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[花畑を出て、しばし後。
さほど歩いてはいないのに、頭上にはもう星空が広がっていた。
ちかり、ちかり。
瞬く星が、いっせいに尾を引いて動き始める。
視界に映る星が全部流れ星になったのか――いや、それにしては遅い、ような]
…………。
[この現象を説明できる言葉を少女は持っている。
持っているけれどここは夢の中。言葉は隠れて頭に浮かばない。
花水木の少女といると、月という言葉までも隠れてしまうように。
道化師たちが仮面に顔を隠すように。
あるいは花畑の少女が、周囲から夜を遠ざけてしまうように。
隠して遠ざけてしまいたいものが、少女にもある]
……にせものの星空、みたい。
[呟き、そして――思い出す。
その「にせものの星空」は、一夜の星の動きを説明するためのものだから、]
夜が――明けちゃう。
[時間の流れが早いのだ。
そのことに気付いても、しかし少女にはどうしようもなく]
[シャルロッテに軽く小突かれれば
くすくすと笑いながら、
寝ぼけた声で痛がって。]
ともかく、料理、すごいよ……
先生も、習った……ら?
多分、理系……
[そう呟いた声を最後に
ダハールの寝台からは規則正しい寝息。
静かに、あちらで目覚めた]
[足は水辺へと向いていた。
分かれ道で、立ち止まる]
――……。
[片方は水の流れのままに海へ通じる。
そして、もう片方は常夜の領域]
あはは、キミに不覚を取ってしまったからねぇ。
その伸びているだろうピノキオさんの鼻を折ってあげないと、狩りに邪魔だろう?
そう思って秘密の特訓をしていたのさ。
[『たくましくなっただろう?』とボロをひらひらさせて素足を見せるが、勿論なんの変わりもない、青白い脚。
どこまでもちがう彼女と仮面の脚。
この脚が山野を奏ね駆け抜ける]
[何か納得したような言葉を漏らすダハールに、少女は特に興味を示さない。
にこにこと笑顔を向けるだけ。
ずっと綺麗な桜を咲かせてくれる木の根元に座って、少女はご機嫌で花吹雪を見上げる]
うん。いいお天気で、本当にお花見日和だねえ。
お花もとってもきれいだし。
あっ、そうだ!
ハル、リヴリアちゃんに花冠作ってあげるんだった!
[ぽんと手を打つと、桜の木にもたれて、少女はレンゲを編み始める。
舞い散る桜の花びらもいくつか混じったかもしれない]
ダハールちゃんも、花冠、ほしいー?
[彼女の胸の内はわからない。
わからないからだろう、仮面はその一歩をすっと進めて、彼女の鼻を微かに触る。]
んー思ったほど長くなっていないね。
? ふふ……かわいい子だろう? ローザというんだよ。
今は親睦を深めて清く正しい文通から始めようと交渉ちゅうさ、
苛めるだなんて人聞きの悪いことを言うねぇ。
愛でてるんじゃないか。
んー? さては妬いてくれてるのかい?
眩しいキミに妬いて貰えるなんて嬉しいねぇ。
かわいいねぁ。よしよしキミも愛でてあげよう。
[嗤いながら撫でようと髪に手を伸ばすだろう。
その思いを戯れ言の中に隠す仮面。
彼女の胸の内がわかっていたら、もっとおちょくっていたかもしれない。
微かな異変に気付かぬふりをして
変わらぬ様を見せつける。]
…っ!
[出し抜けに名前を呼ばれて、そちらを向く。
眠そうな瞳に、暖かそうな白い翼]
渡り鳥、さん……。
[少女の頭上、想定は外れ、夜は、明けない。
星たちはいつの間にか最初の位置に戻って、夜空に軌跡を描く。
にせものの星空を映す機械が壊れて、
投影を延々と繰り返しているかのよう]
――こんばんは。
[挨拶の言葉は自然、夜のものになった]
おほしさま、たびをしてるの?
[見慣れぬ光景を見上げて、問うた。
これは星売りの世界、だから。
きっと星売りが知っていると。
そう、思ったらしい]
カスミは。
おほしさま、さがし?
[こてんと首を傾げ、星売りの傍へと歩いていく]
……花ってすごいよなぁ……
そこに、咲いているだけで いいんだから……
[楽しんでいると頷くハルに
改めて桜と花畑を見やる。]
へぇ……リヴリアに、か……
折角ハルが作ってくれるんだから、
似合う服を着ればいいのにな
[ここで、彼女の名を口にすることは少ない。
本人には言わない。彼女の性格上
否定してくるなんてわかりきってるから。
だから、他の少女に彼女のことを
尋ねたりするときぐらい。
今の、道化師の彼女に花冠。
昔……豪奢なドレスではなく
動きやすいからって、木綿のワンピースを着ていた
そのときならよく似合ってただろうな、と思いつ
にこにこ笑いながら器用に編み上げる少女を
穏やかに笑いながら見る。が]
へ?……や、僕はいいよ。
似合うわけないしさ
……花だって、ハルや他の少女のように
似合う子にかぶってもらった方がいいだろう?
キミは“妬く”のが上手いけれど
潮騒の子は“焼く”のが上手いからねぇ。
あはは、焦がしてしまうのかい?
ボクは残念ながらそちらの方は“役”には立たないからね。
それで、キミを嗤ってあげられないのが残念でならないよ。
そうだねぇ焦がすのならお魚じゃなくて、心を焦がしてあげればいい。
ローザ、この子は眩しい子だけれど、太陽を見て目がいたくなるようなことはないからね。
見て、遊んで、焦がして貰うといい。
肌と心を
[戯れ言に戯れ言を混ぜても戯れ言
けれど、本当の中に嘘があるように嘘の中にも本当はあるのかもしれない。]
[見せられる脚はむしろ不健康そうに細くて、
この脚が何故あんなに速く走るのか未だに不思議だ。
翼の生えた人間がいる世界で、
そんなものは今更の問だとわかっていても]
失礼な、鼻なんか伸びてないぞ?
なんったって私の実力だからな。
でもリヴリアが特訓頑張ってくれるなら、
私もまた受けてやっても………っ、 …ちょっと!
[青白くとも、未だそこに脚があることに
かすかに安堵して気を緩ませた隙を狙われた。
鼻に触れた手をぺいっと払うが、
頭に手が伸びてくれば避けようとしても触れられて]
長くなるわけがないだろう!
妬いてないってば……話せこのペテン師!
[気恥ずかしさで逃げ出したい……どころか、
心配したことを損した までの気分である。]
ダハールちゃんは。
"そこにいるだけ"じゃだめなの?
[せっせとレンゲを編みながらも、ダハールの言葉を耳に入れ、少女は首を傾げる]
ハルだって、ここにいるだけ、だよう?
[そして、それだけが、少女の望み]
リヴリアちゃんの、お洋服?
ああ、リヴリアちゃん、今日はちょっとくたびれた格好だったねえ。
[リヴリアの服装については、のんびりとそう返した。
7年前から続く今日の話。
これからもずっと終わらない今日の話]
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