「それで今日は逃げないの？」
　水晶球も出さずにどっかり座ったままのロックに聞くと、ロックは「事情が変わった」と頬杖をついてため息ひとつ。ほえ？と首を傾げる双海子さんをちろっと睨むとまたため息。

「なんだよーぅ」
「お前さ、今朝この夢のこと覚えてたろ」
「ばっちり」

「はーーーーーーーぁ…」

　三度目にでた盛大なため息に双海子さんびっくり。事情ってつまりこれのこと？

「おかげで色々大騒動だ。もう少ししたらタックも来るだろ」
「いえもういます」
「出待ちかよ！」

　ロックがツッコミをいれた方へと見上げれば、大きな折り鶴に乗ったタックがふわりと降りてきた。

「こんばんは双海子さん。改めまして、チック＝タック・タックといいます」
「ええと、はい、こんばんは。私がこの夢のこと覚えてるのが問題？」
「ええそうですねえ」

　タックがいうにはどうも、元々素養のあった双海子さんがエトラ・ドリナの住人であるタックやロックと明晰夢で接したことから潜在的な夢術士になってしまったらしくて、双海子さんを通じてエトラ・ドリナの力がリルラ・カリムへと流れ出てしまっているとのこと。

「そういえばごくナチュラルにアイスロッドでブリザド使ったりとかなんか」
「おかげでエトラ・ドリナに住む幻獣どもがリルラ・カリムに逃げ出したりしてんだよ」
「え………」

　つまりそれって。

「あの○モンズウォールってそうだったのーーーーーーーーっ？！」

　なんというコジツケ。なんという事態。なんというびっくり仰天新事実。

「それってつまり、つまりそれって」
「てわけでまずは落ち着いて聞いてくれ」

「盟譜学園には怪盗がいなかったんじゃなくって私が夢の力で怪盗少女に華麗に変身！ってことだったのね」
「夢見てねーで落ち着いて聞けよ！」
「ここ夢なんだから夢くらい見たっていいじゃない！」
「うまいこといったつもりか！」

「だってほらこれで『夢怪盗 ドリーミィ☆スター』なんてタイトルでＴＶアニメ化しちゃったりなんかしちゃったりして」
「お前そっち方面のネーミングセンスねーぞやめとけ！」

「話を進めましょう」
　進めましょう。タックがいうには○モンズウォールだけでなくエトラ・ドリナの幻獣がすでに多数リルラ・カリムへと現出してしまっているとのことで、なんとかリルラ・カリムへの道は閉ざしたものの現出してしまった幻獣達を捕まえて回収してこなくてはいけないわけで。

「つまり私が夢の力で変身して幻獣を」
「変身はしなくていいが思っているとおりでいいぞ」
　すでに双海子さんへのツッコミの力がなくなっているロックにタックが頷いて。
「お手数ですが、ご協力をお願いします。僕達もフォローしますから」
「フォロー？」
「乗っ取るとかじゃなくて、あんたに憑いてくっていってんだよ」

　ん？　ロックの言葉に双海子さんは眉をひそめます。

「いま、なんて？」
「だから、俺かタックのどっちかがあんたに憑いてって幻獣狩りの手伝いしてやるって」

「乙女の聖域は断固死守します！」
「プライベートにまで進入しませんから！」
「具体的にどんな感じに」

「ぬいぐるみでもマスコットでもなんでもいいから貸してくれたら俺らがその中に」
「ほらやっぱり『夢怪盗 ドリーミィ☆スター』としてＴＶアニメに」
「まんまそのノリなのは認めてやるからその名前はよせ！！！」

　かくしてはたしてそんなわけで。

　双海子さんがひとりキラキラ夢心地なまま今日もほらほら目覚まし時計のベルが鳴る時間です。

「次回。
　『ええっ　私が夢怪盗ーっ？！』に、
　ドリーミィ・シューティン♪」

「だから勘弁しろって…」

　ｼﾞﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘﾘ...