――は、はっ……

[女にとっての誤算も、ひとつ。
この鎖が、傷を与えるだけでなく、こちらの精気も喰らっていたこと。

肩の傷がじくりと痛い。]

[刃を染める緋に、チェーンソーの切っ先が揺らぐ。
　メイドはそれを見つめるようにして、首をかしげ
　再び正対しようとした。]

　――――

[開く距離。
　男に集うは隙無き支配。
　力、と呼ばれる原始的な凶器の。]

　…………

[狂気を構えながら、メイドは鋼の脈動を感じる。
　鋼の森の維持、フロウディアの捕食、
　そして戦闘。
　影の街にいない彼女に、補給の術は無い。

　鋼の華は、小さな黒煙を上げている。
　花を捨てたおんなは、動じることなく構えを取った。]

[身体を襲う衝撃波は、変身したとはいえ小柄な身体に大きな圧力となって襲いかかる。

それでも身体をふんばって、倒れる事は回避する。]

沈まぬ太陽はない、でも太陽が沈めば月が皆を照らす。
そう、月は誰でも優しく等しく照らす。

希望は消えやしない、夜明けはいずれ来る！

[間合いを遠めにとり、青い炎を解き放つ。]

…違う、
　　　　　……ちがう！！


明けない夜はなく
沈まない陽はない
それでいいんだ、
どちらも欠けてはいけなくて…！

[歯車は　廻る]

あんた《光》とあんた《闇》だって
それを示してるんじゃないのか！

　……だが、沈んでしまったのだよ。
　太陽《Sonne》は、最早影から出ることは無い。

　今の私の姿が、その答えだ！


[感情の昂ぶりに呼応するかに様に、
貌無き顔の隙間に赤い光が灯る。

それは、かつての男の瞳の色―――

その赤い輝きは、体の内側を這うように右腕へと伝い……
光の奔流となって解き放たれる。]


　　　　　　《ﾊﾝｽﾞｵﾌﾞｸﾞﾛｰﾘｰ》
　　　―――　永　光　の　手　！


[両者の狭間で拮抗する、光と炎の煌き。]

[制限解除と限界突破。
打ち込んだワードは、諸刃の剣を呼び起こすもの。
充電を全て駆動系に回す事で、ヒトを超えた高速軌道を可能とする。
勿論、それが身体に、そして、『鬼』の装束に与えるダメージは大きい。
今の状態では、危険な──危険すぎる、賭け]

……やらねぇで、後悔するなら。
限界までやる方が、断然、マシ……っ！

[刹那的思考、と言えば、それまで。
瞬間に燃え上がる焔の気質は、それを是とする。

エネルギーが各所に回る。
銀の上の緋色が金色に変わり、それが焔のエンブレムを染め上げると同時]

[咆哮した『鬼』は、疾る。
風を薙ぎ、緋を散らして。

踏み込みながらの一の太刀は、下段から上へと斜めに。

そこから返す二の太刀は、切っ先に弧を描かせながら横と向かい、そのまま真横へ流れ。

三の太刀は下へと弧を描いた切っ先が、一の太刀とは逆向きの斜めに空を断つ。

そして四の太刀は大上段から。
迷いなしの、振り下ろしが繰り出される。

『鬼吼連牙』と名のつけられた連続の太刀。
振るわれる刃に、こもるのは]

……止めるって、決めたん、だよっ……！

[その猛々しさとは対照的な──ささやかな、決意]

[鎖の律動は徐々に遅くなる。
ガス欠とまでは気づけずとも、今かとばかり茨鞭で薙ぐ。
はがねの硬さを持つ茨は、鎖の森の層を薄くしていく。]

一発はさすがに無理、か……

[肩で息をしながら、また鎖森を砕きはじめる。
層は、確実に薄くなっているように思えた。]

[咆哮と共に男が飛び込んでくる。
　頭で脈動する華は、ぱきりと火花らしき音を鳴らした。
　引火は――無い。]


　――――


[鬼が放つ牙が襲いくる。
　――心が見える。
　――技が見える。
　彼の描いた軌跡が、見える。
　だから、おんなは構えていたチェーンソーを握り直し]

　いや。うん。
　つよくなったなあ。エンくん。


[守川篝が宿した最後の技は諸手突き。
　けれど、技を見守る体も心も、動くことはない。

　瞳を閉じて
　三の斬撃が、自らの体を刻むのを感じ入り
　最後の斬撃が、頭の花を捉えた時
　小さな爆発と共に、脳の一部を失うこえを聞いた。]

影は太陽無くして生まれず。
また影は太陽を消し去る事も出来ない。

貴方が太陽であり影であるように。
貴方の絶望は消える事無くとも、希望も何処かに残っている。

貴方の希望も絶望も、全て照らしてみせる。
さあ、貴方にも世界の祝福と贖罪を。

[光の輝きと、炎の揺らめき。二つの思いが世界を照らす。]

[見届けることを終えるように、おんなは変身を解いた。
　今までのように、体から傷が癒える事は無い。
　体躯は血に塗れ、骨が砕け、花を失った頭が欠けていた。

　フロウディアを覆うくらい森も、影の街へと堕ちていく。

　頭部から溢れた血に視界が塞がれて、
　ふう、と一息ついたあと
　床に崩れ落ちた。]　

[燃え上がる赤。
青と拮抗しすべてを焼く光だ。

光と焔は影を焼き付けんばかりに
長く伸ばし揺らした。
鎖の輪郭を浮き彫りにする。]