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そしてね、ハル。
貴女は忘れてしまったのかもしれないけれど。
私はお礼も言っていないし、謝ってもいないんだよ。
貴女が思い出したなら、謝らせてね。
貴女が夏を超えて秋を駆け抜け、冬へたどり着けるのなら
お礼を言わせて?
[子守歌のように呟いて、それから彼女が起きるまでの間、ただぼんやりと進まぬ時を眺めて過ごす。
彼女が起きた頃には仮面も元通り。
しゃらりと鈴を響かせてその場を辞すだろう]
ハルの子の花冠を楽しみにしているよ。
ボクに似合う冠を作ってくれよ。
ふふ……冠かぁ
花の国の王女様になれるのかな?
その時は、ボクもハナの子に何かをあげれたらいいのだけれどね。
[そして北風はゆらりと花畑から姿を消した]*
[本体である固体と意識を切り離し、
少女たちと同じようにずっと眠ったままにして
仮想世界の器のままこちらに戻ってきている
・・・とは別に、向こうの世界と接触が可能な少女が顔を出す。]
はい、了解しました。
サポートが必要ならいくらでも呼んでください。
[ヴェルについて、カルテの文字を目で追う。
聞かれていた内容に鳥少女の意見を聞き
あごの辺りに手をもっていって考えだす。]
やはり、彼女は彼女の願望でとどまっているのでしょうか
−海岸線の家−
…どうかな、筏なら丸太とか竹とか組んだらできそうだけど
[冗談めかした声に肩を小さく竦めてみせるだけ。
籠の中を覗きこまれても止める気配はない。
けれど、上がった声にちらりと少女の見る先へ向ける視線]
そんなに難しいものを作ってるわけじゃないから
頼むなんて大仰すぎるよ。
こっちはお肉みたいだけど、何の───わお。
[魔法のようにとにかく置くから奥から出てくる食材
肉やブラックベリーまではよかったが
流石に出てきたまるまるとしたパイナップルの存在に目は丸い。
南国の果物の出会いは少女の口元をほころばせる]
抜群だと思う。ブラックベリーはジャムにすればいいんだね。
じゃあ、クランベリーが手に入ったらそれも欲しいなあ。
[懐中時計を見遣って去っていく少女、
こちらもまたその背をのんびりと見送るばかり。
遠くなった背中を見送り、籠と戦利品は家の中。
暫くすれば、芳ばしく焼ける肉の匂い。
その余熱、傍らでブラックベリーを煮詰める鍋が一つ。
以前貰ったレモンで作った蜂蜜漬けを刻んで加えたところで
少女に伝え忘れたことをふと思い出す]
クランベリーって、収穫するの
凄く大変なんじゃなかったっけ…。
[クランベリーは冬の低湿地帯に実る。
畑で纏めて収穫するならば、水を畑一杯に引く。
完全に木を水没させて揺らし、浮き上がったものを掬い上げる]
…ま、流石に畑はないよね。
[溺れる無数の真っ赤なクランベリー。
小さく身震い一つ、息を吐き出して鍋を掻き混ぜる手は続く]
[焼けた肉は大きな木の葉に包んで鍋の中。
火の消えた場所、残るうずみの熱で果物を煮る。
ココナツとパインは翌日に回したらしい。
やがて、星が一回り巡る朝には
早くからパンを捏ねる音と、オーブンで焼ける匂い。
海から吹く風に乗って、それは丘を抜けて気の向くまま]
[真実は、時に酷く残酷で。
本当のことは、少女を傷つける。
だから少女は、暖かく優しいお花畑に縋る。
季節の過ぎることのないお花畑で笑っている。
それが偽物でも、かまわない。
そうすれば、少女は傷つかない。
そうすれば、少女は幸せでいられる。
時を止めて、前に進まず。
いつまでもいつまでも、10歳の春のまま]
[お昼寝から目覚めたら、リヴリアは立ち去る様子。
少女は、立ち去る人を引き止めない。
いつもにこにこと見送るのだ。
そうしているうち、来なくなった人もいるのかもしれないけれど、少女はそんなことは覚えていない]
リヴリアちゃんにはレンゲの花が良く似合うかなあ。
うんっ。楽しみにしててねえ?
お裾分けなんて、気にしなくていいよう。
[やっぱりにこにことそう言って、手を振って見送るのだった]
[漂ってくる香りにゆるゆると瞼を開く。
小鳥はみずみずしいものが好きだ。
良い匂いだというのは判別はできるけれども。
昨日は山は秋だった。
今日は――ふるりと頭を振る。
柔らかな春の陽射しが少し向こうに広がっている。
目をこすり、気持ち良さそうな空気につられて。
渡り鳥は花畑の隅っこで立ち止まった]
はる。
― 陸の中腹 夜→ ―
[少女が夜を望めば夜に。
世界は少女の意のままに変わる。
その中で、道化師はゆるく頭を振った。]
………まぁ、いいか。
[適当な木陰に腰掛けて瞳を閉じる。
仮面をつけたまま。
端からはただ座しているようにみえるだろうけど]
――……。
[微かな残り香は北風か。
しかし何処までも花畑は春めいている。
きっと寒風に花がしおれる事などないのだろうと思う。
ちくりと何かが痛む。
寒さから逃げて、逃げて、そして他所の季節を渡り歩く。
自分の領域を持たず、他人の領域を侵す罪悪感。
それでも春は甘く生き物を誘うのだ]
― 水辺 ―
[あまり、穏やかな眠りとは言えなかった。
得体の知れない何かが、夢の中で少女を追い立てている。
掌から「星」の入った包み紙が零れ落ち、草の上に着地して湿った音を立てた]
……… っ、
[少女は「星」を拾わない。
空へ向けて僅かに右手が持ち上がる]
ん……
[シャルロッテ医師をはじめ
介入者の声が聞こえる。
………目覚め、だ。
ごく普通に、朝を迎えるように、
現実の世界へと戻る。
外見がどうとか、この世界の仕組みがどうとか。
寝ぼけながら頭に手をやった。
現実よりは幼いが
現実でもそれほど性差が出ていない外見。]
……もう、お二人とも、
ヴェルのことはご存知なんですね。
[聞こえていた話からそう判断して口にする。]
― 夢の中 ―
[暗い世界を照らす、ひとすじの光。
見上げる余裕はない。でも、上から来ていることは分かったから。
その穏やかで柔らかな光に向けて、
手を、伸ばした―――]
−つぎのあさ−
[朝から、潮風に混じって小麦の焼ける匂い。
解体されたココナッツとパインの調理もすすんでいるらしい。
パイナップルの芯はジャムに。
実はパンに刻んでくわえたり、一部はパンを焼く酵母の種。
ココナッツも既にミルクと果肉に分けられていて]
…誰か、ちょっと食べに着てくれたらいいのに。
[出来上がるだろう食事の量に溜息一つ。
最早一人分の食事量ではなかった。
それでも手は動き、ココナツミルクに足すのは
残り少なくなってきた天草を幾らかばかり。
溜息一つとともに、焦げ付かないように鍋を揺すり
消えていけば火から下ろしてゆっくり冷ます]
[と、弾かれたように身を起こし、]
………暗い。
[ぼんやりと光る右腕の星を見て、
星がいくつもいくつも瞬く頭上を見上げ、
それでも暗さには慣れず、辺りを見回して誰かが倒れている?ことには気付くも、]
だあれ? だいじょうぶ?
[その正体までは分からず。
おもむろに立ち上がると、目をこすりながら「誰か」に近付いた]
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