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――…血? …っ
〔幻術師の顔が、僅かに蒼褪める。もともと血の気の薄い頬。〕
わか…った。行こう…
〔シャーロットと"其処"へ近づくごとに、幻術師の様子はおかしくなりはじめる。足取りが重くなる。喉を押える。汗ばんで…思い詰めたような眼差しを白い闇へと刺す。〕
…っぐ、……アー…ヴァイン…だ。…
〔見え始める前に、苦鳴を漏らす。幻術師の喉へは、蒼黒い疵のような痣がくっきりと浮き出ていた。鋭い苦痛に苛まれながら、それでも歩き…
――やがて到る。"其処"に〕
[窓を開け夜風を招き入れて]
[日傘をさす侭に窓枠に腰掛け]
[はたり] [はたはた] [はたり]
[編み上げのブーツを揺らして]
[室内を見回し緩やかに瞬く]
ミッキー、村の中を探索した貴方ならば、
アーヴァインの云っていた井戸の場所は判る?
[答えを貰えば謝辞を返すだろう]
[窓外へと視線を移し闇を見詰め]
何が正しくて何が間違えているのかしらね。
[ひとり言ち幻術師に貰った柳を揺らす]
[ヒューバートの苦しげな声に、ちらとそちらを窺うが歩みは止めず]
[木立の向こう、木々の合間]
──番人。
[紅い血は夜闇に黒く色を変え]
[黒の溜まりにその男は倒れていて]
[一層硬く、ぎりと手は結ばれる]
― 屋敷→枯れ井戸 ―
そろそろお暇するわ、御機嫌よう。
[周囲の者達に挨拶をし屋敷を出て井戸へ]
[覗き込む闇は底が知れず只ひたすら暗い]
[細い井戸の淵に立ち日傘をくるりと回す]
暗いわね、暗いわ、暗いのだわ。
果てなく何処までも続く闇みたい。
この闇の先にも何かあるのかしら?
ねぇ、アーヴァイン。
[先の言葉を想い返る事の無い問いを囁いて]
[井戸の中を見詰める石榴石に闇が映り込む]
彼等は私達を探し出して、
この井戸へとつき落とすのでしょうね。
[井戸の闇を見詰めて呟く]
但し、其処にどんな感情が芽生えるのかは判らない。
彼等が貴女や私を憎むのか如何かも。
そして少なくとも私は貴女を責めも憎みもしないわ。
そして彼らは"村"をつくる、か。
深い──死んだ井戸の底か。落ちては二度と這い登れない。
ありがとう、ヘンリエッタ。
お前にそう言って貰えると、私は嬉しい。
同属にまで憎まれては、さすがに救われない……。
[最後の言葉は努めて軽く]
[満ちる血の香も、和らいだように思えた]
──行こう。
[暫しの間、番人の亡骸を見つめていたが]
[ヒューバートへ告げ、返事も聞かずに歩き始める]
誰かに伝えねばならないな。
[一人ごち、誰が良いかと思案して]
すてらに伝えれば、他にも知れるだろう。
[村を作ると語った彼女がこれを知れば、どんな表情を見せるのか]
[そんなことを考えながら、*道を戻る*]
〔ひゅう、と喉に苦しげな音が立ち…声を絞る。〕
く、どうやら魔法の…副作用だ。…ここで待ってる。
〔呼吸を整えながら、少し離れた場所からシャーロットの様子を見守る。"安らぎの地"の番人は、幻術師の目から見ても既に…と見えた。…僅かに目つきを厳しくする。〕
…ああ。皆に知らせないと…ね。…
確かに、すてらに伝えるのが一番早いんだろう。
〔人狼の脅威が確かに目の前にある今、必ず知らせなければならなかった。シャーロットと、皆が集う洋館へと戻った。〕
ひとりでなければ彼等は寂しくないのかも知れないわね。
きっと罪も咎も全てこの暗い闇が飲みこんでしまうのだわ。
[彼女の言葉に緩やかに瞬く]
――…
僅かでも貴女の気が晴れたのなら良かった。
けれど同族と云うには私は余りに歪よ。
そして何より――醜いのだわ。
[石榴石の瞳に闇を移し続けて]
[其れ以上は言葉を紡ぐでもなく]
[意識は彼女に*寄り添う様で*]
全てが私と同じ訳は無いもの。
誰一人同じ筈が無いのだわ。
咎を裁ける筈も罪を赦せる筈も無いのに。
[随分と長い間そうして闇を見詰めていた]
[ドレスの裾を翻し来た道へと振り返る]
[眼差し遠く首を傾げる仕草はあどけない]
みんなは如何するのかしら?
[素直な疑問を零して井戸の闇へ*向き直る*]
〔洋館へ着くと、すてらにアーヴァインのことを知らせる
…と言ったシャーロットの後姿を見送る。やがて俯き…
広間を訪れると、ウルズの傍へと腰を下ろす。〕
痛みがあるなら、ボクはキミにそーっとしか触れないんだね…
〔銀髪の青年を眺めながら、幻術師は隣の間合いを暫く遊ぶ。感じかたに違いはあれど、痛みを持つ彼に…親しみを感じていた。柳の枝を折って、食事を取っているウルズへと渡す。〕
〔…これは、しあわせな夢を見るためのおまじない…とウルズに伝える。…全員に渡す予定だとは伝えない。師たるモーガンにも必ず渡したいものだった。〕
ボクはさァ…ウルズ。
もう人に悪い幻を見せたくなくなって…この村に来たんだ。
…記憶をなくしてるキミは、…輪廻を望んでた?
ボクはあてずっぽうの「予想屋」でしかないけどね…アハハ。
ボクや皆がこの村で望んでるのは…
いま生きているキミみたいだよ。
〔そして、人狼のことやアーヴァインが殺されたことをウルズに伝える。別段、自分を信じさせるようなことは言わない。テーブルクロスの蒼に触れながら立ち上がり、暫くウルズを見詰め…首を傾ける。つらいね、とだけ言ってその場を*後にした*。〕
[ヒューバートの言葉を戸惑いながら聞き、渡された柳の枝を胸に抱く。]
分からない。
今は少し…思い出すのが怖い。
[ぽつりと、そう呟く。
胸に焼き付いた、一瞬のあの姿。
返り血を浴びてわらう…]
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