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[井戸に集まった面々から離れつつ、呟いた]
――それとても、枷。
心が宿るのは、肉にではなかろう。
心が宿るのは、《存在》そのもの。
清浄が不浄へと、聖なるものが穢されたものへと。
生者が死者へと、移り変わるように。
転価する事もまた誉むべきかな。
[井戸を振り向き、白煙たなびく空を見上げ、足元を見下ろした。搾り出すように呟く]
……愚かな、やつ、よ……。
……迷い、迷うて、迷い続けた揚句に果てへと旅立ったか。
――汝、輪廻せしや否や?
[ふわふわと揺れる紅毛を指先で梳り]
誰だって、「一人は厭」。
私だって──、
[同じ、と囁いて小さな体を抱き上げる]
[駆けるすてらの背中を見遣り、少女の言葉に紅く燃える空を見て]
私たちも、行こう。
[少女と抱き、黒い僧衣の後を追った]
――うるず!
[前方に見えた銀色の髪へと駆け寄り、身を起こす様子に片手を添えて]
大丈夫か…?
…これは…如何したのじゃ…
[目の前に広がる炎に呆然と呟き]
[抱かれる温かな腕に僅か戸惑うも]
[巻き髪梳く指先の感触には寛ぎ]
[薔薇色の唇は安堵の吐息を零す]
ひとりにしたくはないのよ。
貴女の傍に、何時も誰かが居れば良いのに。
[抱き上げられるのにきょとりと瞬き]
[彼女の貌を覗くひと時もあるだろう]
そうね。
でも、重くはないかしら?
[彼女を気遣う如く小首を傾げ]
[共に火事場へと*向かうだろう*]
――村の何処か――
[細身の杖を突きつつその場を離れ、左右を見回して鼻をひくつかせた]
……雨の匂いじゃな。
……暫くすれば降り始めよう。葬送の篝火は消える程にはなるまいが。
[大樹の幹に寄り添い、身を凭れさせて深く息を*吐いた*]
[ヘンリエッタの言葉に大丈夫と小さく頷き]
[駆ける先、小さな小屋は既にあらかた焼け落ちて]
[かすかに漂うは、もろとも肉を焦がすものか]
──助かるまいよ。
既に、もう。
[何の感情も持ち合わせない声音が呟いた]
…、……っぐ
――これは…何、…誰の……っ…
〔焼け焦げて黒ずんだ胸を…押えて蹲る。〕
〔死せる幻術師を襲いだすのは――*現世の痛み*。〕
[シャーロットの呟きにのろのろと頷く]
…気が、消えておる。
…柳か…。
[中に残っているであろう主の名を呟き、赤を映し込む瞳が揺れる]
……ふ…
[嗚咽は飲み込み、ウルズの服の布地を強く握ったままその場に顔を伏せた]
[ぽつり]
[ぽつり]
[ささやかな雨粒が肌に落ちる]
[紅く焦げた空を見上げ]
──死者を送る雨か。
類焼の心配は無さそうだが、何れにせよ消し止めねばならないな……。
それとも放って置けば、そのうち鎮火するか。
[すてら、ウルズ、そして燃えさかる小屋と順繰りに見て]
[空を見上げて煙の中振り落ちる雨粒を顔に受け]
…涙じゃ…
[空が流す、涙にも思えて目の前の小屋を見つめ、痛々しく眉を歪め]
……
[小さく呟くのは中に居る主への弔いの言葉、ゆっくりと目を閉じて深呼吸をするとその呼吸に合わせて小屋が軋み炎が球のように縮まり、掻き消える。]
…小屋近辺に空間調律を施した…
此処に居ては解放した時に熱風で火傷をするやもしれぬ。
あまり時間が持たぬ、一度屋敷へと戻ろう…。
[ウルズを抱き起こすと小屋へ背を向けて屋敷へと向かい、シャーロット達も目で促す]
[ひとつ、ふたつ。地面に落ちるしずく。
それはいつしか雨へと変わり…
雨は、木々にも、家並みにも、
燃え盛る小屋にも、それを見る人々にも、
平等にただ静かに降り注ぐ。]
…彼が。
[袂を掴んだ白い手が、震えるのが伝わってきた。
ステラの様子と言葉から察して、炎の中に消えた人を思う。
誰かが火をつけたとも、彼自身がそうしたのかも判らぬが、あの中に居ては…とは容易に想像がついた。
懐へと仕舞った、枝にそっと触れる。]
あぁ、済まない…
[抱え起こされ、肩を借りて屋敷へと帰る。
濡れた布地越しに、その体温を感じた。]
[山鳩をナサニエルに渡すべく館内をうろついていたが遂に会えなかった。
そしてそれ故異変に気づくのが遅れてしまった。気付いた時には燃える小屋は既に焼け落ちようとしていた。]
火事なんだな。誰かいるのか、なんだな。
[そういって出ようとしたところでシャーロット、すてらを鉢合わせになる]
[小屋から充分に距離を取ったことを確認すると大きく息を吐く。遠くからまた軋んだ音が聞こえたような気がしたが振り返らず]
…なさにえる、先程言っていた話…
何時でも良い、気が向いたら話しておくれ。
[荒く息を吐いて呟き、歩みを進める度に顔に小さな掠り切り傷のようなものが増えていくが雨粒がきっと隠してくれるだろう。]
…みっきいか。
……この先には何もない。
まずは、屋敷に皆戻ろう…?
無事を確認したい。
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