが《青》以外の色について問いを放つ。その目を見て、かれは曖昧に笑って首を傾げた。]
僕、暗い闇の中で育ったんで。
……あまり、明るい色とか、得意じゃないんです。
[……とだけ答え、話題を変える。]
僕、幼い子どもが誰かに手を出されるのを観察するのは平気なんですけれど、幼い子どもに手を出されるのは好きじゃないんです。
何ででしょうねぇ……ポリシーの類?
でも、不覚にも、《闇》にだんだんと足を踏み入れるニクスさんからも、ニクスさんを喰らい尽くそうとするザリチェさんからも、不思議と美しい「音」が聴こえました。
……自分の手でどうにかできなかったの、ちょっとだけ惜しかったですかねぇ。
[表情を変えずに、紅茶を一口。
従者が持ってきたクッキーも一口。
ほんのり、甘い。]
[「英雄色を好む」に類する事はあったが、性行為そのもので、クァルトゥスがウェスペルの魔力を奪ったわけではなかった。ただ、同意を得て“魔力を奪った”だけなのだ。
ウェスペルがその事に気付くかどうかは、紅玉の悪魔には与り知らぬ事だった。もし気付いたとして、騙されたと怒るのか、それともお前が手負いでなければ良いと云うのか、それも含めて。
クァルトゥスは、傷の癒えた脇腹──そして、ウェスペルの針に刺された左上半身を、改めてウェスペルに確認させる様に見せた。]
[だが、睦言は《契約》では無い。
脇腹の傷の奥──《青》の臓器がある場所は、いまだ空虚。
それはジュアンの裡に隠されているのだ。だが、表面上はそれは分からない。
ぽかりと空いたクァルトゥスの裡の暗闇で、代償に得たジュアンの眼球が揺れている。
暗赤色に脈打つ義手にぬめりを帯びた漆黒を纏わせ、クァルトゥスは内腑に手を差し込み、その眼球を取り出す。]
[クァルトゥスの義手の内側から軋む様な音が響いた。
彼の手には何時の間にか、暗赤色に染まりかけた誰かの眼球が握られていた。]
私の眼球では無いが。
[左の眼窩にその眼球をはめ込む。
大きさが合わない所為か、クァルトゥスの左目は顰められた様に不自然な姿になった。
ぬらり。何らかの魔力を纏っている所為か──
クァルトゥスには何かが見える様だった。]
「音」か。
ジュアンは己の聞こえぬ音も聞こえるようだな。
[テーブルの上に肘をつき、、両掌の上に顎を乗せて、喫するジュアンに視線を注ぐ。]
……いいええ。
僕が聴いているのは、普通の音です。
聞こえちゃいけないものは、聞いてませんよ。
ただ、ほんの少しだけ「音」に敏感になるというだけで。
[ザリチェの《青》をじっと見つめ、言葉を紡ぐ。]
じゃあね――――また、会いましょう?
[饐えたにおいの残る部屋ではまだ何事か、会話のあるようだったが、声だけを投げ、破れ戸から外へ。
ジュアンの屋敷へ行った事は無いが、おおまかな場所は知っている。彼がそこへ居るかどうか。飄々とした風の如き男のこと、ひとつ所に留まっているとは思いがたい。
とは言えゆくあても無い。何者かがクァルトゥスの屋敷へしたように、少し挑発をするのも悪く無いだろう。]
[騎乗を呼び寄せるのも面倒だ。そも、既にロネヴェの屋敷からして何者かの破壊を受けている可能性もある。夜闇を駆け、森へ。]
[血が滲んでいたはずのその箇所は、すっかり癒えていた。
魔力の行き来、それが乱れた宴を通じてのことか
それとも]
……む。
[何かに気付いたように眉を寄せたが]
……癒えたのならば、今はよしとしよう。
[とだけ呟いた。
だが今度は自分の力を回復させねばならなかった。
針も上手く編めないだろう。]
[ニクスの墜落をどうやって知ったのか。
疑問を浮かべたロネヴェに、クァルトゥスは「楽の音が聴こえたのでな」とだけ伝えた。
ジュアンの名をあげた理由も含めて、直接的にはなり得ないクァルトゥスの言葉の端々から、何か拘束力を持った《密約》の存在を、狡猾なロネヴェならば嗅ぎ取る事が出来ただろう。
浴室を求めて去る女悪魔の扇情的な背中を、クァルトゥスは紅玉色の右目と血膿んだ様な左目で見送ったのだった。
屋敷を去る女悪魔の纏うドレスは燃える様な紅。だが、嵌め込んだ左目がその色を認識する事はなかった。]
[ウェスペルは、クァルトゥスの浮かべた微笑に
僅か戸惑ったような様子を見せたが]
――なら、良い。
[ふいと視線を逸らす。
腕はまだ痛んでいた。痕になるだろうか。
“また会いましょう”――ロネヴェの声が投げかけられた。
ちらとだけ其方へ視線を向けて]
……ああ。
[短く答えた。
何故あんなにも宴の後で普段通りなのか
心中密かに疑問を抱いていた。が、口には出さない。]
……眼球?
[暗赤色の眼球が、左の虚に嵌めこまれるのを
訝しげに眼で追った。]
それは、誰のものだ。
何を見ている。
[覗き込むようにしながら尋ねた]
別にどう聞こえようが何が聞こえようが己は気にならない。
それよりも、クァルトゥスと貴方は常に繋がっているのか。
[気のない様子でさらりと尋ねる。
青い瞳は何のいろも映さず、気怠い平穏さを漂わせている。]
……繋がっている、というのは若干違いますかねぇ。
クァルトゥスさんとは、たまーにお話するだけです。
たわいのない話を。
[ぱちり、ぱちり、ぱちり、瞬き]
[コロン]
あ。落ちちゃいました。
[コロ、コロ]
………右目。
[床に落ちた、青い目、義眼。]
[窪んだ右の瞼を隠すことなく、ジュアンはザリチェににこりと笑んだ。]
[ウェスペルの抱いた疑問は、半分は的外れでもある。身体は確かに疲弊し、心は無闇に高ぶって居たから、平静としている訳ではない。但し、それをひとに悟らすような事はしたくないと思い振る舞うのだが。
小さくも、瀟洒な建物。
何者かに荒らされた様子は無い。門前、]
――――ご主人はおいでかしら?
[落ちた右目を、床から拾う。
ふぅふぅと何度か息を吹き付け、眼球についた埃を払おうと試みるが――…]
あれ。うーん。しつこく埃ついてるや。
取れそうにありませんねぇ……
[左手で、眼球を手に持ち――…]
じゃあ――…要りません。さよなら。
[ぽい]
[眼球を、屑籠に、棄てた。]
地上の穢 ロネヴェは、瑠璃音ノ五シキ ジュアン を投票先に選びました。
[「《青》と白、黒しか見えない。」と云った呟きは、泡沫にも乗りジュアンの元へ届く。]
…奇妙な視界だな。
・・お前は、この様な世界を 見ていたのか
《青》
奇妙も何も……
それが僕の「目」です。
黒と、白と、《青》しか、見えません。
だから僕は「血の赤」が嫌いなんです。
……ごちゃごちゃしていて、「分からない」色だから。
こちらへいらっしゃるのですか……
もしかして、「この目は《青》しか見えなくて、要らないから返す」とでも?
でも残念ながら、僕はあなたの《青》を返す気はありませんよ?
[ほどなく現れた従者に通されて、屋敷の中へ。
応接間、統一された色彩は青。
その中で、物憂げに歓談する、青い淫魔。眉を顰めた。]
邪魔させて貰ったわ――――呑気なものね。
[クァルトゥスも何処かへ向かうつもりなのか、ウェスペルの問いには答えずに立ち上がる。何時の間にか、彼の愛馬が室内に佇んで居た。
ウェスペルに触れる事無く、クァルトゥスは襤褸襤褸の痩せた妖馬に飛び乗った。
行為の残滓は雲間の霧雨で落ちると云わんばかり、空を駆けて行く。]
貴方の《青》も、僕のものです。
――…我が《青》の宮殿の。
瑠璃姫に捧げる、《青》になるのです――…
[くすり]
[唇から、笑む音が漏れる。]
……よく分からない色をしていらっしゃいますが、
悪魔がおひとり、やってきましたよ。
ああ。きっと「あか」は、
あの方のようないろをしているのでしょうね。
ようこそ。
その声は……ロネヴェさん?
[声がする方へ、ゆっくりと振り返る。]
[――…右目が欠けた男が、にこりと柔らかく微笑んだ。]
[クァルトゥスは馬上で嗤う。
ジュアンは《密約》を結んだ当のクァルトゥスが、燃える紅の持ち主で有る事も知らぬのだろう。]
…否。
見えるものの問題では無く、お前の事が知りたいだけだ。
“瑠璃姫” 枇杷か──
…お前は狂うているだろう
[いささか呆れたような目でジュアンを眺めていたが、ふと屋敷の入り口の方を振り返り眉を顰める。
ややあって聞こえてきた棘のある女の声に、「やはり」とでも言いたげな冷ややかな表情を作る。]
どうしたの、その眼は……意地汚い、”渇きの君”にでも献上したのかしら。
[ザリチェへは一度、険しい目を向けただけで距離を取るように応接間の中をゆっくりと歩き、ジュアンの隣へ腰を下ろした。]
突然ロネヴェさんがここにやってくるなんて。
珍しいこともありますねぇ。
明日は、雨でしょうか?
……って、あ。さっき降りましたか。
[ケラケラ、笑う。]
……《青》と、白と、黒?
色覚に封印でも施されたものか……?
[或いはそういう病も、あるだろうか。
ふと、亡き伯の広間で見た
瑠璃色が印象深い青年が脳裏を過ぎった。]
クァルトゥス!
[赤い髪を翻し、魔は妖馬と共に空へと駆けた。
追おうとしても、魔力の欠けた体でどうにかなるものでもない。]
……く、何処へ―― ……。
[大きく動いたことで残滓纏わりつく感覚を急に自覚し、
小さく声を漏らした。
暫し悩んでいたが、背に腹は替えられぬと
ロネヴェがそうしたように、
湯浴みの施設を無断で借り、身を清めることとした。]
[あつかましいロネヴェの態度や皮肉にも顔色ひとつ変えない。
あくまでも冷たい眼差し……鼻にも引っ掛けないという、絶対零度の傲慢な目だ。]
[従者に命じ、紅茶をもう1杯持たせる。
ロネヴェにそれを勧め、自らももう一口。]
いいええ。僕の目は、ザリチェさんに差し上げたわけではありません。他に欲しいという方がいらっしゃったんで、そちらに。ちょっとした「プレゼント交換」をしたんですよ。
ああ、でも、その方。
目じゃなくても、何でも良かったみたいなんですけれど。
だから、僕の目を手にして、喜んでくれたかどうかは謎です。
……喜んでくれればいいんですけれどねぇ。
[笑みは、絶えず。]
[クァルトゥスはジュアンのいらえに、寧ろ確信を深める。
阿鼻叫喚の戦場でさえ、枇杷を抱き続ける男の──その奇妙な在り様について。]
・・…──
[ゆるく唇を歪め、沈黙。]
はじめてね、あなたの所へ来るのは。
それにしても……あまり趣味がよくないわ
青色ばかりじゃない
[ザリチェの態度は予想の通り、以前に会った以後の通り。傲慢で、冷淡で、己の美しさに揺るぎなき自信を持った高慢な佇まい。「青色」と暗に淫魔を示しながら、ジュアンの顎へ手を添える。
学の音、”楽士”。短いキーワードが、策謀のように絡み合う。]
交換?
[目を受け取るには、受け取るだけの場所が必要だ。食したり、飾るのでなければ。]
……隻眼ならきっと、喜んでくれるわ?
欠けていて嬉しいことなどないもの。
あなたは交換に、何を得たの?
「絆の証に、他人の内臓が欲しい」だなんて。
……僕はその時まで、考えたこと無かったです。
だって……
他人の身体の「部分」──……
内臓が欲しいのなら。
目──…《青》が欲しいのなら。
壊して、奪えば良いのでしょう?
ただの「略奪の対象」にしか、過ぎないんです。
それを「絆の証」にするだなんて。
僕には、その感覚が分からないんです。
[ザリチェはジュアンとロネヴェの会話に口を挟まなかった。
ただ無言で耳を傾けている──空ろに開いたジュアンの眼窩を見据えながら。]
《青》は、綺麗だから好きです。
他の色の価値は、よく分からないんです。
[キロリ][琵琶が瞬く]
[ジュアンの視線は、淫魔の《青》をすいと見つめ、顎先を指ですくったロネヴェの──「訳の分からない色」をした瞳に向けられた。]
僕が得たもの……ですか?
《青》い色をした、肝です。
とっても綺麗なんですけれど、見せるのもったいないなぁ。
──…あれ?
もしかして、僕は何か、間違ったことを言いました?
それなら、申し訳ないですけれど。
[微かに、笑い声。]
それに、瑠璃姫はただの琵琶ではありませんよ。
……本物の、姫君なのですから。
”絆”――――
[絆を結んだ相手は、密かに新たな策謀をもたらした。
何と儚い絆だろう。ロネヴェは唇の端をつり上げる。
ならば彼は何を望んでいるのだろう。己までも手駒としていずれ滅ぼすつもりならば、それも上等だ。全く持って気の合う男。]
ジュアン、
あなたの言うことは正しいわ。
絆だなんて、笑っちゃう―――
ただ “《青》だけ”なのだろうよ。
[クァルトゥスの背に、ウェスペルの声は届いたのか、否か。]
──私は、《候補者》を減らしに行くだけだ。
──…内臓が欲しくなっちゃうくらい、アイシテル?
うーん。それとも違うなぁ……多分。
愛されてるなら、それはそれで嬉しいですけれど。
[湯の流れる音、手の痣と古傷に視線を落とした。
ああ、やはりそう簡単には消えそうにない。
クァルトゥスの言葉を反芻する。
青い候補者に魔力を与えるな、と。
青、瑠璃色の琵琶。
青、湖畔の淫魔。
青、―――無垢な幼き魔。
ニクスは喰われてしまったと謂う。
つよい力を持った、変わり者。
そう簡単にやられるとも思えなかったが
無垢ゆえの脆さであろうか。]
……“好きなものが見つかるといい”か。
[去り際にニクスが投げかけた言葉は確かに届いていた。
やはりよくわからないな、と少しだけ笑った。]
[今、クァルトゥスの左右の視界は噛み合ず、
左は《青》ばかりが目に止まる。]
何も間違っては居ないさ。
姫君──…女か。
[”笑っちゃう”。笑いながら]
[他の色の価値が判らない?]
[美しく、冷たい青色の目をした、深く、見惚れるような青色の髪をした淫魔に目を向けた。
なんと屈辱的なことだろう。]
ねえ、ジュアン。
あんたにとって私は、その……
[口にするのもおぞましい。]
価値など無いと言うのかしら?
「女」だなんて。やだなぁ、生々しい。
──……「姫君」、ですよ。
遠い昔、叶わぬ恋をして──永遠の眠りを望んだ──…
[其処は、自然の恵みには遠い場所だった。
貴族の住まう宝石の如き居城は無論、
高き山も炎の池も、
黒き森も鏡の湖も、
何一つ在りはしない。
唯ただ、罅割れた硝子を寄せ集めたような大地が広がっている。
うたかたの雨が降った後には、闇黒の天が姿を現した。
太陽と呼ばれるものが無いのに変わりはないが、昏い空に黒曜石と称せるほどのうつくしさは無く、憎悪、嫉妬、憤怒、怨恨、欲望――様々な感情の色を混ぜ込んだ結果、黒をつくっているというのが正しいように思えた]
[幼き魔は、冷たい地面に座り込んでいた。
纏った衣服は、薄汚れた布切れ一枚きり。華やかなフリルもリボンも無く、鮮やかな白は見る影も無く、青はより深い闇を孕んでいた]
……何処、ここは――
厭だな、 乾いている。
[呟きは風に霧散する。
魔力の源たる水の里、闇を映した鏡の湖から生まれた幼き魔にとって、荒れ果てた野原など、来る理由はなく、知り及ぶ事もないものだった。
力を失ったことにより、候補者を呑みこむ虚ろの孔に引き寄せられたのか。
疲労の色濃い眼差しを、ゆっくりと辺りに巡らせる。
何故、と問うても、答えは期待出来そうになかった]
[――天を覆う澱みの如く、蠢く黒が彼方に在る。
血の宴の「お零れ」に群がる、力無き魔らの姿だ。
本来ならば己の下に在るはずのものに、踏み拉かれる堕ちた魔。此処においては、力の有無が全て。元の地位など、関係は無い。
怨憎の罵声は哀願の叫びに変わり、苦痛の呻きとなって消え失せる]
……ア、ハ、
[歎息にも似た笑いが零れる]
[己には――「ニクス」には、色も何も無い。
在るものを映し、触れるものに染まるだけ。
けれど、]
そんな「色」は、キラいだ。
[此方へと寄る昏き色の集まりを、立ち上がる気力もなく座り込んだままに見つめながら、わらって、*吐き棄てた*]
……いいええ。
[ロネヴェの言葉に、困ったように首を傾げる。]
僕は《青》の他には、白と黒しか見えない。
──…それだけのことです。
[小さくわらう]
アイ──
[小さい呟き。
しかしそれは無意識のものであるのか、]
ジュアンは本当に話すのが好きなのだな。
それだけ喋り捲って飽きないのだから。
[呆れたように話しかけるその態度は、全く自分の零した呟きに気付いておらぬようだ。]
[当然の如く、ロネヴェの問いもジュアンの返答も、耳に入っている筈なのに気にした様子がない。
本当にロネヴェが気にならないのか、わざと無視をしているのか。]
[『“《青》だけ”なのだろうよ。』
青の淫魔、青の奏者。
至上の青を探す旅人を夢想する。
それは葬るべき相手。
祭礼は続く。
魔力が足りないのならば、奪えばよい。
幸い獲物ならば事欠かないだろう。
双眸を細めた。]
渇きの君 ザリチェは、地上の穢 ロネヴェ を投票先に選びました。
……そう。
[ジュアンの顎先から手を離した。]
”渇きの君”は睦言以外に語る言葉をお持ちで無いものね?
[ロネヴェは、ザリチェを無視しきれない。
片方の眉を上げた]
ねえ、ジュアン。
折角お茶を用意して貰ったけれど、
今日はあんたを殺しに来たの。
[離した指先に、黒い炎を灯らせた]
あんたにとって私が白と黒の一部でしか無いと言うのなら、
そこの青い淫魔と共に堕としてあげるわ―――
[妖馬は湿度を孕んだ雲間を駆け抜け、クァルトゥスはずぶ濡れになる。滴り落ちる幾多の水と共に淫液が洗い流されて行った。
クァルトゥスがかつて封印された大地の裂け目を足元に見る事も無く、馬は行く。ただ、妖馬はその場所に奇妙な磁力を感じるのか、深淵の真上に差し掛かった時に、一度高く嘶いた。]
・・ウェス。
あの金色の悪魔は、私に魔力を奪わせた後。
己自身がしばし万全で無くなる事に気付かなかったのか──。
それで己が命を落としたらどうする?
莫迦め。
魔力が回復するまで、動けぬように縛り付け、真暗闇に閉じ込めておきたい…可愛らしさだ。
飽きないですねぇ。
皆さんの「音」が面白いからですかねぇ。
弾む音、跳ねる音、地を這う音、切り刻む音……
……そのうち、近づいてきますよ?
猛々しい、臓腑の音が……
あれー。それは困りました。
[目尻には、笑い皺。柔和な笑みで、ロネヴェを見つめる。]
しかし、変な話ですねぇ。
ロネヴェさんは何故、普段仲が悪いザリチェさんに殺意を向けないんですか?
何で「僕から殺す」んですか?
急に僕が気に入らなくなったから?
でも、あなたがザリチェさんを憎むいろは、そんな一時の感情から来るものに吹き飛ばされるほど、根の浅いものではないはずです。
[不思議そうに、首を傾げる。]
それとも―――誰かの、差し金ですか?
[一人がけのソファ―――…姫君の特等席に鎮座していた琵琶を手にし、ジュアンはにこりと微笑んだ。]
[雲間を抜けるとそこはすでに翡翠色の草原ではなく、黒い鉱石の森。
ヴァイイ伯の屋敷の向う、緑柱石で出来た煌めく低木ばかりの丘が有り、そこに複雑な幾何学模様を織りなすアラビア風の天幕が見えた。
天幕の一つの傍には、三日月型の銀色が光り、その傍にクァルトゥスに見覚えのある者、無いもの──幾多の生首が転がっている。そして、一際おおきな天幕の内側に、幾千本の刃で円陣を描き、アーヴァインが待機していた。
クァルトゥスの馬が一層高く嘶き
────エキゾチカルな戦闘の結末は、アーヴァインの死。
刃傷と、アーヴァインの心臓を喰らった口元も生々しく、クァルトゥスはジュアンの館を訪れる。]
…叶わぬ恋か。
[呟きは、戦場に紛れて消える。
クァルトゥスは、両目の有った時代──…
暗黒の大地の下へ封印される以前に、蒼めたる女神を捕えた時の情景を思い出す。
虚無の氷は、己自身では如何にしても持ち得ぬもの。
女神が、六大諸候の妹にして妻であったことも含めて、それを得るまで──己は渇望していたのではなかったか。
とは云え、女神を生きた盾として捕えたのちも、クァルトゥスの野心の焔が消えることはなかったのだが。]
[伸ばした手の先から、夕闇が少しだけ顔を出す。
それは纏わりついて衣服の形をとった。
黒衣と、白のドレスシャツ、常の姿。
手袋を嵌めれば、傷も痣もすっかり隠れてしまう。]
……少しばかり、きついな。
[低く小さく漏らす。
魔力を持っていかれた、その影響は大きい。
このような状態の己を見ればクァルトゥスは笑うだろうか。
ウェスペルは廃墟を後にした。
空には雲が垂れ込めている。
足元に翼を広げると、駆けだした。]
”候補者”は例外なく消すわ?
[床と水平に腕を伸ばし、炎を灯した指先をザリチェに向けた。]
アイツとは、関わり合いたくも無いのだけど。
そうね、
敢えて何故と言うなら――――”絆”かしら。
良かったわね、何だか判りもしない色彩を見て死ぬことにならなくて。
[ここまで穏やかに言ったが、ザリチェの言葉に目尻を吊り上げた。指先の炎が膨れ上がり、火球は指を離れてザリチェへ跳ぶ。]
[飛来する黒い火球を、横へと跳躍することで漸くかわす。
うっすらと眉間に皺が寄っているのは、余程この手の攻撃が苦手なのか面倒臭いのか。]
ジュアン。
己に矛先を向けさせないで欲しい。
[と、抗議するのは当の女魔ではなく、あくまでジュアン相手に、だ。]
《絆》を笑うあなたが《絆》を口にするなんて。
……おかしな話ですねぇ。
[くつくつ][くつくつ]
[琵琶の弦軸を小さく回し、瑠璃姫の機嫌を伺う]
[ガララ……―――琵琶の、低い音ひとつ]
ううん。ますます分かりません。僕には難しすぎて。
『あなたに抱かれたそのぬくもりが、私どうしても忘れられないの…』っていうお話があって、それを《絆》と言い換えているのなら、だいぶ簡単に分かるのですが。
……そういうワケでも、なさそうですよねぇ。
[にこり][弦を弾く黒い爪]
あれ。どうしたんですか、ロネヴェさん。
ザリチェさん狙ってその黒いの投げつけるだなんて。
……八つ当たりですか?図星突かれて怒っちゃいました?
あのー……屋敷を燃やすのは、勘弁してくださいねー?
[ジュアンは笑い、乾いた《旋律》を*奏ではじめた*]
はいはい。分かりましたザリチェさん。
[目尻を下げて、ザリチェに笑む。]
ロネヴェさん……八つ当たりは《醜い》ですよ?
せっかくロネヴェさん綺麗なのに。勿体ないです。
あははっ。
[目がすぅっと細くなり、視界がだんだん*黒くなる*―――]
[クァルトゥスが漆黒の戒めで女神の手足を縛し、青玉(サファイア)の瞳を覆い隠そうとしたその時、蒼白な膚を持つ美貌の女神は、同じく蒼白な唇に呪いの如き言の葉を乗せた。]
「・・・クァルトゥス
氷よりも空虚な野心に燃える、可哀想な人。
あなたには──愛が分からない。」
もっともっと簡単な話。
―――単純な損得勘定よ。
でも、もうきっとそれも意味が無いわね。
[”瑠璃姫”のする事は見て居たから、ジュアンを警戒し、跳躍ひとつで距離を取る。低い音色は死を運ぶ。
広げた両腕のうえに、頭部ほどの大きさの火球が浮かぶ。二つ、三つと増えて六つに。いっそ屋敷ごと燃やし尽くさんとばかりに。
物憂げなザリチェの仕草がまた*苛立たしい。*]
黙るといい―――!
[すぐそこの見事な意匠の壁が──白と黒と青の色彩しかないとは言え──黒い炎に包まれて燃えているのだが。
確かに暢気な話ではある。
淫魔は露骨に嫌そうな表情で、燃える壁と元凶たるロネヴェを交互に見遣る。]
”絆”など……
己は、己だけを求めて来ないものは嫌いなんだ。
[理由はそれだけで十分だ、と言わんばかりに吐き捨てた。]
──ジュアンの館──
[片目の無い従者に迎え入れられ、《青》の館にクァルトゥスが足を踏み入れる。
下界の色の中では、左右の視界は酩酊するかの如く噛み合なかったが、ジュアンの館はその左目に馴染んだ。従者と目があった時、ほとんど暗赤色に染まった左目がグルリと回転した。
力有るもの同士がぶつかる不穏な気配。暗赤色の義手の内側、軋んだ音が響く。]
待たせたか?
[その言葉は果たして誰に向けられたものなのか。
クァルトゥスは、黒い炎を放ったばかりのロネヴェの手を取り、指先をねぶる様にゆっくりと舐めた。女悪魔の腰を軽く抱いてから、気怠げなザリチェに視線。]
堕ちたる魔槍 クァルトゥスは、地上の穢 ロネヴェ を投票先に選びました。
[ジュアンには、視線を向ける必要性を感じないのか。
ただ、左目を嵌め込んだ眼窩がどくりと疼き、ジュアンの裡に埋められた《青》が存在を主張する様に震えた。]
堕ちたる魔槍 クァルトゥスは、瑠璃音ノ五シキ ジュアン を能力(襲う)の対象に選びました。
[ロネヴェが頭上に黒い火球を幾つも生み出すのを見、面倒臭そうに溜息をひとつ。]
やはり無様だ……
[ぽつり、小声で呟く。]
[赤い戦魔の姿を認めると、それまで軽く顰められていた眉を開いた。
白い顔(かんばせ)に艶冶な微笑を浮かべる。
「確かに待っていた」と、その表情が*何よりも能弁に語った。*]
触れずの君 ウェスペルは、地上の穢 ロネヴェ を投票先に選びました。
―荊の丘―
……ふむ。
[水晶の欠片がばらばらと煌きながら地面に散らばった。
傍には太さのある針が突き立った死体が幾つか。
荊は緋色に染まる。
ウェスペルは確かめるようにゆるく開いた手を見つめた。]
幾らかマシという程度か。
[ほんの一滴かかった血をちろりと舐め取る。
小物では奪う魔力もこれが関の山。
数えるほどになってきた候補者を屠る必要がありそうだ。
天空に飛び立ったクァルトゥスがそうしたように。]
[魔力を与えたこと―奪われたと言う方が正しいが―
悔いてなど居なかった。
――力ない無様な姿を晒したことを除いては。
ゆえに、宴のあとのロネヴェが見せた
“普段と変わらない姿”の理由を知ったなら、
ウェスペルは、彼女に賛辞を送ったかもしれない。]
――……
[差し伸べた手の先に、藍色の装丁を施された
分厚い本が闇から浮かんだ。
風もないのに頁は繰られ
此度の後継者争いの章で止まる。
淡く光る線は象牙色の紙の上を走り、
《候補者》の名前を消していく。
ニクスの名前が消えたとき、
ウェスペルは少しだけ眼を伏せたように見えた。]
[残る候補者は数えるほど。
その中に『渇きの君』ザリチェ、
それから次いで“ジュアン”という名を眼に留めた。]
――“瑠璃音ノ五シキ”か。
[青だ。青、青、一切が青。
片目を眇めたような表情を浮かべたクァルトゥスの言葉が
この悪魔のふたつ名に繋がった。
ぱたんと本を閉じると小さな風を巻き起こし
再び闇に解けるように消えてしまう。
書は閉じられてしまったが、
程なく“アーヴァイン”の名もそこから消えるだろう。]
[赤い悪魔が候補者を屠ったことは知っても、
天空で紡いだ言葉をウェスペルは知らない。
聞いたなら間違いなく怒りをぶつけたろう。
彼は赤い悪魔を追う。
お前を殺すのは私。
私を殺すのはお前。
ならば――
深く根ざした、睦言に似た呪いの言葉、
それは紛れもない誓いの言葉。]
邪魔だ。
[銀を編んで新手を刺し貫く。
満ちるには足りないがこの程度の相手ならば十分。]
立ち塞がるならば、私の糧となってもらう。
[双眸に宿る鋭い光と共に、
地を蹴り空を*駆ける。*]
[倦怠と不快の表情が艶やかな微笑へと変わる様は、まるで白薔薇(そうび)の花弁が綻んで、大輪に咲き開いてゆくよう。
その匂い立つ艶かしさ。]
クァルトゥス。
貴方に話しておきたいことがある──
[天鵝絨の手触りの声が、*薔薇の唇からこぼれた。*]
あー……燃えてますね、僕の屋敷。困りますねぇ。あとで弁償してくださいねー。それから、そのカップも。苦労して手に入れたんですから。ね?
[パチリパチリと何かが燃える音が鼓膜を震わせ、それに呼応するかのようにジュアンも瞬く。瑠璃姫がキロリと瞬き、ジュアンに同意。
――ガチャリ。扉が開く音、クァルトゥスの声。]
あはは。それほど待ってませんよ。
[視界を失ったジュアンは、クァルトゥスの声に笑って応えた――…が。]
……って、クァルトゥスさんが待たせてたのは僕じゃなかったんですねぇ。勘違い失礼しました。
[ジュアンの間合いの二歩向こう、舐め取る唾の音が聞こえる。位置は高い――…ソファから動かぬザリチェではない。ならば――…]
――…ロネヴェさん。
もしかして、その《損得勘定》のお相手って…――クァルトゥスさんのことですか?
……あははっ。
瑠璃音ノ五シキ ジュアンは、地上の穢 ロネヴェ を能力(襲う)の対象に選びました。
[躯の奥に潜む《青》が、ドクリと大きく脈を打つ。]
[――ドクリ。
鼓動に合わせて、ジュアンの口許が歪む。]
[――ドクリ。
見えぬ目を、見開いて。]
………あはっ。
[突き上げるのは、快楽ではなく――…]
ぶっ……………くくく
[抑えても抑えきれぬ息の塊がジュアンの口内で爆発し、唇から一気に漏れ出す。]
あははははははっ!
……楽しい。楽しすぎる。
理由全然わかんないけど楽しすぎる……!
おかしすぎる………!
醜いの気にして必死になってザリチェさんに噛み付いてるロネヴェさんも。ロネヴェさんの指舐めてるクァルトゥスさんも……!
堪らなく醜くて、惨めで、面白すぎる………!
[――止まぬ、嘲笑。]
あー………っはっは……
まいっかー……
[琵琶に添えていた右手を、ロネヴェに向けた。]
――…ロネヴェさん。
『雨はお好きですか?』
なぁんて。聞いても結果はおんなじですけれど。
『火曜日と土曜日は、雨が散々降りますので、ご注意くださいね?』
[キロリ][瑠璃姫が瞬くと――…無数の弦が雨となり、天井からロネヴェに向かって降り注いだ。]
アンタが滅さず再び這い上がって来るようなことがあれば、
そのときまでには贖っておいてあげる。
[肩の周り、纏うように火球を漂わせてクァルトゥスへ寄り添う。
露骨なザリチェの態度―――しかし如何に明らさまであっても美しく、それがいかにも皮肉だ―――は、ロネヴェの怒りに新たな油を注ぐことは無かった。
悠然と構えていたがジュアンの言葉に、眉根を寄せる。]
―――――何かまだ、思い違いをしているんじゃなくて?
[弾けた笑い声に、益々眉を寄せてジュアンを眺め回した。癪に障る笑い声だ。]
思い違い?
さー。どうでしょうね。
「男性に指舐められてキモチよさそう」っていうのも――…思い違いですか?
―――…自分が「醜くない」って、キモチイイ?
瑠璃音ノ五シキ ジュアンは、おまかせ を能力(襲う)の対象に選びました。
気持ちが良いわ?
―――でも、ほら思い違い。
私が”美しい”事なんて、当然なの。
嗚呼、……アンタに理解しろというほうが無理な話ね?
[キロリ]
[確かに”雨”だ。ざらりという音がして、一面、銀色の雨が降り注ぐ。キラキラと青色を弾いていた。]
[火球全てを壁へ叩き付け、青い壁を破って強引に部屋を出る。それでも雨を浴びた。露出した肌に幾筋もの筋が走り、その傷の深い所からは黒い血が飛沫く。
血を拭いもせずに炎を差し向ける。幾筋もの炎は床を真直ぐに走って、幾何学模様を描いた。]
あーあ……せっかくの《青》が。集めるの大変だったのに。
[ロネヴェが壁を破壊した音を聞き、ジュアンは小さく肩をすくめた。
銀色の雨がロネヴェの肌を突き刺さる音。肌が破れ、肉を裂き、血管が破裂する音が次々と耳に入り込み――…ジュアンはにこりと微笑んだ。まさか、その血の色が黒いとは知らぬまま。]
[破られた壁]
[ロネヴェを追ってジュアンも外へと飛び出す。]
[――…が。
かれの眼前に、炎の「音」がこだまする。勢いよく飛び出したせいか避け切れず、ジュアンの服が黒い炎に包まれた。
――己の肌が焼ける音。
――己の肌が焦げるにおい。
己の身体に纏わりついた火を消そうと、ジュアンは地を転がった。]
[炎の向こう、ジュアンが地を転がるのを見て、炎を踏み越えた。
クァルトゥスを目で制する――ジュアンを陥れる代わりに、ザリチェを、それが取り交わした事だったから。]
――――雨は、嫌いなの。
[足蹴にしようと、ジュアンへ脚を伸ばす――動く度に何処も酷く痛む。さながら黒い雨でも浴びたかの如く血を纏った貌が、痛みで歪む。]
……残念だけど。
アンタの蒐集物への償いの話は、無かったことにさせてね?
私の肌は高価いの。
[戦端を開いたロネヴェとジュアンは既に眼中にない様子で、その透徹の青はただクァルトゥスのみに向けられている。
汚穢(おえ)の黒。
黒の炎。
破壊音と肉を裂く闘いの音。
それらのただなかにあって、青は凛と立つ。]
―荊の丘より離れしばし―
[黒水晶の幹に凭れかかり、
眼を閉じたまま天を仰ぐ。
足元に倒れた《候補者》の骸には銀の針が突き立っている。]
……く
[押さえた左腕から血が滲んでいた。
少しずつ再生はしているものの
やはり常よりは遅い。
眉を寄せる。]
……!
[爆音が空気を震わせる。
顔を上げると様子を伺う為か動く。
背後で、骸が闇に沈んでいった。]
[地面を転がるジュアンの上に、ロネヴェの足が翳される。]
………なーんだ。つまらないですねぇ。
せっかく貴女が、地面を転がる僕を見て笑ってくれると思ってたのに。案外隙が無いんですねぇ。
[もうひとつ転がり、翳された足をかわして半身を起こした。黒い炎を身体に纏ったまま、にこりと笑う。]
では――…『雨が嫌いな貴女のために』。
[自分を踏み付けようとしたなら、さほど遠くは無いだろう――そんな予測の元、ジュアンは腕を伸ばし、声のする方向――ロネヴェの心臓めがけて黒く鋭い爪を伸ばした。]
[クァルトゥスは、ザリチェの薔薇が花開いたような笑みをじっと見詰め返した。]
・・ザリチェ。
貴方の《蒼》は、部屋の青に馴染みすぎて、ジュアンのコレクションになってしまったかと錯覚しそうになったが…
[クァルトゥスもまた、ロネヴェの放つ黒い火球が周囲を焼き、青の宮が破壊をされる事に、眉さえ動かさない。枇杷の音と共に、弦の雨が降り注いでも。]
[ジュアンの眼球を嵌め込んだ左目を顰める。
何度か確認する様に瞬き。]
何も見えない。
[左目は、目の前の麗華をうつしてはいなかった。]
それほど意外だろうか?
私が話をしたいと思うのは。
[くっと笑みを深くしながら、さほど疑問というふうでもなく……揶揄するようにクァルトゥスに尋ねた。]
[かつん]
[踵は床を打った。]
笑わせたいなら、
泣き叫びながら地を這いなさい?――――ッ!
[身を引こうとしたが――黒い爪――身じろぎした為に僅かに狙いを逸らし、心臓よりやや斜め上を貫かれた。
血が溢れ、爪を伝ってジュアンの指を濡らす。]
雨と爪……冗談のつもり?
[爪の上を炎が趨る。]
[その先には瀟洒な館。
だがしかし、其処からは黒い煙が上がり、
複数の殺気が感じられた。]
……黒い、炎……ロネヴェ?
[そのまま身を隠しながら、
気配を殺しながら館へと近づいていった。]
[細かな砂塵と共に宮殿の青の破片が、崩れた天井からクァルトゥスの頭上にも降り注いだ。
クァルトゥスの右目に映るロネヴェの放つ黒炎は、粘り気を帯びコールタールの様な奇妙な質感に見えた。女悪魔の膚を濡らす黒い血液もまた同じく。]
[ぴちゃり。]
[黒いロネヴェの血液が、クァルトゥスの口元に飛んだ。
クァルトゥスは何の躊躇いも無くそれを舌ですくい取る。
舌が痺れ──文字通り、灼けた。]
…無様では無いな。
嫉妬や憎しみに炎を燃やしてこそ、彼女は美しい。
貴方とは異なっているが。
[まばたき。
何が可笑しいのか、クァルトゥスは喉の奥で嗤った。]
話は聞くさ・・ザリチェ
…“渇きの君”
[クァルトゥスは大股でザリチェの傍へ歩いて行く。]
―――…くっ
[ジュアンの爪に黒い炎が点き、かれの身体を包んで燃える。貫いた感触があるせいか、ジュアンは爪を引き抜かず――…むしろより心臓に近い部分まで切り裂こうと、右手をぐいと動かしている。]
[眉根をきつくしかめながら、ジュアンはロネヴェに降った雨を待っていた。]
[――銀糸の雨が、ロネヴェの頭上に降り注ぐ――]
[爪から伝う血で、ジュアンの肌が灼ける。]
[――ジュワリ、グチュリ。]
[肌が、血に冒される――…その奇妙な痛みに、ジュアンは小さく声を上げた。]
……であれば、彼女(あれ)はもっと前に私を殺すべきだった。
けれど、あれのことはどうでもいい。
[燃え上がる黒炎を背景にザリチェは佇む。
崩壊しつつある屋敷の様子を気にも留めず。
大股で近付いてくるクァルトゥスを、警戒の素振りもなく。]
[左眼球、眼窩が疼くのか。]
──… ・・少し。待っていてくれ。
[至近距離で《蒼》を見詰め、ザリチェの首に一度手を掛けた。
わずかに力を込めた──その刹那、クァルトゥスはジュアンに向かって跳躍した。堅牢な筋肉が収縮しそして躍動する、その衝撃はザリチェにも伝わっただろう。]
すぐに燃やし尽くしは、しないわ……
―――肉を焼かれ、身を溶かしながら、己の愚かさを悔いなさい?
[更に深く、と力の篭もる爪を握り、押さえる。
雨音が如き音を立てて血が滴った。滴る端から床を灼く。
いまのジュアンに叶うことは、その程度の小さな抵抗と思い込み、微笑む―――慢心の頭上から、銀の雨。]
[散らばって居るのは青い破片。
あの館からだろうか、一欠けら拾い上げた。
青玉か、藍宝石か、天藍石か。]
……
[聴覚が、雨が降る鋭い音を捉える。
そして、爆ぜる黒い炎の気配も。
更に、進む。
青の欠片は更に増えて、地面を埋める。
砕かれた夜空のようだった。
その、只中に]
――…瑠璃姫。
貴女の髪を、この憐れなオンナに――…
[揺らぐ意識。視界は晴れて――歪む。]
[ジュアンは、こちらを見下ろす傲慢なオンナを見て――…]
[―――…ひとつ、笑った。]
[揺らぐ意識]
[灼かれる身体]
[何もできぬまま、ジュアンは応える。]
―――…なんですか?
[小さく、微笑。]
―――…真に貫く、ですか。
どうぞ。
もはや抵抗などできない僕を貫くのは――…
―――…さぞや愉しいでしょうねぇ…―――
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