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─1F "Platform"─
[一際歓声が高くなり、人の波が激しく揺れる。
小さな人影はその後ろを横切り、波間に消える。]
[画面がまた切り替わり、シャウトするボーカルの顔が大写しとなった。]
─1F "Platform"─
[笑みを貼り付けたまま、カウンターへと歩を進める。
最初から「影」が姿を現したまま近付いてくるという椿事に、中のアーヴァインが一瞬虚を突かれたように目を丸くする。
黒い男は、そんなアーヴァインの様子にも全く表情を変えず、黙って両手をカウンターに乗せて軽く指を組む。]
─1F "Platform"─
〔コン、と抜ける電子音と共に、エレベータの扉は開く。
小さな雑踏と共に吐き出される男装の女は、たったひとつのフロアを昇る間に年端も行かぬ少年を口説いていたらしく…そのまだ幼い鼻梁へとくちづけ添えて別れるところであり。〕
…此処しかないかな…と思うのだよね?
〔小さくひとり言を唇へ乗せると、併し誰かを探す素振りもなく…
先刻まで自らが居たフロアの映像を流すモニター群のほうへと視線を向ける。その上で迷わず足を運ぶのは、フロアの端…アーヴァインが居るバーカウンターにて〕
――やあ…ご機嫌如何。
〔其処へ落ち着いたばかりといった風情の、幽鬼の如き黒ずくめの男へか…はたまた先頃昇格の沙汰があったと聞き及ぶ馴染みのスタッフへか声をかける。…おそらく双方へなのだろう。〕
〔ジーンの傍から一人分ほど空けたスペースへと、
女はカウンターへ上体を寄せる様子で〕
…背後かと思ったのだけれどもね。
案外遠くて驚いた…アッハ。
[何気ないふうを装いながら緊張を隠せないアーヴァインが、注文を聞こうとするのを遮り口を開く。]
Dum fata sinunt vivite laeti……
まずはおめでとうと言うべきだろうか、アーヴァイン。
[程なく近付いて来たオードリーには振り向かず、アーヴァインに視線を据えたまま]
レディに好みのものを差し上げてくれ。
〔影たる彼に水を向けられて、一瞬言葉に
詰るアーヴァインをちらと見遣る。
言葉を解するか否かは、おそらく誰も口にしない。〕
memento mori…と正直なところを
言ってはやれないのかね…ジーン。
…大分気構えが違ってくると思うのだよ?
[正面を向いたまま、黒い瞳だけが隣の女性に注がれる。]
……死は常に背後にある訳ではない。
時には目に見える形でも現れる。
[低い声に揶揄う色が混じる。]
〔声はかけるも、視線は未だ互いに交さない。〕
レディというのが私のことならば、
――ベイリーズミルクを。少し喉が渇いた。
アーヴァイン。
当分はからかわれると思うけれど…ほんの短い間さ。
君は君であることを証立てろ。
向いてるか向いてないかではなく――
やるかやらないか、なのだからね。
〔カウンター裡へ言葉を渡して、
程なく呈される甘きカクテルを貰う。
影へミネラルが供されるのは、その後か〕
…あはん。背後でなく隣というわけなのだね。
…――アレは、では君だと思っていいのかい。
……君が、そんなふうに笑うのを見るのは愉しいよ。
〔傍らの気配が含み笑いに揺らぐと、漸く視線を向ける。
カウンターへ片肘を乗せて半ばに向き直り…グラスを浅く掲げ〕
――久しぶり。
[カウンターに置かれた黒い手が、サッとぶれる。
反射的に身構えたアーヴァインが、顔めがけて飛来した小さなものを払い落とし、それがミネラルウォーターのボトルキャップであると気付いて男を見る頃には。
組まれた指も、正面を向いた姿勢も、寸分も変わらない。]
…またそういうことをする。
〔カウンターを挟む些細な苛めに、手を焼く態で眉を顰める。
グラス持つ手で、横ざまにジーンのこめかみを小突こうとし〕
構う相手なら傍にいるじゃないか…私が。
アレ、じゃあ分からない。
察しが悪いので。
[オードリーがグラスを掲げてこちらを向くのに合わせて、そちらに首を傾ける。]
アーヴァインの前途を祝して乾杯でもするか?
それならもっと笑うかも知れない。
[夢見るような微笑を消し、オードリーの手をグラスごと掴む。
が、瞳はむしろ強い嗤笑の光を湛えて艶を放った。]
……構って欲しいのか。
…破壊者。
いま言わせて如何するんだか。
〔束の間鼻白むも、別段気を悪くするでもないようで。
戯言か本気かというと如何やら後者らしき言葉に目を細める〕
…ン。…では薄氷の上に遊ぶ間柄に…というのはよくないかい。
〔ン?と再度グラスを揺らしてみせる。どうやら否を排するらしき
胡桃色の瞳は、今は全くの無遠慮さで影の其れを見詰めていて〕
破壊者だとして。
己がそうだと答える筈もない。
破壊者でなければ、その問いは無意味だ。
そうだろう?
[激しい囁き。]
…っ痛。
〔影の骨ばった手に掴まれて、柔らかい手が痛まぬ筈も無く。
それでも振りほどく素振りは微塵も見せず…僅かに片目を眇めただけ。〕
アッハ、…
〔間近に見詰める瞳に、表情の劇的な移ろいを感じ取る。
…思わず喜悦めく笑みを漏らすも…まるで逆さ鏡の如く
此方の瞳は甘やかすような色合いに染め替わり――〕
そうだね、欲しいかな。
――ジーン。…君のココがね。
〔射抜く視線を容れる侭…空き手に彼の胸元を甘く鷲掴む。
間近な囁きが孕む彼の内面を面白がる態で、応えは先のものへと含めもしたのかもしれない。〕
〔蛇の如き舌舐め擦りは、何の色味を求めるか…*今は伝えず*〕
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