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―そして:朝方―
……うー ……ん……
[こめかみを押さえつつ布団から這い出た。
低血圧な上、この世界線では純血主義が過ぎて
赤血球不足らしい。
枕もとの時計を確認しようと手を伸ばした。
空気に触れてひやりとする手首の周り。
――そしてふわっとした覚えのない布地の感触。]
……、……??
[とも は こんらん している!]
あれ?……あの子がなんか、
かってきてたっけ……?
[なお一由智はこの世界線でも人の名前を覚えられない系社会不適合者である。]
……うーん……
[寝転がったままこめかみに手を当てる。]
……あれ?
[さっき手首に感じたひんやり感が再び。
視線をそちらへ向けると、
やや幅広のブレスレットが嵌っていた。
(C)CHIKYU-BOUEIGUN
と刻印が刻まれている。]
―御厨邸兼書庫―
えーと、手をこう伸ばして、足は……こうだろうか。
[少し時間があったので、興味本位から、冊子に載っている「変身」のポーズを実践してみる。
ポーズが決まった直後、青白光りと共に、学の体がバトルスーツで覆われた。
それはもう、頭から足先まですっぽりと青色で、あまりこの手のものに詳しくない学には猟奇的な印象すら抱かせる。]
ふむ……こういう時はどういう反応が正しいのだろうな。
[少なくとも書庫にある本には、突如地球を防衛するレンジャーになってしまった、20代後半の男の反応を描いたものは無い。]
突如、虫になってしまった男の話はあるのに、世の中ままならないものだな。
[そうつぶやきつつ、等身大の姿見の前で、学はしばし立ち尽くす。]
ち きゅう
ぼう えい ぐん?
[なんだそれ。っていう顔をしている。]
あれ?ひょっとして何か僕
“忘れて”る?
[能力の多用による反動を懸念し、
事細かにメモを取っているはずの手帳を取り出してぱらぱらと捲った。]
……。
[そこには身に全く覚えのないこんな記述が。]
「○月×日
ぼくは地球防衛隊の一員となった。
これからエイリアンを撲滅するために
戦わなければならないらしい。全く迷惑な話だ。
このブレスレットには変身能力がある。
秘密基地に出向いて長官の話を聞かなければなるまい。
靴下って、なんのことだ?」
「△月□日
ダm……もとい最初の犠牲者を成敗する。」
……
…
あ……学校。
[どのような不条理な事が起ころうと、日常はそこにあり、仕事もあり、当然出勤しなければならない。
突然レンジャーになったので休ませてください、とは言えないのが大人の辛いところだ。]
どうやら、仕組んだ張本人も学園にいるらしいし、少し問い詰めてみるか。
[冊子に書いてあるやり方で変身を解くと、学は身支度をして、仕事へ向かう事にした。**]
……。
でもこれは、新たな知識を得る好機かもしれない!
[一由智、17歳。
捻じ曲がった方向にポジティブである。]
よし。早速出勤してみよう。
[布団から勢いよく立ち上がる!]
っ、……!ぅ。
[立ちくらみ。]
−朝・高等部敷地のどこか−
[アーノルドは満たされた気持ちで朝日を浴びていた]
ふう、今回も隊員へのブレスレットプレゼントはつつがなく終わったな!
まあ、なんだ。今回はちょいと人選に問題がある気はするが、逆に過激なプレイングを期待できるメンバーだったな。
それにしても防衛隊枢機卿の人選は回を追うごとに悪化している気がしないでもない。
―自宅→学校へ―
[くらくらしながら何とか身支度を整え、
昨日の反省からほうれん草入りの玉子焼きが
メニューに加わった朝ごはんを作る。]
さて、今日はちゃんと学校に行こうね。
[上機嫌で、マルグリットとともに家を出る。
もちろん、出勤してみるため
途中で授業を抜ける気満々であった。]
なんでうらないしなん?
なんで?ウラナイシナンデ?wwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
まあしかし、あれだ。
一仕事終わった後は靴下に下包みをだな。
[何度も言うが、彼はエクストリーム靴下泥棒の絶対王者である。
無論、エクストリーム靴下泥棒という競技についても説明せねばなるまい。
世界エクストリーム靴下泥棒競技会(WEKC)により管理されるこのスポーツは、登録者による年間靴下泥棒ポイントの総合ポイントを争うゲームである。
競技者はWEKCに競技開始を宣言した上で、その靴下泥棒の難易度・品質・技術点・マナーやエコ等の社会貢献・ディフェンダー(被害者)への配慮などを採点される。そして年間総合ポイントが高いプレイヤー上位2名がプレイオフに進むという流れである。
ちなみに昨年度はライバルのヒポポタマスとのプレイオフで死闘を演じた結果、雲仙普賢岳の遭難の危機に瀕している登山家にそっと靴下を履かせるという命がけのエグザクトリイ・リリースを決めた事で辛くも優勝をもぎ取っていた]
[懐から無線を取りだす]
メイデーメイデー。
これより競技を開始する。
『こちらブラボーよりアルファへ。
状況確認した。競技の開始を許可する』
了解した。
[そして、また彼は影に潜む獣となった]
−数分後−
[高等部教室棟の裏の花壇で、その獣は大量の靴下に埋もれていた。
町中の女子高生の靴下が、まるでハーメルンの笛吹きに呼ばれたかのようにその場所へと集結していた。
そしてサンタ姿の絶対王者はその靴下の山の頂で一人勝利に酔いしれていた]
メイデーメイデー。
獲得点数の連絡を頼む。
『エグザクトリイだ絶対王者。
今回の獲得点数は、42.113SP(ソックスポイント)だ。
だが油断するな、ヒポポタマスも追い上げている。気をつけろ。
まあ、君の懐にあるエクストラソックスを揃えれば余裕だろうけどな』
Why?
『何を言っているんだ、昨日ゲットしているだろう、我々WEKCが認定している人物の脱ぎたてソックスを片方だけ。
両足揃っていなければ高得点にはならないだろう』
な、なんだって・・・・・・?
[恐る恐る懐から片方だけの靴下を取りだす。
そう、これは記憶を取り戻した際に味わった例のぶつだ。
資料室に落ちていたが、確かにこれは片足分だけ。
よく見るとその靴下には刺繍で名前が書いてあった]
あん、り・・・・・・ メイフィールド財団の番犬<ケルベロス>か!
[愕然とした。
まさか地球防衛隊にとっての宿敵の靴下が最高得点レベルのそれとは。そして運良く、もとい運悪くそれをゲットしているとは]
くっ、しかしだ。
これを揃えるのはさすがに・・・・・・
なんだこれ
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
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