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つまり――何某かの本質そのものならずとも、その一端を垣間見れば、名はおのずと知れる――そう云う事じゃな。
何となれば、ほれ。
そこの白皙の青年に、呼び名を見出してやろうか?
シャーロットにせよ、すてらにせよ、妙齢の娘御なのじゃし。名も呼べぬでは不便で仕方あるまい。
[と笑い、彼女が顎先で示した銀髪の青年に視線を投げた]
私はお前など知らないが──。
[しかし、手は隠しから離れ]
お前も、何らかの術師……と言う訳か?
先ほどの奴等と言い、本当に妙な人間ばかりが集まるものだ。
[言うと、興味を失ったように小屋へと入った]
食え。こんなものしか持って来られなかったがな。
[芹菜へ果物をひとつ手渡すと残りは適当にばらばらと置き、小屋の隅に腰を落ち着ける]
狭いな。
[呟いて眉を顰めた]
ほぅ…初対面であったか。
それは面妖な話じゃ…。
[モーガンの紡ぐ言葉にこてりと首を傾け]
…爺よ、わしの名前も知っておるのか。
ほんに、面妖なことじゃ。
わしは難しい話は頭に入らぬ。
番人から聞いたことにでもしておくのがよい。
ささ、爺も入れ。霧が濃いと体が冷える。
[手招きをし。随分と狭くなった小屋の中、シャーロットの言葉に思わず頷いた。]
狭いのぅ。
集会場には向かぬ、後でまた小屋を探し
幾人かで分かれて寝床にするといいじゃろう。
[果実はしっかりと一ついただき、齧り付く]
まあ、良かろう。所詮は儂の言葉など、諸行無常の理に比すれば大海の前の砂粒にも劣るはかなき力に過ぎぬのじゃし。
……と、そうそう。これを持って来ておったのじゃ。食うと良い。
鮎の塩焼きじゃよ。まだ温かいはずじゃよ。
この人数でも充分なだけはあろう。
[右手に提げた籠を突き出し、小屋に半身を入れて適当な台の上に置いた]
あー、少し聞きたいことがあるんだが。
「案内人」や、そこで寝ている男の「名」とは、
……何の話だ?
[老人の出した籠には手を伸ばさず、果実のひとつを取ると一口齧りつつ、問うてみた]
…あぁぁぁぁぁっ!!
[唐突に叫び声を上げて飛び起きる。
片足を引きずったまま、怯えたように部屋の隅へと逃げる。
左手の甲から音も無く生えるのは、機械仕掛けの鋭い刃。
室内の人影へとそれを向け、荒い息。
乱れた銀糸の髪の隙間から、恐怖に見開かれた空色の瞳が垣間見える。]
――小屋の中――
よっこい、しょっ、と。
[上がりかまちに腰を下ろし、すてらを見遣った]
ふ。ややこしい話には立ち入らぬのも、また智慧の成す業よの。小屋なら何軒か空いておるな。儂の家もしばらく上っていった先にある。儂はそちらで休むよ。もうそろそろ日も暮れる頃じゃろうしの。
――む!?
[反射的に篭へ入れた左手が掴み取ったのは二本の串。まだその先に鮎が刺さっていた]
『……投げるか……否か……食わせるか?』
[突飛な場面の想像が脳裏に浮かび、慌てて打ち消した]
[左手はそのままにしつつも、身体からは緊張を解く。
じっと見詰めつつ、落ち着いた声を青年に掛けた]
……どうした。
……悪い夢でも見たのか?
……そうじゃろうな。
……幾千の世界を彷徨い、幾万の時を隔て、幾億の死を見て、お主もここに辿り着いたのじゃろう。
何も、気を張ることは無いよ。
ここにはそなたを害しようという者は、おらん。
ゆっくりと、休むが良いよ。
[立ち上がって、青年に背を向ける。静かな声音が後に続いた]
――『敗者(ウルズ)』の名を負った者よ。
……まだ休まれた方がよい。
そこの蒼い髪の娘が果実を、
爺が魚を持ってきてくれた。
落ち着かれたら、少し食うといい。
治すにはまず食うことじゃ。
[平静に努め、深呼吸をしてから幼子を諭すように目線を合わせて青年を見て静かに声を出し]
[老人の言葉にやはり首を傾げるが]
そういうことだ。
分かったならばその刃をしまえ。
こんな狭いところで暴れられでもしたら面倒だ。
──もっとも、そんな体力も無い様子だが。
………ぁ。
[幾度か瞬いて、室内を見回す。
聞こえた声色に敵意が感じられなかったせいか、緊張を解いてずるりと床へとへたり込む。
膝はまだ、震えたままだ。]
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