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[契約時間終了に尽き、彼の立ち去ろうとする女に、契約の男は一つ問いを投げかける。]
「――恋をした訳ではあるまい?」
[その言葉に、女は静かに苦笑を漏らして首を振る。]
―― 一体誰に?
一晩の馴れ合いとはいえ、心を全て赦した訳ではないわ。嗤えない冗談はよして…。
そして…。今は仕事中よ?例えどんなに想いを揺さぶられようとも、琴線に触れることは無いの…。
[「愚問過ぎるわ…」
そう吐き捨てて、女は立ち去る。
背中越しに聞こえる僅かな喧騒は、彼女の耳には届かないままに――」
―― →1F Platform――
[オードリーの唇から毀れた「破壊者」という言葉が、丁度歩み寄った時に耳朶に入る。
漂う雰囲気の変化に、浮かんだ笑みは薄れ、微かな痕跡となって残る。
立ち止まって、沈黙のうちに三人の顔に順番に視線を注いだ。]
話をさせて貰えるのならね?
〔この場にいない者たちの動向を気にはかけながら、
ラッセルの興味に視線を動かさぬ侭応える。〕
…ラッセルには、私が破壊者であるらしいと
誤解されるようなことを言ってしまって…
それに乗じて君の反応を見させて貰った。
もし君が逆に破壊者なら、私が味方でないことは
元々知っているはず…君にはその匂いがなかった。
その会話を聴いていた様子のジーンと話したけれども、
カマのかけ方でやっぱり同じ匂いはなかった。
〔折しもの影の訪れに、矢張り視線のみで応じ…〕
キャロルやニーナとは直には話していないけれど…
アーヴァインから…可哀相に、逝ってしまったのだね…
聴いた昨夜の様子から朧気に判断を。
〔一度息を次いで、自分の思考過程を晒すことに
やや慣れなさを憶えることを振り捨てる〕
…ローズは長く私と過ごしていたのに、
…私に問うことすらしなかった。
ダニエル兄に到っては、時が満ちゆく間
声をかけてくれもしなかったし…
破壊者を探す素振りが全く見えなかったのだよ。
それぞれに私が感じ心を動かしたことは
たくさんあるのだけれど…私がいま短い時間で
話せるのは、多分こんなふうだと聞き易いのだと思う…
〔…そして、皆のではなく…此処の所感を待つ。
それが明かされるのであれば…だが。〕
―― 1F Platform――
[足を踏み入れるなり、俄かに感じるざわめき。
膚をなぞる微かな感触に違和感を覚えた女は、近くを通り過ぎるスタッフを一人引き止めて、訊ねる。]
――…そう…アーヴァインが…。
それはまた…気の毒に…。
[耳元で囁かれた事実に、女の双眉は微かにでも動いただろうか?
一瞬だけ弔うように視線を伏せるが、再び視線を上げる頃にはいつも通りの表情を浮かべ――]
さぁ…本格的に仕事開始って所かしら?
よろしくね?わたしの可愛い部下達…。
[くすり くすり――
空気を震わす白き笑みは、白金の指輪に口付けをして。]
まずは…みんなの所へ出向かなくてはね?
[ひらり――優雅にシフォンのショールを翻しながら、向かう先は…]
――1F Platform→2F Blue floor――
――2F "Blue"floor――
[青の照明。
ゴシックドレスの白を青く染め。
その肌さえ青く染め。
柔らかい髪の毛は辺りと同化する。
人の多さに飛び跳ねながら、見知った姿を探す]
ぅー。人多すぎー。
[見えない。周りより頭一個か二個分低い少女に取ってはソレは青いトウモロコシ畑の様にも見えるか。
違うのは蠢きながら時には遮り、時には進ませる流れになること。
人混みをかき分けながら、なんとかカウンターの側に着くと]
はぁ…
[大きく息をついた。
ふと、皆の姿が見えると微笑みながら手を振って近づくが…漂う雰囲気に手を止める]
……ふうむ。
[腕を組んだまま、ダニエルは考える。]
カマかけだったのか。そうか。気付きもせんかったわ。
儂はもしあの2人が口喧嘩でも起こしたら大変だ…と、単純に思っただけだったのだがな……。諍い即ち殺し合い、とまでは想定しておらなんだ。
[髭を撫で、ふっと暗い目をする。]
……お主がそんなことで、周囲を誤解するとはのう……混乱しすぎだぞ、オードリー。疑う前に、まずは相手の意図を最後まで聞かんか。
そんな小さなことでいちいち疑いの目を向けていたら、それこそ「破壊者」の思う壺だろうに。
……カマかけをする頭があるのなら、もっと慎重に考えろ、オードリー。
[呆れたような溜息をつく。]
…そう。
それは随分と仕事熱心なことだね、WidowedGentleman。
[目を細めて浮かべるのはこの場を楽しむもので。皆までは未だ言わず…それに対するダニエルの反応を黙したまま待つのみで]
[言葉を挟まず、じっとオードリーの告発に耳を傾けていたが、それに対するダニエルの抗弁を聞き終えると、ポツリと呟く。]
……君は限られたパターンしか考察せずに答えを出そうというのか。
…ニーナ。やあ…来たね。
〔姿を見せる天真爛漫な彼女に、幾分安堵めく笑みを向ける。〕
すぐ始まるかどうかはわからないけれど…
あまり前に出過ぎないよう気をつけるのだよ?
〔此方の話は、漏れ聞こえただろうか。
確認を取る態で緩く首を傾けてみせる〕
[ラッセルの方を向き、ふっと笑みを浮かべる。]
……少々「昔語り」をしてやろうか、ラッセルよ。
儂はの、昔から「戦い」の場にしか身の置けん人間でな。殺気の中でこそ、人間の本性が見えると踏んでおるわけだ。お主と同様、この場所の音楽にも、群衆にも興味は無い。
ついでに、オードリーに応えてやろう。
音楽と仮初の快楽に酔い痴れている人間に、何の本質が見えよう……?色惚けした人間には、まるで「興味」というものが沸かんのだ。
こうして今、殺気が目に見える「形」となり、儂の前に現れた。……アーヴァインには悪いが、これからが「本番」というわけだ。儂も、ようやっと動き出せるわい。
さて……お主の「本質」、見せて貰おうかのう……。
――2F Blue floor――
[辿り着くなり押し寄せる熱波と耳を裂く大音量に、女はあからさまに不愉快な表情を浮かべて歩みを進める。]
酒・ドラッグ・音楽に酔いしれた闇、宵も深みを増せば酔いもまた、深みを増して――
突き進む穢れ無き白に、哀れ絡みつく輩も居たかも知れずが。]
――…ごめんあそばせ?
わたくし、今とても虫の居所が悪いの。
だから――…
[カチリ――
細い指の根元から零れ落ちた金属音と共に、宙を切る音が鳴り響く。]
ベッドへの誘いは、別の人にして下さらないかしら?
――尤も…。貴方の性欲が、痛みを上回ったらだけど…ねぇ?お馬鹿さん…?
あははっ――
[そして刹那、訪れた静寂に天使の微笑が零れ落ちたなら。
純白の背後に、鮮血の赤はコントラストを描くのだろうか――]
…"破壊者"?
[聞こえてきた言葉をなぞると、三人…いや、四人の傍へと歩み寄る]
お仕事の話、かな?かな?
もうそろそろ、始めないと怒られちゃう?
[オードリーの笑みに軽く首を傾げ…首を傾げる様子に同じ方向に傾ける]
んー。元々、あたしは前に出て戦うタイプじゃないしねー。
言われなくても気を付けるつもりだけど…
あれ、そう言う意味じゃない?
…キャロルの、事…かな?
…考察か。そして疑いの目。
そんなもの、最初から持ってはいないとも。
私の中で…全ては消去法だった。
敵を探すという任務にあたって、
味方から探し始めた私を愚かだというなら
それは甘んじて受けよう?
〔ダニエルの糾弾、ジーンの諫言。
それは全く以って正論だと此方も思う。
――論理の世界に於いては。〕
では逆に皆へ問おうか。
…
自分については間違っている、という方はお出でかね?
…違う…ニーナ!!
この場にいないもう一人だ!
〔ニーナの背後へ現れる天使。声を上げるのは…同じく飛び道具を持つものに反応を促す意図で〕
それとも君は。
その「答え」でもって何かを計ろうというのか。
それは、
[と言い掛けて、口を噤んだ。その先を、この場で話すのは相応しくないと判断したのかも知れない。
黒の男はダニエルとラッセルに視線を流した。]
…昔語りをありがとう、Granpa?
そうだな…性質で言うのならSledge-Hammerと僕は近い。
決定的な違いはあるのだろうけれど。
そしてWidowedGentleman…そうだな…。
貴方はそれを僕へと伝えて…何を得ようとした?
僕の今の興味はその一点だよ…。
[指を組んで指の縁に口先を付けて悠然とした笑みを浮かべ…問いに問いを被せる。]
[やがて純白は、賑わうバーカウンターへと姿を見せる。
邪気の無い笑みを浮かべたままに。]
こーんばんは。あら、みんなお揃いで…。
何やら難しい話でもしているの…?
例えば…そうねぇ、仕事の話とか…?
[声を僅かに荒げるオードリーに、綺麗な笑みを浮かべて。女はニーナの髪を一筋掬う。]
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