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大丈夫。
花の種は灰の届かない"地面の下"にあるからね。
[心配そうな様子のスーへ穏やかに告げて、
フード越しに数度頭を撫でた。
ちなみにこの子供に接するような態度は、
相手が壊れてしまう前から変わらないもの]
そう、色。
灰色も私は嫌いではないが。
[スーにつられるように空を見上げた。
青、と聞けば微笑みながら頷いて]
あるよ。
なにしろ色んな色の花を植えたから。
[しゃがんでじっと灰の積もる大地を眺めるが]
………っ?
[ぐらり。
眩暈を覚えて、そのまま倒れそうになる。
地面に手をついて、何とか耐えた。
青ざめた顔はフードに覆われて影を作り、
一瞬だけ顰めた表情も気づかれなかったかもしれず。
そのまま気を落ち着けるように長く息を吐き、
ゆっくりと立ち上がった。
…いずれにせよ、
男には草の芽は見つけることができなかった]
[星《エステル》は愛している。
人が形を喪い色を喪い命を喪い毀れ果てゆく世界でさえも。
星《エステル》にとって形質の変化も全てが終わってしまう事も問題に感じなかった。]
羨ましい限りだよ。
自分にはないからね。
[揺れ動く尾に自然と視線が惹かれながら、種族の差を指摘する。
ヒトには、獣人ほどの身体能力は生み出せない]
買い出しにきたつもりだったんだけれど……色々とあって。
創作は順調、だよ。
周りは静かだし……そろそろキリもいい。
[ふ、とあまり動かない表情、目を細めながらそう返す]
青か。
そうだな、青い花もいい。
[灰色の地面を踏みしめながら、脳裏に思い描くのは、まだこの裏庭が、花々に満ちていた時の風景。
そして、豊かだった森の風景。]
たしか、このあたりに撒いたのは───
ッ、ドワイト!?
[しゃがみ込んでいた友の身体が、不意に揺らいだ。
慌てて、支えようと腕を伸ばす。]
ありがとう。
[友人の伸ばしてくれた腕につかまる。
彼を見上げつつ、申し訳なさそうに笑った]
…はは、ごめん。
少し疲れているみたいだ。
[誤魔化しもきかないだろうから、よろめいたことは認めて。
けれど大したことはないと示す様に、
灰を払って姿勢を正して見せる。
冷汗が背を伝った気がするが、
きちんと笑えているはずだ、きっと]
戻ろうか。
…スーに食事を用意しなくてはね。
[足取りは、ゆっくりと]
さて……公開はいつになることやら。
[先の言葉と反する、どこか意味ありげな言葉を載せて口元を歪める]
風の音や遠くの音までよく聞こえるが……
閉めきってしまえば夜とそう変わらないよ。
[視線を逸らし、どこか遠くを見るように呟く。頬の件を指摘されれば確かめるように頬をなで]
……参ったな、腫れてたか。
そんなに強く張られた覚えはないんだけど。
[誤魔化すことも張られたことを否定することもなかった]
いや。
[気にするなと、緩く首を振って、ドワイトの身体を支える。
彼の歩調に合わせるように、ゆっくりとした足取りで、玄関まで戻って行き]
スー。
すまない、灰を払うのを手伝って、扉を開けてくれないか。
[教会へは、裏道を通って行く事にしました。
右の掌にはまだ、カインさんから頂いた飴玉が残っています。
この飴玉は彼なりの優しさなのでしょう。
それがとても嬉しくて、そして、こんな自分が情けなくなります。
わたしは、今、何ができるのでしょうか。
わたしの歌で元気になれると言ってくれた人がいました。
わたしの歌を聞く為に、店に来ていると言ってくれた人がいました。
そう言ってくれた人はもう皆、居なくなってしまいました。
わたしの歌も、なくなってしまいました。
歌の無いわたしは、一体何の為に生きればいいのでしょう。
そっと、包帯に覆われた左の頬に触れます。
がざり、と、布の向こうで崩れた音がしたのは、きっと気のせいでしょう。
まだ、病はそこまで進行していない筈です。]
[裏道を通って行けば、開けた場所に出ます。
教会から少し離れた場所にある、共同墓地です。
数年前まではこんなに広く無かった筈なのですが、亡くなる人の数が増えるにつれ、どんどんと墓地は広くなっていきました。
墓石だって、今や灰に浸食されて、形を留めているものの方が少なくなっています。
導はなくとも、何度か通った場所ですので、何処に誰が眠っているかもわかっています。
わたしはひとつの前で足を止めました。]
………
[崩れかけた墓石には、かろうじて読みとれる程の文字が刻まれています。
マスターの、奥様のお墓です。
奥様も数年前に、灰の病に倒れ、亡くなりました。]
[マスターもこの場所で眠る事ができればいいのですが、墓守のいない墓地に積もった灰は相当なものです。
この場所の掃除をして、土を掘って。
マスターの亡骸を此処まで運び、埋めて。
路地裏に、家を無くした人達の亡骸が転がっていた理由も頷けました。
埋葬とは、手間のかかることなのです。
最も、その亡骸を全て埋め、供養するように走り回っていたのはドワイトさんなのですが。
それを思うと、これ以上ドワイトさんの手を煩わせるのは、あまり良い様には思えませんでした。
けれど、頼る先が無いことも確かなのです。
溜息を吐くと、ケープの胸元に引っかかっていた灰がふわりと舞いました。]
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