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[悪趣味と誹られ、ロネヴェは高らかに笑う]
失礼しちゃう
悪ふざけだなんて
私は本気よ。
[銀の針が、ウェスペルの黒手袋の中で煌めいた。
ウェスペルの視線もまるで針の如く、鋭い。]
おお怖い。
そんなモノで串刺しにされるのは御免ね。
[笑いながら腕を伸ばし
彼に触れるのではなく、宙を舞わせる。
半円を描いていた黒い炎は、二人を囲む真円に]
[緩くかぶりを数度振り、飛沫を散らす。
頬に手を当て曲線に沿って撫ぜると、顔を濡らしていた全ての滴は掌に集まり、吸い込まれた。
闇の黒馬の許に佇む魔へと乾いた顔を向け、首を傾げて濡れた髪を揺らす]
遊び相手に、逃げられてしまったの?
[一定の距離を保ったまま、問いを投げる]
[地上を見下ろすと、鏡のように光る湖があった。]
あっれー……?
こんなところに湖ありましたっけ?
[ふわり、その場所へと舞い降りる。]
[高らかな笑い声に
益々険のある表情を浮かべた。
笑う女と、不機嫌極まりない男、奇妙な図であったろう]
本気なら猶更性質が悪い。
此方は堪ったものではないぞ。
[黒炎が奔る。
囲む炎は逃げ場を無くす。
ち、と短い舌打ち。]
私としてはお前を動けないように
縫いとめてやりたい心地だがな。
[機会を伺うように、じり、と下がる。]
[ふわりと黒い霞のようなものが身体を取り巻いて漂ったかと思うと、薄衣は消え失せ、代わりに深い夜色の光沢帯びたローブが膚を包んでいた。
愛馬の鬣を指で梳りながら、幼い顔立ちの魔を見遣る。]
どうやらそのようだな。
何ならお前が遊んでくれてもいい。
あれれ。僕お邪魔でした?
もしや、おふたりはこれから遊びの予定でも?
[にこりと笑みを浮かべて、ふたりを見つめている。
ひとりは、何度か褥を共にした男。
もうひとりは、──…幼さの影を抱く者。]
そういう所が、
本気で
[小さな舌打ちに深い笑みを浮かべ]
可愛いと、思っているというのに。
どうせなら、貴方の胸元にでも縫いつけて頂戴。ウェスペル。
[笑みながらもロネヴェの意識は、ウェスペルの腕の動きに注がれている。
攻撃に転じる瞬間を見逃さぬように。]
そうしたら、くまなく可愛がってあげる。
[瞬きのうちに衣を変える様子には反応を見せず、誘いとも取れる言葉に、変わらず滴をしたたらせながら、身体の後ろで手を組み、口許に笑みを上らせる]
愉しいのなら、いいよ?
[そう返して、眼差しは外へ向いた]
ああ、ジュアン。
そうしようかなと思っていたんだ。
ジュアンも、遊ぶ?
[ロネヴェは腕を下げた。
距離を取るように下がるウェスペルへ
退路を開くように、炎は割れ、消えた。
加虐的な笑みを浮かべ、ロネヴェは踵を*返した。*]
遊びですか、ニクスさん。
んー。どんな遊びで?
……ものによっては、応じますけれど。
[にこり、と笑うかれの顔は──…どこか気まずそうだった。]
[唐突に宙より降りて来たのは、確かに良く見知った魔で。]
──特にそういう訳でもない。
或いはそうなるかも、といった程度のところだ。
[にこやかな笑顔に、小さく笑い返し、濃艶な流し目を送った。]
ああ…
[背の高い方の魔に向けて、笑みを向ける。]
もしザリチェさんがニクスさんと遊ぶなら、僕は御邪魔いたしませんので。
[目を細め、瞼の合間から青い瞳を覗かせる。]
かわい……ッ…!?
[警戒と怒りに満ちていた表情に、
面食らったような、困惑したような色が差す。]
何を謂うか、怖気が走る。
お前の可愛がる、はろくでもない意味だろうに。
[炎が退路を空けるように消えたのを感じ取ると
警戒は解かないものの、
手にした銀の針を解いて空に消す。]
――本当に、ろくでもない。
[踵を返す女の背をひと睨みすると、
ウェスペルはすいと目を逸らした。]
[傾げた首の角度を深め、どこか違和感のある笑みを浮かべる魔を見た。
一歩二歩と近づいて、ジュアンへと濡れそぼった腕を伸ばす]
なぁに、どうかした?
[無邪気に「遊ぶ?」と問い掛けてくる見知らぬ幼い魔と、何処となく歯切れの悪そうな既知の魔を、交互に見詰めて片眉を上げた。
どうやら両者は知り合いらしい。]
ジュアンの友ならば、三人で遊んでも良いけれど。
んんー……ニクスさん。
[濡れそぼった手を見て、困ったように首を傾げた。]
触れられるのは苦手ではないのですが……ねぇ?
―ヴァイイ伯の屋敷傍―
[悟られぬようにか、小さく溜息をつくと
黒い炎から離れる。
岩陰より覗く使い魔らしき者を睨めば消えていく。
ウェスペルは変わらず不機嫌極まりない様子だ。
案内を仰せつかっているらしい魔に声を掛けると、
大広間は今開放されている、と告げられた。]
――あぁ。
始まるまでは自由にしていい、ということだな。
[喉を潤すものも、
口に出来るものもあるらしい。
――用意のいいことだな、
と口には出さず呟いた。]
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