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渇きの君 ザリチェ は、堕ちたる魔槍 クァルトゥス を占った。
次の日の朝、自警団長 アーヴァイン が無残な姿で発見された。
《★占》 堕ちたる魔槍 クァルトゥスは 【人狼】 のようだ。
……そして、その日、村には新たなルールが付け加えられた。
見分けの付かない人狼を排するため、1日1人ずつ疑わしい者を処刑する。誰を処刑するかは全員の投票によって決める……
無辜の者も犠牲になるが、やむを得ない……
そして、人間と人狼の暗く静かな戦いが始まった。
現在の生存者は、渇きの君 ザリチェ、地上の穢 ロネヴェ、触れずの君 ウェスペル、瑠璃音ノ五シキ ジュアン、泡沫の雨 ニクス、堕ちたる魔槍 クァルトゥスの6名。
[掌の中には、誰かの眼球。
ジュアンはそれを見えぬ目で見つめ、くちづけを落とした。]
――…貴方との褥は退屈でしたが、貴方の瞳は好きですよ…――
[くすりと笑うジュアンの視界が、徐々に晴れてゆく。最初に白、次に黒、続いて青。そして、礼服の白いシャツに染み付いた、黒衣の射手の「わけのわからない色」をした、血液の跡――…]
あーあ。せっかく気持ち良かったのに。
まいっか、「見える」ようになったんだから――…
[掌に持った眼球に黒い爪を突き立て、「青」色を抉り出す。掬い上げた「青」をそっと翳し、琵琶の姫に近付けた。]
………瑠璃姫。
さあ、新しい「青」をどうぞ……
[瑠璃色の琵琶の胴に、新しい「青」――黒衣の射手の眼球に在った「青」の部分を塗り付ける。キロリキロリと瞬き喜ぶ瑠璃色の琵琶を見つめて、ジュアンもにこりと微笑んだ。]
[わずか眉間に皺を寄せ、遠方の気配を探りながら]
──否、その従者の妹だ。
兄当人が来ぬのは、宦官の儀を終えた後で身が優れぬか、すでに死したか。
・・ザリチェ。
私が干涸びるか、貴方が飽きるまで此処で楽しみ続ける事は出来ぬらしい。
妹も、貴方の様な美しい人を目前に死にたくはなかろうな。
名残り惜しいが、目の届かぬ場所へ行かせてもらう。
[蒼い髪を愛撫し、ザリチェの衣を合わせ肩に掛けてから、クァルトゥスは立ち上がった。]
[情を交わした後に髪をかき上げる時は、何故かいつも物憂い。
灼熱の槍を受け入れたからだは未だ余熱を持っていたが、続いて立ち上がる淫魔の動きはそれを一切感じさせなかった。]
行かれるのならば早く行かれた方が宜しかろうな。
その従者の妹御とやらが、今貴方のこころを占める人物ほどの意味があるならば。
[そう言い置いた淫魔の、声音こそ物柔らかであったが、態度は拗ねた猫のそれのように素っ気無かった。]
さらば、クァルトゥス殿。
貴方の望みが叶うように。
[するりと身を寄せ口接ると、その後は踵を返して振り返りもせずに歩いて行く。
その先には、今まで離れた場所で様子を窺っていた愛馬が待っている。]
[ひらり]
[虚空を舞う男のマフラーと白いシャツは、鮮やかな「赤い」血の色で染まっていた。]
[木の枝に降り立ち、すんとひとつ鼻を動かす。
――血の匂い、屍肉の匂い。
――にこりと笑んで、あたりを見回す。]
……あはは。
少しだけ「生き残り」が減ったんだ。
僕もそろそろ誰かに会いに行こうかな……
[ひらりと飛び立ち、どこかへ消えた。]
[複数の気配がする森をすこし外れたところ。
ウェスペルの足元には2対の黒い翼が広がり、
空を自在に行き来する助けとなっていた。]
……おかしい。
[追いながら、纏わり憑く下級の魔を切り払いながら
疑問を口にする。
緋色の魔の力、
あのとき程の力強さを感じないのは何故か。]
……ち。
[――森を外れたところには鉱石の花が咲く場所がある。
針についた血を振り払うと、其処に色彩が更に加わった。]
[肌蹴られたローブをそのままに、ザリチェは闇の馬に跨った。
素早く愛馬に合図を送り、森へと歩ませる。
後を見ぬ主と異なり、馬は去り際に暫時振り返り、魔槍の武人に向かって鼻を鳴らしたように見えた。]
[クァルトゥスとて、躯を覆う熱が去った訳でもなかった。ただ、熱を帯びたままでも意識は切り替えられる。大方、他の《候補者》に屋敷が襲われたのだろうと思われた。
何事も無さそうに立ち上がる相手に、己の事は棚にあげ軽く眉を上げた。その動作と発せられた言葉の落差がまた後ろ髪を引いたようだった。]
貴方ほどの者など居ないさ・・ザリチェ。
私が去れば、程なく貴方はまた渇くのだろう……。
[それは口惜しいと嗤い。
くちづけながら、ザリチェの底知れぬ青い瞳を覗き込んだ。]
[クァルトゥスもまた立ち去り掛け、思い出した様に振り返る。]
そう云えば、貴方の“青い瞳”が欲しい者が居るらしい。
瑠璃音ノ五シキのジュアン ご存知だろう──。
次に私と逢うまでに、その目を失わないでくれ。
……ねえ、クァルトゥスさん?
あなたの肝臓、僕の中ですごくよく動いてますよ。
元気ですねぇ……ホント。
あなたのことも食べたくなるけれど、暫く我慢しときます。
だって、ほら。
僕とあなたの間には、秘密の約束があるでしょう?
その味だって、すっごく美味しいんです。
……だって、秘密の約束を守っている間は。
あなたの「青」を僕の中で「宝物」にしてもいいのですから。
[今瞳のなかは見られたくない。
恐ろしく餓え渇いているだろうから。
愛馬が気遣わしげにこちらに気配を送るのを感じ、ふと唇を緩め、安心させようと鬣を撫でた。]
[辺りには静寂を乱すものも無かったから、ロネヴェはただ茫と川の流れを見つめていた。
川面を渡る風を酷く冷たいと感じた。
跳ね上げられた飛沫が髪から滴っていた筈だが、それも既に乾いて居る。]
[鬱蒼と茂れる黒い森に分け入りながら、ザリチェはクァルトゥスに去り際に掛けられた声を思い返していた。
……確か「瑠璃音ノ五シキのジュアン」と言っていなかったか。
ふとそれは、幾度か褥を共にしたあの男だと思い至った。
瑠璃色の琵琶を携えた、飄々とした── ]
ン――
[耳が、否、意識がせせらぐ音を捉えた。
小さく鼻をひくつかせるも、捉えたのは通常に感じられる「匂い」とは異なる。
緩く瞬き、眼の水面を揺らがせた]
染まっている、ねえ。
[水は、血に。
幼き魔と同じように]
──森・少し離れた場所──
[襤褸襤褸の錆びた様な皮膚か特徴的な、4つ目の妖馬の背に縋る、クァルトゥスの女従者は、クァルトゥスがザリチェに告げた様に、すでに虫の息だった。華奢な腕はだらりと垂れ下がり、かろうじて繋がっている両の脚は動かぬらしかった。
クァルトゥスは眉を顰めたまま、従者の顎を掴んだ。]
──瞬きだけで答えればいい。
大方、他の《候補者》に屋敷が襲われたのだろう。
お前の兄も、誰も、残っていないのだな。
[従者は、大粒の涙を浮かべながら、クァルトゥスの言葉一つ一つに瞬きをした。
クァルトゥスは暫し沈黙した後に、やさしい声で「よく知らせた。」とだけ云った。従者はその言葉を聞くと同時に目蓋を閉じ、馬の背から滑り落ちて絶えた。]
[徐々に意識が目前の物事へと焦点を合わせ始める。
祭典のただ中、何時までもこうして居る訳にはいかない。
緩やかに覚醒する意識の中、近く遠く、動く魔の気配を捉え、流れの上流へ目を向けた。]
……あはは。
[ぐいと両手を上げて背伸びをするジュアンの視界の端に、影が過ぎった。]
……ザリチェさん。
[美しい、青い目の持ち主。
──…褥を共にした者でもあるが。]
どうしたんですかー?お一人で、夜の散歩ですか?
[──…欲しい。その「青」が。欲しい…──
喉の乾きが痛みに変わる前に、ジュアンはごくりと唾を飲んだ。]
[馬上の人となったクァルトゥスの隻眼は紅く燃え、口元は歪んでいた。
彼が《候補者》で有ると云う情報が、魔界にすでに広まった後であるのか、馬影が見えれば、下級の魔物達のざわめきが森を駆け抜けた。
クァルトゥスの手元には、何時の間にかあの斧槍が握られていた。クァルトゥスの巨躯よりも長い槍を、握った義手の表面。血管の様に盛り上がっった暗赤色が蠢き、内側が軋む様な音を立てた。]
…雑魚が。
[呟いて、クァルトゥスが槍を振う。
その衝撃と共に、槍からは虚無色の凍てつく波動が放たれた。]
[森に──一瞬で凍死した下級の悪魔達の屍が舞った。]
[己が散らしたものではない、
血の臭いがした風のほうへ眼を向ける。]
……あちらか。
[地を蹴ると音もなく翼が羽ばたく。
硝子の従者も石の馬も、
館に帰っているだろう。
或いはあの館も誰かに襲われているやも知れなかったが]
──騒がずとも。
すべて 滅ぼしてやるさ。
ヴァイイ伯の後釜など、元へ戻るための足掛りに過ぎん。
[咆哮の如き、嗤い声。]
[急に記憶にある声が振って来て、反射的に馬を止めそちらに頭を向けた。
噂をすれば影、丁度思い出したところで当人に出くわすとは。
ジュアンの様子は穏やかだったが、何処となく不穏なものを感じ、ザリチェは目を細めた。]
[ジュアンは泡沫での会話を楽しんでいるのだろうか。楽の音が滑らかである様に、ジュアンは饒舌だと思った。]
・・ジュアン。
お前は存外面白い悪魔なのだな。
私も《密約》を公にするつもりは無い。
[ざわり][空気が揺れる]
[緊張したような気配が、そこには「在った」。]
やっぱりあなたも「候補者」だったんですね、ザリチェさん。
お会いできて嬉しいです。
まさかあなたが雑魚などにやられるとも思ってもいませんでしたが。
[目を細めて、ジュアンはにこりと笑う──]
どうしたんですか?随分お疲れの様子。
それとも、緊張?警戒?
やだなぁ。僕、いきなりザリチェさんに牙を立てたりしませんよ?
[──男の「視界」には、黒い霞──]
[広がる血は斑に華を咲かせている。
だが目的のものは其処には居ない。
――気配は空へ溶けてしまった。だが]
……あの方角は。
[館だ。
あの方角には、クァルトゥスの館がある。
ウェスペルは迷う事無く飛び立った。]
[クァルトゥスは僅かにうつむき、脇腹から背に掛けて肝臓を抉った傷に片手を這わせた。
傷の内側がドクドクと疼き、熱を帯びる。
ザリチェに魔力を奪われた事も関与しているのか。
何度か槍を振るい、森へ冷気をもたらしながら、妖馬は駆けて行く。
クァルトゥス自身の館には戻るつもりは無かった。何故なら過ぎた事を哀惜する趣味はクァルトゥスには無く、また、侵入者はクァルトゥス自身の姿が無ければ去った可能性が高かったからだった。]
別に疲れては居ない。
それよりジュアン、お楽しみだったようだな?
すっかり血生臭くなっている。
[きゅっと唇を吊り上げた微笑。細められた瞳には蠱惑を湛えてじっと見詰める。]
……そーですか?
僕はきわめて、普通ですよ?
面白いものは面白くて、美しいものは美しい。
それを愛でるのが好きなだけです。
……躯の奥を突かれて昂揚できるのなら、なおのこと。
[見えぬ視線を何処かに送り、にこりと笑った。]
[脇腹の傷には、ジュアンの眼球が埋まっている。
それは、ザリチェの瞳とはまた違う──そそる色をしている事を知っていた。]
ああ、血生臭いですか?
確かに僕、狙われたり返り討ちにしたり、いろいろしましたから。さっき川で水浴びしたんですけど、また襲われてしまって元の血生臭い身体に逆戻りです。
ああ……こんなに血のニオイが酷いんなら、あなたには近づけませんかねぇ。
だって……
[にこりと笑う]
……美しい「青」に、血のニオイは似合いませんから。
[直接、館を襲ったとおぼしき、アーヴァインを屠りに行くつもりだった。
だが──、クァルトゥスは《候補者》に、ウェスペルの名があった事を思い出した。]
…来るかもしれんな。
ウェスペルなら。
[馬の脇腹を蹴り、進む方角を変える。]
《密約》を結んだ者を除いて、《候補者》はすべて狩る──。
渇きの君 ザリチェは、瑠璃音ノ五シキ ジュアン を能力(占う)の対象に選びました。
・・・ジュアン。
お前は不穏で良い。
[喉奥を鳴らし、]
そう云えば、ウェスペルが私を恨んでいると云う話をしていたか。
ウェスペルの知る私は、両目のある男だ。
私が『堕ちたる魔槍』などど呼ばれる様になる以前、──昔に、一度抱いただけなのに、忘れられないとは可愛いヤツだ。
恨み、憎しみ。
他者に与える欠損は心地良い。
[風を切る刃のように空を往く。
雲が奔る。
<候補者>を狙う魔を、時には針鼠にしながら
あのおとこだけは許さぬ、と
己に刻んだ誓いに従って進む。]
……あそこか。
[近づくにつれ、館の様子がおかしいことが分かった。
速度を少しずつ殺し、降り立つ。]
……。
[手の甲で口許を覆う。
ずたずたに引き裂かれた臓腑の匂いがした。]
(……襲撃か)
[扉はこじ開けられていて、
進入するのに何の苦もない。
眉を寄せて辺りを窺えば、
無残な姿で横たわる魔(恐らく従者であろう)が眼に入った。]
あてが外れたか―――?
[荒らされた館、主の姿を探すが]
[なまめかしくもたおやかで、絡め取るようなザリチェの微笑。しかしかれにそれは「見えない」。そこでジュアンは己が一時「視界」を失ったことを知り──…再び己が「恍惚」の女神の腕に抱かれたことを感じた。
──否。「目の前」に居るこの者は、女神なぞよりなお──…]
……あはは。あなたは相変わらず、お美しいですねぇ。
それ以上に形容する言葉を持たぬ浅はかさに、僕自身が落ち込んじゃいます。
[ザリチェの口の端から、息が漏れる。おそらく笑みを浮かべたのだろう──…そして、ザリチェから立ち上るほのかな熱が、ジュアンの肌、そして耳朶に絡みつく。]
[そして──…そこから、かれがこちらを見て笑っていること、そして「何らかの理由」でかれが昂揚しているらしいことを、ジュアンは密かに*察知した*]
そうでしたかー……
まさか、ウェスペルさんとクァルトゥスさんか「そんな関係」だったとは。意外です。
ウェスペルさんって可愛いですよねぇ。
素直じゃなくて、他人を愛したり他人に愛されたりって言葉に敏感で。抱くのはおろか、触れられただけでイッちゃいそうな感じです。時々弄りたくなったり、森の中で押し倒したくなったりして、僕も穏やかにはなれません。
「ウェスペルさん」なんて堅苦しい呼び方じゃなくて、もっとフランクに、ファニーに呼びたくなっちゃいますねぇ。
──例えば、「ウェス」……とか…──
あはは、それはホントに可愛い。
[自分の言葉に、ケラケラと笑った。]
──クァルトゥスの屋敷──
お前の知る以前の館と比べると、此処は随分と地味だろう。
・・ウェスペル。
否、ウェス。
本当に来るとは思わなかった。
お前がこれをやったのか?
クァルトゥス―――
[ざわ、と闇が揺れた。
緋色を睨みつける双眸は鋭い。]
……お前に愛称で呼ばれる筋合いはない。
[問われれば、惨状にちらとだけ視線を投げ]
だとしたらどうだというのだ。
……力なき者に八つ当たりするほど落ちぶれてはいない。
[川辺に辿り着き、しゃがみ込んだ。
黒を映した水面は、天の鏡たる黒曜石の海へと向かって流れをつくり、絶えず揺らめいている。
穏やかな流れを割って、血塗れた両の手で作った器を差し込み、引き抜く。それだけの動作で、掌は元の色を取り戻した。代わりに、映し出していた黒を失くした水が、赤く染まる。
されどそれも束の間の事。
指の合間から零れ落ちてしまえば、地に吸い込まれて消え去る]
儚いなあ。
[衣服を纏ったままに、今度は身体ごと、川へと入った。
その姿が水中に沈み、失せる。
飛沫は殆ど上がらない。溶け込むようだった。
闇に近き青を、穢れなき白を染めていた血を吸い取った水が、下流へと流れゆく。
*魔の気配を微かに漂わせながら*]
……ッ!?
[背後の気配に、勢いよく振り返る。]
クァルトゥス―――
[僅かに声が掠れただろうか。
ざわ、と闇が揺れた。
緋色を睨みつける双眸は鋭い。]
……お前に愛称で呼ばれる筋合いはない。
[問われれば、惨状にちらとだけ視線を投げ]
だとしたらどうだというのだ。
……力なき者に八つ当たりするほど落ちぶれてはいない。
……冗談はともかく。
[ふと息をつき、視界の無い目を細める。]
「両目のある」クァルトゥスさんですかー……
あ。もしかしてウェスに、貴方の「女神様」をお見せした…とかですか?おかしいなぁ。貴方の「女神様」のこと、僕以外にはそうそう知ってる人が居ないって、密かに自負していたんだけどなぁ。
ねぇ……クァルトゥスさん。
あまりにウェスにご執心だと……僕は嫉妬で狂っちゃいそうですよ。僕を引き裂いて嬲って遊びたいなら、もっと僕を愛してください。そして、僕の躯の奥で、もっともっと暴れてください。
……目に見えぬ「何か」を、もっと「見せて」ください。
[顎を上げ、視界の先に居らぬ者を挑発するように、ジュアンは熱い吐息を漏らす。ジュアンの髪はさらりと額を流れ、かれの目尻を*そっと隠した*]
[ひび割れた柱に義手をもたせかけ、]
愛称で呼ぶなとは、つれないな。
…あの時は、 あんなに可愛い声で鳴いた・・
[つり上がった金色の瞳を見下ろし、クックッと嗤う。]
相変わらず誇り高い。
随分とひさしぶりだ。
私自身伯の椅子なぞ取る所からやり直すはめになるとは思わなかったが、お前と再会するとはな──。
――ッ
[怒りか羞恥か、頬にさっと朱が差した。]
黙れッ!!
[一歩踏み出して、言葉を遮るように一喝する。
睨みつけるが、緋色の魔物は悠然と笑っただけだ。]
おのれ愚弄するか……。
お前との再会を懐かしむような趣味はない。
[怒りを押さえつけるように、
拳を握り締めた。]
……その眼はどうした。
[窪んだ眼窩は記憶の中にはないものだ。
一歩前へ。]
再生も出来ぬか?
お前の気配、依然とは比べ物にならぬほど弱っている。
何があったのかは知らないが―――無様だな。
[眼を細めた。
ちりちりと胸奥が焼けそうな感覚を持て余す。]
…そうだな。
以前なら、お前を組み伏せるなぞ、雑作も無かった。
眼球だけなら、再生は出来るかもしれん。
だが、今の所戻す気は無い──、
[クァルトゥスは、どくりと脈打つ左腕──暗赤色の義手を、ウェスペルに差し伸べた。虚無を纏った冷気が、二人の周囲の温度を下げる。]
[組み伏せるなどと
疼いた古い傷痕を庇うように、自分の手首を掴んだ。]
傷痕は、何かの記念、か?
過ぎた感傷に浸るようなたまではないと思って――
[冷える空気、記憶にはないそれに眼を見張る。]
……な、
[ぞ、と背筋が凍るような
無を内包する冷気だ。]
誰がお前などに!
[距離をとろうとするが
冷気で鈍ってしまうような錯覚に陥る。
正体不明の、この冷気をかれは知らない。
暗赤色の義手など知らない。]
っ、触るな――!
[僅かでもその手が触れたなら、
*噛み付かんばかりに睨み返すだろう*]
[最前クァルトゥスから受けた愛咬の痕は、既に彼自身から得た魔力で再生し完全に消えていた。
淫魔の特性であるのか、混じり合わせた体液も綺麗に膚に解け、情交の痕跡は傍目には微塵も感じさせなかっただろう。
ただ、匂いが。。
激しい快楽を得たばかりのからだからは、ほんのりと麝香のような香りが漂っていた。
そして、ジュアンを目の前にしてそれは、咲き誇る花の香を加え、より一層得も言われぬ芳香へと変化して強く匂い立った。]
[相対するジュアンの視線が、曝け出された乳房や秘部に一度も留まらぬことにザリチェは気付いた。
こちらを見詰めるジュアンの瞳は熱を帯びていたが、視線にはその熱に相応しい「対象を求めんとする力」が欠けている。
全く欲望を持たぬ悪魔で無い限り、この絖のごとき光沢を放つ膚を見て、寸毫も眼を奪われぬ魔など居る筈がないとザリチェは思っていた。
確かに、誘惑の技をものともせぬほどの、金剛石のごとき意志の強靭さを持つものも居る──強大なる諸侯達だ。
それから、人型の魔には欲情しないものも。
だが、ジュアンはそのどちらにも該当しない筈だった。]
相変わらず……
[すん、すん。
獣のように鼻をぴくりと動かし]
……佳い香りですねぇ、ザリチェさん。
闇深き城に住まう姫君から漂う清楚な香りもきらいではありませんが、あなたから漂う、甘い花の蜜に獣の血を交ぜたような香りが、僕は大好きです。……足許を夢幻のいろの蔓で絡め取られて、永遠に眠らされてしまいそうな、その香りが。
[目を細めて、にこりと笑う。
視線は、ザリチェの顔のあたりに固定したままに。そういえば衣擦れの音があまり聞こえてこないような気もしたのだが、ジュアンにとっては、それよりも重要なことがあった。]
――…と。
違う匂いが交じってますねぇ。
誰のでしょう……猛々しい匂いがします。
誰の匂いか、知りたいのか?
[にやり、と深くなった微笑は悪戯な輝きを帯び。
滑るように淫魔は馬から降りた。]
それよりも、ジュアン。
この間、遊んでくれると言ったな?
[さらりと髪をかき上げ、ジュアンに一歩近付いた。]
[すん、すん。]
[本来ならば、どれ程鼻の利く魔物でも察知できないであろう――微かな、あまりにも微かな匂い。ザリチェも完全に消し去ったつもりであろうその「別の香り」は、本来ならばジュアンにも嗅ぎ取れない程に小さなものであった筈だ。]
……誰でしょうねぇ……
ザリチェさんの躯に、跡を残したのは。嫉けますねぇ。
[躯の奥に隠した《青》が、ジュアンの中で蠢く。突き上げるような鼓動、膨張する熱――…与えられた《青》がザリチェから放たれる誘惑の糸と共鳴し、ジュアンの思考と本能を刺激する。]
[何か重いものが、短く柔らかな毛並みを持つもの――おそらくは動物か何か――から滑り落ちる音がした。次に、足が地面に着地する音、髪が流れる音。それから、空気の流れも少しだけ変わったらしい。
――どうやらザリチェが馬から降りてこちらに向かっていることが、ジュアンには分かった。]
[近づく、猛々しい香り。
《青》の鼓動。共鳴。]
―――…あ。
[何かに気がついたかのような表情で、ジュアンは首を傾げた。かれの髪がサラリと流れ、その動きの後に続く。]
――…クァルトゥスさん。
[ジュアンの薄い唇が、ひとつの名を紡ぎ、緩やかな孤を描いた。]
[《青》――与えられた、《青》。
存在感を少しずつ増してゆく其れが、「別の香り」の持ち主を探し当てようと手を伸ばす。]
………ですよね。
[かれと交わしたのは、《情》ではなく――]
……当たってます?
[一時の《情》よりも深い場所に入り込んだ、《密約》――*]
[くすくすと喉を鳴らし、しなやかな猫の足取りでジュアンへと擦り寄る。
肩から滑ったローブが、しゅるりと衣擦れの音を残して大地へと蟠る。
青みがかった凝脂の膚を惜しげもなく晒し、挑むように眼前の魔に突きつけた。]
相変わらず口の上手い……
妬けるというのなら、貴方がその痕を消せるか試せば良い。
[「クァルトゥス」の名を聞いて、形の良い眉の片方が上がった。]
彼を知っているのか……
──いや。貴方か。
クァルトゥスのこころに浮かんだ影は。
[赤い唇に浮かんだ微笑は変わらず、青い瞳だけが静かに燃えた。]
[先程クァルトゥスに見せた瞳が触れたものを融かす劫火の青ならば、今ジュアンに向けているのは水中で音もなく燃える炎の蒼だった。
仄かに輝く白い裸身で圧するように、触れんばかりにジュアンに迫る。
僅かに脚を広げて立ち、先端を硬く尖がらせた胸乳と、男女二つの性を備えた脚のあわいに*自らの手を添えた。*]
記念。
…ああ、
己の未熟、無様を忘れないための戒めだ。
[クァルトゥスの義手は、ウェスペルの背を抱き込んだ。
そして、相手が睨み上げてくるのにも構わず、後ろから古傷を庇うウェスペルの手首に触れた。]
[ウェスペルに密着するクァルトゥスの鍛え上げられた躯は、髪や隻眼の紅玉(ルビー)が示す通り、熱く燃える様な気を放っているだろう。それだけに、左義手の冷気だけが異様に感じられるはずだった。]
この冷気は、かの六大諸侯の一人・・・に挑む際、
蒼ざめた女神を生きる盾として捕えた。
その時に得たもの──。
灼熱の焔に、虚無の氷。
お前の知る真の私は、──女神と共に、一度は地の奥深く封印された。
彼の諸侯は、愛しい身内ごと私を消滅させたかったらしいが。
クックッ。女神の恩寵か…、
私は今この様に“在る”。
・・・ウェス 此処が疼くのか?
どうやって、傷付いたのか──私に教えてくれ。
忘れてしまった。
[クァルトゥスは布越しに、諸侯によって封印の施された義手の──赤黒く長い指先で、ウェスペルの古傷を撫であげる。
ウェスペルの耳元の産毛を揺らし、囁く。]
――戒め、だと、
くっ、離れ ろ !
[身動ぎするが、
体格の差か大した抵抗にはならなかった。
緋色の髪が近くで揺れるのに、眩暈すら覚える。]
[耳元で何度も泡沫が弾けた。
少年の様に欲望にあけすけでいて、大人の掠れた艶を持つ、独特のジュアンの声。饒舌なおしゃべりが、クァルトゥスを刺激する。熱い吐息を乗せて送って来るのが、愛らしい。]
・・ジュアン。
[女神をウェスペルが見たと云うのは、ジュアンの邪推であった。
寧ろ、クァルトゥスが諸候に挑んだ際の“やり口”──目的の為には手段を選ばぬ、クァルトゥスの冷酷と傲慢を深く知り、更に《密約》を結んでいるジュアンが、よりクァルトゥスに近しい存在だと云えた。
だが、クァルトゥスは唇を歪め、ジュアンの名を意味ありげに呼ぶだけで、それを伝える事はしない。]
[ジュアンの裡に埋め込まれた《青》が、一度大きく脈打つ。その存在を誇示するかの様に。]
…目に見えぬ「何か」か。
よかろう。
[クァルトゥス自身は思案する様に、一度隻眼を細めた。]
[焔の熱さと相反する凍てつく冷気は
異様な存在感を放つ。
体を捩ってもあまり意味を成さない。]
女神、だと?
[眉根を寄せて睨むように見上げた。]
は、諸侯に挑むとは大きく出たものだな……
道理で探し当てられぬわけ、だ。
[赤黒い義手は封印。
力失ってなお這い出てきたか、この魔は。
ウェスペルは微かに笑みを浮かべた]
恩寵であるならば、私は感謝せねばなるまい。
私の預かり知らぬところで
勝手に消えられるのはなお許しがたいことだからな――
[だが笑みもすぐに消える。]
――ッ…!
[古傷をなぞられて息が詰まる。
ぞくりと背を走る震えをやり過ごすように
一瞬ぎゅっと眼を瞑る。
触るな、と微かに声。
耳にかかる息は熱いのに触れた指は酷く冷たい。]
――な、に……貴様ッ!
[声を荒げ、噛み付くように睨む。]
傷を刻み、戒め、この私に与えた屈辱
忘れたなどと、許さんぞ!
[義手を跳ね除けようと、腕に力を込めた。]
[ウェスペルに触れている義手の内側が軋んだ様な音を立てた。
クァルトゥスの脇腹にどす黒い血が滲み、魔法陣が浮かび上がる。室内に血の匂いが広がった。ジュアンの眼球を受け取った漆黒の腕が、クァルトゥスとウェスペルの背後に浮かび上がり──、]
[音も無く 消えた。]
[漆黒の腕は、両性具有の裸身をあらわにするザリチェと対峙する、ジュアンの元へ。]
[――挑んだのはこのウェスペルのほうであっただろう。
強大な力を有する、緋色の魔を
相容れぬ、いけ好かぬと思っていたのやも知れない。
触れる事も触れられる事も好まぬ魔にとっては
静寂を好むかれにとっては
珍しく、
本当に珍しく
烈しい感情を抱いた相手であり、――そして今も。]
戒めて置かねば、
忌々しい封印のおかげで、記憶が欠落する可能性があるからな。
[抵抗し難いのには、体格では無く過去に由来する精神的な問題もあるのだろうと、胸中密やかに笑みを漏らしながら、クァルトゥスは云った。眉を顰め睨み上げて来るウェスペルの瞳の色が猫の様だと、クァルトゥスは思う。
一瞬、閉じられたウェスペルの目蓋に舌で触れ、]
忘れたと云ったら、お前の針で貫かれるのだろうな。
それも悪く無い。
[義手を振り払おうと力を籠められた手首を、わざと付き離した。
かわりに、離された反動でバランスを失ったウェスペルを、後ろから抱きかかえる様にしてソファに倒れ込み、スプリングに沈めさせた。]
可愛いな。
・・ウェス。
お前に云われると、殺されてやりたくなるが…。クックック
私を殺したい者はお前だけではないらしい。
[クァルトゥスに恨みを持つ悪魔。屋敷を襲ったアーヴァインを始め《候補者》たち──その中には《密約》を結んだはずのジュアンも含まれる。]
ああ… 傷は隠すな。
[上から覆い被さる様にして、今度はウェスペルの手首に唇で触れた。袖口を犬歯で引き裂き、ウェスペルの傷痕をあらわにしようと──。
手首以外、ウェスペルの身体には触れては居ない。おそらく、今、俊敏なウェスペルが身を翻せば、逃れる事も反撃する事も*可能だろうと思われた*。]
[影の様な腕が──
ひそやかに ジュアンの背筋をなぞる。
ゆっくりと 上から下へ撫で下ろす様に。
見えざる腕の動きに呼応するように、隠された《青》がまた一層*大きく脈打つ*。]
ふん、難儀なことだ――な、
[身を削られた出来事を
悠々と、余裕をもって話す姿が気に食わない。
舌の感触にびくりと肩を竦ませる。
思い出す、蘇る、忌々しい―――]
な、 ッ!?
[体が浮き、次いで感じたのはスプリングの弾み。
体勢を立て直す暇もない。
抱きかかえられたような体勢であったことに気づけば、
羞恥か怒りか、目元に朱が差す。]
――どけ!
[肩を押し、突き放そうとするが体勢が不利。
それもよかろう、という言葉も余裕からの戯言か、
射るように見据えた。]
莫迦に、するな!
[怒りに朱が濃くなる。
可愛いなどと
ウェス などと
何故こいつに謂われなければならないのか。]
お前を、殺すのは――私、だ……ッ
[《密約》の事など知る由もなかったが
知っていたとしても譲る気は毛頭なかった。]
―――!!
[手首に感じた、
唇の感触に目を見開く。]
やめろ!
[咄嗟に庇うように
逆の手を伸ばして横に大きく払う。
風を切る、その手には銀の針が光っていた。]
ジュアン……
[低く擦れた声で名を呼ぶ。
甘く熱い息を男の耳朶を擽るように吐けば、それは汗腺から漂う何十もの異なる香りと混じり合い、天然の媚香となる。]
……やっぱり、クァルトゥスさんですね?
[くすくすと、ジュアンは笑う。]
なにせ、僕は「鼻が利きます」から。
だいたい、クァルトゥスさんの中にすまう影が誰だかなんて……僕にはわかりません。そして、僕の中にクァルトゥスさんが在るかどうかも、わかりませんよ。
今、ザリチェさんの躯から、クァルトゥスさんの匂いがした――…それだけのことですから。
[肩を竦め、目を細めて、ザリチェを見つめた。
すぅとひと呼吸の後――ジュアンの視界から、霞が消える。初めにカタチと質感がかれの視界に戻り、続いて黒・白・青の色が戻り――…]
――…だって、僕とあの方は、《情》を交わしたことのある間柄では、ありませんから。《情》を交わせば必ず何かが芽生えるとも思えませんけれど。
[一度目を閉じ、再びゆっくりと開く。
ジュアンが感知できるカタチと色が、今ははっきりと視界の中で形作られている。]
いくら罪深き香りを放つあなたとはいえ。
こんなに綺麗なあなたを、他の誰かに奪われたというのは……僕には酷な話ですよ。あははっ。
[ジュアンの視線は、稀代の芸術家ですらその彫像を造り上げることができないであろう――きめ細かい肌の質感と、陶器のように柔らかく、どっしりとした重みとかたちを持つ――ザリチェの肉体に向かった。頭、鎖骨、胸部、手で覆われた秘密のいろ。脚についたしなやかな筋肉、ピンと尖った爪先。]
――…奪われたのが、癪ですねぇ。
その肌も。その肉も。
[ザリチェの爪先まで下りた視線は、ゆっくりと舐め上げるように淫魔の躯を這い――]
その、美しき青い瞳も。
[川の流れが、血の香りを運ぶ。
流れ、薄まり引き延ばされ、それでも確かに魔の気配を含む水。足下から上流へと、一筋の糸のように、長々と横たわる。
挑発の類かとうたぐったが、何らかのアクションがあるでも無かった。]
[川から上がり、もしも用があるのならば自分から出向いて来いと言わんばかりに、魔の気配を無視してドレスに袖を通した。]
あっ……ははっ
[背後に回ったクァルトゥスの義手が、緩やかにジュアンの背中を刺激する。]
ふっ……あはははっ
[玩具に戯れる猫のように背を伸ばすジュアンの髪が、サラサラと額から流れる。]
クァルトゥスさん……
[ドクリ][《青》の鼓動]
[躯の奥が、ぎゅうと締め付けられ――…窮屈な黒服の中で、鞭がビクリと撓った。]
――…意地悪。
[熱い、吐息。]
奪われた──?
己は誰のものでもない。
唯己一人(いちにん)だけのもの。
そのような詰まらないことを言う男とは思わなかった。
[ふ、と唇を歪め笑う。]
[甘い声][囁く声]
[鼻先をくすぐり、体内へと侵入せんとする、花と蜜の香り]
[背中に、ぞくりとした感触]
[ジュアンは、髪をサラサラと振り乱した。]
あっ………は
これだけでどうにかなっちゃったら、どうしましょうかねぇ……
[双の口角が大きく上がり、歯を見せて笑う。]
――…なんて。
[海岸を通る、血の足跡が在った。
血を流して居るものではなく、多くの血を浴びたものの通った痕跡。
点々と、血の香りは続いている。]
[ロネヴェは知る由も無かったが、それはクァルトゥスの屋敷を襲ったものの通った跡であり、クァルトゥスを探したものか、彼の屋敷から何処かへと続いていた。]
[匂い立つような痕跡を辿る。
生きるものの気配が希薄な館へ辿り着く。
辿る方向が逆だったのだ。
虐殺を行った者を追うつもりが、虐殺のあった場所へ着いただけである。そこへはもう、虐殺者は居るまい。]
あはははっ。まずいこと言ったみたいですねぇ。これはこれは、失礼致しました。
でも僕は、《ただ一人のもの》のあなたの気を、少しでも惹きたいんです。
―――…いいえ。
僕は、あなたの《青》が欲しい――…
でも、あなたがあなたのものである、その事実も堪らなく美しいんです。
――…だから、迷う。
その《青》を奪うか、否か――…
[ジュアンの視線に力が戻ったのを膚で感じる。
舐めるように身体をなぞるその動きに煽られ、からだの芯が熱く疼く。
それは、ジュアンが危険な敵であっても変わらない、淫魔の性。]
己のこの眼が欲しいか。
では己はこの眼を嵌める台か。抉り取って、宝石のように飾るか。
[声を立てて嗤うが、それは愉悦の笑いというには程遠い、冷たい嗤いだ。]
[館の扉は破壊されていた。
否、扉といわず辺りすべてが。
ロネヴェの予期していた以上の惨状だった。
その状況を作り出したものへ強い興味を持ったが、
引き返す事無く、館へ踏み入れる。
ヒールのあるサンダルで、其処彼処で息絶えている魔の骸を踏み付けにしながらロネヴェが進むのは、館の中に、未だ死んで居ないものが居るらしかったからだ。侍従などといった小物でも無さそうだ。ウェスペルの琴線に触れたものの気配に近い。恐らくはその者なのだろう。]
[が、次の瞬間表情を一変させ、艶やかに大輪の薔薇(そうび)の微笑を見せた。]
己は、たぐい稀なる弾き手の貴方が気に入っている。
貴方の指使いも、味も。
貴方が己を弾きこなせるのなら、そして貴方が己を縛らぬのなら、何時でも己は貴方のために歌おう。
―――…いいええ。
並の者であれば、たしかに《青》だけが欲しいと言えましょう。
でも困ったことに、あなたそのものが綺麗なんです。
《青》は――…
宝石を飾る台に在る方が美しいのか。
それとも、《青》だけを眺めるのが良いのか。
――…いつも迷って、結局このザマですよ。あははっ。
[血を含んだ水が川下に在る魔の傍らを通り過ぎて、海へと行く。
女の肢体を映していた川の表面が、常の流れとは異なるかたちに揺らぎ、水から生まれるかの如く、幼き魔の姿が現れた。
川から上がる頃には、濡れた気配は失せていた。
やはり身に纏う色は白。されど川に入る前とは異なり、真っ直ぐな袖に、胸元を覆うフリル、には大きなリボン。脚にはオーバーニーソックスと編み上げのシューズ。露出は、殆ど無かった。
滴の残る短い髪を掻き上げる]
貫いたら、果汁が溢れそうなほどに大きな実。
……ああいうのの方が、いいのかな?
[疾うに魔の去った方角へと視線をやり、呟く。
それを追う事はなく、別の方向へ、黒の森へと姿を消す]
地上の穢 ロネヴェは、泡沫の雨 ニクス を投票先に選びました。
知恵の足らぬ憐れな楽士に、そのような勿体なきお言葉。恐縮にございます。
[深々と、王に仕える従者のごとき一礼を。礼を終え、上げる顔はまるで無邪気な子どものよう。]
「この私めの指は、唯一あなた様をよろこばせることのできる、私の誇りでございます。このようなものであなた様にご満足戴けるのであれば、私は幾らでもこの指で奏でて差し上げましょう…――」
[ジュアンは一歩踏み出し、彫像のようなザリチェの肩に、己の右手を伸ばした。]
[最初にウェスペルの事を「忘れた」と云ったが、それは挑発の為の言葉だった様だ。
ウェスペルが針を使う事も、その時の己が“敢えて”彼の魔力を奪わなかった事も記憶に残っていた。]
・・お前を、莫迦になぞ。
己の与えたものが、ただ愛しいと云うのに。
[ウェスペルの手元で、銀色の光が閃くのが視界に入った。
至近距離では眼球の無い左側はクァルトゥスの死角になり、針を避ける事は出来ない。
クァルトゥスは僅かに身を引き、左上半身で針を受け止めた。]
──…ッ痛。
[小気味の良い音が響き、針が筋肉にザクザクと突き刺さる。
そして、身を引いた拍子にウェスペルの袖が少し破れた。
袖口から現れた傷痕と、己の血の匂いに煽られたのか、クァルトゥスは背を震わせ大きな嗤い声を上げる。よく見れば、針の刺さっていない脇腹からも血が滲んでいるのが分かっただろう。]
今は、力が足り無くてな。
全力でお前に殺されてやる事が出来ない。
・・ウェス。
お前が今ここで、私に犯され、私の糧になるのと、
私を殺しに来るお前の邪魔者を共に排除するのと
──どちらがいい?
[紳士のごとく一礼するジュアンの背筋に、静かな一筋の震えが走った。クァルトゥスの影の手が、己の臀部に侵入する。]
クァルトゥスさん……あははは。僕で遊ぶなんてー……あっははは!
[子どものようにケラケラと笑う。]
[――些か長く、居過ぎた。
この場所が心地好いのは確かではあれど、宴の場はここだけではない。
ざわめき立っていた森は、僅かながら静けさを取り戻したように思える。森を抜けようと進み、道中、数え切れぬほどの、主を持たない緋色の痕跡を見た。幾らの脱落者が虚無に呑まれて堕ちたのか。
進むうち、血の香りに入り混じり、僅かに異なる匂いが在った。
格段鼻が良いわけではないゆえに、はっきりとは感じ取れないが。
蜂が蜜に誘われるように、向かう先は変わり、音も無く進む。
滴は既にない]
[木々の黒よりも尚深い夜の色を抱いた馬が在った。
見覚えがある。
近付き過ぎない距離を保って、その先を窺う。
水面は、静寂を保っている]
[ジュアンを侮っていた訳でもなく、おのが誘惑の技に驕っていた訳でもない。
だが、ザリチェはジュアンの手を避けようとはしなかった。
それどころか、ジュアンが歩を進めると同じくして一糸纏わぬ裸身を彼に向かって投げかけ、黒い森の大地に押し倒そうとさえした。
長い指は血に染んだシャツを引き裂こうと襟を掴み──]
愛しいなど痴れ言、――……ッ、!?
[針を体で受け止めるクァルトゥスを驚愕交じりに見つめた。
露わになった痕を庇うのも忘れて。
避けない、否、避けられなかったのか。]
なに、お前――手負い――
[脇腹から滲む血に気付く。]
[館に笑い声が響く――
破壊された扉の一つをゆったりと潜った。]
……あら。
お愉しみね?ウェスペル。
貴方、男のほうが好きだったなんて、知らなかったわ。
そちらの美丈夫は?
[クァルトゥスの身体には針が立っており、友好的な雰囲気にはとても見えない。意地悪く笑みを浮かべ、見下すようにウェスペルを見た。]
…そのまま、渇きの君と
何時ものように遊べばいい。
・・ジュアン。お前は私が犯してやる。
[黒く節くれた指先は、血の魔術で出来ているためか、すでにぬらりとした光を放っている。指先はジュアンが笑うのもかまわず、尻肉を割り、後孔をゆっくりとなぞりはじめる。
《青》が埋められた秘密の入口にはまだ何も触れない。ただ、内側で生々しく蠢く感触を、ジュアンは味わう事になるだろう。]
[嗤い声に、眉を寄せる。
肘を支えに、体を僅かでも起こそうとした]
な、に?
[継いだ問いかけに言葉を失う。
暫し、言葉もなく緋色を見つめていたが]
――― っ!?
[聞き覚えのある声に、短く息を呑む。
よりにもよって、
よりにもよって、だ。]
[カサリ][一歩、また一歩]
[ふたつの魔の影が近付く]
[ザリチェの手が、赤い鮮血に染まった己のシャツに伸び、させるがままに其れを裂かせる。どうせ血濡れて使えぬものと……ジュアンは思い、くすりと笑った。]
[こちらに迫ってくるザリチェの躯を、足を一歩後ろに下げ、片膝をついて受け止めんとした。]
[ウェスペルの下肢をソファの上に、己の重みで押さえ付けたまま、ロネヴェを見遣る。
その動作で、クァルトゥスの発する冷気で凍り付いた針──左腕や肩に突き刺さっていたものが、バラバラと床に落ちた。
ウェスペルは驚いたようだったが、クァルトゥスは痛みを感じている事にも満足を覚えているらしい。]
(…左半身にも感覚が戻って来たか。ヴァイイ伯の心臓のお陰だな……。)
[馬は、第三者の存在を認めただろうか。
幼き魔は構わず、その眼差しを彼方へと注いでいた。
垣間見える色彩は、見知ったものだ。
遠目にも、意図せずとも惹き寄せられるような艶やかな膚。甘い、というのとも違う匂いが鼻腔を擽る。
覚えのない感覚に、頭の隅で訝る。
けれど、動けずにいる。
瞬きすら、忘れていた]
今日は来客が多いようだ。
…《候補者》であっても、美女は何時でも歓迎する。
[ヒールの足元から豊かな胸元まで、ロネヴェの身体を値踏みする様に眺めてから云った。]
ロネヴェ…… ッ!?
く、これが、愉しんでいるように、見えるか――ッ
[圧し掛かられた重みで、思うように体が動かない。
頭上より、ばらばらと針が落ちる。
その欠片は凍りつき、とても冷たい。]
[胸を寄せるように両腕を組み合わす。
組み伏せられたままのウェスペルをたっぷりと眺めてから、クァルトゥスの視線を受けた。]
[絡み合う男たちに、ゆっくりと歩み寄る。]
……貴方は褒め上手ね?
ウェスペルといえば、”美女”の誘いにも触れるなの一点張り。
[ウェスペルの抗議を黙殺する。]
瑠璃音ノ五シキ ジュアンは、泡沫の雨 ニクス を能力(襲う)の対象に選びました。
[──襟を掴むや一息にそれを左右に開いて、朱鷺色の髪の魔を引き剥いた。
じり、と受け止めた男の腕に体重をかけつつ、熱い吐息で膚をなぶる。]
ジュアン──
己と遊んでくれるのだろう?
渇きの君 ザリチェは、泡沫の雨 ニクス を投票先に選びました。
触れずの君 ウェスペルは、泡沫の雨 ニクス を投票先に選びました。
ああ…
申し遅れた。この館の主、クァルトゥスだ。
ようこそ、・・ロネヴェ。
[ロネヴェの言葉が面白かったのか、まだ起き上がる事の出来ないウェスペルの顎に手を掛け、ロネヴェに視線で指し示す。]
…では。
今、触れてみては?
[ウェスペルには「女が苦手なわけではないのだろう?」と囁いた。]
……クァルトゥスさん。
そうやって煽るのは、貴方のお得意技ですか?
[節ばった指で尻肉の奥を弄ばれながら、ジュアンはふぅと熱い息を吐き出す。唇から泡のように押し出されたそれは、真っ直ぐに――遠くに居るはずの――クァルトゥスの耳元へと放たれた。]
はっ……あ、あはははは。
ねぇ、クァルトゥスさん。貴方、ウェスに集中してなくて、いいんですか……?あんなに可愛い声を上げてくださってるんでしょう?
[その言葉とは裏腹に、己を突くクァルトゥスの血濡れた指を掴んで離さんとして、ギュウと奥の孔に力を込めた。
――上からは、クァルトゥスの《青》の鼓動。ふたつの熱に弄ばれ、ジュアンは小さく熱い笑い声を上げた。]
クァルトゥス。
[ゆっくりと唇を動かし、名を繰り返した。]
随分と素敵な館をお持ちなのね。
…………嗚呼、これは
[破壊された扉を顎の先で示し]
私のした事では無いわ。
[ソファへ腰を乗せた。]
[ウェスペルのすぐ横に座ると、これまでの位置からは見えていなかったウェスペルの疵――古い物のようだ――が視界に。]
……クァルトゥス。余程貴方が好かったのか
私が触れれば、噛みつかれるわ?
この、ッ
[笑みをたたえた“美女”を睨む。]
く、私は、触れられるのも――触れるのも
好まないと謂っているだろう!
[クァルトゥスの指から、
低い囁きから逃れるため顔を背けようとする]
要らぬ誤解を招くようなことを謂うな!
[すぐ横にゆったりと座るロネヴェへ
抗議をするが、
彼女は何処吹く風であろう。
ゆらり、深緑の髪が揺れている。]
ええ………もちろん。
[ジュアンの口元が、ゆるりと笑んだ。
一糸纏わぬザリチェの背中に、ジュアンの双の手がゆるりと這う。
右手の黒い爪は、絹の肌を傷つけないように慎重に――しかし、微かな痛みを与えようとして――ザリチェの背中の上で、カリ…と微かに弧を描く。そして、左手――長年の演奏で、芯からざらついた指の腹が、ザリチェの背中から首筋、耳元へと這う。]
[ふぅ][唇から浮かぶ、小さな吐息の泡]
[額の上をさらりと髪が流れ、ジュアンの視界に少しずつ霞が掛かった。]
[――躯の隅々が、鋭敏になる。
細胞のひとつひとつが、ザリチェの肌の質感、重み、体温――ありとあらゆるものに対して、集中してゆく。
ザリチェの熱い吐息が、肌の上を静かにそよぐ。
――だがそれも、ジュアンにとっては、熱く大きな竜巻となって感じられた。]
………………っ
[頭をひとつ、ゆるりと横に振った。]
[森中の少し離れたところで、闇馬のいななく声がする。
遠くから魅入られたようにこちらを見つめる幼い魔の気配は、最前に気付いた。
五感はずば抜けて鋭いとは到底言えぬ……が、悪魔の気配を感知すること、魔の力を測ることは他に誇れるほどには秀でていた。
にも拘らず目の前のジュアンから瞳を逸らさない。
幼い魔に誇示するかのように、あられもない媚態を見せた。]
[己の名を繰り返す、ロネヴェの口元の動きが扇情的に見えた。
素敵な館と云う言葉に、小さく肩を竦める。今、ウェスペルの傍に腰降ろすとその行動で、この美女の性格が伺い知れるようだった。]
…どの《候補者》が屋敷を破壊したかは知っている。
美女に触れれられれば、心地良いものであろうに。クックック
私も、今、犯そうとした所為で刺されたばかりだ。
以前に、遊び過ぎた──。
[左顔面に刺さった針を凍り付かせながら落とすと、血が滴った。肩や腕からも、小さく抉れた複数の傷、抉れた肉が覗いているだろう。「痛いな」と云いながら顔を背けるウェスペルのうなじを撫でる。]
[この感触の前では――視界など、意味の無いもの。
まして色など《青》――《瑠璃》以外に価値は無い。]
[だからかれは、視界を塞ぐ。]
[すべてを、目の前の淫魔に集中させるために。]
[カサリ。足元に落ちていた葉が擦れる音。
ドクリ。己に覆い被さってきたザリチェの鼓動。
馬の嘶く声。これは何だろうか。
馬など乗ったことのないジュアンには判らない。
ザリチェの瞬きの音。何処か遠くを見ているらしい。
息づかいを感じる。
――目の前の魔と、馬、それから、遠くにもうひとつ。]
[――でも、別に、構わない。]
客人に酒を出さぬわけにもいくまい。
…葡萄酒ならば、貯蔵庫に残っているかも知れんな。
[ウェスペルの心情を思いやる事無く、指先で簡単な魔術を行い、貯蔵庫から割れていない葡萄酒を探す。割れた玻璃がシャラリと楽の音の様な音を立て、さまざまな動物の意匠が施された葡萄酒のボトルが、宙を舞い、かろうじて姿を保っているサイドテーブル、三人の傍に並んだ。
ただ、魔術で作りだせねば、グラスが無い。
ボトルの一つを葡萄酒が注がれた状態の三つのグラスに変形させる段になって、クァルトゥスは漸く、ウェスペルの上から身を退けた。]
[馬の嘶きが、耳に届く]
っ、……しっ
[唇に指を添えて、沈黙を促した。
存在が感づかれているだろうという危惧もあったのに、何故、それだけに留まったのか、自身ですらわからない。
淫魔の存在は知っていた。無論、魔の好む行為も知っている――が、幼き魔にとってそれは「愉しいもの」ではなく、触れるだけで厭きてしまい、それからというもの、自ら望んだ事はなく、性無き身体は、必要ともしなかった。
他者の交わる姿など、見たこともない。
冷えた身体が、何処か、熱を持ったように感じた。
銀の幹に添えていた手に力が篭る]
[ジュアンの両の手が背中を這う。
その刺激は多種多様で、幾つもの異なる感覚を同時に喚起させた。
ザリチェは今、名手に調律される楽器であった。
情欲の弦を掻き鳴らす指に震え、麗しい音色を薄く開いた口唇より洩らした。]
[シュッ――…息を吐く音。
息が途中で二手に割れたような感じかもしれない。]
[ザリチェの声より高く、幼い声。]
[――見学者さん、ですかねぇ。]
[ジュアンは、微かに笑った。]
[グラスを作ろうとしたのだろう、魔術を行う手に、手を添えた。クァルトゥスの腕に指を滑らせ、肉の露出した傷に触れる。
あの淫魔のような力を、目線だけですべてのものの心を捉えて離さぬ魅力を持たない事が忌々しい。]
葡萄酒などよりももっと強く、喉を灼くような酒が欲しいわ――
それとも、オードブルから頂くべきかしら
[ちらりと視線でウェスペルを指してから、その目をクァルトゥスに注いだ。]
[白い背を這う手を真似るように、手が自然と動いた。
驚きに目を見開き、直後、硬く目を瞑り頭を振る。
けれども、眼前の幻想は晴れない。
開いてしまえば、眼差しは再び、奪われる]
[一体己は、何をしているのか。
結露したかの如く、手は汗ばんでいた]
それならばお前が触れればよかろう。
[ぎろ、と金の眼で睨み]
遊びで、貴様よくも―― ……ッ!
[うなじを撫でられて、びくりと首を竦める。
小さく声が漏れた。]
……っ
わかってやっているだろう、貴様……
[ようやっと重みが遠のいたとき、
起き上がりながら抑えた低い声でそう謂った。
乱れた髪を手で梳く。
凍り付いていた血が掌の体温で溶け出していた。
それを見つめ、心中繰り返すのは
先程のクァルトゥスの問いか。]
[ザリチェの吐息が聞こえる。
――…やはり遠くから聞こえる其れよりも熟れた音だ…――ジュアンは、そう思った。]
[ざらついた左の指をザリチェの耳から離し、こめかみを通過し、頬を伝い、鼻の横を通り、唇の端へと運ぶ。]
[右の手は、ザリチェの絹の背中に微かな痛みを与える動きを止めた。掌でうっすらと筋肉の感触がする腰をなぞり、ザリチェの薄い乳房のふくらみへと指を運び――]
……佳い、音です。
[再び熱い掌で、絹の背中をなぞった。]
[弾ける、熱い吐息を孕んだ泡沫が、クァルトゥスの躯をも欲情させた。
ウェスペルを犯し損ねた熱と重なり──、飢えが強くなる。]
──同じ言葉をお前に返そう、・・ジュアン。
私の“腕”に構わず、目の前の淫魔に集中しなくては、喰われるのではなかったか?
[指を締め付けるその場所をゆっくりと解きほぐしてから、じわり指の数を増やした。
指を曲げ良い場所を探る。《青》が震えれば、それに連動させる様に、指を蠢かせる。指先には何時の間にか爬虫類の鱗の様な突起が生じ、粘液と共にその場所をくすぐった。]
私がお前を犯したい事にも変わりはない。
[耳元を何かがくすぐるのか、時折、クァルトゥスはピクリと肩を動かす。
女の手が己の手に重ねられた瞬間、無言で唇の端を楽しげにゆがめた。ウェスペルを挟んで、紅玉の目でロネヴェを見詰め返した。]
─…ロネヴェ。
貴女も趣味が良い。
[ロネヴェの手を取り、手首に軽くくちづけた。]
[締め付けた場所が、クァルトゥスの指の動きに優しく諭されたかのように、すぅと緩んだ。その入り口で、ピンと何かがぶつかる音がして、次にはドスンと重い感触が襲ってくる。
――奥の孔に感じられる圧力の類が、さらに増えたということを、ジュアンはすぐに察知した。]
はっ……あ。いいんですよ僕は。
ザリチェさんとクァルトゥスさんの感触で弄ばれるの、心の底から楽しいですから。あはは……
[ふるり]
[首を左右に振り、髪がサラリと揺れる。]
[口元は大きく開き、こぼれ落ちるような笑みの形を作り上げていた。]
[悦びの蜜を零し始めた泉を男の太腿に擦り付け、ゆる、と腰を振る。
天を仰ぐ欲望の芯が、それに伴い男の腰から下腹の辺りをかすめていく。
奏者の巧みな指が弦の上を走る。
類い稀なる名手の奏でるままにザリチェは嫋々と尾を引いて啼く。
深い音色が体内の奥深くで拡がり、鳴り響いた。]
[耳を塞ごうとしても、掌を擦り抜け、音色は脳の奥にまで響き渡る。
それどころか、身体を支える――否、抑えるものが無くなり、棒のように細い脚は、ふらりと前へと*進んだ*]
[ロネヴェはクァルトゥスの言葉に笑みを深めた。]
――その目で私を見ながら、一体誰の囁きを聞いているの?
[取られた手は、寧ろ差し出すように鷹揚に。
ソファの上に片足を引き上げた。
その動作でドレスの裾がたくし上げられ、脚の付け根まで肌が顕わになる。口付けられた手でクァルトゥスの腕を掴み、顕わになった太股へ誘い、引き寄せる。
もう一方の手は、ウェスペルの傍へ。彼の細い腰を抱き、囲み込むように。*]
[クァルトゥスの指が、己の奥でずるりと動く。
曲がり、探り、位置を変え。
――奥にしまっておいた《青》がその動きに従って、ブルブルと大きな振動を起こす。]
んん……これ、クァルトゥスさんの、特技ですか……?
指先、面白いですねぇ。
[ジュアンの躯の奥壁に、ボコリと不思議な感触が当たる。――何かのイボ、或いは鱗の類か――クァルトゥスの指の動きと共に、鱗が不規則な感触を生み出す。
其れに気を取られているジュアンは、そのたびに《青》の振動に腰を突き上げられ――黒服の奥に隠した熱い塊がビクリと動くのを、明確に感じていた。]
[前からも後ろからも水音が響いていた。
泡沫に乗って響く二人の享楽の音に合わせ、漆黒の指先はジュアンをも鳴かせようと並奏を続ける。]
[特技かと聞かれ、小さく嗤った。
──身体の変化の類は悪魔には珍しく無い。]
・・ジュアン。
指が不満なら、お前が“良い物”に形を変えようか?
と云っても、何が“良い”のか、私には分からぬが。
何を、
[矛先が此方にも向くなどとは思って居なかったのか。
しなやかな腕を避けるように身を引く。
クァルトゥスの体にぶつかってしまったかもしれない。]
――ッ、私を巻き込むな!
[立ち去ってしまおうかという考えも過ぎったが
この緋色の魔を逃がしたくはなく
先程の二択の問いも引っ掛かってか
咄嗟に動けず逡巡する。]
[奏者の双の手が、ザリチェの頬を捕らえる。
その肌の感触は柔らかく、艶めかしい青白さに――晴眼の時にいつもかれが感じている――よく似合っていると、ジュアンは感じた。]
[掌でそぅっと包んだ頬を、濡れた舌で舐め上げる。ひとつの織り間違いも見あたらぬ、極上の絹織。触れればとろけそうな繊細さと――絹織とは異なる、確かな重みと質感。その細胞の奥、ありとあらゆる感触を吸い付くさんとして、ジュアンは舌でそれを味わう。]
[太腿には、ぬらりとした湿気。
ザリチェの脚の間から沸き出る泉の熱。
――ジュアンの肌に深く染み入るそれが、肌に隠された筋肉までもを食い尽くされそうな心地さえ在る。]
[ビクリ][ビクリ][動き出す塊]
[欲望の芯がその形をはっきりと作り上げる。]
[ひとつは、腰から下腹部を掠める、ザリチェのもの。]
[ひとつは、それに呼応する、ジュアンのもの――*]
堕ちたる魔槍 クァルトゥスは、泡沫の雨 ニクス を投票先に選びました。
堕ちたる魔槍 クァルトゥスは、泡沫の雨 ニクス を能力(襲う)の対象に選びました。
“良い”もの……?あははっ。何でしょうねぇ。
[ビクリ][熱を帯びた場所が動く]
そうですねぇ……僕はそこにいろいろされるの、好きですから。簡単に食いちぎれるものは困りますが……ね。ですが、せっかくのお話です。普段は味わうことの無いものをお願いしましょうかねぇ……。
例えば、吸い付くような吸盤。
或いは、氷の塊。
……なぁんて、実際は気持ち良ければ何でもいいですよ?
[時折、己の水音にケラケラと無邪気な笑い声を上げながら、ジュアンは*クァルトゥスに空気の泡を送った*]
聴こえるのは、囁きでは無く楽の音だ。
おそらく、蒼くうつくしく奏でられる──。
止めるすべがわからないのでね、酒席のマナーに反しないと良いのだが。
[嘯く様ないらえ。
クァルトゥスは、身を捩ったものの何処か迷いを含んだ動作を見せる、ウェスペルを胸板だけで支えた。視線はロネヴェのスカートの内側、肉感的なラインを描く白い脚へ。
ウェスペルを挟み込んだまま、誘われた腕でロネヴェの腰を抱く。やわらかな女の身体は、やはり掌によく馴染むと思いながら。
黒いドレスの隙間、ロネヴェが身動きする度、陰影を作る胸の谷間。揺れる長い髪もまた、男をそそった。]
逃げなくていいのか、・・ウェス。
逃げぬ事が、先刻の返答なら嬉しいが。
[ロネヴェの内腿に掌を潜らせながら、二人で挟み込んだウェスペルの金色の瞳を覗き込む。
逃すのを惜しいと思ったか、既に欲情していた為か。
そのまま──ウェスペルに、舌を差し込む*深いくちづけを*。]
テーブルの上ではなく、学の音に気を取られているというのなら、
無礼――無粋だわ――――
[視線を誘うように、クァルトゥスの手に誘われるように、脚を大きく開く。
腕で胸を寄せ、柔肉の間に陰影を作るが、視線から隠すように身を捩る。肩口から、髪が流れた。]
[内股をまさぐるクァルトゥスの掌の質感は、甘美な愛撫よりも荒々しく食い荒らす情交を想起させる。慣れた手の動きは何処か蹂躙するようで、そういった連想を助長しているのだろう。]
――二人だけで、秘め事を?
[クァルトゥスからウェスペルへの深い口付けに、拗ねたような目。
ウェスペルの心中は省みねど、瞳の奥に嫉みの炎を灯す。
ウェスペルの太股へ手を乗せた。手は、這うような仕草。]
[嫉意に炙られてか、手管によってか、クァルトゥスの触れるあとは熱を帯び、まだその指先の届かぬ先は密かな滴りを帯びる。*]
[楽が聴こえる、とかれは謂う。
見上げた貌は矢張り未だ傷が残り、抉られた左側はがらんどうだった。]
待て、――お前の、その傷は癒えるのか?
手負いのお前を屠ることに
私は意味を感じな――…!?
[言葉は途切れた。
唇を唇で塞がれて、ウェスペルは大きく金の眼を見開いた。]
……ん、ッ!
[体の奥から、触れる端から、
長らく遠ざけてきた感覚に小さく震えた。
眉を寄せて、抗議するようにクァルトゥスの肩を拳で叩く。体を退こうとした。]
下世話な、戯れに……付き合う趣味は――
ロネヴェ!
[乗せられた手が這う様は蛇のようだ。
手袋が嵌められていない手が、
ロネヴェの白い手を*はらおうとするだろう*]
[温かく軟らかい舌の感触が呼び起こすのは、喘ぎの震音。
弦を押さえる奏者の導くままに、吐息の旋律を紡ぎ出す。
淫魔の膚に滲む汗は複雑な味わいの甘露、
どんな調香師も敵わぬ香り重ねた天然の香水。
それもまたザリチェが奏でる旋律であり、
男の背や脇腹や腰を優しく滑るように彷徨う手も、奏者の爪弾く音を飾る琵音なのだった。
今この度、この時だけは、ザリチェはただ一人名手ジュアンが弾き鳴らすためだけに誂えられた楽器であった。
──先刻、武神たるクァルトゥスに対しては、征服されざる炎であったように。]
ジュアン……
ジュアン、
己の瞳の色が違っていたら、貴方はどうするのだろうな……
己に触れもせず、この快楽も味わおうとはしないのかな……
[低く囁き、クスクスと喉を鳴らして笑う。
その声には悪戯な響きが篭っている。
覗き込むようにあわせた瞳の色を徐々に、ジュアンの髪の色を映した薔薇色に変えていく。
ジュアンの目が見えていれば、これほどの至近距離では必ず気付く。……だが、彼の反応をザリチェは予期していた。]
[幼い魔の気配がややこちらに近付いたのを感じる。
そのことは、全身がジュアンの音で満たされていく共鳴胴となっていてもしかと分かる。]
[柔らかな肌、張りのある肉の質感。触れるたびにしなやかな音が鳴り、ジュアンの鼓膜に悦びの響きが侵入する。
ザリチェの汗腺のひとつひとつから甘やかでねとついた芳香が立ち上ぼるのを感じ、ジュアンはすんと鼻をひくつかせ、ザリチェの首筋に唇を寄せた。]
[ザリチェの問いが、恍惚を奏でるかれの本能を遮り、思考をさらりと撫でて刺激する。]
……え?色、ですか。
さあ………どうでしょう。それでも、この香りがきっとこの僕を惹きつけてやまないでしょうねぇ……。
[ザリチェに見つめられたらしいのを察知したのか、ジュアンもじっと「目を合わせた」。]
[――が、視界が塞がったジュアンは、眉ひとつ動かさずに、にこりと微笑むのみ。]
[もしかれの目が見えていたとしたら。おそらくかれは、ザリチェの目の色が薔薇色に変わったことに、ひどく失望するだろう。
――なぜなら。
かれは、極上の青の他には――黒と白しか「色」が分からないのだから。誰もが絶賛するであろうその「薔薇」も、かれにとっては――…]
………ニクスさん、ですか?
[ふぁさり。頭の動きに合わせて、髪が揺れる。]
あははは……
そういえば、あのこも「遊んで」ってよく言ってましたねぇ……。
僕は、もっとニクスさんがオトナになって、あの《青》の中に闇の深さ……或いは《こうる》影が見えた頃になったらお相手したいなぁって思ってましたが……或いは、今近くに「お呼びする」のも良いかもしれませんね。
――…どうしましょうかねぇ?
[ジュアンの唇が、大きく弧を*描いた*]
[予想通りの反応が返ってくるのを見、ザリチェはジュアンが「時折視覚を喪っている」のを確信した。
見えている時と見えていない時の切り替わりは何時で、そのきっかけは何なのか全く予想がつかないが、少なくとも現在は見えていないらしい。
でなければ、あれほど「青」に執着を見せたジュアンがこの瞳を見て、何の反応も返さないということはありえないのだから。
だが、とりあえず今はそれ以上考えることは止めた。
今の時を愉しむことの方が遥かに重要であったから。]
[銀の影よりは抜けれど、その場から去るでもかれらに向かうでもなく、その姿は寄る辺を求めるかの如く闇馬の傍に在った]
……、不快だ。
[眉根を寄せて、小さく零す。
得体の知れない感情が、心中の泉を揺るがす。
表面には表れねど、内面は酷く荒れていた]
[ジュアンの笑んだ唇に軽く口接けつつ、くつくつと喉を鳴らす。
その唇もやはり、そっくり同じ弓の如き弧を描いている。]
そう思うなら貴方が教えてやれば良いのに。
全く気の長いこと……
青い果実が熟すのを待つうちに、誰かに捥がれてしまったらどうする?
[そう茶目っ気たっぷりに囁いて、今度は深く口接ける。
お互いの舌と口内の感触を味わい、顔の角度を変えて幾度も。]
[やがて、ぬめぬめと濡れた紅い口唇を舐め、ジュアンに寄り添ったまま肩越しに振り返る。
青い瞳が暗い森のなかで燠火のように輝く。]
──おいで、
[うっすらと蠱惑の微笑を投げかけて、闇馬の傍に迷子のように佇む幼い魔を差し招いた。]
[――おいで。
投げられた一言は小石の如くに泉に落ちて、水面に波紋を広げた。
密かな毒をも抱いた甘い誘いは水底にまで沁み入り、揺らぎが強くなる]
……なんで、
不快だよ、
不愉快だというのに。
[言葉とは裏腹に、足は進んだ。
かれの瞳から、目が離せない。
幼き魔の眼には戸惑いが浮かぶも、隠れた好奇のいろがあった]
[遅々とした足取りでかれらの傍らにまで辿り着いたところで、かくりと膝が折れた。
ふわりと地面に広がる、穢れなき白。
かれの抱く紅と青の前では、儚く失せてしまいそうだった]
[黒い落葉が敷き詰められた地に、広がる純白。
膝をついた小さな魔は寄る辺なく、まるで今にも泣き出しそうなほんとうの迷子に見えた。
けれども、その瞳の深い水の青に潜む好奇心を読み取った淫魔は、更に引き寄せようと白く艶めく腕を伸ばす。
巣に掛かった蝶を絡め取ろうと糸を繰り出す蜘蛛のように。]
別に……
[ザリチェの唇に己のそれを合わせ、くすりと笑う。]
僕は他人の「初めて」というものに、さほど執着したりはしません。穢れを知った後の「色」は、純粋なる「色」よりも美しいこともままありましょう――…音楽と同じです。その「色」の深さには、その方の生き様が映るのですから。
[そう紡ぐジュアンの唇は、ザリチェの柔らかな肉と薄い皮で再び塞がる――ジュアンの口内にザラザラとした突起に覆われた器官が入り込むと、かれはそれを受け入れ、転がし、弄ぶ。]
ああ、でも………たまには「穢れを知る瞬間」を拝見したい気もしますねぇ。真っ白な方が、どのような「色」を見せるのか……あははっ。楽しいですよねぇ。
――…悦び、渇望、痛み、絶望…――
ありとあらゆる感情が交じり合い、「白」に「闇」を落とす、あの瞬間―を―…
[カサリと足音のする方向へと振り返り――…]
――…ね?ニクスさん……
[かれは、*笑った*]
[蝶は抵抗の様子を見せず、糸を受け入れた。
艶めいた肌は触れそうほどに近く、魅惑的ないろに吸い寄せられてしまう。
己のか、かれらのか、吐息の音が水面にさざなみを立てる。
避けるように緩く瞬きはしたが、視線を逸らすまでには至らない]
い、ろ――?
「二クス」に「色」など無いよ。
[そう紡ぐ声すら、絞り出すようだった。
虚無ではなく、かれらに呑まれてしまいそうだ]
ジュアンは案外と理屈好きなのだな……
己はそんなことはどうでも良いよ。
心地良く、愉しければそれで良い……
[笑み含んだ声の語尾が擦れ、絶妙の震音を響かす。
会話の間もその底流には低く絶え間なく、時に鋭く強く、愛撫の奏楽が流れ、止むことはなかった。]
[ザリチェは、ジュアンによって弾き鳴らされる楽器である自分を、余すところなく眼前のニクスに晒した。
ジュアンの指と舌と唇と膚で、妙なる音を生み出し、高まる旋律そのものとなっていく自分を。]
ニクス、ニクス、
いろ、を、教えてあげるよ。
[淫魔は、清水にインクの蒼を落とすように、近付いたニクスの頬に指先を触れさせた。
羽毛で撫でるが如き、繊細で軽やかな刺激が膚の上を滑り──]
[絶えぬ音色は流れる川のようで、けれど、それとは異なる色を含んでいる。
青い眼に映り込む妙なる楽器の姿は、起伏のない、乾いた己の身体とはまるで違う。
呑まれぬようにと片手を地に突き自らを支えながらも、瞬きもせずに見つめるさまは、深き水の底を覗き込もうとするよう。
ゆるりと伝わる刺激はじんわりと入り込み、透明な泉が仄かに色づく。
濡れた眼が、揺らいでいる]
くすぐっ、たい。
[小さく声を上げ、眼を閉じる。
けれど何処にも、嫌悪の色はない。
その先をねだるように*頬をすり寄せた*]
[蒼に薔薇色が混じるが、盲目の弾き手が奏でる楽の音は途切れる事が無かった。
それはクァルトゥスと対峙した炎と同じ楽器であるのに、異なる音であった。時に鋭く時にやわらかく、指先とくちびるで紡がれる官能的な響き。音階の変化の激しさを感じさせぬのが、弾き手の技巧か。
漆黒の指先と秘めたる《青》が、ジュアンに送るのは、音楽を深くするとも損なうともしれぬ不協和音。混じり合う唾液と舌のリズムに合わせて、同じく粘膜をくすぐったかと思えば、ザリチェよりもジュアンの果実がより膨らむ様にと、急所を狙って突き上げる。]
[果実が先走りの蜜を零す音の響きが届けば、漆黒の指先は滑らかな氷に転じ、ジュアンの背筋を冷たくざわめかせる。
ジュアンの笑い声。
淫魔は、官能を吸い上げ魔力の糧とするであろうに、ジュアンもまた貪る事になんら躊躇を覚える様子が無いようだった。]
…お前も貪欲だな?
いっそ、その笑い声が悲鳴に変わるまで、狂わせてやりたくなるが。
[ジュアンの後孔を犯すそれを長く太い蛇に変え、下から喉元まで、裡のすべて──粘膜と云う粘膜を満たし、嘔吐を感じるほどに突き上げてみようかとも考えたが。
今はあくまで伴奏に止める。
なぜなら、ジュアンは遠く己の目の前にも馳走が並んでるのだから。クァルトゥスの思考に合わせ、腕は形を変え──それでも、圧迫感を持ってジュアンの後孔に滑り込んだ。]
[蒼と瑠璃の弾き手。密やかな青と漆黒。
音に、小さな透き通る──綺羅が混じった事にクァルトゥスは気付く。
ジュアン達への干渉の欲望は、一旦、蛇の本能に任せ、クァルトゥスは蒼の楽奏に対しては*傍観者の位置へ*。]
[鋭く打ち払われた手は、宙を彷徨う。]
下世話?
―――上品な者など居るものかしら
[声をあげて笑った。
ウェスペルを背後から抱くように、ブラウスの立て襟に指をかける。]
ッ、
最低限の品格というものがあるだろう――!
ええい、悪ふざけも大概にしろっ
[首元に触れられ微かに身を捩る。
2人の狭間で、うまくいかない。
触れるのが好きではないがそれどころではないようで
ロネヴェの白い指を引き離そうと手をかけた。]
[ウェルペルの身体が、己の舌の動きに合わせて震えたのが心地良かった。
喉の奥で嗤い、抵抗するウェルペルのベルトに手を掛ける。ちょうど、ウェスペルの太腿に手を這わせ、シャツを剥ごうとするロネヴェの動きに呼応する様に。]
そうだな。・・ウェス。
お前を軽くつまんでから、アーヴァインを殺しに行けば、少なくとも《候補者》として、相対するになんら過不足無い程度には回復するだろう。
ああ…今日はやさしくしよう。
お前も、女と男を同時に味わうのは、刺激が強かろう。
[そう云って、ウェルペルの背と肩をやさしく撫でた。]
・・ウェス。
お前は──、本当に可愛い。
私が回復した分、お前自身が万全で無くなるだろうに。
それに気が付かないとは…。
[だがそれを口に出す事は無い。]
手加減して喰ってやる。
もっとも、目の前の女悪魔がお前に手加減するかは分からないが。
品格なら分けてあげたいくらいに持っているわ?
―――悪ふざけは淑女の嗜みよ
あら、存外に優しいのね。クァルトゥス。
[ウェスペルの手は冷たいようだ。体温ではなく、質感がそう感じさせているのかも知れない。]
[制止に抗うように力を込め、華美ではないが上品なしつらえのブラウスのボタンを千切る。]
[胸元を隠すロネヴェの髪の一房にくちづけ。
揺れる長い髪はそれ自体が生命を持っているかの様な曲線を描き、髪の向うに再び現れる熟れたしろい果実を、いっそう妖艶に見せていた。
脚を開きながら乳房を敢えて隠すと云う、一見矛盾するようでいて、己に自信のある女独特の行動に、薄い唇を舐める。
ロネヴェの瞳の奥にチロチロと燃えて見えるのは、黒い炎。彼女の口づけには毒が含まれているやもしれぬ、と云っていたのはジュアンだったが。]
ウェスとは久しぶりだが、古い仲なのでな。
楽の音は聞かぬ事にするので、許してくれ。
[ウェスペルがこの後どうするのか、興をそそられながら。
躯をずらし、ロネヴェの豊かな胸元に顔を寄せた。
詫びる囁きを見事な球形を描く柔肉をかすかに揺らし、内腿を愛撫していた掌と指先は下草の向う、濡れはじめた妖花を愛撫しはじめる。]
[ロネヴェのドレス、尖りの有る場所のすぐ傍にくちびるをつけ、]
やさしいと云う事も無い。
私のかわりに、貴女がウェスを楽しませてくれるだろうから。
っ、やめないか!
[ロネヴェに気をとられていると
今度はクァルトゥスが何かしらしでかす。
近くにある体温に眩暈がしそうだった。]
だから、愛称で呼ばれる筋合いなど、ないと!
[回復する、その言葉はしかと聞いたが
自分を“つまむ”などと謂われ眼を吊り上げた。
続いた声にはまたも言葉を失った。
撫ぜられて収まるものでもない。]
[幼い魔の頬から喉、目元や鼻を指は経巡る。
やわらかい口元に辿り着くと、口唇のかたちを確かめるように軽やかに踊った。
淫魔の指は、それ自体独立した魔物であるかのように膚に吸い付き、漣のように微細な振動を与えた。]
いけしゃあしゃあと――
そんな淑女が居てたまるか……ッ
!
[引き裂かれた服を片手で掴み合わせ
守ろうとする。
燃える金の眼で、己を挟み睦みあうふたりを睨んだ]
…ッ愉しむならば
ふたりでやればよかろう!
[片手は胸元を押さえて居る。
もう片方の手を振り上げる銀を編もうとする]
[クァルトゥスの囁き、吐息が胸元を仄かに温める。
口付けのすぐ横で硬く張った突起は、厚くもない布地を傍目にも見て取れるほどに押し上げて触れられる事を待つ。]
[ウェスペルから身を離し、クァルトゥスの首に腕を絡めた。
逞しい首筋に唇をあてる。
愛撫に態とらしい吐息を零し、いささか熱を帯びた声を出した。]
……私は逃げられてばかりだから、愉しませてなどあげられないわ?
それとも、求めて貰えるのかしら。
[クァルトゥスの囁き、吐息が胸元を仄かに温める。
口付けのすぐ横で硬く張った突起は、厚くもない布地を傍目にも見て取れるほどに押し上げて触れられる事を待つ。]
[腕を振り上げたウェスペルから身を離し、クァルトゥスの首に腕を絡めた。
逞しい首筋に唇をあてる。
愛撫に態とらしい吐息を零し、いささか熱を帯びた声を出した。]
……私は逃げられてばかりだから、愉しませてなどあげられないわ?
それとも、ああ言いながら本当は違う事を考えているのかしら。
あなたとの時はどうだったの、クァルトゥス。
[こんなダンスは、知らない。
目を閉じてしまえば、感覚はより鋭敏になる。
薄く唇を開いて紅い舌を覗かせ、辿る指先を求めてか、ちろりと蠢いた。
意図的に抑えているのか声は無く、浅く、吐息のみが零れ落ちる]
[まるで城に住まう姫君が愛でる、猫のような仕草――ニクスがザリチェに躯を擦り寄せる音を聞き、ジュアンはニクスがそこに居ることを明確に察知した。
――ニクスの青い髪を指先で掬い、竪琴を弾くように、はらはらはらりとなぞる。
白い肌と、その奥に潜む耳。
ジュアンは唇をすぼませ、ニクスの鼓膜に、優しく震える空気の泡をぽわりと送った。]
[熱を帯びた女の声がすぐ傍で響く。
見事にくびれたロネヴェのウエストを引寄せ、クァルトゥスは身体を密着させた。
片手をまわし、大きな乾いた掌で淫蕩な果実を揉みしだく様を、ウェスペルに見せつける様に。ロネヴェの唇とクァルトゥスの唇が至近距離に有る。]
ああ…
抵抗するから、手酷くする羽目になった。
[クァルトゥスの吐く息も熱を帯びていた。
目の前でウェスペルが銀を編もうとしている事に気付き、冷気を帯びた左腕を伸べた。再び、強引にウェスペルを抱き寄せ、寄せ集めた衣服を剥ごうとする。
ちょうど、挟まれたウェスペルは、ロネヴェの胸元に身を押し付ける形になった。]
[かれの左手は、ザリチェの腰へと緩やかに落ちた。熱と微かな湿り気を帯びたザリチェの芳香が、ジュアンの肌の奥へと染み込む。
淫魔が己の魔力を食らう――それと知りながら関係を持つジュアンを興味深そうに観察していたのは、どこの誰であったか。]
……それでも、美しい楽器を弾きたいのが、楽士の端くれたる僕の性ですから。
[誰にともなく、ジュアンは呟く。
引き締まったふたつの丘――ザリチェの尻肉――の間にそっと指を差し入れ、一本の道筋を何度もなぞりながら。]
[女の吐息、男の囁き。
どちらもが間近で、くすぐられるようで居た堪れない。
ふたりから目を逸らした。
だが逃げ場は少なく]
―――ッく !?
[左手より放たれる冷気に怯む。
銀は霧散して、そのまま衣服に手をかけられた。]
やめろ!……ッ、
[もがけばやわらかな感触に戸惑いを見せるか]
――ぁ、
[細い指が、地面を掻く。
泡は身体の奥底にまで一度沈み、急速に浮かび上がった。それは外には微かな声となって現れ、内では泉を震わせる波となって伝わる。
無意識にか、細かく、首が振られた]
[クァルトゥスの手が乳房を弄ぶ度に、聞かせるように高く嬌声をあげた。間近に在る唇とは触れあわず、熱い吐息だけを交わす。
濡れた瞳は、クァルトゥスではなくウェスペルに向けた。]
嗚呼――それじゃあ……酷いのが好きなのね?ウェスペル。
[ウェスペルが針を放てば、それを受けずして防ぐ術などは持っていなかった。だから、彼の手には敢えて注目しない。クァルトゥスが冷気を扱うという情報は、このような場に於いて予想外の収穫として何処か冷静に記憶に刻まれた。
[胸元のウェスペルへ柔肉を寄せ、優しく包むように、または尖りでそっとウェスペルを撫でる。既に殆どはだけた胸は、ほのかに上気して色づいていた。]
[戸惑うウェスペルの、ベルトとバックルの間に細い指を割り込ませる。]
[未知の感覚に溺れ始めた幼き魔は、淫魔により、己の力が奪われていることには気づかない。ちからはあれど、こころは未熟だ。抵抗するなどという思考すら浮かばずに、自ら求める。
それがどのような結果をもたらすかなど、知りはしない。
薄っすらと開かれた眼は、絶えず揺らめいている。
波が広がってゆく]
未知の感覚に溺れ始めた幼き魔は、相手が淫魔なれば、己の力が奪われるということに気づきはせず、それがどのような結果をもたらすかなど、無論、思考が及ぶはずもなかった。
ちからはあれど、こころは未熟で、欲望には忠実だった。
抵抗の兆しもなく、自ら、求める。
薄っすらと開かれた眼は、絶えず揺らめいている。
波が広がってゆく]
[――ぱしゃり、]
[不意に、明澄な水音がした。
交わりによりもたらされる証とも、肉を切り裂いて溢れる赤とも異なる、色も匂いも何も無い、生命の根源たる水。
空気が湿り、俄かに――かれらの上空、決して明けぬ夜の天を覆う雲の一角から、輝きが失せる]
[ジュアンの指が二つの快楽を揺さぶる弦の上を走ると、一際高く強い音が洩れ響き渡る。
旋律と同化した白い肢体は弓の如く反り返り、切なげに喉震わせて仰のいた。]
[クァルトゥスは、かつてクァルトゥス自身がウェスペルにした事を詳細に思い出した。
行為の間中、ウェスペルは金色の瞳がクァルトゥスを睨み続けた。ウェスペルの身体は細かったが、簡単に手折られる花ではなく、針の様に硬い芯があった。苦痛と官能に揺れ変化する黄金を確かめるように、幾度となく悲鳴をあげさせた。
クァルトゥスは、所有印とも云える傷痕をウェスペルに残し、ウェスペルの魔力を奪う事も無く、そのまま犯し殺すこともしなかった。]
愛称以外に呼び方が分からない。
また、声を聞かせてくれ。
・・ウェス。
[ロネヴェの乳房を愛撫する掌はそのまま、女悪魔と共にウェスペルを嬲る。
片手で色付いた女の尖りに指を絡ませ、逆の手で剥いだウェスペルの衣服の内側、平らな青年の胸元の飾りに爪を立てた。]
っ、何故そうなる!
私はそのような嗜好は持ち合わせていない…ッ!
[ロネヴェはとんでもないことを謂う。
柔らかな身体は己とは全く違うものだ。
戸惑ううち、伸びてきた手の触れた先に息を飲んだ。]
そのような、
っく、離せ、触れるな……ッ!
[幼い魔に巧妙かつ繊細な罠を仕掛けつつ、同時に徐々に強められていく音の波に、奏者の奏でるままに望みの音を響かせ啼いた。
屹立した欲望の塔からも、隠された泉からも熱い蜜が止め処なく滴り落ち、その後ろの小さな窪みまでもがしとどに濡れて、今だ満たされぬ餓えに震えていた。]
[後孔を探る指先の温度と、鱗の堅さと、柔らかな肉の質感が消え去ると、それは凍て付いた氷へと変化した。
冷たく締め上げる氷柱に己の体温が急激に奪われ、ジュアンはビクリと背を伸ばした。]
……は、あ……ッ
あははは………冷たくて、面白い……!
[カラカラと音を立てて笑うジュアンの先端からは蜜が溢れ出し、その従者達がぎゅうと収縮した。]
ダメですよ、クァルトゥスさん……もっと、もっと、遊んでくださいってば……!
[蛇に弄ばれ、肩を震わせながら不敵に笑う。]
[――時折、何かを思い出したように声を上げながら。]
だって……声も貌も、酷くしてくれと言っているみたいだから。
あぁ、手酷くしたくなるの。
ほら―――ご所望よ?
[吐息を絡ませながら勢い良くベルトをバックルから引き抜き、スラックスを開く。
素早く手指を差し入れ下腹部を撫で、日頃の潔癖な様からは想像し難いウェスペル自身を掴む。強く、弱く、指で、掌で、スラックスの中、彼を弄ぶ。]
[奏でられる楽器の音色すらも、熱を呼び起こす。
内なる水面が揺らめき、揺らぎ、揺れる。
さざめきは大きなうねりと成る。
崩れていく]
ん、 ぁ
厭 だ、
[求めるこころと相反して、カラダは拒絶の意を示す。
触れてはいけないと警鐘が鳴る。
ぱしゃ ぴちゃ
乾いていた肌が濡れてゆく]
[ビクリ]
[何かにつき動かされたジュアンは、頭を振ってそれを拒む。だが、それは本能が赴くままにかれの中で蠢き、ジュアンは何度も掠れた声を上げそうになり――その唇を、ギュッと噛む。]
[しかしその左手は裏腹に、快楽の泉の奥を探索せんと伸び、ザリチェの厚ぼったい唇――溢れ出す熱泉の入口――をなぞり、その奥へと侵入を試みる。]
…ッ、ウェスペルと、呼べばいいだろう、に……!
――っ…ぁ!
[爪を立てられて悲鳴の端、掠れたような甘さが乗った。
悔しげに唇を噛み締めた。
ふれるやわらかさと無骨な指の相反する波に
飲まれそうになりながらも自分の指を噛んで堪える。]
[幼い魔の内部は嵐のように揺れていることだろう。
魔力の揺らぎは手に取るように分かる──音の波に揺蕩っていても。
ザリチェは情欲に濡れた声で嗤いながら、ニクスの口腔内に指を差し入れ、ゆるりと内部の壁を舌を弄った。]
あははっ……まだ、足りませんよ………
[「眼前」のニクスとザリチェに交互に「視線を送り」、ジュアンは笑う。]
そう、もっと……
[――その言葉は、誰に向かうものなのか――]
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