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[だから、花水木の少女は知らない。
世界で起きている異変。
異変そのものである無口な少女。
食事を作って待ってくれていると思っていた
海の少女の異変。
飛び立つ渡り鳥のその姿知らず、
ただ、握りこむ右手だけが冷えていく*]
私……諦めないことにした。
[理解することを。
この張り付いた笑顔を崩すことを。
言外に滲ませたその意味は、星売りに届くだろうか。]
君が望むなら一緒に考える。
だからちょっとは君も、分かりやすくなる努力をしてくれよ。
[やがて、全てがユメの境界を越えたなら]
――……。
[両手を掲げた姿勢のまま。
灰色の睫毛が震える。
瞳を開こうとして、だけど瞼が上がらず。
翼がはたりと砂の上に落ちた。
足の指がぎゅ、と大地を踏み締める。
両手を痩せた胸に当て]
――ごめん、ね。
じかんが。
たぶん、もう、すくなかった、から。
[道化師に、詫びる。
本来ならこんな場面を、見せるべきではなかったのだ]
……ばか。
君を心配して、笑いに来たんだ。
[聞きようによっては酷い言葉にも聞こえるだろう。
腰を落として星売りと視線を合わせる。
張り付いた無表情の仮面で隠そうとする
その裏、彼女が隠すものを暴くとでも言うように]
―――どうしたの?
[青葉が、緑の眼に宿る光をじっと*覗きこんだ*]
太陽の子 ミズキが「時間を進める」を選択しました。
[仮面の裏はどんな様子をしていただろう。
片手で目をこすり、無理矢理瞼を押し上げる]
みんなには。
まだ、ないしょ……。
できるだけ。
じぶんで、こころをきめたこからに……したい、から。
……ごめんね。
[主を失った家を見る。
用意してくれた寒天、今は食べられそうにない。
それに。
勝手に連れて行ってしまった事を
岬守だった彼女が許してくれるかも、分からなかったから――*]
[カーテンで仕切られたベッドの上。
意識の端で聞こえた声に、無事2人が目覚めた事を知る。
ローザは連れてきたというよりも、
世界が彼の存在を弾いてしまうのを追いかけて。
ちゃんと現実に戻れるように意識の端を掴まえていただけだから。
彼には自分が一緒にいた感覚はないかもしれない。
安堵と共に。
浅い呼吸を繰り返しながら。
起き上がる事もなく再び意識を混濁*させた*]
どうした……も、こうしたも……
……僕が言うことでもない。
[驚かれた本人からは、そうですよね。]
[驚いたこと、ミズキ本人にたずねられて。
かと言って、
自分がカスミがミズキを探していたことを
カスミ本人がいるのに差し置いて、言うべきではないと。
ただ、指が頬をかこうとして、
仮面の表面をひっかいたのは
ミズキにも先ほどのカスミのように
涙の名残が残っていたから。]
[ミズキがカスミを見る視線に
かるく、鳴らない鐘がついた杖を握った。
先日、ミズキがカスミに対した態度を思い出した
が。]
[ミズキがカスミにかける言葉に安堵する。
なれば己は不要化と、
ミズキがカスミを覗き込んだあたりで
風に揺れる草に姿をまぎれさせて]
[そして、こちらで目を覚ます。
すぐに身を起こして……人の気配はある]
シャルロッテ先生、ハルの……遥さんの
資料借ります。
[家族構成や、きっかけが事故らしきことは知っていたが
それ以上の詳細を暗記まではできなくて。
シャルロッテの返事を待たずに
遥の資料を引っ張り出しめくる。]
…………かぁくん、 彼方……?
こいつ……かな……
−***−
『岬守(みさきもり)のお邸には、
幽霊が住んでるんだって』
[海の傍に建つ古めかしい大きな洋館のその二階。
海から見える、大きな硝子の窓のあたり。
時折白い着物を着た幽霊が、海を眺めているという。
そんな、子供たちの噂話。
それが廃れてしまって、数年。
岬守の大邸、家に人の出入りはあれど
幽霊のことについて口を開くものは誰もいない。
今も、昔も、恐らくこの先も]
[ガラス張りの海の向こうを眺められるのは
幽霊にとっては体の調子の良い時だけ。
天気が悪い日も、眺められない。
硝子の向こうに広がる浜で遊ぶ子供たち。
休みの日にやってくる、恋人同士や家族連れ。
ただただ、その姿を遠巻きに眺める。
それが、邸に住んでいた頃の小さな楽しみだった。
少女の住む箱庭から、外へと繋がる二つの手がかりの、一つ]
[もう一つの手がかりは、与えられる本だった。
外を眺められない日も、ずっと読んでいた。
請うままに、与えられた本は種別を問わない。
辞書であったり、図鑑であったり、美術書だったり。
時には国籍すら本は超越して少女のもとを訪れた。
全て、それらは幽霊の住んでいた部屋に置き去りのまま]
[病院は、少女にとってはこの延長線だった。
車に乗せられて、訪れる場所。
硝子の向こうに見える世界。
触れることの、出来ない世界。
生まれて、死ぬまで、触れられることのない、世界]
[いつからだったか、覚えてはいない。
夢を見るようになった。
夢の中の自分は、海に入ることが出来た。
砂浜を歩いて、流れ着くものを拾い
調理も、裁縫も、走ることも、何でも出来た。
幽霊の自分とは、違った。
外に出ることは勿論、したいことも出来ない。
すぐに寝込むようなこともない。
動物に触れても、体がおかしくなることもない]
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