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─回想・昨日夕方─
あはは、健康に気を使わないと…看病してくれる人もいませんしね。
[軽く笑いながら財布を取り出せば、なんと蓮人が全てまとめてお金を払ってくれた。]
えっ、あの、お金を……
[返さないと、そう思い財布を開いたが、蓮人は給料が入ったから、と笑いながら言ってくれた。]
…ありがとうございます、蓮人さん。
[お礼を述べた後、温めた弁当が冷めないうちに帰ろう、と早足にコンビニを出て歩く。]
両親ですか?僕の両親はフランスに住んでますね。ファッションデザイナーをやっていて、世界中を飛び回ってますよ。
忙しいので年に1、2回会えるか会えないか、くらいですね。帰ってくる予定は無いみたいです。
[小さい頃は両親について世界を回っていたが、高校に上がってから、日本で暮らしていた。]
そういえば、蓮人さんはご家族は何人いらっしゃるんですか?
[家族、に関連して尋ねてみた。]
[運が悪い事に携帯の充電がなくなってしまい、その場で啓に返信は出来なかったが内容>>4:+9はしっかり見た。
『俺もです』の一言が妙に印象に残った。
範男曰く本心からそう思っている感じがしたというか、切実に思っている感じがしたというか…なんというかそんな感じがしたらしい。
彼は南荘を目に焼き付けておきその場を後にすると、真っ直ぐ新しい家に帰り携帯を充電器に差す。
そして啓への返信をした。
そうだ、今度皆さんで集まって食事でもしたいですね、とか
そういえば今は○○駅の辺りに住んでいるので、近くにきたらメールしてくださいね〜とか
プラス、軽い世間話を織り混ぜつつ、送信。]
−昼・大家さんに電話で−
はい。そうなんです。
粗大ごみは玄関にって言われたんですけど、一人じゃ運べなくて。
そうしたら引っ越し業者さんが運んでくれるって言うんですよ。ただ、私が出ていった後なんですよね。
だから、はい。はい。そうなんです。
できたら大家さんに、粗大ごみのシールだけ貼ってほしいなって。
あ、もう役所には連絡ずみで、シールも手元にあるんです...
[これまでのお礼を最後に付け加えて、大家さんとの電話を切った]
えっ、あれ?
久しぶり。
[部屋へ戻ると何故か両親がいた。]
いや、仕事が忙しくて…。
[部屋の散らかりっぷりに小言が止まらない。]
あー、で、今日はどうしたの?
[話を変えようと、訪れた理由を尋ねる。]
えっ……!?
[どこで知ったのか、南荘が取り壊されるのに連絡もなにもないから心配して来たと。]
だったら、電話とかでいいじゃん。
[連絡いれたら理由をつけて会おうとしないだろう、なんて言われたら言い返すこともできず。]
まぁ、大丈夫だって。
ちゃんと準備とか自分でするからさ。
もう子供じゃないんだし。
[嘘をついた。]
はぁ!?
何してんの!?
[そう言って絶対やろうとしないだろうから、大家さんには話をして、業者も呼んだ。
なんて言われると、頭が真っ白になって叫ぶ。]
いや、だって…。
私まだここにいたい!
[ほら、まだ子供じゃない。
とにかく今日中にうちに戻って来てもらうから挨拶しておきなさいよ。
問答無用で言い残すと両親は部屋を出て行った。]
―現在・朝―
[帰る気はないけれど、電話くらいはかけてみようかな、と思った。昨日のことだ。
ここ数日、家族の話をするたびに、果たして自分の家族がまだそこにいるのか、自信を持てなかったのだ。
もう、とうの昔にどこか遠い場所へ移動しているかも。
幼い頃はずっと、突拍子もない両親の行動が恐ろしかった。
第一に、やりたいことを、我慢しないこと。
第二に、次の世代に、何も残さないこと。
それが家訓だと豪語する両親に、選択に反対された記憶はない。]
……。
[携帯番号ではなく、固定電話の番号を指で追う。まだ、覚えていた。]
[段ボールだらけの部屋の中、布団を敷きごろんと横になり携帯をいじる。
今日は仕事をする気分じゃないらしい。]
(明日2倍頑張ればいいや〜)
[悪い思考である。
―寝返りをうち、そこではたと気付く。]
(…お夕飯食べてない気がする)
[啓にちゃんとご飯食べますーとか言っておきながら既にこの体たらくである。しかも仕事に夢中になっていたから忘れていた、とかではなく素で忘れていた。…通りで空腹を覚える訳だ。
よっこらせ、と年寄りのように呟きながら体を起こし立ち上がり、冷蔵庫を開けると]
(――――…忘れてた)
[中には梅干しが入っていた。というか、梅干ししか入っていなかった。
先日もこんな事があったのは気のせいではないだろう。いい加減スーパーかどっかで食料調達すべきだな、と内心苦笑いする。
面倒だな、と感じつつも彼は近くの店を目指して部屋から出ていった。携帯は充電器に差しっぱなしで忘れた。]
…どうしよう。
[こうなったら、もうどうにもならないだろう。
今日の引越しは避けられない。
それなら、することは一つで。]
挨拶、行こう。
[南荘の…家族のみんなに。
気持ち良く、明るく、楽しく。
またねって言いに行こう。]
[まずはお世話になった大家さんに。]
本当にありがとうこざいました。
[迷惑をかけっぱなしだった大家さんに頭を下げる。
大家さんがいなければこんな素敵な南荘はなかっただろう。
涙ぐみながらお別れと再会の挨拶をした。]
…そうだったんですか。
[そして、南荘を去ったみんなの事を聞く。
挨拶出来なかった人がたくさんいる。
とても残念だったけれど、きっと、絶対、また会える。
そう思って、せめて今残っている人には挨拶をしようと周り始める。]
−夜・自室−
[窓の外の暗い空を、ただ、ぼーっと眺めている。
右手にはタバコ。左手にはシャンパンのボトル。とっておきのシャンパンで、昨日、舞の部屋で開けようとしてたものだ]
ベル・エポック
[と冠せられたそのシャンパンの名の意味は「古き良き時代」南荘もいよいよ最後に近づいたこの時に、ベル・エポックの味を確かに記憶に留めておこうと思ったのである]
[そして順番に部屋を回る。
蓮人、昌義…。]
私、今日引っ越すことになっちゃった。
[部屋にいれば出来るだけ明るく挨拶をしていく。
そして最後に。]
またね。
[絶対にまた会おう、と。約束して。]
[暫く呼び出し音が鳴った後、電話に出たのは父だった。]
あ、オトン?僕、僕。ううん、別に。
んーでも、僕今住んでるとこ取り壊されることになってな、どっか行くわ。
あ、戻らへん戻らへん。一応、区切りやし電話しとこう思っただけ。
[特に、変わった様子はない。引っ越す予定も暫くはないらしい。]
なあ、そういえば、結局カッパドギアってどこにあんの。
[昔から気になっていた質問をぶつけてみると、父は面倒くさげに答えた。]
『カンボジアのあたりやろ。アジアやアジア』
[へえ、と息をもらす。なんだ、調べていたのか。
暫く黙っていると、父が話し出す。]
『帰りのチケット代だけなくさへんねやったら、大体どこ行ってもなんとかなるわ』
[投げやりな口調のあと、近所の犬散歩させる時間やから、と電話は切られた。]
─現在・南荘─
……後一人、か。
[このアパートに住んでいた住人全員に当てて書いた手紙。
残るは後一枚、大家さんに当てて書く手紙のみだ。]
…んーでも、さすがに徹夜は疲れたなぁ
少し横になろう。
[ダンボールがあちこちに積み上げられ、もう引っ越しの準備も大体が済んでいた。
ベッドに寝転び、ごろごろと転がりながらぼんやりと窓の外を見る。もうこの景色も見るのは後数回か、そう思うとさみしかった。]
−夜・酔い・自室−
[ベル・エポックはペリエ・ジュエという名門メゾンのシャンパン。そのボトルには、かのガラス工芸家、エミール・ガレがデザインしたというアネモネがあしらわれている]
この花がきれいでさ。
[緑の瓶を透かしてみると、見慣れた蛍光灯のシーリングライトが見えるが、どことなく幻想的な気持ちになるのは、酔いのせいなのか]
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