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だが――お主はすでにひとつ、間違えておるよ。ヒューバート。
[恰も直接語りかけるように、視線を一点に留める。その先にあるのはひときわ目立つ洋館の姿だった]
敗者は常に存在するのだ。
過去にも、現在にも、そして未来にも。
敗者の居らぬ時点など存在せぬ。
そして――敗者であったことの無い者もまた、存在せぬのだ。
誰もがすべて、敗北しているのだよ……
まあだが、仮初めの幻力(マーヤー)といえどお主の希望を模したものならば、破却するに至る理由もあるまい。もう半ばまでの実存を得たようでもあるし、な。
[顎髭をなぞり、ふむ、と口にして頬に笑みを上せた]
[ふと振り返ると、先ほど出会った老人が邸の程近くに立っている]
つまるところ、人は人の集まるところに集うということか?
誰しも、一人では生きられないのかもしれないな。
[呟き、その立ち姿と邸を比べ見る]
――キミはボクと、同じものが欲しかったんだね。
すこし違うのは…今はもう死はいらない…と考えてるところ。
いま欲しいのは…アハハ。
〔ゆらん。男は上体を揺らして紅を覗き込む。〕
師にして――学びあう相手。
〔秘密を囁く、そんな声音。唇の前に歪な指を1本立てる。〕
――ボクは旅立つ者…ヒューバート。
キミは「何」だい。
―空き小屋―
[魚屋に案内された空き小屋に残る。柳の枝を手にしたまま]
人のにほいが……する
[小屋の中をしばらく探索している。瓶詰めの中身は(おそらくは果実の砂糖漬けだろうか)すでに痛みきって原型を留めておらず、一口食べて挫折した]
ここが……安住の地?
[誰もいない小屋の中で独り微笑む。すえた臭いのする汚い毛布を見つけると、裏口からの退路を確保できつつ入口からは死角になる場所を探して、毛布にくるまって*丸くなった*]
〔既にやさしい嘘が暴かれていることを、魔法使いは理解していた。そこを師に指摘して貰わなくては――前に進めなかった。男には身の回りのことしかわからないが…自らの望み、そのひとつが果たされた…ということだけは離れていてもわかる。〕
……有難う…師匠。暴いてくれて。
〔ぽつりと呟く。「でも、ホントのところは教えない。」
それは悪戯であり、複数回答の可能性を示唆する言葉。〕
[同じものを求めていたと男は云う]
[無遠慮に頭から爪先まで眺め回し]
[くるり] [くるくる] [くる] [くるり]
[傘を回し揺れる上体に視線を移す]
[細い眼差しを石榴石は真っ直ぐ見]
其れは、少しだけ愉しそうね。
[唇にはあどけない悪戯な笑みを引いて]
[男を真似て其処に細い指を1本添える]
[名乗られた名を幾度か舌の上で転がし]
ヒューバートは何処へ旅立つの?
[「誰」ではなく「何」と云う男の問い掛けにか]
[指添える薔薇色の唇は三日月に吊り上がる]
私は棄てられた迷子のお人形、Sinkと呼ばれていたの。
でもヘンリエッタと呼んで呉れないと、
仮令ヒューバートが求めて無くても殺すわ。
…羨ましければついてきぃ、柳よ。
わし等はお主も拒みはせぬ。いつでも待っておる。
[すれ違うヒューバートへ、カラカラと笑い声をあげて引越しは続く。彼が通り過ぎた後大柄の男に背負われし青年を見遣り]
そうじゃのう、早よ良うなってもらわねば。
治ればまた、遣れることはたくさんある。
この村には未だ未だ足りぬものが多くある。
農耕も…家畜を育てることも、炊事も、一人だけでは到底できぬ。
じゃが、皆で分け合えば少しずつではあるが形になろう。
安住とは訪れるものではない。
作り上げるものなのじゃ…
[途中からは自らに聞かすように一人ごち]
…ところでうるずよ。何か、思い出したものはないか?
[始めて見た時から幾分、落ち着いたウルズの姿に気になっていた問いを口にする]
――だろ。
〔ゆっくりと踵を返しながら…暗い視線は紅の方を捕らえて離さない。返される仕草には闇に亀裂を入れる月の如く、薄い笑みを広げ…〕
ボクらは立ち止まることも、立ち竦むこともあるけれど…
生に倦んではいないのだよ。
…さあね。自分から…過去から。たぶん、そんなところ。
…遊んでくれて、うれしいな。ヘンリエッタ…
時に添え言葉をすることだけ、許してくれないか。
…お出で。キミの言葉と心と…
その髪に触れさせてほしい…
〔誘う笑みはそのまま――回答のうちのひとつ。
でも何に対してかは――目の前の相手以外には教えない。〕
[とりあえず近くのソファーにウルズを下ろし荷物を傍に置いた]
任務完了なんだな。
[そう呟くと広間にいる人を眺めながら何かを考えている]
[負われた背の肩越しに、古めかしい様式の屋敷が見えてくる。
傍らを歩く女の声に頷いて、そうだな…と小さく返した。]
…今のところはまだ……。
思えば思うほど、霧の中に迷いそうになる。
[おぼろげなものは追おうとすれば逃げ、肝心なものは欠片すらも見えぬ。
傷はまだ、じわりと熱い痛みを抱いたままだ。]
[古いが良く手入れされた大きな屋敷。
リビングとして使われていたらしい広い部屋の隅のソファーへ沈み、各々が調度を整えたり、自室に使う部屋を選んでいたりするのを眺めている。
多少傷が疼くのか、肩に巻いた包帯をさする。]
〔…男はまたひとつ思い出す。小さな行進から離れる際に交した言葉を。〕
…ボクは遊び人だもの、…すてら。
いつでも好きなところにいるさ。
いたくないところには、一秒たりと居はしない。
〔そして…相手だけに伝えた言葉がある。〕
――すてら。迎えに行ってほしいコがいるんだ。
あちらの空き小屋にいるよ…ボクの証を持ってる。
とてもこわがりで韜晦屋さんだから…
どうかキミのやさしさで迎え入れてあげてほしい。…
たぶん、…それもボクだけでない、キミの望み。
[しばしその姿を遠目に眺めていたがやがて]
──塒を探さねば。
[ひょうと吹く風に髪が遊ぶ]
[髪はばさりとその表情を覆い隠して]
[少し歩いた先、"集会場"の程近く]
[一軒の宿の一室を塒に選ぶ]
少し休まねばさすがに……。
体が、保たん。
[部屋の隅に置かれた椅子に腰かけ]
[わずかに俯き瞼を*閉じた*]
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