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[少し経って、涙が零れたことに気付く。]
……ごめんなさいまし、と、取り乱して。
少し、部屋で落ちついて来ますわ。
[弱弱しく笑い、くるりと踵を返して部屋へと戻った**]
[いつものように、靴音を立てて、大声を上げながらやってくる…。
そう思っていた。
だから、突然のノックと声に、飛び上がるほど驚いた。]
……。
[逃げるわけには、いかない。こうなることは分かっていたから。]
………。
ユリウスさま…。
[でも、その名前を口にすると、決心が崩れかけた。]
[強いノック。静かだけれど、強い口調。…いっそ、殴ってくれたほうが、いい…。]
……。ちょっと、待ってください…。
[でも、向き合うべきだ。
セリナは立ち上がると、まずは顔を洗おうと洗面室に…行こうとして、サイドテーブルの足に躓いて大きな音を立てて転んだ。]
……っ……。
こんな時にまで、私ったら…。
[あまりの情けなさに、もうどうでも良くなってきた。
とりあえず顔を洗ってさっぱりすると、引き出しの中から、鈍い金属…鍵…を、取り出して握り締めた。]
[扉を開け、ユリウスを招き入れる。簡易な服装のセリナは、憔悴しているもののいつもと同じように見えるだろう。ただ一点を除いて。…胸が、ない。
セリナは、ユリウスが何かを言うよりも早く、手の中の鍵を差し出して…渡した。]
……勝手にお借りしました、寮内のマスターキーです。
先ほど、プルネラさまの部屋に入るために、使用しました。
[その意味するところは、説明するまでもない。努めて事務的な口調で、報告をした。]
[開かれた扉。招き入れられるまでも無く、足を踏み入れる。
セリナと向き合い、見下ろす。
その顔色は、蒼白。
そして、セリナが見るときいつも微笑か、憤りの表情をしていた顔。それは、今まで見たことがないくらい、なにも無かった。
黙って鍵を受け取った。]
セリナ。
いや。
君は、誰だ?
私は、良い隠れ蓑だったか?
[この人が向き合った相手が別の悪人か、気に食わぬ者なら、冷静な言葉どころか、既に首を掴んで床にかなぐり捨てていただろう。
そう容易に想像できる。]
[今の心は疲弊した水風船だった。
つつけば、感情がとめどなく流れ出すだろう。]
[ユリウスに見下ろされ、セリナは見上げた。視線が合う。]
…快活で、大胆で、自信に溢れて、優しくて、…ちょっとだけ、意地悪で…。
そんなユリウスさまが、大好きです…。
[驚くくらいに、するりと言葉が出た。やはり、好きだ。
でも自分の犯した罪は大きい。これからは、このユリウスからの軽蔑と罵倒とを背負って、一生を生きるのだ。]
でも、ユリウスさまがこんなお顔をされるようなことをしたのは、間違いなく私です。
好いていると言われるのも、不愉快でしょう。
…どうか、お殴りください。
気の済むまで……。
もう、二度と会うこともないでしょう…。
[静かに、言葉を紡ぐ。覚悟を決めた表情で。]
!! ……
…… …………。
[突然滔々と述べられた言葉。それを聞けば、冷たく凍った表情から、眉が僅かに動き、目は少しだけ見開かれた。]
……ッ!!
[セリナの首もと。服を、ひっつかんだ。しかしそれは、一歩くらい相手をこちらに引き寄せたに過ぎなかった。]
[表情に生が…、怒りと戸惑いの混ざった表情が浮かぶ。顔を近づけた。]
もし君が、『男』だと私だけが知ってしまった時。
私は、君の正体を隠して、逃がしてやろうと考えていた。
しかし。
…君は、行為に及んだ。
それも、誰にも明らかな……
どうか教えてくれ。
なぜ、心を抑えつけてまで……
[言葉が途切れる。
セリナの目を覗き込みながら、初めて、心から悲しそうな目をした。]
/*
手数計算してみたけど、明日GJか青襲撃がないと、女子(村側)勝利はなくなるね。
青百合も女陣営だっていうなら、また別だけどw
*/
[わずかに見開かれた目を合図に、セリナは歯を食いしばり、目を閉じた。
しかしやってきたのは衝動ではなく。引き寄せられてよろめき、ユリウスの身体に手をつく。]
あっ…。
[胸に触ってしまい、慌てて手を引いた。]
も、申し訳、ありません…。
……ユリウスさま、お優しすぎます…。逃がす、だなんて。そんな…。
[また涙が出そうになるのを、必死でこらえる。]
…私は、セリナです。最初からずっとセリナでした。
……戸籍も、女になっています……。
[本当は話すつもりはなかった。しかし、ユリウスの悲しい瞳には逆らえなかった。]
私は母の死と引き換えに生まれ、母を溺愛していた父は、私を最初から女として育てました。母は女の子を欲していたからです…。
やがて成長するにつれ、私は写真で見る母と、瓜二つの姿になってきました。父は…そんな私に特殊加工を施した付け胸までつけさせて、亡き母の服を着せて。
私は負い目を感じ、父の命令に逆らえませんでした。
しかし…やがて父は、母の願いの「娘のウエディング姿」まで望むようになりました。…父は、自分の言いなりになる男性を選び、結婚を…させると…。
[ひとつ、息をついた。]
私は、さすがにそれは、嫌でした。何もかもが女だとしても、本当は男なのです。
生まれて初めて、父に逆らいました。
そんな私に、父は言いました。「お前は男として、女が抱けるのか?」と。
そして、ここでそれを証明すれば…結婚を取りやめ、男としての生活に戻してやると。
間違っていることは、分かります。
自分のために他人を踏みにじる。でも、私には、これしかなかった。他の方法は、思い浮かばなかった。そう、育てられてきたから…。
もっと早く、ユリウスさまにお会いしたかった…。
[こらえていた涙が、ぽろりと落ちた。]
[そして、結果が放送で発表されると]
『そんな』
[ほのかが退寮したことには、肩で息をついた。
しかしプルネラが襲撃されると聞くと、顔を青ざめさせた。
昼前の弁明を聞いて、セリナの方を信じていたから]
『それじゃあ、いま、セリナの部屋には』
[そう書いた直後、開け放たれた扉からユリウスの姿を見かけた。
ひどく落ち着いた足取りで、談話室を通り過ぎる]
――……
[おそらくセリナの部屋に行くのであろう。
皆で固まって行くべきだ、と提案した方がいいことは分かっていた。
それでも、あんな冷めた無表情をしているユリウスを止められるとは、思えなかった。
ついていっても、追い出されるだけだろう]
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