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飲み物はいかがだろうか。
もう誰かと約束をしていなければ、だが。
[抑揚の無い声に、僅かに面白がるような色を滲ませて誘いの言葉を掛ける。]
――2F "Blue"floor バーカウンター――
〔決して交わらぬ筈の光と影が交錯するフロアには、果たして女の姿もあった。それは意図的だったのかそうでなかったのか――何の言葉を口にすることもなく、人込みに背を向けて"妖精のささやき"たる暗緑色の酒を*口にしている。*〕
まぁ、冗談がお上手ね?
[ジーンの礼に、鈴の音のような笑い声を上げて。
返答の言葉に、女は少しだけ瞳を見開くように、目の前の男を見つめる。]
――何故?
貴方の色彩なら…ここよりむしろ"Black"の方がお似合いでしょうに?
[僅かばかりの純粋な興味を抱いて。]
[二つ名を持つもの達がフロアからいなくなると席をたち、裾についた僅かな埃を指先で取り払う]
…アーヴァイン、この席キープしておいて?
僕の定位置なんだ…名も無い薄汚れた輩に座られたくないから。
君も、"それくらい"ならできるだろう?
[笑みを柔げてバーテンの男に告げ、良い顔をしない様子も気にすることなく堪えきれない笑みを口許に湛えたまま言葉を続ける]
この場所を少し誉めてやってもいいと思っているんだ…。
何もかもが最悪なままだけれどね…でも少しだけ楽しい。
全ての一瞬一瞬を逃したくなくて今は瞬きする瞬間すら惜しい。
こんな気持ちは久しぶりだよ…少しだけ、機嫌がいいんだ。
祭りは始まるまでが一番楽しいって言うだろう?
[求める楽しみは此処にはない、と告げる声は粗悪さを知らぬ純粋な幼子の透ける其れにも似ていて。靴音を軽やかに鳴らすとフロアを抜けて赴くままに足を進める…宴の参加者の気の一番濃い場所へと。]
約束は…持ち合わせていないわ。
誰もわたしを拘束できない。誰も拘束はしない。そう、誰も――
だから今の時間、貴方の為に捧げても構わないわ?
というより…。
[静かに歩み寄る理由は、会話を音楽に邪魔されない為。
無防備とも思える程、距離を詰めて女は囁く。
死の香り漂うカラーを身に纏う男に。]
是非ともお相手していただきたいのだけども。
グラスを傾ける時間だけでも――
[にっこりと微笑み、女は誘いを受ける。]
――2F "Blue"floor――
[重厚な扉を開けるとPlatformとは違う、けれど同じように耳を裂くBGM…けれども見つけた幾つかの影に青年の表情は不快を表すことなく音を耳へと受け入れる。挨拶の言葉は何時も通り、目すら合わせぬ沈黙で。迷うことなく足を進めると紅く波打つ艶やかな髪の持ち主の隣へ腰掛け足を組む。]
[誰に言葉を交わすわけでもなく、僅かに懐くようにオードリーの隣で表情を緩めたまま黒と白のコントラストが絡む様子を眺めている。]
[白の女の問いに、首を回らせ]
ここは静かでいい。
[耳を聾する爆音と、重低音の振動に満たされたフロアを目で指した。]
Multae sunt causae bibendi……
[一掻きで剥がれてしまいそうな淡い微笑を浮かべ、『死と乙女』さながらに、黒い男は白い美女を導く。
その先は、喧騒に満ちたバーカウンター。
既に席に着いている先客には声を掛けず、一瞥を送るのみで。
ローズを丁度空いた席に案内すると、自分もその隣に腰を下ろした。]
静か?――ここが?
[思わず声を上擦らせて問い返す]
[どう考えても今、女の耳を塞ぐは大音量のクラブミュージック。性に合わない所為か下から容赦なく身体を揺さぶる振動すら、膚を突き刺すようで居心地が悪い。
悪いのだが…。目の前の男にはどうやらここが静謐の場、ならしい。]
そう…――。貴方って面白い嗜好の持ち主ね?
でも感性は人それぞれ…。貴方を責める権利はわたしには無いもの。
だから否定せずに、そのままの貴方を受け入れましょう?
[くすり くすり――
零れ落ちる笑みは、メヌエットのように床へと弾き落ちて。]
では、案内をお願いいたしますわ…。noir?
[差し出される黒い手のエスコートに、女は躊躇う事無く手を乗せ、導かれるままに歩みを進めた。]
――2F・"Blue"Floor――
[人々の渦の中、男はズンズンと歩いている。]
……若造は分かりかねるものだ。
こんなにもうるさい場所に居たら、身体のリズムも狂うだろうて……
……まあ、よかろう。
ここならば「弾」にはこと欠かん。
いざ「死」が迫った時、それを振り払うことも、割に容易くできよう……
[誰に聞かせるでも無く、騒音の中でひとり呟いた。]
[導かれるまま訪れたバーカウンター。
先客には、未だ名残惜しい熱を呼び起こさせる人の姿もあるが、女は眉一つ動かさずに変わらない笑みを振り撒き、勧められるままスツールに腰掛ける。]
…コスモポリタン・マティーニを。
[しかし口を滑らかに滑り落ちるカクテル名は、同席する者の色味を少しでも感じさせるものではなく、月の時間を味わいつくした相手を髣髴するような色合いのもので。
思いの外引き摺る想いに、女自身、自嘲が漏れた。]
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