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―思い出の公園―
[テレーズが公園の匂いを懐かしむ。自分も、いきをすいこんで。その空気を感じる。]
ああ。ここは変わんねえな……
[片隅の小さいベンチ。そこに、彼女が座れば。昔、そこで本を読んでいた彼女と姿がダブって見えたような気がして。目頭が熱くなる。]
……そう。ここで、嬢は本を読んでたんだ。そンで、俺は……結構。無神経だったンだよなあ。あん時。
[な?と、相槌を求める。そう、それが、出会いだった。]**
― 果樹園 ―
[深夜。シュカは自分の家、そして果樹園に戻ってきていた。
そこには当然誰もいない。住んでいた家族は、自分の手で殺し、食らってしまったのだから。
戻る場所は、もうない。]
……ただいま。
[寂しさが支配する玄関を、くぐる。迎える声は聞こえない。
シュカは家の中を探し、使えるものを探した。
――家族を弔うために。]
[家族の亡骸は、騒動の1日目に、果樹園の土の中に埋めた。
その時は、殺した証拠を消すために。
シュカは、家族3人が眠る場所に、石や木の枝や家族の思い出の品などでつくった、歪だけど祈りのこもった墓を立てた。
そして、その周りに、たくさんの、たくさんの、花の種を植える。]
殺してしまって、ごめんなさい。
どうか、安らかに。
[殺した張本人が、墓の前で手を合わせる。
そして、冥福を――あの世で幸せに暮らしてくれることを、祈る。
シュカは、ふいに寂しくなった。
いつもいつも、小さい頃から同じ屋根の下で一緒に寝ていた家族。
もう永遠に、同じ場所で眠ることはない。
自分はもう家族の一員でもなんでもないのだ。
シュカは自分の家と果樹園に、別れを告げる。]
―公園―
[テレーズに連れられ、二人の思い出だ、という公園へとやって来る。]
……ふーん、ここが。
[平凡な返事を返す。が、実のところ、あまりにも二人が嬉しそうに話すので、ほんの少し、二人が羨ましくなったのだ。
そうして、僕は二人から語られる思い出を、聞き始める。**]
[出て行く際、思い出の庭を見回す。
庭に放置されていた籠に、林檎が残っているのに気付く。
数日前。村のみんなに配って、空にしたはずなのに。
父親が、殺される前にいつの間にか補充していたのだろうか。
シュカはそこから林檎をひとつ取る。
そして、齧り付く。瑞々しい果汁が溢れた。]
……おいしい……。
[馴染み深い味。いつも近くにあった、忘れられない味。
寂しさの支配する夜空の下、シュカはそれを夢中で食べた。]
明日も、明後日も、その後も。
この村はずっとずっと、ずっと平和。
明日も、退屈な学校に行って、友達と日が暮れるまで遊んで、美味しいごはんを食べて、寝るんだ。
いつもと変わらない、楽しい毎日の繰り返し。
いつまでも、ずっと……。
[いつか、シュカが自分に言い聞かせるように呟いた、その言葉。]
……いつまでも……ずっと……。
[願いは届かなかった。
日常は、もはや手の届かないところへ。
私が本当に望んでいたものは、なんだったんだろう。
林檎を食べ終わると、その芯を地面に埋めた。]
[夜空を、見上げる。
月が誇り高く輝いていた。
――今は、人狼の力が目覚める闇の時間帯。
月を見ていると、どこまでも高く、高く、吸い込まれるような感覚を覚える。
不可能なんてないと、思わせてくれる。]
生まれた時から狼だったメイちゃんは、あたしのこと、ダメなヤツだって思ってるのかもしれない。
でも、あたしはそれでも良かった。
……こんな形だけど、友達になれて、嬉しかったんだよ。
もし願いが叶うなら、また来世で出会って、一緒に遊ぼう。
[シュカは、駆けた。人狼の足で駆け回った。
そして、村の中で一番高い――誰かさんの屋敷の屋根に向かって、登る。
夜の闇に祝福された人狼の身体能力は、極めて高い。
跳躍し、壁を蹴り、登る。
どこまでもどこまでも、恐ろしい速度で駆け上がる。]
[およそ25メートルぐらいの高さを駆け上がり、屋根の上に到達する。
そこからは村の全てが見渡せる。
村の中央にある広場、そこを取り囲む商店の数々、学校と裏手の森、川に山に、全部が見える。
ここが、私の住んでいた村。
――大好きな、村。]
[夜風が、シュカの髪を撫でる。
空を見上げると、先程と変わらぬ月が、そこに。
手を伸ばせば触れられると錯覚する。
だけどそこには届かない。
生者には届かない世界。
シュカは、夜明けと共に、そこに向かう。
夜が彩る美しい景色を眺めながら――時を待った。]**
元気娘 シュカは遅延メモを貼りました。
元気娘 シュカは遅延メモを貼りました。
元気娘 シュカは遅延メモを貼りました。
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