―都庁―

[公衆電話から110番をかけ、事件の連絡をした後
重い気持ちを引き摺ったまま目的地へと到着する。]

――「月の猫」です。
ご注文の品をお届けにあがりました。

[しゃらり、とピアスが鳴る。
付は一瞬不思議そうな顔をした。
女性だと思われていたらしい。慣れたものだが。
本部の方へどうぞと案内される。]

……、

[どこも、取り込み中――らしい。]

ー夜・会議室ー

[マイクから聞こえる爆破テロ犯・ナジームの声。会議室はしんと静まり、宮古さんが応対に務めている。

私は知っている。このナジームが、宮古さんの身体と家族にした酷い行いを。そして続く言葉の人とNEXTとの共存云々>>263といった話に私の我慢が限界に達した。]

馬鹿なこと言わないで！
あなた、人間に何をしたのかわかっているの？

あなたが、人とNEXTの共存なんて言う資格などないのよ。
爆破テロ犯が、人を幸せにできると思っているの？

>>272 NEXTは神ではないのよ…。抑止力になんかなれやしない。

力ゆえに恐れられ、そして自分の居場所を見つけるのに必死な、ただの弱い人なの…。

[交わされる言葉は、一応黙って聞いていた。
感情で騒ぎ立てるのは抑えないと、という自制くらいは、ある。

あるつもり、だった、のだが。

元々、精神的な均衡のあれこれを欠いていた状態で。
それで自制できるには、まだまだ色々、足りていなかった]

……ざっけん、な！

押さえつける事が共存なんて理屈が通ってたまるかってんだよ！

それなら、具体的にどう人間ときNEXTが共存するか
「我ら」に説いてみよ！！
我が故郷パレスチナで、そのような世迷い事を言うて
みよ！！思惑だけでうまくいくと思うな！！

[通信先からは憤りの―ナジーム本人の
気持ちが存分に出ている言葉が返ってくる。]

世を変えるに犠牲を考えないか。おめでたいことだ。

ふん、「我ら」に文句を言ったところで、
それ以上のことを述べねば靡かぬよ。
人は多く―……単に弱い存在。
我の言うとおりにすれば、確かに争いはなくなる。
圧倒的恐怖による支配―それが「我ら」の至る結論だ。

単に「否定するだけ」で代案を出す者が
貴様らの中にはいないとわかった。
心おきなく、示威活動ができる。

もう貴様らに対話は求めない。
単に「生き延びたい」以外を考えない連中だから。
具体的にNEXTと人類の共存を考えぬ連中だから。
「我ら」への否定以上の反論は帰ってこなかったからな。

[失望の色濃く、通信は切られた**]

は……どーせ俺には、特別な力なんてねーし、色々考えて、そんで周り納得させられるよーな事言える、そんな頭もねぇよ、悪かったな！

んでもなぁ……上から目線で押し付けられて、それで「はいそーですか」って納得できるような質でもねぇんだよ！

……あんたの欲しがってる具体案なんざ、俺には出せねーし、一朝一夕で今の状態変えられるとも、思っちゃいねぇ。

けど、な……少なくとも、あんたらのやり方は、納得できねぇよ。
俺は、これ以上、俺と同じような思いするヤツは、出したくねぇんだから、な！

[感情赴くままに吐き出した言葉。
それを周りがどう取るか、なんて所まで、考えは回っていない。
けれど、言わずにおれなかったから、ただ。
それだけは、はきと言葉に出していた。**]

「ならば……戦争しかない。」

[それが最後の言葉だった**]

　落ち着け。

[通信が途切れた事を確認した上で口を開く、まずは激昂している風薙を制する]

　具体案など必要ない。
　君達ブーストという存在が既にＮＥＸＴと人間の共存の第一歩だと俺は考えている。
　いや、実際には人はこのままいけばＮＥＸＴをも超える存在になるだろう。

[謎の光が発生してからブーストが開発されるまで高校生だった自分が今はすっかり落ち着いた大人になっているが、その程度の時間しか経っていないのだ]

　この短い期間で人間はブーストに対抗する力を得た。
　このままいけば確実にいつか人はＮＥＸＴをも超えるだろう。

　だからまずはＮＥＸＴを全て殺すべきだ、無論俺も含めてな。
　俺はそのための協力ならば惜しまない。

　ＮＥＸＴと言う存在は存在その物が悪なのだ。
　ゾンネの様な変節を今後も生み出しかねない。
　人は迷う、ＮＥＸＴは人の弱さを持ち合わせてしまった。

　だからこそ周囲に押し潰される前に、ＮＥＸＴという存在である罪を浄化するべきなのだ。

　そうしなければ君達人間は生き残る事が出来ない。

[その場に居る者達はどのような反応だっただろうか]

　俺の言う事もまた極論、かつ一方向からの意見なんだろう。
　だから押し付ける事はしない。

　だが俺は一人でも戦う、ＮＥＸＴ全てをこの世から駆逐するまで。

　……だから俺はHOPEに参加する事は出来ない。
　だが情報は君達に出来うる限り伝えるつもりだ。

　ナジーム　ラシュディ。
　あの男の起こした今回の爆破テロ事件。
　今まで不明とされてきた爆弾は人間だ。
　奴が現れたエリアに人を爆弾にする蚊が大量に発生する。
　この蚊に刺されると爆弾と化し、多分高温で起爆する。
　昨日の病院での一件で俺は人を二人殺めてしまった。

　気絶させるために放った電気ショックで爆弾と化した人を爆殺させてしまった。

　この経験で爆弾がなんであるのかが理解出来た事と。
　一昨日俺はあの病院で作業を行っていた。
　その時には蚊がまったく居なかったのに、昨夜は蚊が大量に発生していた。

　爆死した患者二人もそこら中を蚊に食われて酷いありさまだったな。

　これらの情報からナジームのＮＥＸＴ体が放出する蚊が人間を爆弾にするための能力だったと推察した。

　まず街の人達には蚊に刺されないように注意喚起をすべきだ。
　それから、蚊の全面駆除。

　ただ、ナジームがまたＮＥＸＴになれば蚊はいくらでも湧くだろう。
　それゆえにあの男を殺す必要がある。

　だがあの男に触れれば都内に仕掛けられた爆弾を起動させると犯行予告があった以上、まずは爆弾の処理をする方が先だろうな。

　この爆弾が人間爆弾だった場合は、お手上げだが。
　以上が、今回HOPEに共有出来る俺の知り得た情報だ。

　俺はナジームを探す、奴を殺し今回の事件にピリオドを打たねばならない。

[そこまで述べると目を閉じて目頭を数回揉むように抑え、目を開いた**]

―都庁―
[一介の、喫茶店の店員が
対策本部に足を踏み入れることは赦されまい。
月の猫より配達が在ったという旨が
係りの者より報せが届こう。]

……――、NEXT……　対策本部……
《HOPE》……

希望……？

[待合室で、料金の支払いを待つ間
耳に挟んだ話を思考の中で編み上げる]

…――、それは。
“人間”にとっての希望なのか。
“NEXT”にとっては、絶望なのか。
……「共存」を選んだ……先にあるものなのか。

…――　皮肉、…と　思うほうが
ひねくれてるのかな……。

[覚えている。
研究所に居たときに
NEXTを止めようとして
己もまた暴走した結果を。
耳に開けたピアスの孔が苛むように痛む。]

――そして――

[赤い痕跡をたどる作業は難解に見えて、さほど苦労しなかったように思えた。
河川敷の草に隠れた滴は見つけにくかったが、一度アスファルトに落ちればそれははっきりと見て取れた。

あれから哀れな遺体はまた増えていたか、それとも今度は赤い道筋が向かった先を示していただけだったか。
よしんば血を洗い拭われたとしても、その光景は人々の目に焼き付いていただろう。

痕跡をたどった先は、診療所だった**]

……――

[眉を寄せて、考え込む。
自分の手を見下ろす。

己の両の手は、きっと塞がったままなのだ。
同じ強さで、人とNEXTが呼び合えるならば
或いは道は拓けるのだろうか。

どれくらい、掛かるのだろう。
同じ場所をぐるぐると
迷いながら廻っている]

[それでも、
見ず知らずの誰かへ
あの商店街でもそうしたように
懲りずにこの手を伸ばすのは。


きっと自分は諦めてなど居ないからだろう。
願っているのだ。
「共存」の道を。]

でも―――どうすれば。

[――ナジームへの怒りは、消えぬまま。
絵空事だけでは　先へと進めない。]