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[ウルズの声に気付き]
ボクは命令に従っているだけなんだな。
[礼を言われることが不思議だと言わんばかりの口調でそういった]
〔洋館へ向かっていると、引越し仕度の一同に出会う。
胸に手を当てて緩やかな会釈を向けてから、最後尾に混ざる〕
…やあ。…見守る方は…行ってしまったんだね。
儚げな方の儚い望みが…遠ざかっていって
また近くもある気がする。
…ウルズは、何屋さんなんだろうね。
まだボクには…わからないや。
〔そして先頃擦れ違っていた大柄な男。彼の言葉を気にかけて…細身の男は幾つか遅い瞬きを落とす〕
命令。かァ…
……するのもされるのも、…。
〔某かの感情が過る。が…複雑すぎて自分で把握*できない*。〕
[揺られる広い背は、何故だか温かみを感じなかったが、
そのやわらかさと、歩みの緩い振動は、何故だか心地よく安心出来た。
幼い頃にこうしてもらった事も、きっとあるのだろう。
思いを馳せても、この集落のように過去も深い霧に惑ったままだったが。
ややうつらうつらとしかけたところで、耳に届く男の声。]
…何屋なのだろう。
[それは、己にも未だわからなかった。]
[広い邸内の片隅、その屋根裏にて]
[しょり、しょり、と刃物が石を滑る音]
綺麗になった。
[灯した蝋燭のわずかな光を受けて煌く、一対の胡蝶刀]
[集団が揃って近づく気配に蝋燭を吹き消し、気配を消して]
本当に引っ越してきたのか。
……理解出来ないな。群れて暮らすなど。
あの頃は、──。
[ふ、と吐息]
私も、あんな風だったのだろうか。
― 川辺 ―
[指先より滴る雫にすと獣の如く瞳を細め]
[対岸へ向けた眼差しは遠く虚空へと向かう]
壊れているのだわ。
当然ね、
腐っているのだから。
其れも――…
[虚空を見詰め長い睫は小刻みに震え]
[漸く立ち上がり視線は水面へと戻される]
愛(かな)しい事ね。
[さて、と思考を巡らせる]
彼らに見咎められる前に出なければならないか。
見つかり巻き込まれては面倒だ。
[まるで己を説得するかのように呟いて]
[刃を隠しにしまい、そろりと腰を持ち上げる]
あちらからなら──出られるか。
[暗い暗い屋根裏の奥。張り巡らされた柱と梁の狭い隙間]
[四肢をつけて這い進む]
〔ウルズの髪が揺れるのを後ろから眺めて…暫く考えていた。〕
患者さん、ではあるんだろうさ。
…すてらとキミがいなければ…
たぶん皆好きに過ごしてるんだろうね。
ボクみたいに…アハハ。
〔軽く銀髪の方の背を叩き遣ると、洋館へ向かう皆へ場を辞する旨を伝える。男は気紛れに住まいを選ぶことにして分かれ道を行く。〕
――村内→川辺――
〔歩を進めるごとに、近づく水音。清流は瀬に跳ね…近づく者は其処へ紅を見出す。じっと感覚を凝らして…新たな出会いに薄く笑う。〕
…ごきげんよう、お嬢。
〔独りごちるか細き声を、耳は掬った。…ざり、と小石を踏んでうっそりとか細き者へと近づいていく。〕
――…何が足りないんだろ。不思議な望みだ。
…患者、か。
[確かにその言葉には合点がいって。]
…では、早く治さねばならないな。
治れば…俺にも何か出来るだろうか?
[大男の背に揺られながら、銀の髪もさらさらと揺れる。
背に触れられて、痛みに小さく呻きつつ苦笑い。
道をたがえる彼を、お気をつけて…と見送る。]
[雲の上を歩くが如き足取りは変わらず]
[編み上げのブーツは何処へ向かう心算か]
[ふわふわり] [ふわり] [ひらひらり] [ひらり]
[風の声に耳を澄まし緩やかに歩を進める]
[目的地がある訳も無く川面に飽きただけ]
Someday I want to run away
To the world of midnight....
[先程の歌を口ずさみながら迷子の人形は進む]
[ほんの少し歩いて見止める影は見覚えがあって]
[距離を取って立ち止まり僅かドレスの裾を持ち]
御機嫌よう、おじ様。
私に足りないのはきっと――…死よ。
貴方の望みは、なぁに?
[此方へと向かってくる細長い猫背の影を見詰め]
[小首を傾げ微笑むも傘の柄を持つ手を握り直す]
[ふと隙間から下を覗けば厨が見えた]
[わずかに光るは先ほど置いてきた酒瓶だろうか]
[珍しいものを見るようにそれをみつめ]
──っと。
[板の一枚を外し下へと降りた]
[厨から外へ通じる扉に手を掛け]
夢見の水、か。
[苦笑するように呟くと邸の外へと踏み出した]
――村内――
[最前より変わらぬ足どりで杖つき歩く。双眸はまるで周囲を認識していないように半ば閉じられていた]
――さてと。
何処に向かうか、何を見ようか。
――それが問題だ。
――それだけが。
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