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村は数十年来の大事件に騒然としていた。
夜な夜な人を襲うという人狼が、人間の振りをしてこの村にも潜んでいるという噂が流れ始めたからだ。
そして今日、村にいた全ての人々が集会場に集められた……。
自警団長 アーヴァインは、村人 を希望しました。
魔界には昼はなく、生命の黄金に輝く太陽もない。
不変の闇黒の空は天鵝絨の艶めく雲を湛えてほの明るく地上を照らし、その光は冴え冴えと、地上の星明りに似て熱も無ければ眩く目を射ることもない。
聳え立つ槍のように切り立った峰峰は、ルビーのごとく輝く炎の池を抱き。
銀の幹に黒瑪瑙の葉を茂らせた森林が冷たい大地を覆う。
苦痛の悲鳴、怨嗟の呻きが風に乗ってどこからともなく運ばれ。
霧に包まれた辺土で下級悪魔達は、不用意な愚か者を嘲り嗤うと同時に、己がその不運を味わわずにすんだことに胸を撫で下ろす。
だがそれも、宝石で築かれた塔に住まう力ある貴族達にとっては、鳥の歌声ほどの価値もない。
渇きの君 ザリチェ が参加しました。
渇きの君 ザリチェは、おまかせ を希望しました。
[……さらりと紗の裳裾を引き摺って、白い素足が床を踏む。
物憂げに額に垂れ掛かる髪をかき上げ、しゃらしゃらと衣擦れの音を残して、露台へ滑るように歩んでいく。
都から外れた辺境に建てられたこの塔の、露台からは眼下に繁れる森を、地平の彼方には壮麗な魔都の光が望める。
かすかに陶酔の色を浮かべて、彼はその光を瞳に映した。
微風が吹き、蒼い髪と薄衣がわずかにたなびく。
透ける衣は伸びやかな肢体を隠さず、青みがかった凝脂の肌の、形の良い丸い乳房も、無毛の下腹部に生えた男の徴も露わに見える。]
[ほっそりとした女の小魔がしずしずと現われると、命令を待つ仕草で跪いた。
彼は振り向くと、小魔に笑いかけ先程までの戦場──寝乱れた褥を手を振って指し示した。
そこには敗者──無謀にも「決闘」を挑んだ若い貴族だったが──が気息奄々として横たわっているのだ。
客人を「丁重に」外へ放り出すように命じ、彼はまた風に髪をなぶらせて、眼下の景色を眺める。
おそらく小魔は運び出す前にこっそりとおこぼれに預かるのだろう、いそいそと客人の身体を引き摺って部屋から出て行った。
その頃には先程の情事もすっかり彼の心の中から消え失せていた。]
[ふと思いついたように、悪戯な笑み浮かべ指笛を鳴らす。
甲高い響きが終わるか終わらぬかのうちに、風に乗っていななきと蹄の音が近付いて来て、それは空を駆ける夜色の悍馬へと変わる。
露台に身を寄せた闇馬に、彼はひらりと跨った。
漆黒の獣は主の意を汲んだのか、何も命ぜぬうちに宙を踏みしめ駆け出した。]
[闇の馬は黒鉄の刃のように風を裂いて奔った。
蹄の下には滑らかにきらめく雲が、恐ろしい速度で背後へと流れていく。
瞬く間に塔と森は消え去り、暗黒の大地の上を魔を乗せた馬が飛翔する。
流れる漆黒のたてがみを掴み、彼は鞍も手綱も付けていない馬の背で高らかに笑った。
その歓声は純粋な悦びに*溢れていた。*]
村の設定が変更されました。
村の設定が変更されました。
地上の穢 ロネヴェ が参加しました。
地上の穢 ロネヴェは、おまかせ を希望しました。
[部屋は広い。
陰鬱な色をした石で出来た平板な床や壁に装飾は無いが、雑多な悪魔が犇めいていた。獣の姿をしたもの、鳥の姿をしたもの、人に似たすがたをしたもの、形容し難いもの、形を留めてはいないもの、姿の美醜の差はあれど、何れも非常に程度の低い悪魔である。
それらを辺りに侍らせながら、ロネヴェはからだを湯船に沈めている。眼球に直接蝙蝠の翼を生やした小さな悪魔を指先にとまらせ、濡れた髪を片方の手でかきあげた。]
……ヴァイイ伯が身罷られたの。知ってる?
[ロネヴェの指先で、眼球はギィギィと啼いた。]
誰が伯の首を取ったのかしら。ああいい気味。あんなのはさっさと領地を明け渡して何処へなと消えればいいのよ。
ええ。近々、伯の後継者の選定が行われるそう。
わたしへもお声が掛かるわね。きっとよ。
[眼球は、ロネヴェの手の中で潰れた。長く伸ばしてある爪の間から、潰れた水晶体と血が滴り湯船に落ちた。]
だから、新たな領主に相応しいよう、きちんと身支度をしておかなくてはね。
[ロネヴェの爪が長く伸びる。腕の一振りで身近にいた下級悪魔達を切り裂いた。息絶えるものの断末魔と、息絶えぬものの悲鳴の中で、粘り気のある血糊を浴び、肌へ塗りつける。
燭台のうえでは蝋燭が黒い炎を灯し、ロネヴェの濡れた肌をほの暗く*照らしている。*]
触れずの君 ウェスペル が参加しました。
触れずの君 ウェスペルは、おまかせ を希望しました。
[高らかに黒鉄の馬が翔け、
蹴り上げた風が届く場所。
黒曜石の森の果て、
煌めく魔都の残滓が揺れる。
葉擦れの音は硬質で、
玉石の泣き声の様に澄んでいた。
黒曜石の森の果て、
訪れるものを拒むように、
その館は建っている。
端整ながら気難しげな有様は、
館の主によく似ていたかもしれない。]
[窓辺より、ひとつの影が伺える。
館の主、名をウェスペルという。
立て襟のブラウスをきっちり着込み、
崩れた様子は微塵もない。
その一室は書の森だった。
一定の法則に従って、結晶のように規則正しく
暗い虹のように、沈んだ夕闇のように
背表紙が並んでいる。
書の森の真ん中で、ウェスペルは椅子に腰掛け
葡萄酒色の古びた本に視線を落としていた。
蜀台の緋色が揺れる。]
――来たか。
[かれは、顔を上げた。]
[窓の傍には言葉を伝えるための使い魔が居る。
翼を大きく広げて羽ばたいた。]
御苦労。
――ヴァイイ伯の話だな?
[使い魔は一声啼く。]
……選定の、候補者か。
あぁ、噂は風よりも速く駆け抜けるな。
面倒な輩が館を踏み荒らして困る。
[眉を寄せると呟いて、
口許を手で覆うと眼を細めた。]
いいだろう。
私ほど領主に相応しい者も居るまい。
――他に誰が選ばれているのやら。
[金の瞳は鋭く光る。
森の向こう、今は領主亡きかの地を見つめるように。
ほの暗い闇を照らす蜀台の炎が
*予感に震えるように大きく揺らいだ。*]
[暫く、館には悲痛な叫びが充ちていた。円形に似た多角形の部屋の天井は高い。単純で広い造詣は叫喚を佳く響かせる。
やがて、呻くものも無くなる。
彼女なりの”身支度”として篤と魔物の血を浴びたロネヴェは、上機嫌に湯からあがる。床に流れた血肉は、ゆるゆると部屋の隅へ向かって流れて行く。床の、壁際のあたりには点々と孔が空いており、夥しい血を飲み込んでいた。
伝書の為の使い魔が、多角形の一辺に設けられた扉からそっと忍び込み、用件を伝えた。]
あぁ、いますぐ傅き、領主様と呼べば良いわ。
[使い魔は、与えられた言葉以外を持たず、翼を広げて逃げるように飛び去る。]
どうせ、いまにも判ることよ。
[ロネヴェは声をあげて笑った。]
[豊満な乳房、なだらかにくびれた腰、肉付きの良い尻。血を滴らせる白い裸体は、薄明かりを受けて其此処に濃い陰影を作る。
それらの造型ひとつひとつを確かめ、満足げに笑みながら、ロネヴェは肌を拭う。髪を梳く。胸元の大きくあいた黒いドレスを纏う。金銀、玉石の装飾品を身に着ける。
深いスリットの入ったドレスの裾を脚へまとわりつかせるようにしながら、鱗と短い翼を持つ、四つ足の魔物の背に乗る。いまは主を持たぬ地へ向かうべく、魔都の煌めきにほど近い館をあとに、魔物は地を蹴る。]
瑠璃音ノ五シキ ジュアン が参加しました。
瑠璃音ノ五シキ ジュアンは、人狼 を希望しました。
――――ジャララッ……――――
[明けぬ闇を包む冷たい空気を切り裂くように、低く鋭い音が鳴り響く。]
[4弦がピンと張られた琵琶――中国琵琶、と下界では呼ぶらしい――を抱え直し、男はすうっと目を細めた。
弦軸をクイと小さく回転させ、右手の爪で弦をつま弾きながら、琵琶の気分に合うように、弦の張りを細かく調整している。
かれの右手の爪は、血色の良い左の爪とは異なり、黒く厚く、とても鋭いかたちをしていた。――否、黒い爪のかたちは、決して一定では無い。何度か弦をつま弾きながら、かれは黒い爪の長さや硬さをも細かく調整し、琵琶の機嫌を伺うのだから。]
[黒い爪でピンと銀色の弦をひとつつま弾くと、再び弦に爪を走らせ、乾いた音をかき鳴らした。]
――――ジャララッ……ジャジャッ……――――
[琵琶の機嫌を確認し終えたのか、かれは旋律を奏で始めた。
大樹の周りに響くは、華やかさなど無い、低く重く乾いた音色。
観衆など誰ひとり居らぬ中、男はしばし独奏に浸る――それがかれの日課。
琵琶の頚部に左手を這わせ、ついと顎を上げ、視線の先を「音に合わせる」。まるで「何も見えぬ」かのように目を細め、唇に琵琶の音の響きを触れさせ――]
……今日も良い声ですねぇ、瑠璃姫。
[目尻にくしゃりと笑い皺を作り、男はにこりと微笑んだ。]
[ざらざらと、
砂のように銀の針が滑り落ちる。]
――……
[ウェスペルは至極不機嫌そうに眉を寄せて、
倒れ臥して消えていく魔を見下ろした。
無数の針が突き立って、華のように見える。]
[魔物の背の上、脚首に嵌めた細い金の環を弄りながら、暗い大地をゆくロネヴェの耳に、不可思議な音色が届いて消えた。攻撃的とも取れるような、低い弦の響きだった。
それを奏でるものには心当たりがあった。
音色の来た方へと魔物を向かわせ、枝の寒々しい大樹の下へ。]
ジュアン。
[樹の根本で魔物の足を止め、長い首にしなだれ掛かった。]
そんな所で、一人で奏じているのなら新たな領主の為に一曲、奏でて頂戴。
[鋭い音が闇を走り――……]
あ、ロネヴェさん。
新たな領主…ですか?
……あれ?もう決まってましたっけ。
[男は演奏を止め、大樹の上でにこりと微笑んだ。]
ヴァイイ伯が闇の向こうに往かれたのは既に聞き及んでいますけれど、「新しい領主が〜」っていうお話は、初耳です。
―自身の館の庭―
……身の程知らずが。
[忌々しげに謂うと、
針は銀の靄を一瞬だけ残して消えてしまう。
様子見の使い魔か何かであろうが。
何気なく視線を移した鏡の噴水が
一瞬影を映した。]
――……よもや。
[またも眉間の皺が深くなる。
非常に、非常に理解しがたい、この上なく相容れないであろううつくしい(と見た目だけは謂って差し支えない)悪魔の影を見た――気がしたゆえである。]
使い魔が来たわ。
新たな領主を決める、とね。
わたしは候補者として選ばれたの。他にどんな輩が候補者扱いされてるかは知らないけど、それなら私が次期の領主に決まっているでしょう?
ねえ、降りて来なさいよ。
そーですかー……
残念ながら、僕の方には、まだ。
そのうちお話が舞い込んでくれるとありがたいんですけれど。
[大樹の枝に足をかけ、ひらりと舞い降りる。
左手には、胴部が瑠璃色に染められた琵琶。
右手には、かれの周りを取り巻く風。
首に巻いたフリンジ付きのマフラーがひらひらと風を受けるのを感じながら、男は軽やかに地に着地する。]
どうもどうも。何かご用件でもおありですか?
あーでも……できることなら、……無理難題なお話以外で。
[朴訥とした青年は、ロネヴェの顔を見て小さく苦笑した。]
どうかしらね。
アンタには勿体ない話よ。
[ロネヴェは、自らも騎乗を降りて、殆ど音も無く着地したジュアンの傍へ歩み寄る。彼の肩に手を掛けるような姿勢で*囁いた。*]
別に。
見下ろされてるのは気分が悪いわ。
あぁ、無理なんか言って無いじゃないの。
ただ、アイツに痛い目見せてやれって言ってるだけ。アイツのが、使い物にならなくなるくらい。
ねえ?
あはははは。
[ロネヴェの手が肩に乗るのを感じ、静かに口元を弛めた。]
んー……どうでしょうねぇ。
僕は痛い目より、楽しい音が好きですけれど。
「あの方」に痛い目を見せて「美しい音」が出るというのなら、考えておきます。
[トン、とひとつ。革靴のつま先を前に出した。]
あー……じゃあ試しに。
[にこにこと笑うかれの足許に、一陣の風が舞う。インディゴブルーのマフラーから無数に伸びたフリンジは、大地から受ける重力の類に反抗するかのように逆立ち、マフラーの端は風を受けて大きく靡く。]
「あの方」に「どこが痛いか」聞いてみましょうかねー……なんて、「あの方」のことですから、多分教えてくれないと思いますけれどね。
[タンと強く大地を蹴り上げ、ロネヴェの頭上――闇に包まれた上空に舞い上がる。]
だから、期待しちゃダメですよー!
[上空でロネヴェに向かって大きく手を左右に振ると、男は何処かへと飛び去った。]
[空を舞い、ロネヴェの視線から立ち去ったかれの元に、使い魔が現れる。――青く澄んだ瞳と銀髪を持つ、若いムスメの形をした、小さな小さな妖精のような「それ」が、かれに言葉を伝える。]
あー……
そういえばロネヴェさんがそんなお話をしてましたねー……。そうですか。僕の所にも。
[目を細め、にこにこと笑う。]
ちょうど良かったですねぇ。領地があれば、誰にも邪魔されずに琵琶が弾けますから。
[すっと右手を上げ、妖精のカタチをした使い魔を掌に乗せた。かれの黒い爪を撫でる「それ」を愛しそうに眺め――]
領地争いをするのなら、いつもよりずうっと良い「音」を奏でる方とセッションができそうです。
僕は何故か下級悪魔の方に絡まれやすいから、普段はつまんない音の無駄なセッションばっかりですしねぇ……
どんな「音」がするのか、楽しみです。
[男が笑み、銀髪の使い魔もつられてにこりと笑む。かれが左手に持つ琵琶の「瑠璃色」は、かれの微笑みに共鳴するかのように、静かにキロリと瞬いた――*]
[「美しい音」が出るというのなら、考えておきます。]
[音、音。
何かにつけて音と言う。
彼、ジュアンのいう”音”とは、通常知覚出来る音波の事を言っているだけでは無いのだろう。しかし、彼がどういった感性で音を捉えているのかは少なくともロネヴェには判らない。]
……どうかしら。
案外、良い声で喚いてくれるかも知れなくてよ。
やってみないことには判らないわ。
[ジュアンが踏み出したので手を離し、
その姿が夜闇に消えたあと、彼の起こした風によって乱れた裾を正した。]
……嫌ね、髪が乱れる。
ジュアンがアイツの弱点だけでも聞き出して来たなら、最高ね。
あの、いけ好かない――
泡沫の雨 ニクス が参加しました。
泡沫の雨 ニクスは、村人 を希望しました。
知らない?
[発された声は、あどけなかった。
性を表す起伏のない、華奢な肢体。肩口で膨らんだ袖の先に伸びる腕も、華美過ぎない程に重ねられたフリルの下から覗く脚も細く、色素は薄い。
白とくすんだ赤の入り混じった寝台の上、巨躯を丸める魔獣に圧しかかるように身体を預け、小首を傾げる。うなじの付近で切り揃えられた髪が揺れた]
睡っているところを起こされるのは、キラいなんだ。
[部屋の大半は白で占められており、他は限りなく黒に近い色彩だった。
身に纏った薄手の絹もまた白く、獣の有す赤い毛並みばかりが目を惹く]
それで、なぁに?
面白い話だとうれしいけれど。
[違ったら。
その先は口にせず、指先に獣の毛を絡めて弄り始めた。
本来獰猛であるはずの魔犬は、主の機嫌を損ねぬようにか、されるがままだ]
[魔王の使いたる者の話を聞きながら、眼差しを窓へと転じる]
[外には、天のみならず地にも闇が広がる。
否、それは屋敷を取り巻く広大な湖だった。
もっともそれも、正しい表現とは言えないが]
へえ。
[話を聞き終えた途端、小さな口が大きく横に割け、釣り上がった。
パチリと瞬いた眼は、室内を覆う薄闇に解け込みそうな程、深い青を宿す]
いい話だね。
[短い毛を弄るのを止めた指を獣の口に差し入れて、濡れた舌に這わせる。
何かに怯えるように眼を見開き暴れようとする魔犬を、片手で難なく抑えこんだ。傍目には、軽く触れているようにしか見えない]
最近、退屈だったんだ。
[鋭い牙に白い皮膚が突き破られて血が流れ出す。
獣の唾液と混ざり合った]
痛いのもキラいだけれど、
[ぴちゃ] [じゃぷ] [ごぽ] [じゅぷ]
[無理矢理に形を変えられているかの如く、赤い巨躯が奇妙に収縮する。
体内から響く水音は次第に大きくなっていく]
[形容し難い音。
濃厚な赤の体躯が弾けて、
鮮やかな赤の血が飛び散った。
頬を濡らし、白を染める。
色味のない室内に、彩りが加わった]
[傷を負った指先で自らの唇をなぞる。
まるで紅を引いたように赤い口を歪め、]
愉しいことは、好きだ。
[*ニクスは、咲った*]
[”いけ好かない悪魔”の貌を思い浮かべたロネヴェの目つきは、途端に険しく]
[ジュアンの座して居た大樹の根本に、小さな黒い炎が灯る。
炎は、樹を一直線に駆け上がった。
幹に一直線に引かれた黒い筋は、一瞬制止した後
燃え広がり、大樹を包んだ。
ロネヴェは再び魔物へ腰を載せ、地を*往く。*]
堕ちたる魔槍 クァルトゥス が参加しました。
堕ちたる魔槍 クァルトゥスは、人狼 を希望しました。
[…其処は、きらびやかな魔都でも無ければ宝石で築かれた貴族の塔でも無い。霧深き辺境の大地の裂け目の下、地上の光の届かぬ場所。
岩肌は魔物の牙のごとく鋭利に切り立ち、苔むしてぬめりを帯び、下級の魔物であれば、その場所に踏み込んだだけで凍り付く程の底知れぬ冷気が漂う、洞窟の最奥。
その男は自らの肉体に戒めを施し、槍に貫かれながら臥していた。]
[引き締まった腹から血を流し、額に苦汁の冷たい玉汗を浮かべている。臥したその男は、巨躯と云っても良かった。
そして男を貫く槍は、男の背丈よりもさらに長かった。槍は蒼ざめた様な灰色で、男の肉と内腑を抉った傷口から生命を奪わんとする禍々しい力を放っていた。]
──…ッ
[男が苦痛を噛み殺す度、発達した見事な上腕と背の筋肉が蠢いた。
男の紅玉(ルビー)の髪だけが闇の中で燃える様に輝いていた。
まるでそれは、男の呪詛を髪色に映し燃やすがごとき紅さだった。]
…我は ──…奪われ 地の底に堕とされたる辛酸を 忘れぬ … ──
[最奥の闇にふさわしい地を這う囁き。
彫り深く、険しい鼻梁が目立つその容貌。
男が顔を上げると、窪んで何も無い虚ろな眼窩と、紅玉の瞳がギラギラと暗く燃えていた。]
[銀色の鱗を持つ魔が濡れた音を立て、苔むした暗緑色の岩窟を滑り降りた。
常ならば、儀式を行う此の場所に、隻眼の悪魔が誰かを立ち入らせる事は無い。だが侵入者に対し、男は眉間に深い皺を刻んだだけで、自らの鮮血に染まった暗赤色の義手を、銀色の魔物に向けた。]
死んだか。
[敢えて「ヴァイイ伯が死んだ」とは云わぬ問い。魔物のいらえに対し響くのは、隻眼の悪魔の哄笑。]
──ならば、証拠を見せて貰おう。
村の設定が変更されました。
―所有の館にて―
[黒い手袋を嵌め直し、その具合を確かめる。
よく磨かれた宝石とも木ともつかない材質の机の上には
藍色の表紙の本。
風もないのに頁が捲れ、ある場所で止まり
ひとりでに流麗な文字が走る。
それは幾人かの名前だった。
魔の本が、選ばれたものたちの名を書き連ねる。]
――ふむ。
[指先で押さえ、文字を辿った。]
成程、
……先程の無礼な使い魔は、この者の差し金か。
[眼を細める。
文字は尚も走る。]
[淡々と書かれる名前へ視線を走らせていたが、
ある名前を見たとき、ウェスペルは大きく眼を見開き
息を詰まらせた。
滲んだ闇色が ざわり、揺れる。]
――槍の―――
[忘れもしない緋色の髪がまざまざと甦る]
―――ふ、
[漏れた息は笑いだったか、
それとも怒りの吐息か。
ばたん。
本を乱暴に閉じると、
黒いインバネスコートを翻し袖を通した。
靴音も高らかに、館を後にする。]
[黒い宝石のように艶やかな天馬の彫像、
主が命じれば銀の瞳で応じる。]
行くぞ。
[硝子細工の御者が鞭を振るえば
ウェスペルを乗せた馬車は空を滑るように上昇していった。]
─黒の湖岸─
[磨き抜かれた鏡面の如き湖水の畔、銀色の草の生い茂る草叢に寝そべる。
黒い水に片手を浸し、戯れに飛沫を散らす。
そういう時の彼は天使か妖精のように、大層無心に見える。
主を背から下ろした闇馬は、銀の草原を気ままに闊歩している。
気まぐれな主の気性を心得ているのか、かろうじて姿の見えるくらいに遠ざかり、かと言って飛び去りもせず。
草陰を走る小さな水蜥蜴を捕まえると、鋭い牙を蓄えた丈夫な顎でバリバリと噛み砕いた。]
[眼下に広がる黒い森。
向かう先は亡きヴァイイ伯ゆかりの地。
声を掛けられた候補者達が集っているかも知れぬ。]
誰が仕掛けたのやら。
手に掛けた者が紛れ込んでいるやも知れんな。
[顎に指をやりつつ、口許に浮かぶのは薄い笑み。
天馬が1つ啼く。]
……ん。
[小窓の外に目を遣れば、
鏡の湖の畔、水面と地上に揺れたのは戯れる馬の影か。]
飽きた。
面白くない。
食傷した。
愉しくないと、死ぬ。
[ぐったりと地に身体を伸ばす。
白い頬が細長く丈短い草の葉に押し付けられた。
すんなりとした指は相変わらず湖水に浸され、緩慢に水面を掻き混ぜている。]
[馬車は音もなく舞い降りて、空に停止した。
見えない階段を降りるように馬車から湖畔へと移動する。
気侭に遊んでいた黒鉄の影は、
見慣れぬ影を捕らえ、鼻を鳴らしたようだ]
……黒鉄の魔か。
野良ではないな。主人が近くに居るのか?
[闇馬は答えない。
代わりに、遠くない場所で鏡の湖面が揺れる音がした。]
[音がするほうを見れば横たわる何者か。
白と蒼、ともすればそれは真珠と貴石のようにも見える。
このような森の中に1人、
貴族であろうか。
ウェスペルは不思議そうに少しだけ首を*傾けた。*]
[馬車の影が草原の上に落ちたのに気付いたのか気付かぬのか。
気怠く水面を掻き混ぜる指は止まらない。
一見無防備に草叢にうつ伏せて横たわる、その姿態はあくまで白く艶かしい。
ふと、伏せた面がもたげられ、倦怠を湛えて半眼に閉じられていた瞳を背後へと向けた。]
……。
[湖の畔、水音がふとリズムを変えると
闇色の馬はそちらを向く。
成程、確かにこの魔は主であるらしい。
艶かしい気配を纏ったそれは気だるげな様子で
瞳を薄く開いていく様子で。
――淫魔か。
ウェスペルは眼を細めた。
少しばかり警戒の色を滲ませる。]
……お邪魔をしたかな?
[肩越しに振り返るその瞳は、蠱惑の艶を帯びて濡れていた。
紅い唇が口接けを誘うかのようにうっすらと開いて、]
[くくく、と喉を鳴らして嗤った。]
[濡れたような瞳に、嗤い声。
やはり淫魔。
ぞっとするほどうつくしいが、
それ故に警戒心は高まり、金の瞳の魔は眉を寄せた。]
……何が可笑しい?
邪魔?
邪魔になるほど忙しくなんかない。
丁度暇を持て余していたところさ──
[機嫌の良い猫のように喉を鳴らしながら、ゆっくりを身を起こす。
白い肢体もまた、さながら猫のようにしなやかになめらかに動き。
下肢を開き片膝を立てて草叢の上に座れば、隠すものとてない秘所が全て露わになる……威容を備えた男の徴も、その下にひっそりと息づく女の花弁も。]
[黒衣の魔の警戒心たっぷりの視線も気にならぬらしい。
立てた膝の上、両手を置いて頬を乗せ、唇の両端をうっそりとつり上げた。]
[魅惑を武器とする淫魔に恥じぬ
しなやかな動きは無駄がない。
両の性を持つ様子も微塵も不自然ではなく
寧ろそれこそがその者に相応しいように思えた。
闇馬が鼻を鳴らす。]
……暇か。
無防備な姿を晒しては辺境の地とは言え
危ういのではないかね。
[自信があってのことだろうが、敢えて尋ねる。
腕を組み、笑みを浮かべる魔の様子を伺った。]
危うい……
であれば護っていただけますか?
見たところ貴方は、弱いものを甚振って愉しむような下賎な趣味のない、志の高いお方のようだから。
[芝居じみてあからさまな媚を声に乗せ、愉しげに目を細めた。]
……さて、どうだろうな。
寧ろ其方の様な魔には、
甚振って愉しむ者を引き込む方が得意なのではないかとお見受けするが。
[乗せられた媚もすげなく流すように、
ウェスペルもまた眼を細めた。]
つれないなぁ……
私はお気に召しませんか?
[拗ねた口調で顔を背けるが、艶含んで送る流し目は変わらず愉快そうに煌いているし、唇もかっきりと微笑んでいる。]
[魔の意識と細指とが逸らされて、静寂を取り戻していた水面の闇が揺らいだ。
岸辺より離れた場所にて、音もなく小さな波紋生まれ、緩やかに広がり、薄れて、消えゆく。
それきり、湖は再び鏡と成った。
*影はなく、風もない。*]
生憎と、じゃれ合う趣味はない。
……媚を売る者なら幾らでも居るだろう。
其方なら幾らでも釣れるのではないか。
[言外に、眼の前の淫魔に対し
一定以上の評価をしていることを滲ませる。
が、あいも変わらず警戒はしたまま。
ふと。
再び鏡の湖面が揺らいだのが眼に入ったが、
それは直ぐに消えてしまう。
泡沫のように。]
――……。
[いまは亡き、ヴァイイ伯の居城。
ロネヴェは門前で騎乗の足を止めさせ、首に凭れた。
館に、その主の居る気配は無い。
単に外出しているといった風でも無く、長らく主を持たない空虚さがあった。
門扉のまえに、石版が突き立っていた。
青白い、稲妻のような光で、石版に文字が刻んである。
後継者”候補”とされている者の名だ。
ロネヴェはそれらを眺め、一つずつ確かめ、あくまで優美に唇の両端を*つり上げた。*]
[湖面の漣に気付いておらぬ気に、快活な笑い声を上げて立ち上がる。]
お堅いんですね、貴方は。
網を張って待ち受ける蜘蛛の誘いには乗らぬと思っているのか……
[そこで一度言葉を切り]
……それともうぶなのか。
[そう言って浮かべた笑みは、これまでと全く異なるふてぶてしい男臭い嗤いだった。]
[突然上がった笑い声に
些か面食らったように瞬きを2度。]
……それと分かっていて飛び込むほど
物好きではないのでな。
[続いた言葉には]
……。
[少しばかり憮然とした表情になる。
先程とは全く違った笑みを浮かべる眼の前の魔を見据えた。]
[候補者の名が列記された石版の最上部には、一般に魔王と呼ばれる、悪魔、魔物達の王、名を呼ぶ事も憚られる魔界の王の捺印がある。
これは、勅令。
此処に記してある者共の間で領地を争えという令。
細かなルールなどは無論、存在しない。
殺し、奪う。背き、欺く。]
[草を踏んで、一歩近付く。
腕を組むと、盾のような胸に張り付いた小ぶりな乳房が、薄絹に包まれて一層盛り上がりが強調される。
ふふ、と鼻を鳴らし、低い声で囁いた。]
色事はお好きではないようだな?
取って食いはせぬものを。
[距離を少しばかり縮められたが、
ウェスペルはその場に佇んだまま。
囁きに暫し眼を閉じ、再び開く。]
興味がないだけだ。
……信用ならん。
[媚の乗った笑みを思い起こしてか、
やや低い声で付け加えた。]
[ロネヴェは魔物の背を滑り降りた。
ヴァイイ伯の館の前には、庭が広がっている。
とはいえ木々のひとつも無く、錐のように鋭利な岩が天を指して無数に立つ、荒涼とした庭である。
岩は影を落とし、影は大地に美しい幾何学模様を描いていた。]
……そんな所へ居ないで出てらっしゃい。
[実に愉快そうにまた声を立てて嗤った。]
信用など。
快楽はともに分かち合うもの……貴方がよき弾き手ならば己(おれ)は騙しはせぬよ。
しかし……
どうも貴方はそうではないらしい。
[最後はちくりと揶揄の棘を含んで*見詰めた。*]
[庭へ広がる影のタペストリー、模様の一片が歪む。
岩陰に身を潜めていたものの影が現れ、美しい紋様に無意味な一角を加えた。影の主へ、ロネヴェは語りかける。]
ボティス。
いま、あなたの名前を見たわ。
[ゆったりと腕を組み、悠然とした足取りでロネヴェは影の庭へ。
挑発的な目線を送る。]
可哀想に。今すぐそこへ跪くのなら、慈悲くらいはくれてやっても良いのよ?
[ボティスと呼ばれた悪魔は、翼を広げた。
金属の擦れ合う音が響く。翼は羽毛ではなく刃で出来ていた。
ロネヴェへ見せ付けるように一度、二度、大きく翼を羽ばたかせ、ボティスは飛び去る。]
攻撃の意思表示をするだけなんて、とんだ腰抜け。
[ロネヴェは首の後ろへ手を入れ、髪をかきあげた。
候補者を追うでも無く、庭の散策をはじめる。岩の影々で、他の候補者のものか、使い魔のような小さなものが蠢いていることを感じながら。]
―湖畔にて―
―――……
[僅かに眉を寄せる。]
知ったことか。
好みの弾き手と戯れて居ればよかろう。
[黒衣の裾を翻して、背を向ける。
見えぬ階段に足をかけて馬車へと行く。
扉に手をかける前、肩越しに少しばかり振り帰ったとき、
やはり、うつくしい魔は薄く笑みを浮かべているだろうか。]
――失礼する。
[馬車は再び、空を滑る。
ヴァイイ伯の屋敷の方角へと。]
[過ぎ去る雲を見るともなしに眺めていた。
程なく、規則正しい模様を描く陰が見えてくる。]
ふむ。
[手で硝子の御者に制止を促して、
馬車の扉を開くと風がウェスペルの髪をなぶる。
灯された明かりに毛先が金色に透けた。]
(――既に集まり始めているか)
[見えない階段を降りきれば、聳え立つ屋敷は眼前だ。
石版を見上げると、確かに刻まれた名前。
今度は槍の魔物の名前には動じなかったものの]
……む。
[“ロネヴェ”
それを眼にするなり、何ともいえない表情を浮かべ
眉を寄せた。]
[大きな影が、頭上を過ぎる。
ひとつ、岩の周りを回り屋敷の入り口を伺う。
門前に佇むウェスペルの姿を見付けたロネヴェは、愉しげに縁だ。そっと彼に近付く。]
[大きな影が、頭上を過ぎた。
ひとつ、岩の周りを回り屋敷の入り口を伺う。
門前に佇むウェスペルの姿を見付けたロネヴェは、愉しげに笑んだ。そっと彼に近付く。]
ッ!
[ばっと身を翻し、寸でのところで伸ばされた腕をかわす。
見えた姿は案の定、である。]
……行き成りご挨拶だな。
[至極不機嫌に謂った。]
[ウェスペルを抱き竦めようとした腕は空を切った。
ロネヴェはその手で己の肩を抱く。]
ウェスペル。
親愛のしるしよ。
闇討ちをしようという訳では無いわ?
[ねえ?
そう言って笑いながら、大袈裟に一歩踏み出す。]
……要らん。
不意打ちでは闇討ちと大差ない。
触れるなと何度謂ったら分かるんだ。
[威嚇するが、女の姿をした魔は動じはしないだろう。
ロネヴェが一歩踏み出せば
ウェスペルは後ろに下がる。]
何度言われても、
そういう貴方が、面白いの。
そう言って居るでしょう?
虐められた猫のような姿が、―――。
[肩を抱いていた腕を広げた。]
どうしてそれ程までに触れられることを嫌うのかしらね、
”触れずの君”?
[広げた腕の先、手をしならす。
ウェスペルの退路を断つよう、彼の背後を取り囲む半円の形であがる黒炎。]
―或る屋敷―
[それは、豪邸と呼ぶにはあまりに小さい屋敷。その屋敷の外壁は全て白い大理石に囲まれており、小さな庭と幾本かの木、そして蔦の群れが、たおやかな姿で屋敷に寄り添っている。]
[闇色の世界の中で小さくひっそりと息をしている屋敷の中に入ると――そこは外見の「白」とは異なり、無数の「青」と、「青」を縁取る「黒」と「白」に彩られていた。白い大理石の壁には黒の模様が施され、その隙間を青の宝石が埋め尽くしていた。
純粋な青、鮮やかな青、闇を抱く青、魔界には昇らぬ「太陽」とやらの光を抱く青、土色にくすんだ青――「群青」。]
[壁に無数の青が飾られた一室――ある青は無邪気に、ある青は優しく、またある青は妖しく煌めく部屋――で、かれは前髪をかき上げ、鏡に向かってしかめ面をしていた。]
んんー……何もしてなくても、額にシワが。
すっかりおっさんになっちゃいましたねぇ……
[あはは、と笑うかれの目尻には、くしゃりと笑い皺が寄っていた。]
[泡がひとつ浮かび、弾けた。
鏡面に皹が入ったかの如くに水面が割れる。
岸辺に手がかかり、内より、小柄な身体が現れた。
灰色のブラウスに、胸元の辺りに細いリボンをあしらった白のワンピース。襟元と裾は、黒く縁取られている。他には何もなく、素の脚を晒していた。
しかし髪から衣服まで全てしとどに濡れており、絶え間なく滴が落ちる]
ん、はあ。
[魔自身はそれを気にしたふうもなく、大きく伸びをした]
ッ、
――不愉快だ。
誰が猫だ、失敬な。
[やはり眉を寄せたまま。]
よく飽きないものだな。
……お前には関係のないことだ。
[さて、どう逃れたものかと
黒い炎へと視線だけを向けた。]
―青の屋敷にて―
あー……せっかく領主の地位を争うならば、「セッション」の場に、いつもの服じゃなくて、礼服で向かわねばなりませんかねぇ。アスコットタイがいいでしょうか……
[従者である、細身のオンナ――のカタチをした悪魔――に笑い掛けるジュアン。そして、かれの笑みに呼応するかのように、従者も目を細めて笑った。ふぁさり…とひとつ、背中の羽根が動く。
その従者の右目は、とても綺麗な青い瞳をしていた。]
んー……やっぱり、アスコットタイはやりすぎですね。普段の服装がラフすぎるから。どうでしょう?
[黒のロングタキシードの首元に、いつものインディゴブルーのマフラーという少々奇妙な出で立ちで、ジュアンは従者に振り返る。
無言でちいさく笑う従者の左目のあたりは――黒く、窪んでいた。
そして――それに呼応するかのように、壁に立て掛けられている琵琶の瑠璃色の端が、キロリと光る。]
飽きはしないわ
[眉根を寄せるウェスペルに、歩み寄った。
しかし近寄るのではなく、少し距離を空けてゆっくりと彼の周りを歩く。]
その苦渋に満ちた表情、触れられんとした瞬間に慌てるさま……
もっと怯えさせたくなるばかりよ。ウェスペル。
[彼の視界へ割り込むように]
―青の屋敷にて―
[ジュアンはしばし従者の右目をじっと見つめる。従者の顔に双の掌を寄せ、その親指で左右の目のあたりを優しくなぞる。]
[美しい青を抱く右目。
どすりと重い黒に染まった左目の跡。]
……あなたのきれいな「青」、好きですよ?
[ちいさく笑むと、ジュアンは従者の双の瞼にひとつずつくちづけを落とした。微かに頬を染める従者に、しばしの留守を預けると伝えると――かれは琵琶を手にし、何処へと飛んでいった。]
―屋敷→……―
[不機嫌そうな面持ちで黒衣の魔が立ち去るを見るも、やはり薄い笑みは消えない。
愉しくて堪らぬというように、くつくつと肩を揺する。
馬車に乗り込む刹那、僅かに振り返るその視線に、唇をすぼめて小さく鳴らした。]
[巡るように歩く、妖艶な容姿をした魔へと
警戒も露わに、隙を見せまいと注意を払う。]
……悪趣味だな。
私は、お前の悪趣味を悦ぶような素地は
持ち合わせていない。
悪ふざけも程々にするがいい。
[視線に割り込むようにロネヴェが動く。
それを睨むように見据えるウェスペルの手には
銀の針が編まれるように現れた。]
[ふわふわと空を舞うかれの目は、何処かに面白そうなものが落ちていないかといわんばかりの楽しげな色に染められていた。]
んんー……ざわついてますねぇ。いろいろ。
野心家さんたちの「音」がしますねぇ。
良い声です、良い響きです。
[闇の馬を差し招くと、近付いて来た太い首に腕を回し、夜色の鬣に顔を埋める。
鏡のような湖面が割れ、小さな姿が這い出してきたのをちらり眺め──]
[悪趣味と誹られ、ロネヴェは高らかに笑う]
失礼しちゃう
悪ふざけだなんて
私は本気よ。
[銀の針が、ウェスペルの黒手袋の中で煌めいた。
ウェスペルの視線もまるで針の如く、鋭い。]
おお怖い。
そんなモノで串刺しにされるのは御免ね。
[笑いながら腕を伸ばし
彼に触れるのではなく、宙を舞わせる。
半円を描いていた黒い炎は、二人を囲む真円に]
[緩くかぶりを数度振り、飛沫を散らす。
頬に手を当て曲線に沿って撫ぜると、顔を濡らしていた全ての滴は掌に集まり、吸い込まれた。
闇の黒馬の許に佇む魔へと乾いた顔を向け、首を傾げて濡れた髪を揺らす]
遊び相手に、逃げられてしまったの?
[一定の距離を保ったまま、問いを投げる]
[地上を見下ろすと、鏡のように光る湖があった。]
あっれー……?
こんなところに湖ありましたっけ?
[ふわり、その場所へと舞い降りる。]
[高らかな笑い声に
益々険のある表情を浮かべた。
笑う女と、不機嫌極まりない男、奇妙な図であったろう]
本気なら猶更性質が悪い。
此方は堪ったものではないぞ。
[黒炎が奔る。
囲む炎は逃げ場を無くす。
ち、と短い舌打ち。]
私としてはお前を動けないように
縫いとめてやりたい心地だがな。
[機会を伺うように、じり、と下がる。]
[ふわりと黒い霞のようなものが身体を取り巻いて漂ったかと思うと、薄衣は消え失せ、代わりに深い夜色の光沢帯びたローブが膚を包んでいた。
愛馬の鬣を指で梳りながら、幼い顔立ちの魔を見遣る。]
どうやらそのようだな。
何ならお前が遊んでくれてもいい。
あれれ。僕お邪魔でした?
もしや、おふたりはこれから遊びの予定でも?
[にこりと笑みを浮かべて、ふたりを見つめている。
ひとりは、何度か褥を共にした男。
もうひとりは、──…幼さの影を抱く者。]
そういう所が、
本気で
[小さな舌打ちに深い笑みを浮かべ]
可愛いと、思っているというのに。
どうせなら、貴方の胸元にでも縫いつけて頂戴。ウェスペル。
[笑みながらもロネヴェの意識は、ウェスペルの腕の動きに注がれている。
攻撃に転じる瞬間を見逃さぬように。]
そうしたら、くまなく可愛がってあげる。
[瞬きのうちに衣を変える様子には反応を見せず、誘いとも取れる言葉に、変わらず滴をしたたらせながら、身体の後ろで手を組み、口許に笑みを上らせる]
愉しいのなら、いいよ?
[そう返して、眼差しは外へ向いた]
ああ、ジュアン。
そうしようかなと思っていたんだ。
ジュアンも、遊ぶ?
[ロネヴェは腕を下げた。
距離を取るように下がるウェスペルへ
退路を開くように、炎は割れ、消えた。
加虐的な笑みを浮かべ、ロネヴェは踵を*返した。*]
遊びですか、ニクスさん。
んー。どんな遊びで?
……ものによっては、応じますけれど。
[にこり、と笑うかれの顔は──…どこか気まずそうだった。]
[唐突に宙より降りて来たのは、確かに良く見知った魔で。]
──特にそういう訳でもない。
或いはそうなるかも、といった程度のところだ。
[にこやかな笑顔に、小さく笑い返し、濃艶な流し目を送った。]
ああ…
[背の高い方の魔に向けて、笑みを向ける。]
もしザリチェさんがニクスさんと遊ぶなら、僕は御邪魔いたしませんので。
[目を細め、瞼の合間から青い瞳を覗かせる。]
かわい……ッ…!?
[警戒と怒りに満ちていた表情に、
面食らったような、困惑したような色が差す。]
何を謂うか、怖気が走る。
お前の可愛がる、はろくでもない意味だろうに。
[炎が退路を空けるように消えたのを感じ取ると
警戒は解かないものの、
手にした銀の針を解いて空に消す。]
――本当に、ろくでもない。
[踵を返す女の背をひと睨みすると、
ウェスペルはすいと目を逸らした。]
[傾げた首の角度を深め、どこか違和感のある笑みを浮かべる魔を見た。
一歩二歩と近づいて、ジュアンへと濡れそぼった腕を伸ばす]
なぁに、どうかした?
[無邪気に「遊ぶ?」と問い掛けてくる見知らぬ幼い魔と、何処となく歯切れの悪そうな既知の魔を、交互に見詰めて片眉を上げた。
どうやら両者は知り合いらしい。]
ジュアンの友ならば、三人で遊んでも良いけれど。
んんー……ニクスさん。
[濡れそぼった手を見て、困ったように首を傾げた。]
触れられるのは苦手ではないのですが……ねぇ?
―ヴァイイ伯の屋敷傍―
[悟られぬようにか、小さく溜息をつくと
黒い炎から離れる。
岩陰より覗く使い魔らしき者を睨めば消えていく。
ウェスペルは変わらず不機嫌極まりない様子だ。
案内を仰せつかっているらしい魔に声を掛けると、
大広間は今開放されている、と告げられた。]
――あぁ。
始まるまでは自由にしていい、ということだな。
[喉を潤すものも、
口に出来るものもあるらしい。
――用意のいいことだな、
と口には出さず呟いた。]
友。
友なのかな?
[眼前の魔を円い眼で見上げ、問う。
夜闇の青は子供っぽい輝きを帯びている]
ねえ、と言われても、なんだろう。
それにしても、ジュアン、今日はめかしこんでいるのだね。
[頬に触れかけた指はかれの言葉に止まり、見慣れたインディゴブルーのマフラーに爪先が触れて下りた。
掌に残っていた水が、弾ける]
ん?……ああ、この恰好?
何やら、楽しそうなことが起こるっていう話を聞きまして。普段は一緒に踊ることのなさそうな、高貴な方々との「ダンスパーティ」みたいですよ。
……もしかしたら、ニクスさんやザリチェさんともいずれ「踊る」やもしれません。
ならば、僕もいつものどうでもいい服装ではまずいでしょう?
[インディゴブルーのマフラーの端の位置を直し、恭しく一礼した。]
[マフラーの端についた水滴を右人差し指の腹に乗せ、ふうとそこに息を吐いた。]
そうそう。
もしかしたら「ダンスパーティ」の招待客が誰かを聞けるかもしれませんねぇ。
僕はこれから、ヴァイイ伯のお屋敷にでも行こうと思います。
……おふたりは、どうなさいます?
[にこりと、再び笑みを浮かべる。]
―大広間―
[既に幾つかの影が待機している。
しゃら、と金属音。
それは、ロネヴェがボティスと呼んだ魔であったが、
勿論かれが知る由もない。
壁を背に凭れ掛かると、
“候補者”達の様子を金色の眼が伺いはじめる。
殺し 奪う 背き 欺く
その“舞踏”の相手たちを。]
どうかな……
[蒼い髪をかき上げ、]
別にこちらから行かずとも、用があればいずれ向こうから来てくれるだろうさ。
己は壁の花になるのは嫌いなんだ。
大勢の中のひとりでしかないなんてゾッとする。
それよりも。
もっと愉しいことをしたいな。
このところ寄ってくる奴は、どいつもこいつも大味で、口直しが欲しいと思っていたところだ……
[紅い唇をゆっくりと舐めた。]
ダンスパーティ?
[装飾がかった科白の意味は幼さを有する魔には読み取り辛いらしく、幾度も目をしばたかせ、その度に睫毛に乗った滴が散った。
しかしその「名」が出れば、否が応にも意は介せて、表情が一際明るくなった]
へえ! ジュアンも、なんだ。
それならとても愉しく「踊れ」そうだね。
[かれから離れて、その場で左足を軸にくるりと回る。
飛沫は散らず、霧と化して、大気の中に溶けこんだ。水の中にいたのが嘘のように、白の衣服は乾き切っていた]
愉しい場所なら行きたいけれど、さて、どうしようか。
[ザリチェと呼ばれた魔を窺うように見る]
……そうなんですか。
「美食家」のザリチェさんにしては珍しく……。
大雑把なお味ばかり召し上がっていると、舌が鈍りそうですねぇ。そのうちマヒしちゃうかもしれません。
こんな時は美味しいお水を飲んで、お口直しした方がよさそうですねぇ。
ニクスさんにご用意していただきます?
それとも僕がご用意いたしましょうか。
[目を細め、ザリチェに優しげに語り掛けた。]
そうですねぇ。
[ニクスの顔がぱあっと明るくなるのを見て、まだ幼い子どもを見つめる親のような視線になる。]
僕はワルツは苦手ですけれど。
……なんて。冗談です。
ニクスさんは「ダンス」はお得意ですか?
ならば良かった。僕も楽しく「踊れ」そうです。
ザリチェさんの元にも、お誘いは来ているのでしょう?
誘い……さてね。
少なくともまだ来てはいない。
[興味をなくしたように、スッと目を細めた。
うっすらと笑みを刻んだ唇の、形は変わらずに冷たさが漂う。]
行きたければ行けば良い。
ジュアン。
良い相手に恵まれるように「祈って」いるよ。
そこのお嬢さんも……ニクス、だっけ。
皆で愉しくお遊戯を愉しんでおいで。
ええ、もちろん。
よほどおひとりが好きなのですねぇ…ザリチェさんは。
僕はあまり「ひとり」というものが得意ではありません。
だから騒がしい場所に行きたがる。
[琵琶の瑠璃が、一斉にまたたく。
キロリ、キロリ、キロリ。]
……もし僕と遊んでいただけるなら、是非後ほど。
大勢の前が苦手ならば、ふたりきりでお会いするのも構いませんよ。
シャイなお方も好きですから、僕は。
[ザリチェにくるりと背を向けて、すっとニクスに手を差し出した。]
どうぞ、お嬢様。
ダンスパーティにエスコートいたしましょう。
せっかくおめかししたのですから、少しくらいカッコつけてもおかしくはないでしょう?
[にこりと、笑った。]
嘘ばっかり。
[冗談と口にしたジュアンに、眼を細めて言う魔の面差しには、幼くはあれど無邪気というには、僅かに艶が滲む]
さて、踊りは、どうだろう。
音を奏でるのよりは、ずっと得意ではあるけれど。
[ザリチェの冷たさを孕んだ笑みとは対照的に、拗ねたような色を含ませて]
お嬢さん、じゃあないよ。
お坊ちゃんでもないけれどね。
ザリチェはもっと愉しいことを知っているのか、
それなら、いつかそれも教えて欲しいな。
あは。
それでも、エスコートされるのは悪くはないかな。
[淑女を真似てスカートの裾を摘み、腰を屈めて一礼すると、差し出されたジュアンの手へと、少女の如く細い手を乗せる]
[ひらり、と傍らの闇馬に跨る。
ローブに入った深いスリットから、すんなりした足が覗き、太腿の付け根まで露わになる。
慇懃に馬上から二人に向かって一礼すると、愛馬の横腹を軽く叩く。
合図を受け取った夜色の馬はいなないて、宙へと駆け上っていった。]
[ザリチェに背を向けたまま、小さく首を傾げた。
かれの赤い髪が、うなじをサラリと流れる。
――首のあたりの肌が、ざわりと騒いだ。
――目で「視る」よりも鋭敏に、耳はザリチェの衣擦れの音を察知し――]
ダメですよ、ザリチェさん。
そんな刺激の強い乗馬姿であちこち廻られては。
ニクスさんの「教育」によろしくないです。
それに……つまらぬ者から、要らぬ味を食べさせられることになるやもしれませんから。
[ふっと口元を歪め…]
……呉々も、お気をつけて。
さぁて。
[すうっと目を細め、ニクスに笑いかけた。]
お待たせして申し訳ございません、ニクスさん。
そろそろ「ダンスパーティ」の会場に行きましょうか。
せっかくそんなに可愛らしい恰好をしているニクスさんを、皆さんに見せないのは勿体ないですから。
では僕が手を取る間は、「リトル・レディ」で居てくださいね?
[眼差しだけを天駆ける馬とその主へと向け、晒される白い脚を目にしても、性無き身体ゆえか幼き思考ゆえか、何ら感情の動きを示さない。返らぬ答えをつまらないと思う程度だ]
うん?
今までの退屈していたのに比べたら、ずっと短い時間だよ。
[それでも「遊び」の場に行けるのだと知れば、気は逸る。
先んじて踏み出しかけた足は、触れた手の温もりを感じて止まった。対する幼き魔の手は、水に触れていたためか、冷たいが]
褒めても何も出はしないけれど、
代わりに、ジュアンの言うことを聞くことにしよう。
[悪戯めいた表情に柔らかみを帯びさせ、小首を傾げて深い青を揺らす]
――それでは、連れて行ってくださる?
[下から覗き込むように、*見上げた*]
[夜の馬は黒い矢となって、輝く雲を貫く。
獣の首を抱き、その背に身を預け、自らも空を裂く矢の一部となる。]
……別にシャイな訳でも独りが好きな訳でもないんだが。
[物憂く独りごち、獣の膚に頬を寄せた。]
……ええ、もちろん。
可愛らしい「レディ」をエスコートする役割をお任せいただき、光栄にございます。
[恭しく一礼すると、血色の良い爪を持つ方の親指で、ニクスの冷たい指先をそっとなぞった。]
ですが今日は「エスコート」までですよ。
それ以上の「遊び」は、また今度。
淑女の「色」があなたの瞳に宿ったら、その時にお願いいたしますから。
[屈託のない笑みを浮かべると、ニクスと共に何処かへと*消え去った*]
―ヴァイイ伯邸 広間―
――…。
[葡萄酒色の液体が満たされたグラスを手にする。
すいと飲み干してテーブルへ。
同じ思惑で観察する視線を向けてくるものも居るが
さして意に介さず。
黒いコートはするりとほどけて消える。
天鵞絨のような風合いを持つ燕尾の上着は矢張り黒。
白と黒、薄い素材の手袋は外さず。
長椅子に腰掛けると両の指を絡めて、
脚を組んだ。]
村の設定が変更されました。
なあ、物欲しげに阿呆面晒して死びとの城に群れ集うなどぞっとするよ。
そこに集まる大勢の魔のうちの一体になって、何が愉しかろう。
「ああお前も」と肩を叩いて談笑しながら殺し合うのか。
「誰でも良い」のは大嫌いだ。
[形の良い眉を顰め、吐き捨てるように呟いた。]
己はただ一人(いちにん)、己だけでありたい。
天の下、地の上、地の下に、比べるもの無く己だけで。
[聞き様によっては神や魔王の怒りを買いかねぬ、恐ろしく不遜な呟きを風に流し、目蓋を薄く閉じた。
長々と溜息が、唇から零れた。]
……退屈で死にそうだ。
[その時、疾駆する闇馬に必死で追いすがる小さな使い魔の姿を、視界の隅に認めた。
毛玉に鳥の羽が生えたような姿の使い魔が、懸命に翼をばたつかせてこちらに追いつこうとしている。
愛馬の首を叩き、速度を落とさせると、使い魔と並んで飛翔する形となった。
すると、絶え間なく毛玉の奥から洩れていた叫び声がはっきりと聞こえるようになった。
それは、明瞭にザリチェの名と一続きの文章を繰り返しているのだった。
さっと手を振り呼び寄せると、よたよたと使い魔は羽ばたいて、更に近付いて来た。]
それは、あらゆる手段と形を以って等しく後継者「候補」達に伝達された。
門扉の前の石版、使い魔が運ぶ伝書、覗いた水鏡の中に結ぶ画像、開いた書籍の頁に浮かぶ文字として。
『……故ヴァイイ伯居城大広間の、銅鑼が5度打ち鳴らされるを以って、開始の合図とする。
期限は無期限。
戦闘領域は魔界全土。
闘いは候補者がただ一人となるまで続けられ、
伯の居城にて、見届け人が勝者を確認した時点で終了となる。
見届け人は、偉大なる魔王陛下の命により、公爵バティンが務める。
候補者の名は以下の通り。…… 』
―故・ヴァイイ伯の城にて―
[大広間にたどり着くと、ニクスに微笑み、繋いでいた手をそっと離した。広間に鎮座する銅鑼に近付き、それをじっと見つめる。]
あれー……ヴァイイ伯ってこういう趣味があったんですねぇ。
[ノックするかのように、右手の拳を軽く握り――…]
ごぉん、ごぉん、ごぉん、ごぉん、ごぉん……
[――…拳が5回、空を叩く。]
ああ、やだなあ。ホントに僕が叩いたりしませんってば。そんなことしたら、殺されちゃいます。
[こちらを睨む誰かの使い魔に、ニコリと微笑んだ。]
[こちらを見つめる使い魔――全身が黒い鱗と赤い体液に覆われた、四つ足の獣――の目を、ジュアンはじいっと見つめた。]
[――きれいな、青。
――"purified blue"]
[黒く染まった右手の爪がぴくりと動く。
―――衝動。
―――それを狩り取りたい、衝動。]
あはははは。
子どもじみた真似してすみません。
なんだかんだで、この「パーティ」が楽しみなのかもしれません。
もしかしたら、あなたのご主人も、この「パーティ」の参加者さんですか……?では、ご主人にも、よろしくお伝えください。
ああ、もちろん。あなたとも。
……よろしくお願いしますね。
[ジュアンの口許が、にいっと*歪んだ*]
……
[ロクな者が居ない。
些か退屈そうに、何もない空間より本を取り出しかけたとき、
大広間に新たな顔が現れた。
瑠璃色の琵琶。蒼の瞳。
眼を射るように鮮やかだ。
穏やかな笑みを浮かべたそれは、
戯れに銅鑼を叩く真似をする。]
――……。
[――5つ銅鑼が鳴るときに。
魔は、唇を歪めて笑う。
ウェスペルは、その様子を見るともなしに見ていた。]
[──紅い髪の男が、地の裂け目の傍に佇んでいる。
男の薄い唇には歪んだ笑み。
そして燃える隻眼は彼が居た地の底 ─ 深淵 ─を見詰めていた。]
・・・…
…残念だったな。
私も以前ほどの魔力は無い。だが、お前には…、
ヴァイイ伯を斃した時の傷と…、
私との《契約》が、致命的だったようだ。
[クァルトゥスが愛撫する様に擦れた声で呼んだのは、伯の死を知らせに訪れた銀色の悪魔の名だった。]
─…可哀想に。
お前は「願い」を叶える事が出来ない。
[地の裂け目の下。
クァルトゥスは、既に息絶えた銀色の悪魔を片目で見下ろす。
ぽかりと空いた虚ろな眼窩。
クァルトゥスの左目は失われて無い。
再生が侭ならないのか、敢えて戒めの為に再生せぬのか。]
お前の取り戻したかった「女」は──実は、私から離れる事が出来ない。彼女もまた、私の意志の及ばぬ《呪い》によって、私自身の真の姿と共に封印されている。
彼女を私から引き剥がし、取り戻さんとするならば…──
…かつての私を地下へ封印せし者へ、
お前が反逆した事になる。
敵うはずが無いな…。
[クァルトゥスは、自分自身を含め嘲る様な声を漏らした。]
[クァルトゥスの義手の内側から、軋む様な音がした。
まるで、男の言葉に抗議するかの様に。
──クァルトゥスの義手。
それは無数の血管を束ねた様な有機的な形状で、右腕よりやや長い。
暗赤色の義手からは、常に生命を死に至らしめんとする種の冷気が漏れており、恐らく、その指先が触れたなら、力の無い悪魔は一瞬で凍死するのではないかと思われた。]
私も「彼女」に逢いたいのだよ。
彼女に逢えると云うことは…私本来の姿を取り戻す事を意味している。
[ギシィッ]
[ギシィッ] [ギシィィイッ]
[深淵を見下ろしたまま隻眼を細め、抗議の音を楽しむ様に義手の指先に男はくちづけた。]
渇きの君 ザリチェは、ランダム に希望を変更しました。
―ヴァイイ伯の館・広間―
……使い魔も、随分減ってしまったのではないかね。
[グラスを下げる為か、
やってきた尖り耳の魔に、声を掛けた。
使い魔は首を傾げるも、そうですね、とだけ答える。
この者は亡き伯の使いか、
或いは魔王の命により此処にいるのかは分からない。]
災難なことだ。
[淡々と呟く。
ロネヴェなど嬉々として引き裂きそうなものだと思ったが、
名前を口にした途端背後に沸いて出るような
よく分からない悪寒がしたため、
手で声を遮った。
使い魔は不思議そうに首を傾げた様子である。]
[よたよたと元来た方角へ飛び去る毛玉の使い魔を寸時眺めていたが、愛馬の不満げな軽いいななきを耳にして、優しい手付きで首筋を撫でてやる。
闇の馬はそれを了承の合図と取ったか、勢い良く疾走を再開した。
くすくすと小さな笑い声が風に溶けて消えていく。
細められた蒼い瞳には、依然として解けきれぬ無聊の色が残っていたが、それでも格段に気分は引き立ったようで、口の端は自然笑いを形作る。
乱れた髪の蒼が、夜の黒鉄のなかで花のように流れた。]
[ジュアンの言葉はやはり謎かけのように思えて、夜闇の青を宿した眼をかれの笑みへと向け、「淑女」として表には出すことはなかったが、内心では、「遊び」を断られたらしい事に唇を尖らせていた]
[けれどそれも主亡き城の広間へと入った途端、霧が晴れたように失せる。
「紳士」の手から放たれてしまえば、もう「淑女」の姿はない。
鳴らない銅鑼には視線も向けず、広い室内も狭いというように、軽やかな足取りでくるくると巡る。周囲の目を気にしたふうもない。
やがて夜の黒と血の赤に彩られた絵画の前で立ち止まり、片足を視点に180度方向を変え、館の者と思わしき尖った耳を持つ魔に歩み寄った]
ねえ、ねえ。
「パーティ」はまだなの?
[眼前の候補者に意識を向けていたかれは些か驚いた様子で、伝令の言葉を繰り返す]
それは知っているよ。
それがいつなのかが知りたいんだ。
[手の伸ばして、卓上に置かれた、深い緋を注いだグラスを持ち上げる。二本の指で底を支え、水面を揺らした]
[──その時。
天空よりクァルトゥスの元へ、故ヴァイイ伯の後継者「候補」に彼が選ばれたとの知らせが届いた。
クァルトゥスは感興を動かされた様子も無く、使い魔の言葉に隻眼をゆっくりと瞬かせたのみだった。深淵から一歩遠ざかり、銀色の悪魔へ最後の言葉を紡ぐ。]
「彼女」を取り戻したかったと言う、悪魔らしからぬ想いは理解し難いが。…お前がヴァイイ伯の心臓を、私の元へ運べた事を褒めたたえよう。
私が後継者の椅子を取る事を願ってくれ。
…クックックッ … ──
私が本来の姿を取り戻せば、
私の一部と化したお前も、「彼女」に逢えるだろう。
[幼い姿の魔はどうやら候補者であるらしい。
ふわりと華のように膨らんだ服の裾を揺らしながら
子供がねだるように、
使い魔に質問を繰り返す。
ウェスペルはその様子を見て少しばかり首を傾けた。
さらり、髪が流れる。]
…………その者も、分からないのではないかね。
[それが、頑是無い子供の様な魔に届いたかどうか。]
待つがいい、
そう遠くなく宴は始まるだろう。
[眼差しは嗜めるような声へと向く]
はぁい。
[短く答え、目を伏せてから、パチと開いて輝かせる]
こんなに大きな「遊び」は滅多にないから、楽しみなんだ。
……でも、ここは遊ぶには狭そうだね。
[グラスの細い脚を摘み、自分の背より高くに翳す。
微かな煌めきを抱いた緋色。
傾けると同時に見上げるようにして、真っ直ぐに流れ落ちる液体を、薄く開いた口に受ける。小さく喉を鳴らした]
乾いているし。
……「遊び」、か。
[候補者は何れ劣らぬ力と個性の持ち主であるらしい。
狭そうだ、という言葉にはゆるく頭を振る]
此処はただの開始地点。
其方の謂う「遊び」の舞台は魔界全土に渡る。
[乾いている――と謂った。
成程、この魔は水なり血なり、液体を好む性質だろうか、
と思考する。]
[美しい魔を乗せたまま夜の馬が駆け出したのを見、彼らの遥か背後に空に溶け込むように隠れていた飛魔もまた速度を上げた。
使いを果たした毛玉の使い魔が疲れ切ってばたばた飛び戻るのをやり過ごし、エイのような平たい体を打ち振るって彼らの後を追う。
流れる景色にあわせて目まぐるしく半透明の体表面の色彩が変化する。
瞬かぬ小さな目だけが、彼らを見据えて動かない。]
ありがとう。
[使い魔から紅茶の入ったカップを受け取り、ふぅ…と小さく息を吹き掛けた。白い陶器に青磁の花模様のカップにくちづけ、舌の上に茶の香を――…]
[周囲を見渡すと、見知った顔に見知らぬ顔。ただならぬ空気を持つ者と、そうでない者――…]
……銅鑼の音は、まだですかねぇ。
[椅子に座り、片時も離さぬ瑠璃を小さく爪弾いた。]
[紅い舌が覗き、唇に残る滴を舐め取る]
そう、遊び。
……遊ぶのは、キラい?
[振られる頭、さらりと揺れる髪に興味を抱いて、かれへと歩を進む]
すぐに終わらせても詰まらない、
追い駆けっこも好いかもしれないね。
[金の眼を、下から掬い上げるように見た]
……嫌いとは謂わないが、進んでやるわけでもない。
其方の謂う「遊び」は、
此方では「真剣」やもしれんがな。
[近づいてくる無邪気な魔、
少しばかり警戒し、何時でも立ち上がれるように
組んでいた脚を戻す。]
それもひとつかも知れんな。
[持久戦に持ち込むのも計画として
ありうる、と考える。
低い琵琶の音。
先程の瑠璃色が鮮やかな魔であると、
視界の端で確認した。]
[爪弾くは、平時はあまり好まぬ、キィンと張った高音。
爪の先に軽く弦を掬い上げ、カラカラカラリと華やかな音色を鳴らしはじめた。]
[琵琶の頭部に頬を寄せ、旋律に合わせて、まるで歌うように唇を動かす。]
[空気が、揺れる。ざわめく声が波紋となって広がり、幾つもの鼓動が耳に響く――もしかしたらそれは、この場に居る魔達の高ぶりやもしれぬ――]
[うっすらと開いたジュアンの目は、どこか遠くを見つめていた。]
ごぉん、ごぉん、ごぉん、ごぉん、ごぉん……
銅鑼は誰も打ち鳴らすもののおらぬのに、きっかりと5度打ち鳴らされた。
金属質の低い音は、広間のみならず城のすみずみまで轟き渡る。
そして、その残響の消えぬ間にはや、殺気と邪気が広間に集(つど)った魔の間に高まり……
轟く合図の音は、魔界のあらゆる場所に散らばった「候補者」の悪魔達──と言っても多くは伯の居城とその近辺に居たのだが──の耳にも届いた。
それは、候補に選ばれた悪魔だけに聞こえる音であった。
彼らは時が満ちたことを知り、そして……
[黒影が霧に煙る翡翠色の草地を滑る。
水を含んでしっとりと美しい豊潤な土地に不似合いな─鉄錆色のザラリとした質感の皮が骨に張り付いた襤褸の様な巨大な妖馬が、堅牢な肉体を誇る紅髪の悪魔を乗せて飛んでいた。]
…候補者の中には、知った名もあったな。
麗しからぬ噂だけを聞き及んでいる魔の名も…──
[愛馬の浮いた背骨に指を這わせながら、クァルトゥスは「面白そうだ」と呟いた。
クァルトゥスが戒めに自らを槍で貫く為に潜っていた、あの大地の裂け目は既に遠かった。]
[音は流れる。
高音から低音、そして再び高音へ。]
[目を細めたまま、首を静かに左右に振り、再び琵琶の音色を低い音程(場所)へと導いて――…]
[喉の奥から絞り出すような、細く低い音が響いた刹那――銅鑼の音が五つ。]
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