―喫茶:月の猫―

ユキエさん、
注文が入りました。

[はあい、と既に準備を始めているユキエが謂う。
配達するならばとサンドイッチにメニューが変わった。]

―――、あちらも大変でしょうね

[都の対応課には
―――ブースト装着者がいる。
NEXTに対応しうる力。
まだ、完全ではないとしても。ひとは、進化するのか。枝分かれ、なのか]

…―――

[ざくりと、勢いをつけて胡瓜を切った。]

　理解してもらおうとも思わないさ。
　この身の内を焦がす……人への憎しみはね。


[そう……

この感情は、私だけのものだ。
この感情は、私だけでいい。

その為にも、自分は選択をしたのだから。]


　生憎……面倒なのは自覚しているさ。


[その呟きと共に、ゾンネは人の居ない街中へと消えていった]

　理解できなければ、傷付けてもいいのか……ですか。
　それは単純に良い悪いという問題ではないでしょう。

　理解できる筈と思うから、理解できないものに遭遇した時に悪いものだと直感的に決め付けたがる。
　恐れ怖がり、自分の存在を脅かされると感じる。
　異物を恐れるのは生物の本能です。これを取り去ることは難しい。
　公正さを追求することだけが唯一全体最適解を導き出せるが、殆どの人間は知性を活かせず、頭が良いだけに余計に始末の悪い動物として一生を終える……

［珍しく言葉を濁す風薙がいる。
　嘘をついているとは思わなかったが、何か迷っていることはありそうだ。
　
　そこに連絡が入る。］

──風薙さん。
裸足のメイドについて、新しい情報が。

［郊外の診療所の位置がスクリーンに表示される。］

建物の中から出て来たメイド風の女が、川までの間に通行人を順次、刺殺──とのことです。

［あえて冷静に事実を告げて、反応を見る。］

なお、この建物では、数日前に「ひとがしんでいる」という女性の声での通報があり、駆けつけた警官が殺されるという事件も発生しているそうです。

ここが──彼女の拠点なのかもしれません。

［大通りでひとしきり暴れた五体は、大型デパートに目を付ける。
　二体は壁を伝い二階から。残りの三体は、一階に東と南から。
　自動ドアなど使わずガラス窓を派手に割り、叫び声を上げながら突入する。

　止められる者はいない。誰も彼もが逃げ惑うのみ。
　エスカレーターを破壊する。貴金属を鷲掴みにし壁に投げつける。陳列棚を引きずり回す。レジを叩き潰す。目につく端から粉々にしていく］


ヴィィィィィイイイッッッッッッーーーーーーーーーーーッッッ！


［叫ぶ］

[ 娘が言いよどむ様を見て、彼女が聞きたくなかった答えは既に彼女の中に確固とした恐れとしてあるのに気付いた。
　彼女は自分に否定して欲しくて問うたのだと。

　小気味が良いとは到底言えないが、哀れと感じるも違う。
　人は、正しく自分自身であるために戦うべきなのだから。]

　私は。
　大きな輪に居たことは一度もありませんね。
　小さな輪になら居たことがあります。
　弾かれた者同士が生き延びる為に作ったコミュニティだ。

　しかしその中にも差別はあり、利害の対立がある……
　弱い者同士だからと言ってね、共通の敵に対して連帯できるとは限らないんです。

[ 淡々とした声音。表情を殆ど消した顔は、旧い神像のように曖昧で、見る者の視点によってどのようにも受け取れる。]

― 都庁 ―

[バイクを走らせ都庁までやってくるとヘルメットを外し、セルを抜く]

　人間は進化する。
　そのための礎がＮＥＸＴという存在。
　だからこそ駆逐しなければならない。
　どんな犠牲を払ってでも。

[情報が流れていたのは昨夜の事、既に何らかの動きはあったのかもしれないし、その時に集まる事が出来なかった自分には参加権はないかもしれない。
否、どちらにせよ自分は今まで通り孤独に闘う事を選ぶのだろうが、それでも昨夜の情報は伝えるべきだと判断した]

　HOPEの司令室へ繋いでくれないか。
　俺はＮＥＸＴだが、ＮＥＸＴを倒すという気概に協力をしたい。
　例の爆弾テロの事件だ――

―喫茶:月の猫―

おれが　　ただしくおれであるために
……か

[去り際、高嶺の言った言葉を思い出す。
きゅ、と蛇口を捻って止めた。
客足が少ないのもあって、
配達用のモーニングは滞りなく準備された。
とりどりのサンドイッチはきっと
喜ばれることだろう、と思う。

――皆一緒に暮らせればいいのにねえ

呟く幸恵の言葉は心からであったろう。
ツキシロは小さく頷くしかできなかった。]

[性格的に嘘やら何やらが苦手な事は、恐らく宮古には周知の事。
だからこそ、距離に気を使え、とは、上からのお小言なのだがそれはさて置き]

……っ……なんで、ねーさっ……！

[言いかけた言葉は、ぎりぎりで飲み込めた。
叫びたくなるのを唇を噛み締める事で押さえつけ、右手をぐ、と握り締める。
落ち着け、逸るな、と、心の内で繰り返すものの、気持ちの乱れは誰の目にも明らかなもの]

……その後の、追跡は、誰か、行ってんですか。
行ってないなら、俺、行きますっ！

風薙さん！

「俺」が行く、ではなく、「我々」で行こう、と言ってくれませんか。

そのためのチームなのですから。

―喫茶：月の猫→移動―

では、行ってきます。
……ああ　　そうだ。
いつものグレーのスーツの人、
ひょっとしたらおれを訪ねてくるかも知れないです。
貸したものがあって。
居ない間に来たら受け取って置いてください。
それから、そうだ。マスターによろしく、って謂ってた。

[――それから。]

もし、あの、花を頭に咲かせた人、
来るようなら、ネコアイス出して引き止めてください。

[もうひとつ、妙なことを謂った。
事件のこともまだ知らない。
来るかどうかなんて分からないのだけれど。]

[この人の表情…、すごく不安にさせる。輪の中に入られなかった自分に対し、すでに諦めの感情を抱いているのだろうか？]

そうですね、なかなか難しいのかもしれません。

でも、あなたが今、どこの輪の中にもいないなら、ここにいらっしゃいな。さみしくなった時、辛い時、そうでない時も、いつでも来てください。

あなたの考えは私と違うかもしれませんが、私は違う人とも仲良くしたいんです。

[そう、種を別にしたとしても。
相手が嫌がらなければ、手を握ろうとするだろう。]

ザーザー……ザーザー

[宮古さん……というのか？君は。]

[何かが通信に割り込んできた。]

［雷が案内された時、《HOPE》司令室からは、そんな声がしていた。］

［不意に、通信に雑音と男の声(?)が混じった。

　そのまま待て、と一堂を手で制し、マイクと録音機能をONにして皆にも内容を聞かせる。］

[HOPEの司令室へ案内されると同時に聞こえる声に扉を叩く手が一瞬止まるが、すぐに司令室の扉を叩く]

　取り込み中のところ済まないが、入ってもいいだろうか。

[中の返答が聞こえるまではその場で待機]