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[差し出された手と共に、送られた招待状に女はふっと目を細め。その輝きに指先に付いた水滴を舌先で拭い去る。]
綺麗な言葉なんて、わたし吐けないわ?心も何時かの日に置き去りにしてきたの。
それに…。
ベッドで遊ぶなんてもうまっぴら…。だって飽きちゃったんですもの。だから――
[促されるままスツールを降り、床を鳴らす音は動作の音を一つ奪う。]
貴方のお誘い、お受けしても宜しくてよ?
[微笑みと共に女の手は、ひらりと宙を舞う。
同時に風を切る音が鳴り響き、目の前の男へ向かって影が伸びる。]
――男の思考回路は、「影」に「注視」する。
――その瞬間、男の思考回路の中で、音叉から発せられるような「音」が響き始めた。
――そして、それは徐々に大きくなってゆく。
ああ。続けて欲しい。
何故そう確信を持って「知っていた」と言える?
君はキャロルの何を知っていたのだ。
一体何を知り得たと言うのだ。
――悪いとは思っているよ…ジーン。
私は私が極めたプロセスしか重視しない。
だから途中を間違えることを怖れない。
他の手段に自信がないから。
〔女の瞳から、笑みが引いていく。興味の深さは更に。
闇裡へ灯る光の色合いを見極めようと…勘を砥ぐ。〕
たくさんひとを傷つけてしまっているし…
悪意からそうしているのではないということに
些か自分を甘やかしてもいるんだ。
……。
…それは、…ジーン。
〔少しだけ前のめりに、影へと顔を近づける。〕
君の…遠回しの好意のことだろうか…
〔語尾は掬わない。ほんの少しだけ…紅髪を傾けて問う〕
――ビィィィィィ……ン……
――キィィィィィ……ン……
[刹那、男の思考回路と聴覚中枢に、軋みのような不協和音が鳴り響いた。]
…キャロルは皆の傍で…いつも呑んでた。
話を聴くために。
〔黒衣の彼女を案じて、僅かに面持ちが顰められる。〕
あのコは、話すことは拙い。
ダニエル兄に、「自分は大事なものを探している」と
訊ねられるまま素直に話してしまった。
それで漸くわかった…間抜けぶりだったのだけれどね。
…キャロルは、ニーナに…自己防衛から
喧嘩を売ったんじゃない。
…生きて、守りたかったんだ…私にはわかるよ。
〔暫く思案しながら、薄く唇を開閉させる。
ふっと吐息を漏らして視線を戻し…〕
…あのコが探していたのは…「私」だから。
違う。
君は間違えているのではない。
君は「分かった」と言う言葉で、言葉にならない思いを殺して回っているのだ。
[そこで影の男は一度口を噤む。
ほんの少しだけ顔を寄せる女に向けられた視線は、鋭く強く。]
もう言葉は尽くした。
百万言の言葉では君には通じまい。
自分は君にも判る、自分が最も得意とする言語で語ろう。
貴女と僕は会話が食い違うことがよくあるらしい。
これも普段身を置く生活の場が違うからかな…
僕にとってはこの喧しい場所こそが異質な存在だから。
僕もただのベッドの話をしていただけだよ…?
…貴女と僕が求めるものは似て非なるものなのかな…?
[小さく肩を竦めてみせ、吐息を零すがまぁいいや、と自己完結で括り。ローズがスツールから降りる姿を蒼の瞳が捉えると三日月の笑みを浮かべる]
拒まれても引ける自信がなかったから嬉しいな。
…待ち兼ねたよ、ローズ。
貴女とこうして向き合うその瞬間を。
暫しの時間、僕は貴女のものだから…だから、僕を楽しませて…?
[とろりと睦言にも似た甘い吐息を零し目の前の人物をカタチではなくはじめてヒトとして瞳に刻む。此方へと伸びる影には抗う所作も見せず、新たな音と色が生まれる瞬間に戯れは*始まるのだろう。*]
〔「――殺して回っている」。〕
〔「違う」という言葉でなく、女が過敏に反応を示したのはそこだった。忽ちの裡に、…表情が強張る。左肩と、胸が抉られるような痛みを憶え出す…ニーナを想って。〕
………、…
〔束の間言葉を無くして…ゆると彼の続く言葉に瞳の焦点を戻す。本能的に身を引こうとするが…其処は自ら選んだフロアの隅。背が壁にぶつかる〕
………っ、…!
そうね、貴方とは所詮見る場所、感ずる場所が全く違う部分で働いているのかも知れないわね。
あら、わたしもこんな喧しい場所は嫌いよ?普段はピアノの音に包まれているから…。
それに、何度も言うけど、似て非なるものか否かはお互いが判断する事じゃないかしら?貴方が似ていると思っても、わたしは似てないと思うかもしれないしね?
[自己完結に終る言葉に、されど相槌を打って。女の操りし影は、StiweardShipの周囲を切り裂き、主の許へと跪く。]
[男の聴覚中枢に響くのは、]
――ビィィィィィ……ン……
――キィィィィィ……ン……
[鳴り止まぬ「不協和音」――*]
もしわたしが誘いを断ったら。貴方はどうしたのかしらね?…って言わずとも想像には辿り着けるから、答えは必要ないけど…。
それに…貴方のものになっただなんて、なんて煽情的な言葉なのかしら。その言葉も貴方の主とやらから教え込まれたの?
[茶化す言葉が、黒いドレスを滑り落ちる。]
WidowedGentlemanへと辿り着くまで…貴方の興味を引くなんて責任重大…。
でも、手加減はしないわ?心行くまで愉しませてあげる…。
[こつり――]
[身体にフィットしたミニ丈のドレスの下に覗くピンヒールを再び鳴らして。
女は艶めいた暗渠の宴の開演に、うっとりと*目を細めた*]
"WidowedGentleman" オードリーは、"ShadowWalker" ジーンの眼差しに怯みながら思った。…唄を拒まなかった…それは彼への応えには*ならなかったのだろうか、と*
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