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―回想朝方・自室―
ようやく終わったー…
やろうと思えば案外何とかなるものね
[徹夜で引越し作業を続けて、ついにダンボールと必要最低限の物だけになった部屋を見回す]
これでお別れ…かぁ…
[ここへ来た日を思い出す
あの頃はまだ学生で、右も左も分からない初めての都会、初めての独り暮らしで]
―…あら?
[ふいに、...の頬を一筋の涙が伝う]
あはは、やだなぁ。なんか感傷的になっちゃって…
[苦笑いを浮かべると涙を拭って]
やっぱり最後は笑顔で終わりたいわよね
[そう言うと、化粧ポーチから手鏡を取り出して自分の笑顔を映す]
よし、珈琲でも飲みに行こうかな
さすがにこの歳になると徹夜は堪えるわ…
[欠伸をかみ殺して部屋を出る。昼間のうちはサウスゲートやコンビニなど、この近所を散歩するつもりで]
[彼女が、綺麗な笑顔で笑いかけ、いってきます、そう言った>>41。そこでようやく、言葉の真意に気が付いた。
いってきます。
それがあるならいつか、"ただいま"がある。
またきっと会える、不思議とそう確信に近い思いを抱いて。笑いかける彼女に、こちらも笑顔で返した。]
──いってらっしゃい、お気をつけて。
[家族には、"さようなら"なんて言わないから。
南荘の皆は大事な家族。それならば、"いってらっしゃい"と言うのが普通だな、そう思った。
またいつか、"ただいま"と"おかえり"の言葉が交わせるように。
舞の姿が見えなくなるまで昌義は舞を見送った。]
―昼過ぎ・南荘前―
はい。荷物はこれで全部。よろしくお願いしますね
[荷物を積みに来た業者のトラックを見送る]
さて、この後はどうしようかしら…
[引越しの作業もすべて終え、後は新しい家に向かうだけ
とはいえ、まだ日は高く、今日という時間はまだ残っていた]
―現在・夕方頃―
あー疲れ、てへん。ただいま。
[1階の最奥。いつも帰る場所。
いつもは自分の部屋にたどり着くまでに、各部屋の物音がしたものだけれど、廊下もすっかり静まっていて。]
やっぱさみしいなあ、ここ。
[どうやら本当に、この階に一人になってしまったらしい。漸く実感する。]
……。
[荷物は大方まとめ終わってしまった。上着を羽織って、部屋を出る。]
―引っ越した後―
―…あーあ…
[とうとう新しく契約したアパートの中に家具や段ボールを運び終わってしまった。
範男が移り住んだのは、まぁまぁ新しいどこにでもありそうな普通のアパート。駅からは少しばかり距離があるので、家賃はあまり高くはない。とは言え、南荘よりかは高い。
もう今日からここが、自分の家。
住めば都と言うし、ここに慣れれば楽しく暮らせるかもしれないが。範男の直感が、南荘以上に良いとこなどないと先ほどからずっと叫んでいるのだった。]
帰りたーい…
[ここが自分の家なのだから帰りたい、というのはおかしいのだがついそう溢す。
どこに帰りたいのかは分かりきっている。そう、懐かしの南荘。懐かしいと言っても、まだ引っ越して一日すら経っていないのだが。]
…ちょっと、見に行ってみようかな。
ちょっとだけ。
[ああ、自分は本当に『南荘』という場所が好きだったんだなと思いながら、南荘をちらりと見に行ってみた。]
あ、昌義くんやあ。こんばんはぁ。
[声に反応する。
問いかけには、へにゃりと笑って、]
んーどないしよ。もう一階な、僕しかおらんくて、さみしいからふらっと出てきてんけど、
昌義くんどっかいくん?
――…
[南荘をじっと見上げる。見納めになる"我が家"を決して忘れないように
どれほどの間そうしていたか、不意に名前を呼ばれると声がした方へと視線を向けて]
大家さん…
こんにちは。ええ、今日で引っ越すことになりました
[声をかけてくれた大家に引越しのことを告げる]
大家さんにはいつもお世話になってばかりで…
あ、そうだ。部屋の鍵
[大家に部屋の鍵を返そうとカバンから取り出すも、そこで...の手は止まり]
ごめんなさい。もう少しだけ、持っていてもいいですか?
夕方にはお返ししますので
[もう少しだけ、自分でも未練がましいなと呆れてしまうけれど
今日はもう少し残っているのだから]
[南荘へは現在の自宅からだと電車で一駅。わざわざ電車代をかけてまで行くなんて自分はちょっとアホかもしれないな、と内心少し苦笑いをする。
彼は電車に乗り、暇潰しに携帯を見る。
――新着メール:一件――]
(あれ、全然気付いてなかった)
[最新型の携帯を持っている割にはあまりマメにチェックしない性分なので、メールに気付かない事はしょっちゅうだった。
気付いてもめんどくさいと感じると返さない事すらあるらしい。なんて奴だ。
範男は取り敢えず新着メールを確認した。差出人は―啓。]
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