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[人の輪の中にコック帽を被った、見知らぬ生徒の姿を見つけると、昨日の名簿を思い出す]
『もしかして、あなたがほのかちゃん?』
[誰かマレーネさんを知らないかしら?
と聞いた途端、お菓子に目を輝かせながら現れたマレーネを見て、つい顔がほころんでしまった。]
マレーネさん、こんばんは。
[と微笑みかける。
こんなときなのに、どうしてかしら…。
こんなに自然に挨拶ができたのは初めてのことだった。]
[高らかに宣言するユリウスの言葉に、思わずくすくすと。]
困った、正義の味方、ね。
私以外に、意地悪すると、だめ。ね?
[くすくすと、笑いを抑えようとしてもこらえ切れず、漏れてしまう。
くるりと、まるでダンスのようにターンをして。]
…これ以上、二人きりだと…幸せすぎて、死んでしまいます…。
でも、その前に…。
[もう一度、くしゅ、と小さくくしゃみをする。]
髪、乾かしてから…。
[ドレッサーに視線を向ける。ドライヤーも置いてあった。]
[クレールに挨拶されれば、メモ帳を向けて目を撓めた。
ふと気づいて、挨拶の下に書き加える]
『そんな風に笑ったの、初めて見たかも。
かわいいと思うな』
[当人としてはなにげなく、文字を綴った]
[ほのかに問われると、一礼した後鉛筆を取った]
『はじめまして。マレーネよ。
あなただけ知らなかったから、会って見たかったの。
あのケーキは、あなたが?』
[問いつつ、自分の分のケーキを切り出した]
[だめ。と言われれば、軽く笑って「分かった、約束だ。」などと言った。
その前にと聞いて、ドレッサーへ視線を移せばはっとして。]
あ…すまん!本来の目的を、忘れていたかな。
[「良し。」と呟いて、ドレッサーの方向へ歩む。置いてあるドライヤーを取り上げて、]
さ。そこに座りたまえ。 [ドレッサーを指さした。]
[挨拶の言葉と共に綴られた文字を見て絶句する。]
――――ぇ……。
いや、あの…えっと…。
ど、ど、ど、どういう…え?
えっと、ゲシュタルト崩壊しちゃったのかしら、私。
[頭が混乱して、意味不明の言葉を口走る。]
………。
え、えっと…あの…ありがとうございます。
[ようやく頭が言葉の意味を理解したときには耳まで真っ赤になっていた。]
や、く、そ、く。
[口の中で小さく言葉を転がして、嬉しそうに微笑む。]
ええ、あの、ゆ、ユリウスさま…。
[そのジェスチャーは、どう見ても「乾かしてやるぞ」のサイン。]
じ、じぶ…。
[自分でできます、と言おうとして、ユリウスの綺麗な長髪に目が移った。
正直なところ、ドライヤーで自分の髪を乾かすのは苦手だった。加減が分からず、髪がばさばさになるような気がする。]
……お願いします…。
[ドレッサーに座り、正面の鏡を見る。鏡越しにユリウスが自分を見ていて、何だか気恥ずかしい。]
回想――
[談話室からダッシュで飛び出し、自室に駆け込み鍵をかけると、ドアに背を着けてずりずりずりとへたりこんだ。
心臓が早鐘を打つ音が聞こえる。
に、逃げるような真似をしてしまいましたわ……!
ミユキとの会話を思い出す。部屋に呼ばれたということは、そういうことなのだろう。
未知の大人の世界の扉が開かれている……それはラヴィニアの好奇心を刺激するものでもあった。
しかし先日、唇を奪われた時の「カーミラの口直し」という言葉も思い起こされ、胸がもやつくような気分を覚える。ミユキの気持ちの在り処が、ラヴィニアにはまだ掴めずにいた。
そんな人に、軽々しく体を明け渡すのも、危険な気がする――]
……どうしたらいいんですの……
[膝に顔を埋めたまま、そのままいつの間にか眠ってしまっていた]
[マレーネのメモを見て真っ赤になる。
いつもなら、周りの言葉など聞こえなくなるところだったが、薬という言葉にはしっかりと反応する。それでも、頭の中はぐるぐるしてしまっていた。]
え…なに?
ほのかちゃん、性別改変薬って…。
ほのかちゃんは、男にでもなりたいのかしら?
[言ってしまったあと、瞬間的にまずいと思った。
ただの聞き間違えだった。ちょっと頭が混乱していただけ。
でも、いまのこの学園で、それも今日、ほのかにこんなことを口走ってしまったのは、どう考えてもクレールに非があった。
ただの聞き間違え、あるいは冗談と取ってくれるように祈る。
この祈りは通じるだろうか。]
[大人しくドレッサーの前に座ったのを見れば、「よしよし。」と呟いて、ドライヤーを片手にセリナの背後に回る。]
[濡れたセリナの髪に、指を通す。手ぐしで髪のかたちを整えてから、ドレッサーを適当に開けてみる。トリートメントを見つければ、ぴっぴっと手の平に取り、セリナの髪に優しく塗り込む。]
きれいな髪してるじゃないか。
[ポツリとそう呟いて、何事も無かったかのように鼻歌を歌いながらドライヤーで乾かし始める。]
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